インド西部 せいぶ のマハラシュトラ州 しゅう 。州都 しゅうと のムンバイから列車 れっしゃ に乗 の り2時 じ 間 あいだ 、さらに車 くるま を2時 じ 間 あいだ 走 はし らせ、繁茂 はんも する木々 きぎ の間 あいだ を行 おこな った道 みち の先 さき にカンド村 むら があった。
村 むら に住 す む主婦 しゅふ のディパリ・クタデさんとジョティ・ゴビンドさんは、今年 ことし 6月 がつ に水 みず の供給 きょうきゅう 設備 せつび が集落 しゅうらく にできるまで、水 みず の確保 かくほ に追 お われる毎日 まいにち だった。家族 かぞく の飲 の み水 みず のため、5リットル入 はい る金属 きんぞく 製 せい ポットを二 ふた つ、時 とき には三 みっ つ、手 て で持 も ち頭 あたま の上 うえ に載 の せ、片道 かたみち 1キロの道 みち のりを水 みず くみ場 じょう まで1日 にち 最低 さいてい 2往復 おうふく しなければならなかった。ここでは水 みず の確保 かくほ は女性 じょせい たちの役割 やくわり だ。
インド全土 ぜんど でも水 みず の問題 もんだい がある。政府 せいふ の2018年 ねん 発表 はっぴょう の統計 とうけい では、全 ぜん 人口 じんこう の約 やく 4割 わり 、約 やく 6億 おく 人 にん が深刻 しんこく な水不足 みずぶそく に直面 ちょくめん しており、全 ぜん 世帯 せたい の75%が自宅 じたく の外 そと で飲 の み水 みず を入手 にゅうしゅ しなければならない。
カンド村 むら に飲料 いんりょう 水 すい の供給 きょうきゅう 設備 せつび を提供 ていきょう したのは、ムンバイを拠点 きょてん に水 みず や農業 のうぎょう 、女性 じょせい や若者 わかもの の支援 しえん を行 おこな うNPOの「ラー財団 ざいだん 」だ。最新 さいしん のフィルター技術 ぎじゅつ で水 みず を濾過 ろか (ろか)し、飲用 いんよう 可能 かのう にした。クタデとゴビンドは語 かた る。「水 みず に追 お いまくられ、疲 つか れ切 き っていた。まずは休 やす みたい」「水 みず くみに使 つか っていた時間 じかん を何 なに に使 つか おうか考 かんが えるのが楽 たの しい」
ラー財団 ざいだん から提供 ていきょう された施設 しせつ で飲料 いんりょう 水 すい を飲 の む女性 じょせい たち=2024年 ねん 7月 がつ 8日 にち 、インド・カンド村 むら 、秋山 あきやま 訓子 くにこ 撮影 さつえい
インドでは家 いえ にトイレがなく、屋外 おくがい で済 す ませることが珍 めずら しくない。「屋外 おくがい で排泄 はいせつ (はいせつ)すれば、流 なが すための水 みず は必要 ひつよう なく、水 みず の節約 せつやく にもなる。だが、そのせいでバクテリアが繁殖 はんしょく し、地下水 ちかすい を汚染 おせん する原因 げんいん になっている」と同 どう 財団 ざいだん の創設 そうせつ 者 しゃ でCEOのサリカ・クルカルニさん。
モディ政権 せいけん は2014年 ねん 、屋外 おくがい での排泄 はいせつ をなくそうとキャンペーンを開始 かいし 。相当 そうとう の効果 こうか を上 あ げたとされるが、まだ屋外 おくがい で排泄 はいせつ する人 ひと は後 ご を絶 た たない。
ラー財団 ざいだん では井戸 いど や浄水 じょうすい フィルターを設置 せっち したほか、村 むら に「委員 いいん 会 かい 」をつくり、水 みず や排泄 はいせつ の問題 もんだい を人 ひと びとが議論 ぎろん するよう促 うなが した。すぐにトイレを大幅 おおはば に増 ふ やすことは難 むずか しいので、飲 の み水 みず を取 と る井戸 いど からは一定 いってい の距離 きょり で「境界 きょうかい 線 せん 」を引 ひ き、その境界 きょうかい 線 せん の内側 うちがわ で排泄 はいせつ することを禁 きん じるルールを作 つく ってもらった。
クルカルニさんはこう意義 いぎ を強調 きょうちょう する。「きれいな水 みず が容易 ようい に手 て に入 はい ることは、特 とく に水 みず くみを担 にな ってきた女性 じょせい たちにとり、重労働 じゅうろうどう からの解放 かいほう 以上 いじょう に意味 いみ がある。自分 じぶん たちを『水 みず くみ女 おんな 』としての価値 かち しかないと思 おも ってしまっていたのが、自尊心 じそんしん も回復 かいふく されたのです」
クルカルニさんはもともと大学 だいがく でビジネスを教 おし えていた。2001年 ねん にIT企業 きぎょう を創業 そうぎょう し、順調 じゅんちょう に業績 ぎょうせき を伸 の ばしてきた。夫 おっと のギリシュさんも金融 きんゆう や投資 とうし の世界 せかい で成功 せいこう している。
なぜ財団 ざいだん をつくったのか。「会社 かいしゃ で10人 にん を雇 やと うことにしたとき、貧困 ひんこん のために学校 がっこう を中退 ちゅうたい し、収入 しゅうにゅう の良 よ い仕事 しごと に就 つ けない若者 わかもの に来 き てもらうのはどうかと思 おも いついた」。試 ため しにそうした若者 わかもの を半年 はんとし 間 あいだ 、雇 やと うことに決 き めた。彼 かれ らを前 まえ に「あなたたちにとって良 よ い機会 きかい だ。人生 じんせい を変 か えられるかも知 し れない」と話 はな した。
彼 かれ らの半年 はんとし 間 あいだ の変化 へんか は「目 め をみはるものだった」という。全員 ぜんいん がこの機会 きかい を生 い かそうと頑張 がんば り、半年 はんとし 後 ご には本 ほん 採用 さいよう に至 いた った。クルカルニさんはそのとき思 おも ったのだった。「彼 かれ らに機会 きかい を与 あた え、手 て をとって教 おし え、背中 せなか を押 お せば、やる気 き が出 で る。地域 ちいき のロールモデルにもなれる。私 わたし たちは恵 めぐ まれているが、単 たん にお金 かね を稼 かせ ぐ以上 いじょう のことをしたい。社会 しゃかい に恩返 おんがえ しをしたい」
そこから財団 ざいだん 設立 せつりつ の準備 じゅんび を始 はじ め、会社 かいしゃ を売却 ばいきゃく して夫 おっと と2011年 ねん に財団 ざいだん を設立 せつりつ 。彼女 かのじょ は財団 ざいだん 運営 うんえい に専念 せんねん し、夫 おっと は側面 そくめん 支援 しえん しつつ投資 とうし の仕事 しごと を続 つづ けている。まずは地域 ちいき や人 ひと びとは何 なに を必要 ひつよう とし、どんな支援 しえん ができるか調査 ちょうさ 。ビジネスとは違 ちが う非 ひ 営利 えいり の活動 かつどう で、成果 せいか を出 だ す方法 ほうほう を米国 べいこく の大学 だいがく でも学 まな んだ。支援 しえん の実施 じっし に注力 ちゅうりょく し始 はじ めたのはこの3、4年 ねん だ。
ラー財団 ざいだん では、若者 わかもの にスキルトレーニングをして就職 しゅうしょく をめざすプログラムも提供 ていきょう している=2024年 ねん 7月 がつ 7日 にち 、インド・ペン郡 ぐん 、秋山 あきやま 訓子 くにこ 撮影 さつえい
今年度 こんねんど の予算 よさん は1億 おく 1000万 まん ルピー(約 やく 2億 おく 円 えん )。15%を家族 かぞく の資産 しさん から、残 のこ りを各国 かっこく の財団 ざいだん や企業 きぎょう からの寄付 きふ 、政府 せいふ からの資金 しきん などで賄 まかな う。米国 べいこく からも寄付 きふ を募 つの るため、財団 ざいだん のオフィスを置 お く。日本 にっぽん の野村証券 のむらしょうけん も寄付 きふ している。
水 みず のプロジェクトには、事業 じぎょう 予算 よさん のうち2割 わり を割 さ く。ラー財団 ざいだん の特徴 とくちょう は単 たん に物資 ぶっし を提供 ていきょう するのではなく、「機会 きかい 」を与 あた え、支援 しえん される人 ひと びとが「自分 じぶん ごと」として問題 もんだい を主体 しゅたい 的 てき に考 かんが えるようにしていることだ。「慈善 じぜん なき変化 へんか (change without charity)」と呼 よ んでいる。「単 たん なる施 ほどこ しではなく、支援 しえん 対象 たいしょう 者 しゃ にも積極 せっきょく 的 てき に関 かか わってもらう。一度 いちど きりの支援 しえん で元 もと に戻 もど ってしまうのではなく、変化 へんか を持続 じぞく 的 てき にしたい」とクルカルニさんは言 い う。
課題 かだい を抱 かか える人 ひと びとに寄 よ り添 そ いつつ、成果 せいか や「出口 でぐち 」を念頭 ねんとう に置 お いて彼 かれ らの自立 じりつ への道 みち を探 さぐ り、戦略 せんりゃく を練 ね る。時代 じだい に合 あ わせた支援 しえん のやり方 かた だ。そのためにビジネスの手法 しゅほう も用 もち いる。夫 おっと で共同 きょうどう 創業 そうぎょう 者 しゃ のギリシュさんも説明 せつめい する。「小規模 しょうきぼ に実験 じっけん し、修正 しゅうせい を繰 く り返 かえ す。これで成果 せいか が出 で るとなれば本格 ほんかく 的 てき に行 おこな う」
ギリシュさんは、政府 せいふ との役割 やくわり 分担 ぶんたん を「政府 せいふ はインフラを提供 ていきょう する。でも一人 ひとり ひとりにきめ細 こま かく向 む き合 あ いニーズをくみ取 と り、必要 ひつよう なものを提供 ていきょう するのは私 わたし たちNPOのほうが上手 じょうず 」と話 はな す。ラー財団 ざいだん も自治体 じちたい と連携 れんけい し、活動 かつどう 資金 しきん を得 え ている。「地域 ちいき 住民 じゅうみん の信頼 しんらい を得 え るには政府 せいふ の協力 きょうりょく は欠 か かせない」とも言 い う。
自治体 じちたい も彼 かれ らを信頼 しんらい している。財団 ざいだん の活動 かつどう 地域 ちいき の一 ひと つ、同 どう 州 しゅう ナシク県 けん の行政 ぎょうせい 職 しょく トップの執行官 しっこうかん 、アシマ・ミッタルさんは語 かた る。「政府 せいふ はNPOの力 ちから が必要 ひつよう 。インドは巨大 きょだい で、政府 せいふ の資金 しきん や人員 じんいん だけではとても足 た りない」。彼女 かのじょ が現職 げんしょく に就任 しゅうにん する際 さい 、地域 ちいき で活動 かつどう するNPOを集 あつ めて地元 じもと の課題 かだい を議論 ぎろん したという。
ラー財団 ざいだん では女性 じょせい たちに縫 ぬ い物 もの のトレーニングをしている。作 つく った製品 せいひん を手 て に=2024年 ねん 7月 がつ 7日 にち 、インド・ペン郡 ぐん 、秋山 あきやま 訓子 くにこ 撮影 さつえい
とはいえ、NPOだけでは活動 かつどう できる地域 ちいき に限 かぎ りがある。そこで財団 ざいだん では最近 さいきん 、政策 せいさく 提言 ていげん を担当 たんとう する弁護士 べんごし を雇 やと った。クルカルニさんは力 ちから を込 こ める。「私 わたし たちが実行 じっこう している課題 かだい 解決 かいけつ をもっと大々的 だいだいてき に行 おこな うには、制度 せいど や法 ほう といった政策 せいさく にしたほうがいい。今後 こんご は政策 せいさく 提言 ていげん にも力 ちから を入 い れたい」。企業 きぎょう や各国 かっこく の財団 ざいだん から資金 しきん を得 え 、ビジネスの手法 しゅほう も採 と り入 い れて支援 しえん 者 しゃ に寄 よ り添 そ う。政府 せいふ とも連携 れんけい して政策 せいさく 化 か もめざす。ラー財団 ざいだん を核 かく とした社会 しゃかい 変革 へんかく の取 と り組 く みだ。