(Translated by https://www.hiragana.jp/)
パリ五輪出場のフェンシング世界王者江村美咲さん 二つの日本勢「初メダル」に挑む:朝日新聞GLOBE+
  1. HOME
  2. People
  3. パリ五輪ごりん出場しゅつじょうのフェンシング世界せかい王者おうじゃ江村えむら美咲みさきさん ふたつの日本にっぽんぜいはつメダル」にいど

パリ五輪ごりん出場しゅつじょうのフェンシング世界せかい王者おうじゃ江村えむら美咲みさきさん ふたつの日本にっぽんぜいはつメダル」にいど

Breakthrough 突破とっぱするちから 更新こうしん 公開こうかい
フェンシング選手の江村美咲さん。世界女王に取材オファーは多い。剣先をカメラのレンズ部分に当てて曲げる撮影方法に「これは初めて、新鮮」
フェンシング選手せんしゅ江村えむら美咲みさきさん。世界せかい女王じょおう取材しゅざいオファーはおおい。剣先けんさきをカメラのレンズ部分ぶぶんててげる撮影さつえい方法ほうほうに「これははじめて、新鮮しんせん」=2023ねん12月28にち東京とうきょうきたさきにん撮影さつえい

日本にっぽん女子じょしはつ世界せかいチャンピオンに

フェンシングの競技きょうぎようピストが30めんもある。日本にっぽん代表だいひょうチームの練習れんしゅう風景ふうけい壮観そうかんだ。東京とうきょうきたあじもとナショナルトレーニングセンター・イーストとう3かい。パリ五輪ごりんをめざす精鋭せいえいけんまじえる。

騎士きしどうにルーツを欧州おうしゅう発祥はっしょうのスポーツ、フェンシングにはみっつの種目しゅもくがある。

太田おおた雄貴ゆうきさんが2008ねん北京ぺきん五輪ごりん日本にっぽんぜいはつのメダルをにしたのが、りょううで頭部とうぶのぞ胴体どうたい有効ゆうこうめんの「フルーレ」。東京とうきょう五輪ごりん男子だんし団体だんたいきんメダルにかがやいたのは、全身ぜんしん有効ゆうこうめんの「エペ」。唯一ゆいいつ五輪ごりんメダルとえんがないのが、ほかの2種目しゅもくのようにくだけでなく、るのも得点とくてんとなる「サーブル」だ。

いわば日陰ひかげ存在そんざいだったサーブルが、江村えむら美咲みさきさん(25)の台頭たいとうで、一変いっぺんした。

「パリでは、自分じぶんしんじてたのしんで試合しあいをやりきれば、きんメダルがれるとしんじている」

大言壮語たいげんそうごではない。「たのしんで」という言葉ことばからは、悲壮ひそうかんただよわない。なにより、実績じっせきという裏付うらづけがある。

取材に応じる江村美咲さん
取材しゅざいおうじる江村えむら美咲みさきさん=2023ねん12月28にち東京とうきょうきたさきにん撮影さつえい

日本にっぽんほこるただ一人ひとりの、個人こじん種目しゅもく現役げんえき世界せかいチャンピオンだ。

2022ねん世界せかい選手権せんしゅけん(エジプト)で頂点ちょうてんったのが日本にっぽん女子じょしでははつ男女だんじょつうじても2015ねん太田おおた雄貴ゆうきさん以来いらい史上しじょう2にん偉業いぎょうだった。

江村えむらさんは昨夏さくなつのイタリアでの世界せかい選手権せんしゅけんで2連覇れんぱかざった。パリ五輪ごりん表彰台ひょうしょうだいがれば、フェンシングの日本にっぽん女子じょしでは五輪ごりんはつ快挙かいきょとなる。

「これまで日本にっぽん選手せんしゅげられなかった結果けっかのこせてきたのはうれしい。五輪ごりんにはサーブル、女子じょしとも日本にっぽんぜいはつのメダリストとして名前なまえきざめる可能かのうせいがある」

前人未到ぜんじんみとうかべこわしてきたことへのよろこびが、あらたなエネルギーをむ。

サーブルに転向てんこうのきっかけは……

いわゆる「サラブレッド」だ。ちちひろしさん(63)は1988ねんソウル五輪ごりんのフルーレ代表だいひょうで、もと日本にっぽん代表だいひょう監督かんとくはは孝枝たかえさん(57)はエペの世界せかい選手権せんしゅけん代表だいひょうだった。長女ちょうじょは、なぜかサーブルという両親りょうしんとはちがったみちあゆむことになる。

小学しょうがく3ねんのとき、ちちひらいていたフェンシング教室きょうしつあそびに感覚かんかく競技きょうぎはじめた。ちちおなじフルーレからはいった。「五輪ごりんをめざそうとか、向上心こうじょうしんはなかった」。大会たいかいても、かがやかしい成績せいせきとはあまりえんがなかった。サーブルへの転向てんこうのきっかけは「賞品しょうひん」だ。

小学校しょうがっこう卒業そつぎょうし、中学校ちゅうがっこう入学にゅうがくするまえ、ナショナルトレーニングセンターで、ジュニアのサーブルの大会たいかいひらかれることになった。優勝ゆうしょうしゃ賞品しょうひんに、アニメ「ウサビッチ」のジグソーパズルが用意よういされているのをつけた。

パズルがしくて、ちち出場しゅつじょうしたいと懇願こんがんした。ちち現役げんえき時代じだい器用きよう選手せんしゅで、フルーレだけでなくサーブルでも全日本ぜんにほんチャンピオンになった実績じっせきがある。サーブルは瞬時しゅんじ勝負しょうぶまるダイナミックさが魅力みりょくだ。

ちちは「相手あいてけんをたたいてから、まえなさい」とシンプルな戦略せんりゃくむすめさづけた。結果けっか優勝ゆうしょう。それまで経験けいけんしてこなかった頂点ちょうてんよろこびを体感たいかんした。ちゅうちょなく、サーブル転向てんこうめた。

東京五輪の前に、1988年ソウル五輪代表だった父と、それぞれの大会公式服で記念撮影
東京とうきょう五輪ごりんまえに、1988ねんソウル五輪ごりん代表だいひょうだったちちと、それぞれの大会たいかい公式こうしきふく記念きねん撮影さつえい家族かぞく提供ていきょう

ところが、中学ちゅうがくはいり、挫折ざせつあじわうことになる。福岡ふくおかけんのジュニア世代せだいのタレント発掘はっくつ事業じぎょういだされ、日本にっぽんオリンピック委員いいんかい(JOC)のエリートアカデミーせいとして上京じょうきょうしてきたどう学年がくねん2にんかべだった。「2人ふたりはフェンシングが未経験みけいけんだったので、最初さいしょてたんですけど、福岡ふくおかけんでトップきゅう運動うんどう神経しんけいなので、あっというかれました」

同期どうきのライバルに触発しょくはつされ、向上心こうじょうしんがついた。中学ちゅうがく3ねんのとき、英国えいこくひらかれた国際こくさい大会たいかい優勝ゆうしょうして、世界せかい舞台ぶたいたたか意識いしき芽生めばはじめた。

高校こうこう1ねんだった2014ねん、アジア選手権せんしゅけんじゅん優勝ゆうしょうした。2ねんにリオデジャネイロ五輪ごりんひかえる。筆者ひっしゃちちとの「親子おやこ出場しゅつじょう」という話題わだいせいもあるし、「リオの新星しんせい」として記事きじくのをたのしみにしていた。五輪ごりん代表だいひょうあらそいでも、こう位置いちにつけていた。

ところが、当時とうじのことをくと、肝心かんじん本人ほんにん本気ほんきりなかった。

自分じぶん五輪ごりんちかづいている自覚じかくまったくなくて……。代表だいひょう選考せんこうレースの終盤しゅうばん日本人にっぽんじんトップの先輩せんぱいと4ポイントしかないとづいた。そこから、代表だいひょう意識いしきしたら、ぎゃくくずれてしまいました」

やる空回からまわりする悪循環あくじゅんかんで、リオ出場しゅつじょうのがした。先輩せんぱい練習れんしゅう相手あいてであるサブメンバーとして、リオのんだ。「やっぱり、自分じぶんたかったな。五輪ごりんへの決意けついかたまったのは、リオでした」。南半球みなみはんきゅうで、自国じこく開催かいさいとなる4ねん東京とうきょうへの気持きもちをつよくした。

大学だいがく4ねんむかえるはずだった東京とうきょう五輪ごりんは、コロナで1ねん延期えんきになった。中央ちゅうおう大学だいがく卒業そつぎょうした2021ねんはる不動産ふどうさんぎょうなどをがけるたてホールディングスと所属しょぞく契約けいやくむすんだ。社員しゃいん選手せんしゅではなく、プロとして活動かつどうする形態けいたいで、メジャー競技きょうぎとはいえないフェンシングでは異例いれいだった。

「プロ宣言せんげん」の記者きしゃ会見かいけんひらいた。

結果けっか次第しだい収入しゅうにゅうわるし、結果けっかせなければ活動かつどうつづけられなくなるかもしれない。リスクもあるけれど、自分じぶん価値かちげる挑戦ちょうせんだとおもっています」。会見かいけんかたった抱負ほうふに、安定あんていてて、自分じぶん可能かのうせいしんじてすす覚悟かくごがにじんだ。

フェンシング世界女王の江村美咲さん
フェンシング世界せかい女王じょおう江村えむら美咲みさきさん=2023ねん12月28にち東京とうきょうきたさきにん撮影さつえい

不完全ふかんぜん燃焼ねんしょうわった東京とうきょう五輪ごりん

はつ出場しゅつじょうとなった東京とうきょう五輪ごりん個人こじんせんで3回戦かいせん敗退はいたい団体だんたいもメダルをのがした。不完全ふかんぜん燃焼ねんしょうおもいから、休暇きゅうか返上へんじょう練習れんしゅう再開さいかいした。そこで、しんからだ悲鳴ひめいげた。いわゆる症候群しょうこうぐん。2022ねん3がつまつから2週間しゅうかんほど、まったけんにぎらない充電じゅうでん期間きかんて、やるもどった。

あらたに就任しゅうにんしたフランス出身しゅっしんのコーチ、ジェローム・グースさんからのまなびが新鮮しんせんだった。親日しんにちのグースさんはいう。「日本にっぽんには柔道じゅうどう歴史れきしがある。講道館こうどうかん流儀りゅうぎまなぶことは大切たいせつだ。フェンシングは欧州おうしゅう発祥はっしょうなので、謙虚けんきょひかえめな日本人にっぽんじん美徳びとくは、試合しあいをする局面きょくめんではプラスにならない。審判しんぱんへのアピールをふくめて、表現ひょうげんりょく大事だいじだ」

江村えむらさんについては、170センチと体格たいかくめぐまれているてんくわえ、アドバイスにみみかたむけて自分じぶん戦術せんじゅつとしかしこさがつよみだという。「意見いけんちがうこともある。でも、コーチと選手せんしゅはそこで議論ぎろんたたかわせることが大事だいじ選手せんしゅ個性こせいころしては、才能さいのう開花かいかしない。美咲みさきには感情かんじょうゆたかに、自由じゆうに、うつくしくけんるって、といている」

2022ねん5がつはじめてワールドカップ優勝ゆうしょうたすと、その7がつ世界せかい選手権せんしゅけん頂点ちょうてんに。昨夏さくなつ直前ちょくぜんのフランス合宿がっしゅくでの体調たいちょう不良ふりょうをはねのけ、連覇れんぱたした。

世界せかい女王じょおう」のタイトル獲得かくとくで、所属しょぞく会社かいしゃから報奨ほうしょうきんのボーナスがた。1度目どめが300まんえん、2度目どめは500まんえんとジャンプアップした。

プロの自覚じかくは、アスリートとしての発信はっしんりょくにもかされている。ロシアのウクライナ侵攻しんこうけ、スポーツ選手せんしゅ権利けんり向上こうじょうをめざす支援しえん団体だんたい「グローバル・アスリート」が昨年さくねん3がつ、ウクライナに侵攻しんこうするロシアと、協力きょうりょくこくのベラルーシの国際こくさい大会たいかいからの除外じょがい継続けいぞくもとめる書簡しょかん国際こくさいオリンピック委員いいんかい(IOC)にした。江村えむらさんも署名しょめいつらねた。

なにただしいのか、わたしがすべてを把握はあくしているわけではないですし、ロシアの選手せんしゅ個人こじんわるいわけではない。ただ、ウクライナ選手せんしゅ世界せかいたすけをもとめているときに、傍観ぼうかんするのではなく、いたい気持きもちになった。自分じぶん素直すなおおもいにしたがいました」

7がつ26にち開会かいかいしきせまるパリ五輪ごりん。フェンシング会場かいじょうは、1900ねんパリ万博ばんぱく会場かいじょうだった「グラン・パレ」という由緒ゆいしょある建造けんぞうぶつだ。「おな会場かいじょうひらかれた2010ねん世界せかい選手権せんしゅけん先輩せんぱいから、すごい雰囲気ふんいきだったといているので、すごくたのしみです」

心底しんそこたのしめたさきに、きんメダルがつ。そうしんじて。