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ジャンプの「聖地」で考える 五輪という国家プロジェクト:朝日新聞GLOBE+
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ジャンプの「聖地せいち」でかんがえる 五輪ごりんという国家こっかプロジェクト

欧州おうしゅう視線しせん スポーツがうつ 更新こうしん 公開こうかい
プラニツァの最終さいしゅうせんで3はいった葛西かさい紀明のりあき笑顔えがお

あの会場かいじょう熱気ねっき表現ひょうげんするなら、サッカーの代表だいひょうせん人気にんきアイドルのコンサートが一緒いっしょもよおされている雰囲気ふんいきでしょうか。

3がつ下旬げじゅん、スロベニアのプラニツァというやまあいの集落しゅうらくたずねました。ノルディックスキー・ジャンプのワールドカップ(Wはい最終さいしゅうせん取材しゅざいです。

「とにかくがりがすごいから、ぜひ取材しゅざいってみて」。昨秋さくしゅう、そう背中せなかしてくれたのは、シモナ・レスコヴァルちゅうにちスロベニア大使たいしでした。例年れいねん、ここプラニツァがシーズンをめくくる最終さいしゅうせん舞台ぶたいです。ここはだい中小ちゅうしょうあわせて8だいのジャンプだいやま斜面しゃめんなら世界せかい最大さいだい規模きぼのジャンプの「聖地せいち」です。きゅうユーゴスラビアのなかで、スロベニアは唯一ゆいいつのジャンプ大国たいこく冬季とうき五輪ごりんでメダルも獲得かくとくしています。

プラニツァのジャンプW杯だぶりゅーはいではジャンプ強豪きょうごうこく応援おうえんだん大挙たいきょせた。まるえる=稲垣いながきやすしかい撮影さつえい

「アルプスのとうたるがわにあるくに」。スロベニアには、そんな素敵すてきがあります。国土こくど大半たいはん山岳さんがく地帯ちたいで、国旗こっき紋章もんしょうえがかれている最高峰さいこうほうのトリグラフさん標高ひょうこう2、864メートル)がシンボルです。

それにしても、想像そうぞうえるおまつりでした。近郊きんこうのスキーリゾート、クランジュスカゴラにはスロベニアはもちろん、ノルウェー、ポーランド、ドイツ、オーストリアなどジャンプの強豪きょうごうこくからの宿泊しゅくはくきゃくせ、予選よせんふくむ4日間にちかん大会たいかいめかけた総数そうすうは7まん5000にんでした。

ジャンプのあさはやいです。午前ごぜん9から試技しぎはじまり、10にはほん試合しあいがスタートします。各国かっこく応援おうえんだんあさ7だいから、レストランでビールをんで気分きぶんげ、しっかりアルコールをたかし?して会場かいじょうみます。といっても、サッカーでられるフーリガンのようなあらくれものはいませんが……。しかし、その見立みたてはあますぎました。それはひるかおだったのです。

わたしまったスキーロッジ「ベルギ」で隣室りんしつは(うんわるく?)、ポーランドの若者わかものたちのグループでした。かれら、彼女かのじょらは毎夜まいよ午前ごぜん1すぎにレストランでのかいからもどってきて、そこから夜明よあちかくまで大声おおごえげての2かいです。ロッジのスタッフは午後ごご10には帰宅きたくして不在ふざいになるので、完全かんぜんかれらのやりたい放題ほうだい

「これもとしに1かいのおまつりだから仕方しかたないか……」。すっかりできあがっている酔客すいきゃく文句もんく勇気ゆうきはありません。翌朝よくあさ、スタッフのアニャ・コルベルさんにくと、「毎年まいとし、どこかのくにのサポーターがおさけぎで問題もんだいになるのは事実じじつ」と苦笑くしょうしながらおしえてくれました。

ジャンプW杯だぶりゅーはい会場かいじょうわか女性じょせいファンの姿すがた目立めだった

そして、観客かんきゃく内訳うちわけをみると、わか女性じょせいがすごくおおい。コルベルさんにたずねると、「さくシーズン、スロベニアのペテル・プレブツが総合そうごう優勝ゆうしょうして女性じょせいファンがぐっとえたの。テレビではかなら大会たいかい放映ほうえいされるし」。そういえば、取材しゅざいゾーンのさい前列ぜんれつにはプレブツらを目当めあてに陣取じんどわか女性じょせい記者きしゃみなさんがにつきました。観察かんさつしていると、はなしているだけでメモを様子ようすはないひとも。あれ? たとえるなら、フィギュアスケートの羽生はぶゆいつるはなしたいからという感覚かんかくでメディアとして登録とうろくしている印象いんしょうでした。

もちろん、「本場ほんば」の観客かんきゃくえています。この最終さいしゅうせん、ソチ冬季とうき五輪ごりん個人こじんラージヒルぎんメダリストで、44さい9カ月かげつ葛西かさい紀明のりあきがWはい最年長さいねんちょう表彰台ひょうしょうだい記録きろくえました。日本にっぽんほこるレジェンドへの万雷ばんらい拍手はくしゅは、どこか自分じぶんのことのようにほこらしい気分きぶんになりました。

韓国かんこくたいらあきら五輪ごりん会場かいじょう予定よてい

そんな雰囲気ふんいき満喫まんきつしながら、1週間しゅうかんほどまえにいたまち光景こうけいおもしていました。国際こくさいオリンピック委員いいんかい(IOC)理事りじかい取材しゅざいで、来年らいねん冬季とうき五輪ごりんひかえる韓国かんこくたいらあきらおとずれたのです。
首都しゅとソウルからバスで3あいだきょうふゆ祭典さいてんむかえるたいらあきらのジャンプ会場かいじょう周辺しゅうへんは、五輪ごりん期間きかんちゅう、IOC幹部かんぶやスポンサー関係かんけいしゃらがまるであろう米国べいこくけいホテルチェーンがある以外いがいまちとしてのにぎわいはありませんでした。韓国かんこくはジャンプ大国たいこくではないですし、Wはい表彰台ひょうしょうだいがる選手せんしゅもいません。ジャンプだいたずねると、そこのランディングバーンとサッカーじょう隣接りんせつしていました。こうしたふくごうがたで「まけ遺産いさん」にしない工夫くふうなのでしょう。たして、来年らいねんふゆはどれくらいがるのだろう。

たいらあきら冬季とうき五輪ごりんのジャンプ会場かいじょうはサッカーじょうとのふくごうがただった

プラニツァの熱気ねっきたいらあきらってけたら、選手せんしゅたちもアドレナリンがるだろうな。そこでおもち、観客かんきゃくいてまわってみました。「来年らいねんたいらあきら五輪ごりん現地げんち応援おうえんきますか?」。いたのは15にん程度ていどですが、「く」という回答かいとうはゼロでした。「さすがにとおすぎるよ」「ホテルにまるのも大変たいへんそうだし、たかいだろうから」「旅費りょひしてくれるなら、よろこんでくけど」というひとも。3ねんまえのソチ冬季とうき五輪ごりんでも、アルペンスキーの花形はながた種目しゅもく男子だんし回転かいてんですら、スタンドは空席くうせきがかなり目立めだちました。観客かんきゃくがアスリートの躍動やくどう一体いったいとなってがる会場かいじょうは、アイスホッケーなど一部いちぶかぎられました。

トランプまい大統領だいとうりょう関心かんしんきわめてひく地球ちきゅう温暖おんだん反比例はんぴれいするように(?)、昨今さっこん五輪ごりん招致しょうちねつみは深刻しんこくです。2022ねん冬季とうき五輪ごりん招致しょうち北京ぺきん中国ちゅうごく)とアルマトイ(カザフスタン)の一騎打いっきうちでした。オスロ(ノルウェー)やストックホルム(スウェーデン)など、伝統でんとうてきにスキーがさかんな欧州おうしゅう諸国しょこく都市とし住民じゅうみん反対はんたい次々つぎつぎろし、冬季とうき五輪ごりん招致しょうちレース史上しじょうはじめて、北米ほくべい欧州おうしゅうからの立候補りっこうほ都市としひとつもない二者択一にしゃたくいつとなったたたかいを、小差しょうさ北京ぺきんせいしました。

ひがしアジアでの連続れんぞく開催かいさいになります。ウィンタースポーツの裾野すその世界せかいひろげるという意味いみでは歓迎かんげいすべきことなのかもしれませんが、IOCも本音ほんねでは、欧州おうしゅう開催かいさい復活ふっかつ切望せつぼうしています。
ただし、人口じんこう200まんきょうのスロベニアの国民こくみんにとって、4ねんいち国家こっか財政ざいせいにしわせがくような投資とうしせまられる五輪ごりん・パラリンピックをもよおすリスクより、毎年まいとしのおまつりをたけたのしむほう合理ごうりてきなのでしょう。

民主みんしゅ主義しゅぎのシステムが機能きのうしている北欧ほくおう国々くにぐに事情じじょうおなじです。だから五輪ごりん招致しょうち是非ぜひ住民じゅうみん投票とうひょうをおこなうと、大抵たいてい反対はんたい多数たすうめてしまうのです。

スロベニアのスキーロッジで、隣室りんしつのどんちゃんさわぎに安眠あんみんさまたげられながらかんがえたのは、伝統でんとうあるウィンタースポーツの「本場ほんば」と、巨大きょだい国家こっかプロジェクトに変貌へんぼうげている五輪ごりんとの、残念ざんねんなすれちがいでした。