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・・・『牡丹燈籠』は『書生気質』の終結した時より較やおくれて南伝馬町の稗史出版社から若林蔵氏の速記したのを出版したので、講談速記物の一番初めのものである。私は真実の口話の速記を文章としても面白いと思って『牡丹燈籠』を愛読していた。『書生気質』や『・・・
内田魯庵
「明治の文学の開拓者」
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・・・和漢の稗史野乗を何万巻となく読破した翁ではあるが、これほど我を忘れて夢中になった例は余り多くなかったので、さしもの翁も我を折って作者を見縊って冷遇した前非を悔い、早速詫び手紙を書こうと思うと、山出しの芋掘書生を扱う了簡でドコの誰とも訊いて置・・・
内田魯庵
「露伴の出世咄」
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・・・先生極真面目な男なので、俳句なぞは薄生意気な不良老年の玩物だと思っており、小説稗史などを読むことは罪悪の如く考えており、徒然草をさえ、余り良いものじゃない、と評したというほどだから、随分退屈な旅だったろうが、それでもまだしも仕合せな事には少・・・
幸田露伴
「観画談」
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・・・に因る歟然り寔に其の文の巧妙なるには因ると雖も彼の圓朝の叟の如きはもと文壇の人にあらねば操觚を学びし人とも覚えずしかるを尚よく斯の如く一吐一言文をなして彼の爲永の翁を走らせ彼の式亭の叟をあざむく此の好稗史をものすることいと訝しきに似たりと雖・・・
著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三
「怪談牡丹灯籠」
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・・・博文館が帝国文庫という総称の下に江戸時代の稗史小説の復刻をなし始めたのはその頃からであろう。わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時・・・
永井荷風
「十六、七のころ」
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・・・ 狂言稗史の作者しばしば男女奇縁を結ぶの仲立に夕立を降らしむ。清元浄瑠璃の文句にまた一しきり降る雨に仲を結ぶの神鳴や互にいだき大川の深き契ぞかわしけるとは、その名も夕立と皆人の知るところ。常磐津浄瑠璃に二代目治助が作とやら鉢の木を夕立の・・・
永井荷風
「夕立」
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・・・徳川氏の権力維持の努力とそれを繞る野心ある諸家の闘いは、やはり女性をさまざまの形でその仲介物とした。稗史の中でも徳川の大奥というものは伏魔殿とされた。沢山の隠れた罪悪と御殿女中の不自然な生活から来る破廉恥な行為とは、画家英一蝶に一枚の諷刺画・・・
宮本百合子
「私たちの建設」