【マンガ】「お客きゃくさん3人にんいれば成功せいこう」ガラガラの喫茶店きっさてんが十分じゅうぶんもうかる深ふかいワケ

三田みた紀おさむ房ぼうの投資とうしマンガ『インベスターZ』を題材だいざいに、経済けいざいコラムニストで元もと日経新聞にっけいしんぶん編集へんしゅう委員いいんの高井たかい宏ひろし章あきらが経済けいざいの仕組しくみをイチから解説かいせつする連載れんさいコラム「インベスターZで学まなぶ経済けいざい教室きょうしつ」。第だい90回かいは、作中さくちゅうの喫茶店きっさてん主ぬしの「常つねにお客きゃくさんが3人にんいる状況じょうきょうを作つくれれば成功せいこう」「個人こじん商店しょうてんにとって成長せいちょうと拡大かくだいは悪魔あくまの囁ささやき」といったセリフから、小商こあきないの真価しんかを探さぐる。

成長せいちょうと拡大かくだいは「悪魔あくまの囁ささやき」

　企業きぎょうに成長せいちょうが欠かかせないのではないか、という問といに、老舗しにせの喫茶店きっさてん店主てんしゅは「企業きぎょうと個人こじん商店しょうてんは違ちがう」と静しずかに語かたる。成長せいちょうと拡大かくだいは「悪魔あくまの囁ささやき」であり、借金しゃっきん頼たのみで無理むりをすれば、いずれ行いき詰づまると説とく。

　成長せいちょうか、安定あんていか。投資とうしの世界せかいでは前者ぜんしゃが善ぜんとされるわけだが、無理むりをすれば自転車じてんしゃ操業そうぎょうや破綻はたんのリスクが高たかまる。一方いっぽう、ビジネスの持続じぞく性せいやそれにかかわる人々ひとびとの幸福こうふく度どを考かんがえれば、安定あんていした「小商こあきない」の価値かちは侮あなどれない。作中さくちゅうで語かたられるように、需要じゅようとコストを手堅てがたく見積みつもり、キャッシュが回まわる仕組しくみを確立かくりつすれば、小ちいさな経済けいざい圏けんはきちんと回まわるものだ。

　そこにはAI全盛ぜんせいの時代じだいを生いき残のこるヒントもある。

　小商こあきないの強つよさは「反はん脆弱ぜいじゃく性せい（antifragile）」という視点してんで考かんがえると理解りかいしやすい。反はん脆弱ぜいじゃく性せいはベストセラー『まぐれ』で知しられるナシーム・ニコラス・タレブが提唱ていしょうする思考しこう枠組わくぐみで、同名どうめいの本ほんのサブタイトルは「不ふ確実かくじつな世界せかいを生いき延のびる唯一ゆいいつの考かんがえ方かた」。

　通常つうじょう、「脆弱ぜいじゃく」の対義語たいぎごは「頑健がんけんさ」だろう。タレブは、頑健がんけんさとは違ちがった方向ほうこう性せいで脆もろさを克服こくふくしているシステムを反はん脆弱ぜいじゃく性せいと名付なづけた。英語えいごのニュアンスとしてはresilienceが近ちかいのだが、それよりもっと融通ゆうずう無碍むげな物事ものごとの在あり様さまを指さす。私わたしなりに日本語にほんごを当あてれば、「しなやかで、したたか」となる。

　ビジネスを例れいにとると、タレブの視点してんでは、大だい企業きぎょうは脆弱ぜいじゃくさを抱かかえた存在そんざいだ。無駄むだをそぎ落おとした効率こうりつ性せいや需要じゅようの増大ぞうだいを前提ぜんていとした成長せいちょう戦略せんりゃく、何なにより巨大きょだい組織そしきの宿命しゅくめいである固定こていコストの大おおきさが、ひとたび歯車はぐるまが狂くるったとき、弱点じゃくてんとなる。

　コロナ禍かでのサプライチェーンの混乱こんらんや金融きんゆう危機きき、消費しょうひ者しゃの嗜好しこうの急激きゅうげきな変化へんかなどで経営けいえい危機ききに陥おちいった巨大きょだい企業きぎょうを思おもい起おこせば納得なっとくがいくのではないか。変化へんかの時代じだい、小回こまわりが効きかないデメリットは大おおきい。

AIに負まけない「小商こあきない」「職人しょくにん」の強つよみ

　これに対たいして健全けんぜん経営けいえいの中小ちゅうしょうのビジネスは危機ききやショックに強つよい。無論むろん、借金しゃっきんまみれの企業きぎょうや、特定とくていの取引とりひき先さきに依存いぞんする下請したうけは脆もろい。だが、顧客こきゃく基盤きばんをつくって地道じみちな商売しょうばいを長年ながねん続つづけているオーナー企業きぎょうは、企業きぎょう自身じしんだけでなく、経営けいえい者しゃにも蓄たくわえと余裕よゆうがある。裏返うらがえせば、いろんな荒波あらなみを乗のり切きる力ちからがあったからこそ、生いき残のこってきたとも言いえる。

　個人こじんレベルの小商こあきないはさらに柔軟じゅうなん性せいが高たかく、変化へんかへの対応たいおう力りょくがある。経済けいざい活動かつどうの中なかでも、必需ひつじゅ品ひんの消費しょうひ、リーズナブルな外食がいしょく、医療いりょうや調髪ちょうはつなどのサービスは好こう不況ふきょうの影響えいきょうを受うけにくい。人ひとが生いきている限かぎり必要ひつようなモノやサービスを地域ちいきやコミュニティに根ねを張はって提供ていきょうしていれば、大儲おおもうけはできなくても、食くいはぐれることはない。

　個人こじんでいえば専門せんもん職しょくや職人しょくにんは逆境ぎゃっきょうに強つよい。「手てに職しょくをつける」という古ふるいい回いまわしは、反はん脆弱ぜいじゃく性せいを身みに付つけるとい換いかえることもできる。営業えいぎょうや接客せっきゃくなど普遍ふへん的てきなスキルも、どこに行いっても食くえるという強つよみにつながる。

　AIがホワイトカラーの職しょくを奪うばうという脅威きょうい論ろんは根強ねづよいが、実際じっさいには人間にんげんにしかできないことは社会しゃかいの中なかに山やまほど残のこるだろう。生いき残のこる仕事しごとは何なにかを考かんがえるとき、小商こあきないや職人しょくにんの強つよさ、反はん脆弱ぜいじゃく性せいという視点してんはひとつの手てがかりになるはずだ。