北京ぺきんオリンピックが示しめした世界せかいの二に極きょく化か　中国ちゅうごくは心細こころぼそい？ “中国ちゅうごく詣もうで”の裏側うらがわを読よみ解とく【前編ぜんぺん】

■印象いんしょう的てきだった選手せんしゅ同士どうしのリスペクト　その一方いっぽうで……

中川なかがわ：パックン、北京ぺきんオリンピックは見みていましたか。盛もり上あがりは感かんじましたか。

パックン：僕ぼく個人こじんとしては盛もり上あがっていましたよ。アメリカと日本にっぽん、両方りょうほうの放送ほうそうを見みて、ハイライトは日本語にほんごで確認かくにんし、注目ちゅうもくされている競技きょうぎはアメリカのNBCでもフォローしていました。アメリカではスノーボードと、あと特とくにホッケー、スキーが強つよいので注目ちゅうもくされますが、ジャンプ競技きょうぎはそんなに見みられていないです。日本にっぽんでは、アメリカ人じんが想像そうぞうできないほど、カーリングが人気にんきですね！

中川なかがわ：男子だんしフィギュアスケートでは、日米にちべいの選手せんしゅがお互たがいをリスペクトし合あう光景こうけいが印象いんしょう的てきでしたね。ネイサン・チェン選手せんしゅは、羽生はぶ選手せんしゅを「彼かれが史上しじょう最もっとも偉大いだいな本物ほんもののフィギュアスケートアイコン」と称しょうし、羽生はぶ選手せんしゅも会見かいけん冒頭ぼうとうで、金きんメダルをとったネイサン・チェン選手せんしゅの偉業いぎょうをたたえていました。

スポーツの祭典さいてんオリンピックならではと言いいたいところですが、こういう「世界せかいのニュース」というコーナーですので、やはり政治せいじ面めんにも触ふれざるを得えません。

北京ぺきんオリンピックが世界せかいの分断ぶんだんを助長じょちょう、象徴しょうちょうしているとか、習近平ひら国家こっか主席しゅせきとバッハIOC会長かいちょうのためのものになっているとか、批判ひはんもあります。習主席しゅせきは今回こんかい、19の国くにや国際こくさい機関きかんのトップと初日しょにちに会談かいだんしました。分ぶん刻きざみのスケジュールだったようです。

【習近平たいら氏し、分ぶん刻きざみの五輪ごりん外交がいこう　各国かっこく首脳しゅのうと会談かいだん、欧米おうべいへの対抗心たいこうしんあらわ：朝日新聞あさひしんぶんデジタル】

中川なかがわ：トップバッターかつ最さい重要じゅうよう賓客ひんきゃくはもちろん、ロシアのプーチン大統領だいとうりょうでした。ただ、私わたしが面白おもしろいと思おもったのは、今回こんかい、北京ぺきんオリンピックに首脳しゅのうを送おくってきた国くにを見みると、世界せかいの今いまがよくわかることでした。

中東ちゅうとうでは、エジプトのエルシーシ大統領だいとうりょう、アラブ首長しゅちょう国こく連邦れんぽう（UAE）のザーイド皇太子こうたいし、カタールのタミーム首長しゅちょうが北京ぺきんを訪問ほうもんしましたが、これらの国くには暑あついので北京ぺきん冬季とうきオリンピックに選手せんしゅは派遣はけんしていません。

ここから見みえてくるのは、このコラムでもたびたびパックンと話はなしている民主みんしゅ主義しゅぎ、人権じんけんです。これらの国くに、特とくにエジプトはアラブの春はる以降いこう、今いまでも強権きょうけん的てきな政治せいじ体制たいせいが続つづいていて、アメリカのバイデン政権せいけんとは人権じんけん問題もんだいでぎくしゃくしています。湾岸わんがん諸国しょこくも民主みんしゅ主義しゅぎとは遠とおい存在そんざいで、これらの国くにが“中国ちゅうごく詣もうで”をして、人権じんけん問題もんだい不干渉ふかんしょうで歩調ほちょうを合あわせています。

同おなじくウイグル、香港ほんこんなどの人権じんけん問題もんだいを抱かかえる習主席しゅせきにとっては、これらの国くにを破格はかくの待遇たいぐうで迎むかえざるを得えませんね。カタールとはパンダ外交がいこうが始はじまるようです。そう考かんがえると、北京ぺきんオリンピックで見みえたのは、民主みんしゅ主義しゅぎそして人権じんけんをめぐる世界せかいの二に極きょく化かと言いわざるをえないと思おもいます。

パックン：確たしかに北京ぺきんオリンピックに首脳しゅのうが出席しゅっせきした国くにと、いわゆる外交がいこう的てきボイコットをした国くにに分わかれているように見みえますね。

ただ、中国ちゅうごくから見みれば、ちょっと心細こころぼそいのではないでしょうか。というのも、いわゆる大国たいこくからはロシアぐらいしか来きていません。今回こんかい、中国ちゅうごくを訪おとずれた首脳しゅのうは全部ぜんぶで20人にん程度ていどですから、2018年ねんの平たいら昌あきら冬季とうきオリンピックと同おなじぐらい、つまり韓国かんこくと同おなじぐらいの国力こくりょくだと世界せかいに示しめしたとも言いえます。また、外交がいこう的てきミスもあり、インドの首脳しゅのうは直前ちょくぜんになって訪問ほうもんをキャンセルしました。

中川なかがわ：（今年ことしのサッカー・ワールドカップの開催かいさい国こくでもある）カタールは今回こんかい、北京ぺきんを訪問ほうもんする前まえの1月がつ31日にち、バイデン大統領だいとうりょうにホワイトハウスに招まねかれ、対面たいめんで会談かいだんしました。

サウジ、UAEという湾岸わんがんの大国たいこくがいまだにホワイトハウスに招まねかれない中なか、また岸田きしだ首相しゅしょうもまだ米国べいこくを訪問ほうもんできない中なかでの、際立きわだった待遇たいぐうだと思おもいます。

カタールは、液化えきか天然てんねんガス（LNG）の世界せかい最大さいだいの生産せいさん国こくの一ひとつです。バイデン大統領だいとうりょうにとって会談かいだんの最大さいだいの狙ねらいは、現下げんかのウクライナ危機ききから生しょうじる、特とくにヨーロッパでのエネルギー不足ふそくを解決かいけつするため、LNGの供給きょうきゅうについて相談そうだんすることでした。また、昨年さくねんの米べい軍ぐんのアフガニスタン撤退てったいで、アメリカはカタールに（米べい軍ぐん、米国べいこく人じんの避難ひなんなどで）大変たいへん助たすけてもらったという背景はいけいもあります。

■「経済けいざいが成長せいちょうすれば、民主みんしゅ化かも進すすむ」 外はずれた思惑おもわく

中川なかがわ：今回こんかいの北京ぺきん冬季とうきオリンピックに首脳しゅのうが来きたのは20カ国かこく程度ていどでしたが、2008年ねんの北京ぺきん夏季かきオリンピックでは約やく80カ国かこくでした。

パックン：2008年ねん北京ぺきん夏季かきオリンピックは、アメリカもはじめて大統領だいとうりょう（ジョージ・W・ブッシュ元もと大統領だいとうりょう）が他国たこくのオリンピックに出席しゅっせきしました。私わたしもよく覚おぼえていますけど、当時とうじの北京ぺきん夏季かきオリンピックは「国威こくい発揚はつよう」の事業じぎょうとしては大だい成功せいこうだったと思おもいます。そう考かんがえると、今回こんかいは、演出えんしゅつは素晴すばらしかったが、そこまでの成功せいこうとは見みなせないと思おもいます。

中川なかがわ：中国ちゅうごくは2001年ねんにWTO（世界せかい貿易ぼうえき機関きかん）に加盟かめいして、2008年ねん当時とうじは、経済けいざい成長せいちょうが著いちじるしい時代じだいでした。ただ、パックンもこのコラムでコメントしていたように、世界せかいは中国ちゅうごくが経済けいざい成長せいちょうするのと同時どうじに、政治せいじ制度せいども成熟せいじゅく化か、民主みんしゅ化かしていくと期待きたいしていました。

経済けいざいについては当時とうじ（2008年ねん）から名目めいもくGDPは3.9倍ばいになったとのデータもあります。一方いっぽうで政治せいじは逆行ぎゃっこうしていると言いわざるをえない状況じょうきょうですね。

パックン：そうなんです。国民こくみんがある程度ていど潤うるおってきて、生活せいかつ水準すいじゅんが高たかまったおかげで、もしかしたら政権せいけんに対たいする怒いかりとか、民主みんしゅ化かを求もとめる欲望よくぼう、民意みんいが少すこし薄うすれてきたのかもしれない。経済けいざい成長せいちょうしている間あいだも一いち党とう独裁どくさい制度せいどを保たもっているけど、国民こくみんの中なかで、この政治せいじ制度せいどでも経済けいざい成長せいちょうできるならいいんじゃないか、問題もんだいないのではないかという満足まんぞく感かんが増ふえたのかもしれませんね。

あるいは、（経済けいざい力りょくも含ふくめて）国力こくりょくが上あがったおかげでもう西洋せいようのやり方かたに合あわせる必要ひつようがない、中国ちゅうごくモデルで成功せいこうできるという政府せいふの自信じしんにつながったのかもしれません。我々われわれはアメリカの顔色かおいろをうかがう必要ひつようはなく、もう十分じゅうぶん強つよいという考かんがえです。

中川なかがわ：中国ちゅうごくは政治せいじ面めんでは、「中国ちゅうごく式しき」民主みんしゅ主義しゅぎを主張しゅちょうし、経済けいざい面めんでは「共同きょうどう富裕ふゆう」という、富とみの再さい分配ぶんぱいで国民こくみんがともに豊ゆたかになる社会しゃかいを目指めざしています。

パックン：コロナ対策たいさくの成功せいこうも、習近平ひら政権せいけんの支持しじとつながっていると思おもいます。しかし、中国ちゅうごくが掲かかげるゼロ・コロナ政策せいさくの失敗しっぱいは、（イアン・ブレマー氏し率ひきいる）ユーラシア・グループも、今年ことしの世界せかいのリスクのトップに上あげていますね。

もし感染かんせん拡大かくだいが防ふせげなくて、さらにオミクロン株かぶより毒性どくせいの強つよい株かぶが中国ちゅうごく全土ぜんどに広ひろがり、明あきらかな失敗しっぱいとなってしまった場合ばあい、それは政権せいけんの支持しじが崩くずれてもおかしくないでしょう。でも、ゼロ・コロナ政策せいさくと経済けいざい成長せいちょうが両立りょうりつしている今いまの中国ちゅうごくはすごいと私わたしは思おもいますね。

今回こんかいアメリカでは、米べい中ちゅう対立たいりつの象徴しょうちょうとして、スキーフリースタイルの谷たに愛あい凌しのげ（アイリーン・グー）選手せんしゅが注目ちゅうもくを浴あびています。

アメリカ・サンフランシスコ出身しゅっしんの中国ちゅうごく系けいアメリカ人じんで、中国ちゅうごく代表だいひょうとしてオリンピックに出でています。名門めいもんスタンフォすたんふぉード大どだいに合格ごうかくした才媛さいえん（さいえん）で、中国ちゅうごくでファッションモデルとしても成功せいこうしています。

アメリカでは「裏切うらぎられた」と感かんじている人ひとが多おおいですが、彼女かのじょも、中国ちゅうごくが2008年ねんの国力こくりょくであったら、中国ちゅうごく代表だいひょうになることを選択せんたくしなかったかもしれません。個人こじん的てきな考かんがえですが、アメリカよりも中国ちゅうごくで成功せいこうした方ほうがもうかるという判断はんだんだったのかなと思おもいます。今いまの中国ちゅうごくでは、とんでもないスポンサー料りょうを得えられますから。

■ウクライナ危機ききが突つきつける「民主みんしゅ主義しゅぎって何なに？」の問とい

中川なかがわ：ロシア・ウクライナ問題もんだいについても、パックンと深ふか掘ほりしたいと思おもいます。

今回こんかいの北京ぺきんオリンピックで習主席しゅせきとプーチン大統領だいとうりょうがトップバッターとして会談かいだんしましたが、その共同きょうどう声明せいめいで、民主みんしゅ主義しゅぎについて取とり上あげ、「民主みんしゅ主義しゅぎは全ぜん人類じんるいの共通きょうつうの価値かちであり少数しょうすう国こくの権利けんりではない」と強調きょうちょうしました。

この点てん、ロシアは、欧米おうべいでいうところの民主みんしゅ主義しゅぎ国家こっかでないのは明あきらかですが、ロシア的てきな民主みんしゅ主義しゅぎとはどういうものだとパックンは思おもいますか。

パックン：サミュエル・ハンチントンは「文明ぶんめいの衝突しょうとつ」（1996年ねん）の中なかで、ヨーロッパ文化ぶんかとロシア文化ぶんかを切きり離はなして、両者りょうしゃの価値かち観かんが違ちがうことを長ながく、深ふかく解説かいせつしています。

考かんがえてみれば、世界せかいの民主みんしゅ主義しゅぎ国家こっかの多おおくは、国民こくみんによる革命かくめいを起おこし、王政おうせいを倒たおして、民主みんしゅ制度せいどを勝かち取とったのです。アメリカとフランスがその代表だいひょう格かくです。ロックやカントに代表だいひょうされる「文明ぶんめいの開化かいか」という哲学てつがくが育そだったのも西洋せいようです。

ロシアはその例外れいがいで、革命かくめいを起おこしましたが、そこで生うまれたのは「共産きょうさん主義しゅぎ」でした。第だい2次じ世界せかい大戦たいせん後ご、冷戦れいせん時代じだいが40年ねん以上いじょう続つづきましたが、今いまのロシアのリーダーはその間あいだに育そだった人ひとです。

冷戦れいせん時代じだいの大国たいこくとしてのロシアも、その後ごの失速しっそくも経験けいけんしてきています。そこで強つよさを取とり戻もどしたプーチン大統領だいとうりょうが「あの栄光えいこうをもう一度いちど」という雰囲気ふんいきで、強国きょうこくロシアの再建さいけんを目指めざしている。これをロシア国民こくみんが応援おうえんしたくなるのも分わからなくはないです。

パックン：そもそもロシアには、西洋せいよう的てきな哲学てつがくの観点かんてんが、民意みんいとして深ふかく根付ねついていないようです。革命かくめいで血ちを流ながして勝かち取とった民主みんしゅ制度せいどもありません。私わたしは、ロシア国民こくみんは、民主みんしゅ制度せいどに深ふかくこだわってはいないと最近さいきん思おもうようになりました。

ロシアが事実じじつ上じょうの独裁どくさい国こくに戻もどっているという指摘してきもよくあります。報道ほうどうの自由じゆうとか、政治せいじ活動かつどうの自由じゆうが事実じじつ上じょう認みとめられていないのです。今いまのウクライナ情勢じょうせいはまさにそうですけど、1人ひとりの独断どくだんで国くにがまるごと動うごくというのは、独裁どくさい国こくの特徴とくちょうです。実態じったいは、民主みんしゅ主義しゅぎ国家こっかとは言いえないのではないでしょうか。

しかし、一方いっぽうで、今いまのロシア国民こくみんが本当ほんとうに西欧せいおうと同おなじ価値かち観かんを持もっているとするなら、国民こくみんからの革命かくめいがまた起おきてもおかしくない、実際じっさい、その恐おそれもあると思おもいます。

北京ぺきんオリンピックでの習主席しゅせきとプ―チン大統領だいとうりょうの共同きょうどう声明せいめいでも、カラー（color）革命かくめい（注ちゅう：2000年ねんごろから中東ちゅうとう欧おうや中東ちゅうとうで起おこった民主みんしゅ化か運動うんどうの総称そうしょう）を恐おそれるという文言もんごんが入はいっていました。

ただ、残念ざんねんながら中国ちゅうごくやロシアの首脳しゅのうは、カラー革命かくめいというのはアメリカがあおったものという解釈かいしゃくをしています。内うちからではなく外そとから仕掛しかけられたものという意味いみです。その意味いみでも、アメリカとロシアの対立たいりつは深ふかくて根強ねづよい、それがこの約やく20年ねんのプ―チン政権せいけん下かでさらに明あきらかになったと思おもいます。

中川なかがわ：この文脈ぶんみゃくで、イギリスのシンクタンク研究けんきゅう員いんは、「プーチン大統領だいとうりょうは、民主みんしゅ主義しゅぎがウクライナを通つうじてロシアに来くることを懸念けねんしている」と述のべていますが、これに対たいし、私わたしの先輩せんぱいでもある外務省がいむしょうのロシア専門せんもん家かであった佐藤さとう優ゆう氏しは、その懸念けねんを一蹴いっしゅうしました。その上うえで、ロシアにもロシアとしての民主みんしゅ主義しゅぎがあり、プーチン大統領だいとうりょうらトップ層そうが恐おそれているのは一部いちぶの欧米おうべいの政治せいじ家かの扇動せんどうであると述のべています。

このあたりは、パックンの指摘してきと合致がっちしているところもあって面白おもしろいなと思おもいました。

【ロシアが真しんに恐おそれることとは　侵攻しんこうの可能かのう性せいは　ウクライナ危機ききの深層しんそう：朝日新聞あさひしんぶんデジタル】

今日きょうの冒頭ぼうとうで、中東ちゅうとうのエジプト、UAEの首脳しゅのうが北京ぺきんを訪問ほうもんした話はなしをしましたが、アラブにもアラブなりの民主みんしゅ主義しゅぎがあります。彼かれらは、決けっして自分じぶんたちの国くにが独裁どくさい国こくであるとは言いいません。

そう考かんがえると、今いまの世界せかいは「民主みんしゅ主義しゅぎ」って何なに？という根本こんぽんから問とい直なおすことが必要ひつようかもしれませんね。ウクライナ情勢じょうせいも、日々ひびの外交がいこう努力どりょくとは別べつに、この「民主みんしゅ主義しゅぎ」という視点してんで考かんがえると、より深ふかく理解りかいできるのではないかと思おもいます。

（中川なかがわ浩一こういちさんとパックンの対談たいだんは2月がつ15日にちに実施じっししました）

※【後編こうへん】はこちらからお読よみいただけます。

（この記事きじは朝日新聞社あさひしんぶんしゃの経済けいざいメディア『bizble』から転載てんさいしました）