再選さいせんで権力けんりょく強化きょうかのプーチン大統領だいとうりょう、ロシアは次つぎにNATOを狙ねらうか？河東かわとう哲夫てつお氏しの見立みたて

――2月がつのミュンヘン安全あんぜん保障ほしょう会議かいぎでは、ロシアによるNATO攻撃こうげきを懸念けねんする声こえが相次あいつぎました。

少すくなくとも現時点げんじてんで、ロシアにNATO諸国しょこくを攻撃こうげきする意思いしも力りきもないと思おもいます。「ウクライナを攻撃こうげきしたから、NATOも攻撃こうげきする」という見方みかたは早計そうけいです。ロシアによるウクライナ侵攻しんこうの発端ほったんは、2014年ねん2月がつの「ユーロ・マイダン革命かくめい」とも呼よばれるウクライナ右派うは勢力せいりょくによる、当時とうじのヤヌコビッチ政権せいけんの追おい落おとしでした。ロシアが「自分じぶんたちの勢力せいりょく圏けんを、力ちからで奪うばい取とられた」と考かんがえたことが、直後ちょくごのクリミア半島くりみあはんとうの強制きょうせい併合へいごうにつながりました。

その後ご、ウクライナ東部とうぶの帰属きぞくを巡めぐるミンスク合意ごういの履行りこうを巡めぐり、ロシアとウクライナが対立たいりつするなか、NATOがウクライナ軍ぐんの強化きょうかを進すすめました。こうした状況じょうきょうを経へて、ロシアがクリティカルポイント（臨界りんかい点てん）を超こえたと判断はんだんしたことが、2022年ねん2月がつの侵攻しんこうにつながったと思おもいます。

NATO加盟かめい国こくの中なかにも、バルト三さん国こくやポーランドなど、ロシアとの国境こっきょうに近ちかい国々くにぐには、米国べいこくや英えい仏ふつ独どくなどNATO強国きょうこくの兵力へいりょく常駐じょうちゅうなどを得えるために、「ウクライナの次つぎは自分じぶんたちが攻撃こうげきされる」と主張しゅちょうしているのでしょう。ドイツなど、こうした見方みかたと距離きょりを置おいている国くにもあります。ロシアにとっても、NATO諸国しょこくへの攻撃こうげきは米国べいこくの参戦さんせんを招まねく可能かのう性せいがあるため、簡単かんたんではありません。

――ロシアが黒海こっかいでの権益けんえきを握にぎるため、黒海こっかい沿岸えんがんにあるウクライナの隣国りんごくで、NATO加盟かめい国こくではないモルドバを狙ねらう、という見方みかたもあります。

ロシア軍ぐんは現在げんざい、クリミア半島くりみあはんとう・セバストポリの海軍かいぐん基地きちを事実じじつ上じょう、使つかえなくなっているようです。ウクライナ軍ぐんのミサイル攻撃こうげきに悩なやまされているからです。モルドバを狙ねらうためには、少すくなくとも黒海こっかい沿岸えんがんにあるウクライナの主要しゅよう都市とし、オデーサまで進出しんしゅつする必要ひつようがあります。

しかし、セバストポリが使つかえないため、ロシアの黒海こっかい艦隊かんたいは自由じゆうに活動かつどうできていません。陸路りくろでオデーサに迫せまろうとしても、ザポリージャ州しゅうを南下なんかしつつあるウクライナ軍ぐんに阻はばまれる可能かのう性せいが高たかいと思おもいます。このような状況じょうきょうでは、ロシアがモルドバを攻撃こうげきする懸念けねんはないとみていいでしょう。

――ウクライナの戦況せんきょうをどうみていますか。

昨年さくねん6月がつから始はじまったウクライナ軍ぐんの反転はんてん攻勢こうせいは成功せいこうしませんでした。しかし、ロシア軍ぐんも万全ばんぜんではありません。

まず、兵力へいりょくが不足ふそくしています。ロシアの青年せいねん人口じんこうは減へっていて、軍ぐんに深刻しんこくな影響えいきょうを与あたえるという指摘してきが以前いぜんから出でています。そのうえ、ロシアが2022年ねん9月がつに出だした動員どういん令れいでは、数すう十じゅう万まん人にんの青年せいねんが国外こくがいに避難ひなんしました。ロシアは戒厳かいげん令れいを敷しいていないので、いつでも出国しゅっこくは可能かのうです。

このため、ロシアはコーカサス地方ちほうやバイカル湖こ周辺しゅうへんを中心ちゅうしんとした低てい所得しょとく層そうなどに働はたらきかけ、高額こうがくの賃金ちんぎんで兵士へいしを募つのっています。囚人しゅうじんも兵士へいしとして雇やとったため、国内こくないの囚人しゅうじん数すうが減へったというデータも出でています。中隊ちゅうたいや小隊しょうたいを指揮しきできる下士官かしかんも不足ふそくしています。

また、兵器へいきなど装備そうびの不足ふそくも深刻しんこくです。ウクライナ侵攻しんこう後ご、国防こくぼう費ひを倍増ばいぞうして兵器へいきを増産ぞうさんしているようですが、2022年ねん2月がつの侵攻しんこう直後ちょくごのように、ウクライナに毎日まいにちミサイルが飛来ひらいした状況じょうきょうにはなっていません。戦車せんしゃも、旧式きゅうしきの戦車せんしゃを整備せいびして使つかうような状況じょうきょうにまで追おい込こまれています。すぐに増産ぞうさんして元もとに戻もどるとは考かんがえにくいでしょう。

ウクライナ軍ぐんも兵器へいき不足ふそくに悩なやまされていますから、一いち日にちに戦線せんせんが数すう十じゅうキロも移動いどうするような事態じたいは起おきないでしょう。小規模しょうきぼな陸上りくじょう兵力へいりょくの投入とうにゅうによる、地味じみな戦闘せんとうが続つづくと思おもいます。すでにロシアとウクライナは2014年ねんからウクライナ東部とうぶで同おなじような戦況せんきょうにありました。その再現さいげんが続つづくということです。今後こんごは、例たとえば米国べいこくが支援しえんを打うち切きるといった、政治せいじ的てきに大おおきな動うごきがない限かぎり、簡単かんたんには停戦ていせんにならないと思おもいます。

――ロシア大統領だいとうりょう選せんの結果けっかをどうみていますか。

少すくなくとも政治せいじ的てきには、プーチン大統領だいとうりょうの権力けんりょくは強化きょうかされたと言いえます。プーチン氏しは「法ほうを守まもる」と繰くり返かえし、以前いぜんも大統領だいとうりょうを2期き務つとめた後のち、首相しゅしょうを1期き務つとめるなどしました。建前たてまえは、憲法けんぽうと民主みんしゅ主義しゅぎを守まもったということでしょうが、実態じったいは反はん体制たいせい派はの指導しどう者しゃ、ナワリヌイ氏しの死去しきょに国際こくさい社会しゃかいの批判ひはんが集あつまるなど、独裁どくさいへの懸念けねんが強つよまっています。

ナワリヌイ氏しは自然しぜん死しとされていますが、真実しんじつはわかりません。元々もともと、血管けっかんが詰つまりやすい症状しょうじょうがあったようですが、そうなりやすい状況じょうきょうに追おい込こんだのかもしれませんし、そうした症状しょうじょうを誘発ゆうはつする薬くすりも存在そんざいします。プーチン氏しを嫌きらう世論せろんは確実かくじつに増ふえていると思おもいます。弾圧だんあつを恐おそれて表ひょうに出でていないだけです。

ロシアは軍需ぐんじゅ経済けいざいが進すすんだため、国営こくえい体質たいしつが強つよまり、民間みんかん経済けいざいの活力かつりょくが失うしなわれています。石油せきゆなどエネルギー輸出ゆしゅつの不振ふしんからルーブルの価値かちが下落げらくし、インフレ要因よういんが高たかまっています。ロシアの指導しどう者しゃたちは「西側にしがわ諸国しょこくによる制裁せいさいの危機ききを脱だっした」と広言こうげんしていますが、実際じっさいは経済けいざいの不安ふあんを抱かかえたままです。

経済けいざいが悪化あっかした場合ばあい、今いまは隠かくれているプーチン氏しに反対はんたいする世論せろんがいつ表面ひょうめん化かしてもおかしくないと思おもいます。