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プーチン大統領の狙いは? ウクライナ情勢、NATOをめぐる思惑【後編】:朝日新聞GLOBE+
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プーチン大統領だいとうりょうねらいは? ウクライナ情勢じょうせい、NATOをめぐる思惑おもわく後編こうへん

これだけはっておこう世界せかいのニュース 更新こうしん 公開こうかい

■「リスクをりたくない」 アメリカの本音ほんね

中川なかがわ前編ぜんぺんでは、最近さいきん緊迫きんぱくするウクライナ情勢じょうせいについて、「民主みんしゅ主義しゅぎ」の視点してんれてきましたが、もう1つ、このウクライナ危機ききかんがえるうえ重要じゅうようなのは、NATO(北大西洋きたたいせいよう条約じょうやく機構きこう)のありかたです。

今回こんかい、プーチン大統領だいとうりょうは、ウクライナがNATOに加盟かめいすることもふくめ、NATOの東方とうほう(ロシア方向ほうこう拡大かくだい反対はんたいしていて、それが交渉こうしょう論点ろんてんにもなっていますね。一方いっぽうで、アメリカではいま、NATOを拡大かくだいすべき、あるいは拡大かくだいすべきでないという双方そうほう議論ぎろん活発かっぱつになっているようです。

パックン:わたしは、NATOがわざわざロシアを刺激しげきしなくてもよいとおもっています。NATOは、たいロシア(ソ連それん)の安全あんぜん保障ほしょうじょう枠組わくぐみとしてまれたものなので、ソ連それん崩壊ほうかいしたのち、いったんその役割やくわり見直みなおしてもよかった、表面ひょうめんじょうだけでも解体かいたいしてもよかったかもしれません。

でも、実際じっさい存続そんぞくしていて、いまのロシアからすればNATOを脅威きょういかんじて当然とうぜんかもしれません。ただ、このウクライナ危機ききなか、ロシアのおどしにくっしたかたちでNATOを解体かいたいすることはできません。ロシアが緊張きんちょうたかめているねらいの1つは、NATOの拡大かくだい阻止そしだからです。

在日ロシア大使館近くで抗議の声をあげる在日ウクライナ人たち
在日ざいにちロシア大使館たいしかんちかくで抗議こうぎこえをあげる在日ざいにちウクライナじんたち=2022ねん2がつ23にち東京とうきょうみなと朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

中川なかがわバイデン政権せいけんのこのウクライナ危機ききたいする外交がいこうは、どう評価ひょうかしていますか。昨年さくねんなつのアフガニスタンからの撤退てったい失態しったいもあり、今回こんかいはその教訓きょうくんて、アメリカは情報じょうほうせんでも先手せんて先手せんてうごいていて、戦略せんりゃくがあるようにもえますね。

ただ一方いっぽうで、ロシアとの戦線せんせんひらくことにはおよごしで、バイデン大統領だいとうりょうもウクライナにべいぐん直接ちょくせつ派遣はけんすることはないと明言めいげんしています。アメリカ内政ないせい課題かだい山積さんせきなか世界せかい地政学ちせいがく3だいリスクであるロシア、アジア、中東ちゅうとうにおいて、どれも外部がいぶでのリスクをりたくないというのがアメリカの本音ほんねではないでしょうか。

きびしいいいかたをすれば、そこをプーチン大統領だいとうりょう見透みすかされているとえるかもしれません(ちゅう:2がつ24にち、ロシアはウクライナに侵攻しんこう開始かいし)。今回こんかいのウクライナ危機きき、アメリカじんはどのようなているのでしょうか。

中川浩一さん(左)とパックン

パックン:アメリカじん国民こくみんてき感覚かんかくうと、ウクライナでアメリカは参戦さんせんしない、というのはベースにあるとおもいますが、ウクライナそしてひがしヨーロッパの前線ぜんせんまもらなければならないとはつよおもっています。

これは中東ちゅうとうたいするものよりつよいとおもいます。中東ちゅうとうなかまもらなきゃいけないのはイスラエルぐらいですけど、イスラエルには、アメリカの武器ぶき資金しきんわたっていて、イスラエルは自国じこく自力じりきまもることもできます。かずおおくの中東ちゅうとう戦争せんそうなかでも生存せいぞんしてきたわけです。

これにたいして、ヨーロッパは1かいひがしベルリンもふくめてひがし諸国しょこくソ連それん影響えいきょうけんにのみまれたことがあります。そんなにふる歴史れきしでもないですし、それが記憶きおくのこっていて、ロシアの野心やしんおそれているアメリカじんはたくさんいます。なので、バイデン大統領だいとうりょうはプーチン大統領だいとうりょう蛮行ばんこう看過かんかできないのです。

ホワイトハウスで演説するバイデン米大統領
ホワイトハウスで演説えんぜつするバイデンまい大統領だいとうりょう=2021ねん11月23にち、アメリカ・ワシントン、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

中川なかがわそれでも、ウクライナをまもるためにべいぐんすべきだとの議論ぎろんにはならないのでしょうか。

パックン:世論せろん調査ちょうさでは、べいぐんをウクライナに派遣はけんしてもよいというひと一部いちぶにはいます。でもバイデン大統領だいとうりょうはそうはしないとっていますし、わたしもその判断はんだん支持しじします。

今回こんかいは、わたしは、バイデン政権せいけんはうまくやっているとおもいます。西欧せいおうくにのスタンスをととのえることができましたし、アメリカ国民こくみんもこの問題もんだいについてわりと団結だんけつしているとおもいます。

中川なかがわさんが指摘してきされた情報じょうほうせんについては、ロシアがわは、ウクライナ侵攻しんこうはじめる口実こうじつとしてフェイクニュースをなが可能かのうせいもあり、その対応たいおうふくめてアメリカが先手せんてっている印象いんしょうです。

中川なかがわバイデン大統領だいとうりょう、ブリンケン国務こくむ長官ちょうかんをはじめアメリカが、欧州おうしゅう首脳しゅのう、そしてプーチン大統領だいとうりょう本人ほんにん相当そうとう緊密きんみつ交渉こうしょうきをし、外交がいこう活発かっぱつさせていますね。

ウクライナ市民の志願兵からなる「領土防衛軍」が毎週末に実施している軍事訓練
ウクライナ市民しみん志願しがんへいからなる「領土りょうど防衛ぼうえいぐん」が毎週まいしゅうまつ実施じっししている軍事ぐんじ訓練くんれん国境こっきょうはさんでロシアとの緊張きんちょうたかまるなか、300にんほどの市民しみん参加さんかした=2022ねん2がつ5にち、キエフ郊外こうがい朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

パックン:プーチン大統領だいとうりょうとしては、ウクライナをロシアりにさせたかったのでしょうが、ここまで挑発ちょうはつてき行動こうどうってしまったことで、ぎゃくにアメリカ、欧州おうしゅう、ウクライナ国民こくみん民意みんいはんロシアにかたまってしまいました。ぎゃく効果こうかだったかもしれません。

NATOの脅威きょうい解消かいしょうすることがねらいであったにもかかわらず、ぎゃくにNATOがわ東方とうほう配備はいびすすめています(ちゅう:2がつ24にち、アメリカは米兵べいへいやく7000にん増派ぞうは発表はっぴょう)。

またウクライナの東側ひがしがわをロシアが占領せんりょうしている(ちゅう:2がつ23にち、プーチン大統領だいとうりょうはウクライナ東部とうぶの「ドネツク人民じんみん共和きょうわこく」「ルガンスク人民じんみん共和きょうわこく」の独立どくりつ承認しょうにん)ため、この地域ちいき人々ひとびと(ロシアり)がウクライナ議会ぎかい参加さんかできていません。しんロシア勢力せいりょくがウクライナで政治せいじりょくをもたなくなってしまったんです。のこされたのは、どちらかというとおやNATO、おやヨーロッパの人々ひとびとです。占領せんりょうによってプーチン大統領だいとうりょうみずからが、ウクライナにおけるしんロシアの政治せいじりょく無力むりょくにしているんです。

問題もんだい複雑ふくざつにする、エネルギー依存いぞん

中川なかがわつぎに、ウクライナ情勢じょうせいを「エネルギー」の視点してんかんがえたいとおもいます。欧州おうしゅうがロシアからの液化えきか天然てんねんガス(LNG)の供給きょうきゅう大変たいへん依存いぞんしていることが今回こんかい問題もんだい一層いっそう複雑ふくざつにしていて、日本にっぽん先日せんじつ、EUやアメリカの要請ようせいこたえるかたちで、日本にっぽんのLNGを条件じょうけんきで欧州おうしゅう融通ゆうずうすることを決定けっていしました。

この関係かんけいで、だい8かいでパックンがりあげたハンガリーが注目ちゅうもくされています。

ハンガリーは、独裁どくさいしょくつよめるオルバン首相しゅしょうが4がつ選挙せんきょひかえていますが、ロシアのエネルギーに相当そうとうたよっているなかで、プーチン大統領だいとうりょうはハンガリーに安価あんかかつ長期ちょうきでのLNG供給きょうきゅうちかけて、ハンガリーをロシアがわきこもうとしています。欧州おうしゅう分断ぶんだんはかって、ハンガリーのオルバン首相しゅしょうを「トロイの木馬もくば」として利用りようしようとしています。

総選挙で勝利し、支持者を前に演説するハンガリーのオルバン首相
そう選挙せんきょ勝利しょうりし、支持しじしゃまえ演説えんぜつするハンガリーのオルバン首相しゅしょう中央ちゅうおう)=2018ねん4がつ、ブダペスト、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

中川なかがわドイツもロシアのLNGにおおきく依存いぞんしています。また原油げんゆ価格かかく左右さゆうするOPEC(石油せきゆ輸出ゆしゅつこく機構きこう)にはロシアもくわわって、世界せかい原油げんゆ価格かかくのキープレイヤーとなっています。

現在げんざい、ウクライナ危機ききもあり1バレル90あめりかドルをしています(ちゅう:2がつ24にち一時いちじ1バレル100ドルをえた)。そのうらで、いまかくれているリスクである「中東ちゅうとう」の2だい産油さんゆこく、サウジアラビアとUAEのうごきもになりますね。

ロシアにとっては、経済けいざい原油げんゆ価格かかく依存いぞんしているところもあり、現在げんざいのロシアをめぐる地政学ちせいがくリスクのたかまりがロシア経済けいざいすくう、それがプーチン大統領だいとうりょうねらいでもあるとえるとおもいます。

パックン:そのとおりです。プーチン大統領だいとうりょうとしては、緊張きんちょう維持いじすることにメリットがあります。

宇宙うちゅう半導体はんどうたい医薬品いやくひん…… たかまる「経済けいざい安全あんぜん保障ほしょう」の重要じゅうようせい
中川なかがわ最後さいごに、ビジネスパーソンにとって、地政学ちせいがく、エネルギーとならび、「経済けいざい安全あんぜん保障ほしょう」というかんがかた最近さいきんとく重要じゅうようになっているのでれたいとおもいます。

1がつ21にち、バイデン大統領だいとうりょう岸田きしだ首相しゅしょうがオンライン協議きょうぎをして、日米にちべいりょう政府せいふ経済けいざいばん閣僚かくりょう協議きょうぎ「2+2」を創設そうせつすることに合意ごういしました。

これまでは「2+2」というと、外務省がいむしょう防衛ぼうえいしょうだったのですが、この枠組わくぐみは外務省がいむしょう経済けいざい産業さんぎょうしょうになります。

中川浩一さん(左)とパックン

中川なかがわアメリカにとっては、現在げんざい、TPP(環太平洋かんたいへいよう経済けいざい連携れんけい協定きょうてい)にはもどれない、RCEP(地域ちいきてき包括ほうかつてき経済けいざい連携れんけい協定きょうてい)はそもそもメンバーではないなかで、「インド太平洋たいへいよう経済けいざい枠組わくぐみ」を提唱ていしょうし、中国ちゅうごく対抗たいこうけてこの地域ちいきでの影響えいきょうりょく確保かくほしたい、日米にちべい経済けいざいばん2+2をその足掛あしがかりにしたいという思惑おもわくれます。

一方いっぽう日本にっぽん国内こくないでは「経済けいざい安全あんぜん保障ほしょう法案ほうあん」が国会こっかい提出ていしゅつされる予定よていです。サプライチェーンの強化きょうか基幹きかんインフラの事前じぜん審査しんさ先端せんたん技術ぎじゅつ官民かんみん協力きょうりょく特許とっきょ非公開ひこうかいなど、それぞれの項目こうもくはかなり技術ぎじゅつてきです。領域りょういきてきには、宇宙うちゅう量子りょうし、バイオ、半導体はんどうたい、レアアース、医薬品いやくひんなどもはいります。

パックン:日本にっぽん政府せいふのエネルギー、経済けいざい安全あんぜん保障ほしょうかんする一連いちれんうごきは評価ひょうかされるべきです。アメリカよりさきっているところもあるとおもいます。「経済けいざい安全あんぜん保障ほしょう」「エネルギー安全あんぜん保障ほしょう」という表現ひょうげんとその意義いぎを、なんとか日本にっぽん国民こくみんかってもらえるようにしていくことが大事だいじだとおもいます。

もちろん、アメリカ国内こくないでも「energy security」という文言もんごんきますが、アメリカ国民こくみんがどこまで理解りかいしているかは疑問ぎもんですね。でもすこしでも勉強べんきょうすると、すごく大事だいじなことだとかります。

だい2世界せかい大戦たいせん真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきは、石油せきゆ・エネルギーをめぐってやむをこしたという見方みかたおおいですが、いま半導体はんどうたいやレアアースが日本にっぽんはいらなくなったらおなじことになります。経済けいざいだけでなく国防こくぼう日本にっぽん自衛隊じえいたいこまることになります。

パックン

中川なかがわわたし勤務きんむする三菱みつびし総合そうごう研究所けんきゅうじょもこの分野ぶんやでのタスクフォースをげ、わたしもメンバーです。今後こんご、パックンともかりやすくげていきたいとおもいます。

対談たいだんは2がつ15にち実施じっししました)

(この記事きじ朝日新聞社あさひしんぶんしゃ経済けいざいメディア『bizble』から転載てんさいしました)