異質いしつな存在そんざいに触ふれるとき、人ひとの本質ほんしつが垣間見かいまみえるのだとしたら、若わかくして将軍しょうぐんになった彼女かのじょは、真まっ先さきに相手あいての身体しんたいそのものを案あんじた。

得体えたいのしれない相手あいてだとしても寒さむいのはいけないと上着うわぎを差さし出だして、その次つぎに出でた言葉ことばは、裸はだかを他人たにんに見みられたのは苦痛くつうであったろうといういたわりだった。

血筋ちすじと願ねがいを世代せだいを超こえて繋つないでいくことがNHKドラマ１０『大奥おおおく』の縦糸たていとならば、人ひとの上うえに立たつ器うつわとはどのようなものかは、横糸よこいとに違ちがいない。

様々さまざまな女将おかみ軍ぐんたちが、希望きぼうと苦悩くのうを抱かかえながら世代せだいを繋つないだ物語ものがたりの中なかで、最後さいごの『女おんな』である将軍しょうぐん・徳川とくがわ家茂いえもち（志田しだ彩あや良りょう）と、そのパートナーである和宮かずのみやの物語ものがたりが始はじまろうとしている。

男おとこだけがかかる伝染でんせん病びょうで、男性だんせいの人口じんこうが極端きょくたんに減へった架空かくうの江戸えど時代じだい。世よの中なかを動うごかしたのは女おんなたちだった。政治せいじを行おこなう将軍しょうぐんもまた女おんなで、大奥おおおくは将軍しょうぐんの夫おっととなる男おとこ達たちが集あつめられた。

苦闘くとうの末すえに伝染でんせん病びょうは克服こくふくされ、人口じんこう比ひが戻もどって再ふたたび男性だんせい中心ちゅうしんの世よの中なかとなりつつある幕末ばくまつ、家茂いえもちはその聡明そうめいさと人格じんかくを見込みこまれ、女おんなでありながら十じゅう四よん代だい将軍しょうぐんとなった。

幕末ばくまつの難局なんきょくを乗のり越こえるため、公家くげから夫おっととなる和宮かずのみやを迎むかえ入いれるものの、やってきたのは和宮かずのみやを名乗なのる男装だんそうした女おんな（岸井きしいゆきの）であった。

シーズン１から続つづいた長ながい男女だんじょ逆転ぎゃくてんの物語ものがたりも、いよいよ最後さいごのクライマックスに入にゅうろうとしている。

やはり今回こんかいの見所みどころは、年とし若わかく将軍しょうぐんとなった家茂いえもちの太陽たいようのような愛情あいじょうと包容ほうよう力りょくだろう。

このドラマの家茂いえもちは広ひろい視野しやと素直すなおな愛情あいじょうを持もち合あわせた人物じんぶつである。

前ぜん将軍しょうぐんの家定いえさだ（愛希あいきれいか）から、開国かいこくについて問とわれた時ときにも「外国がいこくとて武力ぶりょくを振ふるうのは犠牲ぎせいの多おおいことだろう」と意見いけんを述のべ、外国がいこく人じんとて同おなじく人ひとであるというバランス感覚かんかくを感かんじさせた。

早さ逝した家定いえさだもまた、同様どうように聡明そうめいで愛情あいじょう深ふかい女将おかみ軍ぐんだが、彼女かのじょの複雑ふくざつで過酷かこくな生おい立たちが、愛情あいじょう表現ひょうげんをどうしても抑制よくせいされたものにせざるをえなかった。また、そういう分わかりづらさが家定いえさだの魅力みりょくでもあった。

一方いっぽう、家茂いえもちの愛情あいじょうはエネルギーの尽つきない太陽たいようのようだ。万まん人にんにふりそそぎ、心しんを温あたため自然しぜんに開ひらかせる。

今回こんかい、原作げんさくになくドラマで加くわえられた要素ようそで特とくに印象いんしょう的てきだったのは、上洛じょうらく前まえ、寝室しんしつで家茂いえもちが和宮かずのみやに語かたりかける言葉ことばだった。

この場面ばめんの会話かいわ自体じたいは原作げんさくに沿そっているが、『光ひかり』という単語たんごはドラマの脚本きゃくほん特有とくゆうのものである。

それは和宮かずのみやの孤独こどくな魂たましいが、家茂いえもちの放はなつ不滅ふめつの光ひかりに呼応こおうして月つきのように美うつくしく輝かがやきはじめる瞬間しゅんかんを捉とらえた言葉ことばだったと思おもう。

美うつくしいものに触ふれることで、初はじめてその実体じったいを知しり、自分じぶんもまたそうありたいと自然しぜんに願ねがうように、和宮かずのみやは家茂いえもちとのやりとりの中なかで、初はじめて将軍しょうぐんの配偶はいぐう者しゃとしての自分じぶんの運命うんめいと義務ぎむに思おもいを馳はせる。

総そう触ふれに供きょうを連つれずに一人ひとりで現あらわれ、家茂いえもちに付つき従したがう和宮かずのみやの姿すがたは清々すがすがしく美うつくしかった。

そして互たがいに視線しせんを見交みかわす家茂いえもちと和宮かずのみやの微笑ほほえみは年とし相応そうおうの少女しょうじょめいて、どこか悪戯いたずらっぽく、その愛あいおしさに胸むねつかれる思おもいだった。

万まん人にんを照てらす太陽たいようのような女将おかみ軍ぐんを志田しだ彩あや良りょうが初々ういういしく真まっ直すぐに演えんじ、そして中性ちゅうせい的てきで、厭世えんせい的てきで、孤独こどくで、しかし心しんに愛情あいじょう深ふかさを秘ひめた和宮かずのみやという難役なんやくを、岸井きしいゆきのが見事みごとに演えんじている。

口くちを開あけば皮肉ひにくばかりを言いうけれど、どこか妖精ようせいのような和宮かずのみやの立たち居振いふる舞まいには嫌いやな苦にがみが残のこらない。

岸井きしいゆきのと言いえば、NHKの連続れんぞくテレビ小説しょうせつ『まんぷく』（２０１８年ねん）でヒロインの姪めいを、同おなじくNHKの『恋こいせぬふたり』（２０２２年ねん）ではアセクシュアルのヒロインをと、どちらかと言いえば無垢むくで明あかるい役柄やくがらが印象いんしょうにあったが、今回こんかいは陰かげのある役やくも見事みごとに演えんじている。

改あらためて今いま作さくの、俳優はいゆうの既存きそんのイメージを塗ぬり替かえ、新あたらしい魅力みりょくを次々つぎつぎと引ひき出だしていく脚本きゃくほんと演出えんしゅつの腕うでに拍手はくしゅを贈おくりたい。

心しんが通つうじ合あい、穏おだやかな日々ひびを送おくるかに見みえた家茂いえもちと和宮かずのみやだが、家茂いえもちの上洛じょうらくが二に人にんに暗くらい影かげを落おとそうとしている。

幕末ばくまつから明治維新めいじいしんに向むかう激流げきりゅうは、二人ふたりの女おんなと大奥おおおくの面々めんめんをどこに連つれていくのだろうか。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]