私たちの体には、年齢とともに体力の低下、目の不調、痛みや不具合など、さまざまな「老化現象」が現れます。この連載では、これらの老化現象を「衰え」ではなく「変化」としてポジティブにとらえ、上手に付き合っていく術を、これまでに延べ10万人以上の高齢者と接してきた眼科専門医の平松類先生が解説します。今回のテーマは「老害」です。
AさんとBさんが職場で愚痴をこぼしています。
Aさん「C部長って最近老害っぽくなってきたよね」
Bさん「そうそう、この前も俺が資料出したらろくに読まないで否定するんだよ」
Aさん「私も、話しかけても無視されたりする」
C部長「2人とも元気にやっているか?」
Aさん・Bさん「はい! 元気にやっています」(オー危ない)
陰で「あの人、老害だよね」と言われる人はどんな人?
老害という言葉は、良い言葉ではありません。年代をひとくくりにして害だ益だと言うこと自体が、世代間の分断をあおることになります。そもそも老害とは「企業や政党などの組織で主要ポストの若返りをすべき時期がきているのに、ベテランが居座ることによってそれができない状態」のことを指していました。そのため一部の人にだけ適用される言葉であったし、社会的に成功していたり、何かしらの恩恵を享受している人を揶揄する言葉でした。しかし、今では感覚が麻痺しそうなぐらい「老害」という言葉が頻繁に使われています。
今、老害がどういう意味で使われているかというと、「他人の意見を聞かずに時代遅れの持論を周囲に押し付ける高圧的な高齢者」という意味合いになってきています。さらに最近では、「若年老害」や「ソフト老害」といって、40代、50代といった年代でも「凝り固まった考えで若い世代を押さえつけている人」や「上に気を配り下の世代をまとめたつもりが、下の世代から老害のように見える人」のことを指す言葉も登場しています。
昨今、「危ない」「すごい」「おいしい」などが、何でもかんでも「ヤバい」という一言で片づけられているように、「老害」という言葉の持つ意味が非常に広くなり、下の世代が不快に思う年長者の振る舞いはすべて「老害」という一言で片づけられようとしています。そのため、本来老害と言えない状況でさえ「あの人老害だよね」と認定されてしまうのです。
老害という言葉が独り歩きするようになった理由
なぜこのように老害という言葉が独り歩きするようになったのか? 「高齢者の問題行動が増えてきているからだ」と思われていますが、そうでもないのです。例えば近年、「高齢者が頻繁に交通事故を起こすようになってきた」と思われています。ニュースではしょっちゅう、「高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えてコンビニエンスストアに突っ込んだ」といった事故が報じられています。しかし交通事故の統計を見ると、実は高齢ドライバーの事故の発生率は大幅に減っています。75歳以上の死亡事故率は2009年に13.0(免許人口10万人あたり)だったものが、2019年には6.9(免許人口10万人あたり)と半分近くになっています(*1)。件数ベースで見ても横ばいで、むしろ減少傾向にあります。
それなのに高齢者の事故が増えたように見える。それは、高齢者の数が増え、結果として社会の関心が高まっているからです。2019年時点の日本の免許保有者数は8216万人で、75歳以上の免許保有者数は583万人に達しています。免許保有者に占める高齢者の割合は年々増加し、若い世代の割合は年々減っています。そのため、全体の事故件数に占める高齢者の事故件数の割合が増えているのです。その結果、事故数は増えていないのにニュースで取り上げられることが増えているというわけです。