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ミシュランで星を取ったタコス屋台 値段は高めでも地元で愛され積み重ねた60年:朝日新聞GLOBE+
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ミシュランでほしったタコス屋台やたい 値段ねだんたかめでも地元じもとあいされかさねた60ねん

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初のメキシコ版ミシュランで、多くの高級レストランとともに星を獲得したタコスの屋台「エル・カリファ・デ・レオン」で20年間、肉のグリルを担当しているアルトゥーロ・リベラ・マルティネス
はつのメキシコばんミシュランで、おおくの高級こうきゅうレストランとともにほし獲得かくとくしたタコスの屋台やたい「エル・カリファ・デ・レオン」で20年間ねんかんにくのグリルを担当たんとうしているアルトゥーロ・リベラ・マルティネス=2024ねん5がつ22にち、メキシコ、Luis Antonio Rojas/©The New York Times

メキシコの首都しゅとメキシコにある「Taquería El Califa de León(タケリア〈屋台やたい〉・エル・カリファ・デ・レオン)」は、市内しないに1まん1せんけんちかくもある登録とうろくタコスてんひとつにぎなかった(登録とうろくてん間違まちがいなくもっとおおい)。

創業そうぎょう60ねんちかくの人気にんきてんで、とくにこの地域ちいき活動かつどう拠点きょてんとする政治せいじたちがよくっていた。しかし、あくまで地元じもと名店めいてんとでもいうべきタコスの屋台やたいだった。

店内てんないせまく、きゃくってつしかない。支払しはらいは現金げんきんのみ。メニューは牛肉ぎゅうにく3とおりと豚肉ぶたにくけい4種類しゅるいのタコスだけだ。にくねつ強烈きょうれつあつい。

そんなみせのありさまが、2024ねん5がつ14にち一変いっぺんした。高級こうきゅう料理りょうりてんなどの評価ひょうかでは世界せかいもっとみとめられているミシュランガイドが、そのメキシコばんはじめて発表はっぴょうしただ。

メキシコ国内こくないほし1つ以上いじょうあたえられたのは18けんあった(訳注やくちゅうほし1つが16けんほし2つが2けん)。しかし、屋台やたいはエル・カリファ・デ・レオンだけだった(世界せかいてきには、ほしをもらった屋台やたいはいくつかある)。

以来いらいみせはめちゃくちゃいそがしくなった。10ふんだった時間じかんは、ながいと3あいだに。近所きんじょみせが、行列ぎょうれつをつくるひとたちにいすをすようにもなった。きゃくをさばくのに従業じゅうぎょういんやした。

ミシュランの星を獲得したタコスの屋台「エル・カリファ・デ・レオン」がある一角は、順番待ちの人びとが路上に列をなす
ミシュランのほし獲得かくとくしたタコスの屋台やたい「エル・カリファ・デ・レオン」がある一角いっかくは、順番じゅんばんちのひとびとが路上ろじょうれつをなす=2024ねん5がつ22にち、メキシコ、Luis Antonio Rojas/©The New York Times

世界中せかいじゅうから観光かんこうきゃくせ、料理りょうりをしている写真しゃしんをひっきりなしにるようになった。屋台やたい店主てんしゅマリオ・エルナンデス・アロンソ(66)(以下いかエルナンデス)によると、げは倍増ばいぞうした。

本当ほんとうにすばらしいね」とアルトゥーロ・リベラ・マルティネス(56)(以下いかリベラ)はわらった。このみせにく担当たんとうになってもう20ねんになる。

もちろんタコスはメキシコ料理りょうり象徴しょうちょうする一品いっぴんであり、とくに人口じんこう2300まん首都しゅとではそのかんつよい。街角まちかどごとにタコスてんひとつはあるようにおもえる。

それぞれのひとに、それぞれのひいきの屋台やたいがある。自分じぶん近所きんじょ屋台やたい職場しょくばちか屋台やたい、みんなが大好だいすきなぶた串焼くしやきスライスのタコス(訳注やくちゅう=メキシコなどが発祥はっしょうとされる)を屋台やたい、24あいだ営業えいぎょう屋台やたい……。

「タコスは、メキシコでは――というか、あえていわせてもらえば、国中くになか宗教しゅうきょうにもひとしくなっている」とロドルフォ・バレンティノ(31)は表現ひょうげんする。エルカリファ・デ・レオンのとなり洋服ようふくてん一家いっか経営けいえいし、ミシュランのほしってきてからの周辺しゅうへんわりぶりをつぶさにてきた。「だから、ここのタコスがみとめられたってことは重要じゅうようなんだ」

「メキシコの屋台やたいにミシュランのほしあたえられたことは、テーブルクロスをかけたテーブルがならび、有名ゆうめいなシェフがいるようなしっかりした店構みせがまえのさい高級こうきゅうみせてなくても、だれにでもチャンスがあることをしめしている」と店主てんしゅのエルナンデスはいう。そして、「ミシュランにえらばれるようなちゃんとしたレストランより、タコスをうんとやすたのしめる」といいえた。

とはいえ、エル・カリファ・デ・レオンのタコスの値段ねだんは、ほかの屋台やたいくらべればかなりたかい。普通ふつうなら、うんとやすければ60セント(1ドル=157えん換算かんさんで94えんあまり)でむが、エルナンデスがるタコスはもっとやすいもの(ステーキ)でやく3ドル(471えん)もする。もっとたかいポークチョップ、もしくはうしのバラにくだと、5ドル(785えん)にもなる。

ただし、にくおおきなこぶしほどもあり、品質ひんしつもより上等じょうとうだとエルナンデスは強調きょうちょうし、きゃく何人なんにんかもこれに同意どういする。「もし、これが本当ほんとうでなかったら、自分じぶん両手りょうてであぶってもいいよ」とまでいいった。

エルナンデスは、闘牛とうぎゅう世界せかいにかかわりながら肉屋にくやをしていた父親ちちおやからにく複雑ふくざつさをおそわった。そのえんで、闘牛とうぎゅう牧場ぼくじょうぬしともしたしくなった。

両親りょうしんはメキシコでレストランをひらいたあと、1968ねんにこのタコス屋台やたいはじめた。

店名てんめいは、有名ゆうめいなメキシコじん闘牛とうぎゅうロドルフォ・ガオナ(訳注やくちゅう=1905ねんから20ねんほど、おもにスペイン・マドリードで活躍かつやく。1975ねんにメキシコ死去しきょ)に由来ゆらいしている。その愛称あいしょうが、出生しゅっしょうのメキシコ中部ちゅうぶ都市としめいかんした「エル・カリファ・デ・レオン(レオンのカリフ)」だった(訳注やくちゅう=「カリフ」はイスラム教いすらむきょう最高さいこう指導しどうしゃ称号しょうごう。スペインがあるイベリア半島はんとうにはイスラム王国おうこく中世ちゅうせいにあった)。そして、ガオナはエルナンデスの父親ちちおやしたしかった。

エルナンデスによると、この屋台やたい代名詞だいめいしともいえるタコス「gaonera(ガオネラ)」は、父親ちちおやがガオナのためにうすいヒレステーキを用意よういしたことにちなんだメニューだという。

父親ちちおや調理ちょうりほうは、そんじょそこらのタコスてんとはちょっとちがった。にくいているときにあぶらをかけるのではなく、さきにラードにんでいた。それに、わってからではなく、きながらライムのしるをタップリとかけ、しおっていた。いまでも、にくはすべてそうして調理ちょうりしているとエルナンデスははなす。

でき上がった「エル・カリファ・デ・レオン」のタコス料理。ライムの汁がたっぷりとかかっている
できがった「エル・カリファ・デ・レオン」のタコス料理りょうり。ライムのしるがたっぷりとかかっている=2024ねん5がつ22にち、メキシコ、Luis Antonio Rojas/©The New York Times

このガオネラタコスについて、ミシュランガイドは「ほかにれいないほどすばらしい」とし、「達人たつじん料理りょうりそのものだ」とたたえている。これときたてのコーントルティーヤとのわせが、「完全かんぜん無欠むけつ」と評価ひょうかする。

「このレベルのにくとトルティーヤ」があれば、自家製じかせいのサルサソースは「ほとんど不要ふようになる」とミシュランはつづける。それでも、きゃくあお唐辛子とうがらし(セラーノ・ペッパー)やあか唐辛子とうがらし(パシーヤ、ワヒーヨ、アルボルなどの種類しゅるいがある)の調味ちょうみりょうばす。

にくのグリル担当たんとうのリベラは、ミシュランのほしなんたるかはらなかった。そこにこのガイドブックの出版しゅっぱんもと関係かんけいしゃがやってきて、うれしいらせとともにメキシコひらかれる記念きねん式典しきてんへの招待しょうたいつたえてくれた。

リベラは正式せいしき調理ちょうりしょく文化ぶんかまなんだことはなかった。そもそも、このエル・カリファ・デ・レオンのグリル担当たんとうはじめての調理ちょうり仕事しごとだった。にもかかわらず、ミシュランのほし獲得かくとくした料理人りょうりにんおくられるしろいシェフコートをにすることができた。いまではきゃくからりに一緒いっしょおさまるようせがまれ、にくくときは畏敬いけい(いけい)の視線しせんそそがれる。

「そりゃあ、気分きぶんはいいよ。こんなに評価ひょうかされたことなんてなかったんだから」とみをもらす。「『シェフ』ってレストランにいるもんだけど、自分じぶんはここではたらいていて、それをとてもほこりにおもっている」とリベラ。それにしてもミシュランのほしは「しんじられないほどすごい。つまるところ、ここは屋台やたいでタコスもきわめてシンプルなのに、こんな栄誉えいよられたんだから」とまるくしてみせた。

ミシュランの星を獲得したタコスの屋台「エル・カリファ・デ・レオン」で肉を焼く「シェフ」のアルトゥーロ・リベラ・マルティネス(左)には、店の外からもカメラが向けられる
ミシュランのほし獲得かくとくしたタコスの屋台やたい「エル・カリファ・デ・レオン」でにくく「シェフ」のアルトゥーロ・リベラ・マルティネス(ひだり)には、みせそとからもカメラがけられる=2024ねん5がつ22にち、メキシコ、Luis Antonio Rojas/©The New York Times

一方いっぽう一部いちぶ批評ひひょうは、もっと人気にんきみせもあるのに、なぜこの屋台やたいほしをもらえたのか、とくびをかしげた。食事しょくじについてのレビューをしているSNSインフルエンサーの一人ひとりは、「値段ねだんがめちゃたかい。それに、てくるにくだってかみれないし、味気あじけない」と酷評こくひょうした。

でも、ほかのおおくのきゃくことなる印象いんしょうっている。もしくは、すくなくともべてみようと行列ぎょうれつならぶ。

「ここは、伝説でんせつてき屋台やたいになるね」とメキシコむマウリシオ・アルバ(58)はいった。ミシュランの発表はっぴょうをオンラインのなま中継ちゅうけいて、このみせくことをめていた。数日すうじつまえに、友人ゆうじん一緒いっしょならぶこと2あいだ。「あじって複雑ふくざつで、きかきらいかはかれる。でも、理由りゆうがあってこうして評価ひょうかされたんだから、ここにておいをねてスタッフを応援おうえんする価値かちがあるよ」

屋台やたいまえせま歩道ほどうは、ひとがビッシリとめかけ、活気かっきちていた。こんなに大勢おおぜいになると、営業えいぎょう妨害ぼうがいだと苦情くじょうもうててくる近隣きんりんみせもある。

しかし、この環境かんきょう変化へんかれたみせおおい。順番じゅんばんちの行列ぎょうれつ相手あいてにしたもの商売しょうばい屋台やたいとなりにあるバレンティノ一家いっか洋服ようふくてんは、男物おとこもの下着したぎやシャツ、マネキンのあいだにいくつかテーブルせきもうけてタコスをべさせている。

隣にあるバレンティノ一家の洋服店に設けられたテーブル席では、中米ニカラグアからの観光客がタコスに舌鼓を打っていた
屋台やたい「エル・カリファ・デ・レオン」がミシュランのほし獲得かくとくしたのち急増きゅうぞうしたきゃくに、近隣きんりんみせ対応たいおうせまられた。となりにあるバレンティノ一家いっか洋服ようふくてんもうけられたテーブルせきでは、ちゅうべいニカラグアからの観光かんこうきゃくがタコスに舌鼓したつづみっていた=2024ねん5がつ22にち、メキシコ、Luis Antonio Rojas/©The New York Times

アイリーン・ソスニッキ(38)とエリカ・マホン(39)は2024ねん5がつ下旬げじゅんべいシカゴから空路くうろやってくると、この屋台やたいて75ふんった。二人ふたりまえにメキシコおとずれたときに、やはりミシュランのほしった高級こうきゅう料理りょうりてんなんけんかで食事しょくじをしている。でも、ほしがついたタコスの屋台やたいがあるとって、ぜひともためしたくなった。

「まあ、話半分はなしはんぶんってところだろうか」とマホン。「べてみての感想かんそうって、さまざまなレベルがある。このタコス屋台やたいでは独自どくじ体験たいけんができるし、独特どくとく雰囲気ふんいきがある。レストランの体験たいけんはここのとはまたちがう。どちらがいいとかわるいとかはないけど、ひとそれぞれに一家言いっかげんがあるかもしれない」

行列ぎょうれつ国際こくさいしょくゆたかだった。欧州おうしゅうからは英国えいこくやドイツのひとがいた。中米ちゅうべいカリブ海かりぶかいからはニカラグアやホンジュラス、ドミニカ共和国どみにかきょうわこくひとていた。(抄訳しょうやく敬称けいしょうりゃく

(James Wagner)©2024 The New York Times

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