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シャラポワの復帰から見えること:朝日新聞GLOBE+
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シャラポワの復帰ふっきからえること

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復帰ふっき初戦しょせんのポルシェ・グランプリでロベルタ・ビンチ(イタリア)とたたかうマリア・シャラポワ=ロイター

注目ちゅうもくたかさは格別かくべつなんだな、とかんじたあさでした。

ロンドンではたらひとたちの(大半たいはんの)日課にっかは、出勤しゅっきん途中とちゅう地下鉄ちかてつ最寄もよえき日刊にっかん無料むりょうMETROをり、車内しゃないむことです。4月しがつ27にちの1めんトップは、ドーピング違反いはんによる1ねんカ月かげつ出場しゅつじょう停止ていし処分しょぶんけた女子じょしテニスのマリア・シャラポワ(ロシア)の復帰ふっきせん勝利しょうりげた写真しゃしんでした。

見出みだしは「OVA THE MOON」。シャラポワ(Sharapova)のわり3文字もじの「OVA」に、慣用かんようの「OVER THE MOON(つきえるほどのだいよろこび)」をひっかけていました。英紙えいしらしいタイトルです。

英紙えいしガーディアンも、あざやかなオレンジのタンクトップをたシャラポワが勝利しょうり瞬間しゅんかんにガッツポーズする姿すがたをとらえた写真しゃしんを1めんおおきくせていました。しかし、17さいでウィンブルドン選手権せんしゅけんせいし、「しば女王じょおう」になったヒロインには今回こんかい、「よごれた妖精ようせい」のいちめんもつきまといました。

ガッツポーズをするシャラポワ=ロイター

復帰ふっきせん舞台ぶたいはドイツ・シュツットガルトでのポルシェ・グランプリ。もと世界せかいランキング1のシャラポワは昨年さくねんがつ全豪ぜんごうオープンのドーピング検査けんさ禁止きんし薬物やくぶつメルドニウムの陽性ようせい反応はんのうたため、国際こくさいテニス連盟れんめいから2年間ねんかん出場しゅつじょう停止ていし処分しょぶんけました。持久じきゅうりょく向上こうじょう効用こうようがあるくすりですが、本人ほんにん医療いりょう目的もくてき使用しようで、しかも前年ぜんねんまでは禁止きんし薬物やくぶつには指定していされていなかったため、規則きそく変更へんこうらずに服用ふくようしていたとスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(CAS)にうったえました。その結果けっか処分しょぶん期間きかんは1ねんカ月かげつ短縮たんしゅくされました。

復帰ふっき初戦しょせんたたかったのは、2ねんまえ全米ぜんべいオープンでじゅん優勝ゆうしょうしたロベルタ・ビンチ(イタリア)です。過去かこ回戦かいせんい、ともに圧勝あっしょうしている相手あいてたいし、シャラポワは以前いぜんわらない力強ちからづよさをせました。サービスエース11ほんぎゃくに、さほど球威きゅういがない相手あいてのサーブは容赦ようしゃなくリターンエースねらいでみました。序盤じょばんこそかたさがられたものの、7―5、6―3のストレすとれト勝とがち。主導しゅどうけんつねにシャラポワにあり、ごうでねじせた復帰ふっきせんでした。

久々ひさびさにコートにかったときの気分きぶんについて、シャラポワはかえりました。
あるいていくのは世界せかい最高さいこう気分きぶんだった。おさないころから、そこがわたしのステージだったし、ずっとのぞんでいたことだから」

しかし、今回こんかい復帰ふっきにあたっての周囲しゅうい視線しせんややかでした。1ねん以上いじょう試合しあいからとおざかったシャラポワには世界せかいランキングのポイントがないため、今回こんかい復帰ふっきせんは「主催しゅさいしゃ推薦すいせんわく」での出場しゅつじょうだったからです。だい7シードだったアグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド)は母国ぼこくメディアに「主催しゅさいしゃ推薦すいせんでのエントリーは、けがや病気びょうきなどでランキングをとした選手せんしゅにのみみとめられるべきだ」と批判ひはんしていました。もと世界せかいのキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)は「大会たいかい開幕かいまくした時点じてん資格しかくのない選手せんしゅられるのはおかしい」と主張しゅちょうしていました。男子だんし世界せかい、アンディ・マリー(えい)も、ドーピング違反いはんおかした選手せんしゅ主催しゅさいしゃ推薦すいせん門戸もんこひらかれることに反対はんたいしていました。

一番いちばん手厳てきびしかったのは、2014ねんウィンブルドン選手権せんしゅけんじゅん優勝ゆうしょうのユージニー・ブシャール(カナダ)でしょう。「ずるをした人間にんげんは、どんなスポーツでも2復帰ふっきさせるべきではない。それは公正こうせいたたかっているほかの選手せんしゅたいして失礼しつれい。それに、ずるいことをしたひと復帰ふっき歓迎かんげいする女子じょしテニス協会きょうかいどもたちに間違まちがったメッセージを発信はっしんしている」

薬物やくぶつ検査けんさ陽性ようせい反応はんのうけ、2016ねんがつ釈明しゃくめい記者きしゃ会見かいけんひらいたシャラポワ=ロイター

文化ぶんかちがいとシャラポワのブランドりょく

こうした選手せんしゅたちからの発信はっしんかんじたのは、たして、日本にっぽんのアスリートだったら、これほど選手せんしゅ仲間なかま公然こうぜん批判ひはんするだろうか、ということです。

今後こんご、コートでたたかうライバルをへん刺激しげきするのは得策とくさくではない。よけいなさざなみてないほう賢明けんめいだ。かげでは不満ふまんらしつつ、穏便おんびんなコメントでますのではないだろうか、と。摩擦まさつけ、「」をとうとぶのが日本にっぽん伝統でんとうです。ライバルたちの直言ちょくげんに、日本にっぽんとの文化ぶんかちがいをかんじました。

わたしっから勝負しょうぶき」というシャラポワもけていません。ブシャールの発言はつげんたいしてのコメントをもとめられ、「なにもいいかえすことなんてない。わたしは、ずっとうえだから」。無意味むいみ論争ろんそうなんて超越ちょうえつし、もっとひろ視野しや物事ものごとかんがえているという意味いみでしょうか。

復帰ふっきけた周到しゅうとう戦略せんりゃくかんじました。自身じしんのSNSでファンのよろこびのこえ紹介しょうかいし、9月くがつ出版しゅっぱんされる半生はんせいをたどった自著じちょ「Unstoppable(められない)~わたしのこれまでの人生じんせい~」の宣伝せんでんにもいそしんでいました。

プロスポーツの興行こうぎょうにとって、スポンサー企業きぎょうくには選手せんしゅ集客しゅうきゃくりょく、メディアへの露出ろしゅつなどの注目ちゅうもく大事だいじ指標しひょうです。たとえば、今回こんかい復帰ふっき大会たいかいかんむりスポンサーであるポルシェは、シャラポワをブランドの親善しんぜん大使たいし起用きようしているえんがありました。

2016ねんあき米国べいこくのモーターショーで、ポルシェのまえつシャラポワ=ロイター

その実力じつりょくくわえ、容姿ようしはなやかさでも脚光きゃっこうびてきたヒロインは、べい経済けいざいフォーブスの「世界せかいもっとかせ女性じょせいアスリート」ランキングで長年ながねん、1指定していせきでした。そんな彼女かのじょ復帰ふっきは、スポーツの倫理りんりかん市場いちば価値かちをてんびんにかけたとき、どう判断はんだんするべきかを大会たいかい主催しゅさいしゃいかけたのです。

そして、日本にっぽんふくめ、復帰ふっきせんおおきくげた世界せかいのメディアもシャラポワのはなつブランドりょくみとめたということです。いま、この原稿げんこうめくくろうとしているわたしも、もちろん例外れいがいではありません。