「健康Q&A」では、医師や研究者、アスリート、トレーナーなど、健康・医療のエキスパートの方々が月替わりで登場。あなたの疑問やお悩みに答えます。
2023年10月の回答者は、「慢性腎臓病」の予防と治療法に詳しい東北大学名誉教授・山形県立保健医療大学理事長の上月正博先生です。前編では、たんぱく質の摂取に関する質問に答えていただきました。
東北大学名誉教授・山形県立保健医療大学理事長の上月正博先生Q&A
編集部:上月先生は40年以上、慢性腎臓病(CKD)の治療研究に携わってこられました。8月には日経Goodayの特集「『腎臓』を守る食事と運動」にもご登場いただきました。そんな上月先生に向けて読者からの質問を募集したところ、実に多くの質問が寄せられました。質問に対する回答を、3回に分けてお届けします。
上月氏(以下敬称略):今日はよろしくお願いします。
編集部:よろしくお願いします。では、さっそく最初の質問です。
たんぱく質のとり過ぎとは、どのくらいの量のこと?
Q 1
腎機能を保つためには、たんぱく質のとり過ぎに注意しなければいけないとのこと。具体的には、とり過ぎとはどのくらいの量のことを言うのでしょうか。1日、または1食当たりの量など、適量は人によって違うと思うのですが。(71歳男性)
編集部:たんぱく質の摂取量の適量を知りたい、という質問です。たんぱく質は体の重要な構成成分で、酵素やホルモン、神経伝達物質の材料でもあり、ミドルエイジ以降に減少していく筋肉を維持するためにも不足しないようとることが必要です。しかし、慢性的に腎臓機能が低下する「慢性腎臓病」になると、とり過ぎに注意が必要になりますよね。
肉などのたんぱく質は1日にどのくらいまで食べていい?(写真=PIXTA)
上月:そうです。腎臓は日々要らないものを捨て、必要なものを回収するという仕事をしています。なかでもたんぱく質に関しては、たんぱく質がエネルギーとして使われた後に発生する尿素窒素やクレアチニンなどの老廃物を取り除く働きをしています。それだけに、たんぱく質を過剰に摂取する状態が続くと、腎臓の負担が増えてしまうのです。ですから、慢性腎臓病の人はたんぱく質の制限が必要です。
編集部:腎機能がどのくらい低下すると、たんぱく質の制限が必要になってくるのでしょう。
上月:まず「慢性腎臓病」と診断されるのは、下記のような場合です(表)。
慢性腎臓病と診断される場合
- 明らかな腎臓障害
尿たんぱくが0.15(g/gCr)以上、尿アルブミンが30(mg/gCr)以上
画像診断や血液検査、病理所見で腎臓障害が明らかである状態
または
- 腎機能の低下
血清クレアチニン値をもとに推算したeGFRが60(mL/分/1.73m2)未満の状態
が3カ月を超えて持続したとき
上月:慢性腎臓病は、eGFR(イージーエフアール)の値によって、G1からG5まで、6つのステージで進行していきます(図1)。eGFRとは「推算糸球体ろ過量」(estimated Glomerular Filtration Rate; 以下eGFR)のこと。腎機能の指標の一つに1分間にどれくらい血液をろ過して尿をこし出す力があるかを指す「糸球体ろ過量」(GFR)というものがありますが、この算出にはとても厳密な測定を要します。そこで代わりに用いられるのが、血清クレアチニンの値と年齢、性別で算出された「推算糸球体ろ過量」(eGFR)です。日本腎臓学会の公式サイトで自動計算により簡単に調べることができます(日本腎臓学会の「腎機能測定ツール https://jsn.or.jp/general/check/」)。
腎機能が低下したG3a以降は、それ以上の腎機能低下を防ぐために、たんぱく質制限が必要になります。また、G1やG2であっても、尿たんぱくが0.15(g/gCr)以上の状態が3カ月を超えて続く場合などは慢性腎臓病と見なされ、たんぱく質を過剰に摂取しないようにする必要があります。
図1 慢性腎臓病のステージとたんぱく質摂取基準
(データ:日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」などをもとに改変)
編集部:図を見ると、腎機能のステージがG1、G2であれば、「標準体重1kg当たり1.3gを超えない」ことを守れば間違いないと考えていいようですね。