「アメリカで最もっとも有名ゆうめいなナチハンター」が語かたる終章しゅうしょう　知見ちけんはウクライナ戦争せんそうの追及ついきゅうにも

第だい2次じ世界せかい大戦たいせんの終おわりから1952年ねんまでにアメリカが受うけ入いれた40万まん人にんの難民なんみんのうち、約やく4分ぶんの1がホロコーストを生いき延のびたユダヤ人じんだった。一方いっぽうで、ナチスの犯罪はんざいに関かかわった人々ひとびとも人知ひとしれず海うみを渡わたり、アメリカ社会しゃかいに溶とけ込こんでいた。

裁さばきも受うけずに、アメリカ市民しみんとして安寧あんねいに暮くらすことは許ゆるされるのか――。ナチハンターらによって彼かれらの存在そんざいが明あかるみに出でると、次第しだいにアメリカ国内こくないでも責任せきにん追及ついきゅうの動うごきが高たかまり、1978年ねんにナチスの犯罪はんざいに関かかわった人物じんぶつの国外こくがい退去たいきょに関かんする法律ほうりつが成立せいりつ。翌よく1979年ねんには司法省しほうしょうに追跡ついせきと訴追そついを担当たんとうする特別とくべつ調査ちょうさ部ぶ（OSI）が設置せっちされた。

OSI創設そうせつ期きから40年ねん近ちかくナチスを追おい続つづけ、「アメリカで最もっとも有名ゆうめいなナチハンター」とも呼よばれるイーライ・ローゼンバウムさん（68）は、ホロコーストの生還せいかん者しゃで解放かいほう直後ちょくごからナチスを追おい続つづけたサイモン・ウィーゼンタールさんや、元もとナチ党員とういんの西にしドイツ首相しゅしょうに「一いち撃げき」を放はなったベアテ・クラルスフェルトさんらの名前なまえを挙あげ、「ナチスの犯罪はんざい者しゃを裁さばかなくてはならないと、社会しゃかいに気きづかせた人々ひとびとだ。彼かれらの努力どりょくがなければ、追及ついきゅうの動うごきは1970年代ねんだいには終おわっていただろう」と評価ひょうかする。

「殺人さつじん者しゃはそこにいる」などウィーゼンタールさんの著書ちょしょを読よんだ10代のころは、「まさか自分じぶんが追及ついきゅうする側がわになるとは夢ゆめにも思おもわなかった」というが、「私わたしは司法しほうの道みちを歩あゆんだが、彼かれらの働はたらきに影響えいきょうを受うけた一人ひとりだ」。

ローゼンバウムさんの両親りょうしんは、1930年代ねんだい後半こうはんにドイツを脱出だっしゅつしたユダヤ系けいアメリカ人じんで、欧州おうしゅうで多おおくの親戚しんせきが犠牲ぎせいになった。

両親りょうしんはホロコーストについてほとんど語かたらなかったが、一いち度どだけ、父親ちちおやが米兵べいへいとして解放かいほう直後ちょくごのダッハウ収容しゅうよう所しょに入はいったことがある、と口ぐちにしたことを覚おぼえている。ローゼンバウムさんが14歳さいのころ、ひどい吹雪ふぶきの中なか、2人ふたりで車くるまに乗のっているときのことだった。

そこで何なにを見みたのか。答こたえは返かえってこなかった。運転うんてん席せきの父ちちを見みると、涙なみだをため、口くちを開あけたまま言葉ことばに詰つまっていた。「父ちちは長ながい沈黙ちんもくのあと、別べつの話はなしを始はじめた。何なにも話はなせないほどに衝撃しょうげき的てきだったということを、私わたしは理解りかいした」

ハはーバばード大どだいのロースクールで学まなんでいたころ、新聞しんぶん記事きじでOSIの創設そうせつ計画けいかくを知しり、すぐに司法省しほうしょうに電話でんわしてインターンの機会きかいを得えた。卒業そつぎょう後ごに入省にゅうしょうし、ナチスの追及ついきゅうを続つづけ、1995～2010年ねんにはOSI部長ぶちょうを務つとめた。

「私わたしが入省にゅうしょうした1980年ねんの時点じてんで、訴追そついする度たびに、『最後さいごのナチ裁判さいばんになるだろう』と騒さわがれ、常つねに残のこされた時間じかんはわずかだというプレッシャーがあった」と振ふり返かえる。

だが実際じっさいには、ソ連それん崩壊ほうかいに伴ともなって当時とうじの記録きろくが新あらたな証拠しょうことして明あきらかになり、訴追そつい件数けんすうは増加ぞうか。1990年ねんから2010年ねんの訴追そつい件数けんすうは計けい68件けんにのぼった。同期どうき間あいだにアメリカ以外いがいで訴追そついされたのは46件けんで、「アメリカはナチスの責任せきにん追及ついきゅうにおいて大おおきな役割やくわりを果はたしてきた」と自負じふする。

「だが、いま、本当ほんとうに終おわりの時ときが近ちかづいている」

2020年ねん、テネシー州しゅうに住すんでいた元もと看守かんしゅの男性だんせい（当時とうじ94）に国外こくがい退去たいきょ令れいがくだされ、翌年よくねん、ドイツに移送いそうされた。ローゼンバウムさんが捜査そうさを担当たんとうしたケースで、米べい司法省しほうしょうにとって「おそらく最後さいごになるだろう」とみる。1980年代ねんだい後半こうはんには55人にんほどの体制たいせいだったOSIは、2010年ねんに別べつの部署ぶしょと合併がっぺい。ほかの戦争せんそう犯罪はんざいやテロ組織そしき関連かんれんの捜査そうさを担にない、現在げんざい、ナチス関連かんれんの調査ちょうさを続つづけるスタッフは3人にんを残のこすのみだという。

ナチスを追おうという役目やくめが終おわりつつある中なか、2022年ねん6月がつには、ロシアのウクライナ侵攻しんこうによる戦争せんそう犯罪はんざいの責任せきにん追及ついきゅうチームが司法省しほうしょう内ないに発足ほっそくされ、トップに就任しゅうにんした。

膨大ぼうだいで多言たげん語ごにわたる記録きろくをひもとき、情報じょうほう機関きかんや歴史れきしの専門せんもん家かとも連携れんけいしながら、組織そしきの意思いし決定けっていプロセスを明あきらかにする。ナチスの犯罪はんざいを立証りっしょうするために積つみ重かさねてきたこうした努力どりょくとノウハウを、未来みらいに向むけ、より普遍ふへん的てきに生いかそうという試こころみだ。今年ことし1月がつに司法省しほうしょうを退官たいかんした後のちも、後進こうしんの育成いくせいに力ちからを入いれる。

「ウクライナでの戦争せんそうでも同おなじだ。容疑ようぎ者しゃはロシアにいるか、今いまもウクライナで戦闘せんとうに加くわわっているかもしれない。それでも、我々われわれがナチス犯罪はんざいを追おい続つづけてきたように、忍耐にんたい強つよく追及ついきゅうを続つづける」