吉元よしもと由美ゆみの『ひと・もの・こと』

『罰ばち』（ばち）と『お天道様てんとさま』

言葉ことばの使つかい方かたは、オセロのチップのようなもの。同おなじことを伝つたえるのにも、表現ひょうげんの仕方しかたでその言葉ことばにこもっている温度おんど、エネルギーはガラッと変かわってしまいます。

例たとえば、子こどもが何なにかいたずら、悪わるいことをしたとします。そのときに、

と注意ちゅういするのと、

と注意ちゅういするのとではどうでしょうか。言いわれた子こどもはどのように受うけ止とめるでしょう？

「罰ばっ（ばち）が当あたる」と言いわれた子こどもには、おそらく恐怖きょうふが植うえつけられます。罰ばちが当あたったらどうしよう。どんな罰ばっが当あたるのだろう。

それが抑止よくし力りょくになるのかもしれませんが、そこにはネガティブなエネルギーがあります。

一方いっぽう「お天道様てんとさまが見みているよ」は、単たんに諫める言葉ことばではありません。太陽たいようのことを『お天道様てんとさま』と呼よぶところに、重要じゅうような意味いみがあります。

日本人にっぽんじんにとって太陽たいようは天てん照あきら大神だいじんにつながります。日本人にっぽんじんは八はち百ひゃく万まんの神かみ、森羅万象しんらばんしょうの中なかに神かみを見出みいだし、その恩恵おんけいに感謝かんしゃしながら生いきてきました。

お天道様てんとさま、つまり神様かみさまが見みているのですから、悪わるいことをせず、良よいことをしようと思おもうようになるのです。

「お天道様てんとさまは見みている」は、ポジティブで、人生じんせいをより良よい方向ほうこうへ導みちびく創造そうぞう的てきな言葉ことばであり、精神せいしんなのです。

もののい方いかたというのは、とても繊細せんさいです。このように、同おなじようなことを言いうにも表現ひょうげんの違ちがいによって、まったく印象いんしょうが変かわってしまう。

ですから、まずは言葉ことばの意味いみをしっかりと理解りかいすること、そして想像そうぞう力りょくが大切たいせつなのです。多おおくの言葉ことばに触ふれる。本ほんを読よむ。言葉ことばに触ふれる多おおくの体験たいけんをする。

そして、こんなことを言いわれたら、相手あいてはどう思おもうだろうかと、自分じぶんの言葉ことばの正確せいかく性せいや影響えいきょう力りょくについて想像そうぞうをめぐらせる。そこに思おもいやりが生うまれます。

言葉ことばはその人ひとを表あらわします。言葉ことば遣づかいの良よい悪わるいではなく、どんな言葉ことば遣づかいであれ、そこにあたたかい気持きもちがあるかどうかです。

言葉ことばのあたたかさと同おなじくらい、正確せいかく性せいも大切たいせつなのです。それとともに、ひとつひとつの言葉ことばにこもっているエネルギーを感かんじてみましょう。

「罰ばっが当あたる」と「お天道様てんとさまが見みている」同おなじようなことを伝つたえながら、言葉ことばの温度おんども方向ほうこう性せいもまったく違ちがう。これも日本語にほんごの奥深おくふかさであり、ユニークなところなのかもしれません。

言葉ことばは自分じぶんを語かたる。そんなユニークさも正確せいかくに表現ひょうげんしたいものです。

※記事きじ中ちゅうの写真しゃしんはすべてイメージ

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[文ぶん・構成こうせい／吉元よしもと由美ゆみ]