2023年9~10月、中国・杭州で開かれたアジア大会でのメダル数は、金メダル28を含む計107個で、中国、日本、韓国に次ぐ4位だった。
目覚ましいのが陸上で、男子1600メートルリレーで61年ぶりに優勝し、男子やり投げでも1、2位を独占。やり投げで優勝したニーラージ・チョプラ選手は昨夏の世界選手権でも、金メダルを手にした。
20年前のアテネ五輪では、インドのメダルは全競技でわずか一つ。国民的英雄になったクレー射撃男子ダブルトラップ銀メダリスト、ラジャバルダン・シン・ラトールさんは2006年に記者がインタビューしたとき、こう語っていた。
「たった一つのメダルが11億人の国民を幸せにできる。五輪の持つパワーを痛感した」
1984年ロサンゼルス五輪以降、このときまで、インドが獲得したメダルはテニス、重量挙げ、射撃の各1個しかなかった。
「政府はもっとスポーツにお金を使うべきだ」と訴えたラトールさんは、インドのスポーツの発展を阻む要因として、国民的スポーツ、クリケットの影響を挙げていた。「テレビは延々とクリケットを流し、新聞もクリケットが主役。他のスポーツに国民の関心が向かない」
2003年にパリであった陸上の世界選手権女子走り幅跳びで銅メダルを獲得したアンジュ・ジョージさんも同じ意見だった。
「クリケットに回る資金の一部でも他の競技に回ったら、選手強化が進むのに」。インド人として初めて陸上の世界選手権で表彰台に上がった女性のプロアスリートの先駆者だ。
だが、その後の急速な経済成長とともに状況は変化していく。2010年にニューデリーで英連邦スポーツ大会を開催し、クリケット以外の競技環境も改善された。2014年に誕生したモディ政権は、五輪競技の強化を掲げた。
インドは2036年夏季五輪の招致をめざす。インド陸上連盟の副会長になったジョージは2023年のアジア大会の時、「予算は決まっていないし、上限はない。選手に必要な支援を全てする。2036年に私たちはスポーツ超大国になっているはずだ」と強気に語った。
インドの台頭に国際オリンピック委員会(IOC)も関心を示す。2023年10月、インド・ムンバイで開かれたIOC総会では、2028年ロサンゼルス大会でのクリケット採用が決まった。
クリケットが五輪競技になることで、インド国内向けのテレビ放映権料をつり上げる材料になる。先進国では放映権料の頭打ちが心配される中、IOCの懐を潤す、新たな鉱脈としても期待されている。