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グラフィックノベル - Wikipedia

グラフィックノベル (Graphic novel) は、通常つうじょうなが複雑ふくざつなストーリーをそなえた、しばしば大人おとな読者どくしゃ対象たいしょうとされる、あつ形式けいしきアメリカン・コミック用語ようごである。グラフィックノベルは、オリジナル長編ちょうへん場合ばあいや、オリジナル短編たんぺんしゅう場合ばあい過去かこ発行はっこうされたアメリカン・コミックの一連いちれん物語ものがたりさい収録しゅうろくしたいちさつほん場合ばあいがある。フランスでは、はんがたがややちいさくてページすうおおく、シリーズものでない単独たんどく作品さくひんで、文学ぶんがくてきであることを目指めざすようなものを[1]

欧米おうべいにおいては、読者どくしゃ年齢ねんれい小学生しょうがくせい程度ていどのグラフィックノベルも存在そんざいする。イジメ聴覚ちょうかく障害しょうがい自閉症じへいしょうなどの障害しょうがい友達ともだち関係かんけい初恋はつこいなど、題材だいざい多岐たきにわたる。アメリカでは、学校がっこう図書館としょかんにもグラフィックノベルがかれることがある。一方いっぽう日本にっぽんでは児童じどうけグラフィックノベルが(コミックスではなく)児童じどうしょあつかいで翻訳ほんやく出版しゅっぱんされることがある[2]

概要がいよう

編集へんしゅう

「グラフィックノベル」という用語ようご厳密げんみつ定義ていぎすることはできない。しばしば、この用語ようご論争ろんそうにおいて、グラフィックノベルとそれ以外いがいのアメリカン・コミックの芸術げいじゅつてき性質せいしつたいする、主観しゅかんてき相違そうい暗示あんじする目的もくてき使用しようされる。一般いっぱんてきに「グラフィックノベル」という用語ようごは、「コミックス」や「コミック・ブック」という用語ようご内包ないほうされる子供こどもけのユーモラスな作品さくひんぐんから、伝統でんとうてきなアメリカン・コミックよりもシリアスであり、大人おとなけであり、あるいは文学ぶんがくてきである作品さくひんぐんを、あん峻別しゅんべつするために使用しようされる。この区分くぶんは、大衆たいしゅう娯楽ごらくにおけるコミック作品さくひんからファインアート形式けいしきのコミック作品さくひん峻別しゅんべつするために、美術びじゅつ研究けんきゅうしゃやファインアート作家さっかにより使つかわれているフランスの大人おとな漫画まんがバンド・デシネ」 (Bande Dessinée) と、同様どうよう理由りゆうもちいられている。

出版しゅっぱん業界ぎょうかいにおいては、もしコミック以外いがいのメディアで販売はんばいされたならば、「ノベル(長編ちょうへん小説しょうせつ)」とはなされないような出版しゅっぱんぶつたいしても、この用語ようごときおり拡張かくちょうされる。連続れんぞくしたストーリーを形成けいせいしないアメリカン・コミックのコレクションや、ゆるやかに関連かんれんしたエピソードの断片だんぺんからアンソロジーやコレクション、さらに「グラフィックノベル」として図書館としょかん一般いっぱん書店しょてんならべられるノンフィクション作品さくひんなどが、これにふくまれる(最後さいごれいは、ドラマティックなストーリーが「コミック(滑稽こっけい)」にふくまれている状況じょうきょうている)。

日本にっぽん漫画まんががグラフィックノベルにふくまれるかかという議論ぎろんたいしては、決着けっちゃくけられていない。ただし、アメリカを中心ちゅうしんとした英語えいごけんでは、日本にっぽん漫画まんが単行本たんこうぼん英訳えいやくばんをグラフィックノベルとんでいる。同様どうようにヨーロッパにおいては、19世紀せいきわりから「アルバム」 (album) とばれるハードカバーで装丁そうていされたコマ漫画まんがのコレクションが出版しゅっぱんされている(エルジェの『タンタン』やメビウスの『ブルーベリー英語えいごばん』などのベルギーの漫画まんがや、ユーゴ・プラットの『コルト・マルテーズ』などのイタリアの漫画まんががこれにふくまれる)。

長編ちょうへん小説しょうせつ同様どうよう出版しゅっぱん形態けいたいと、大人おとな読者どくしゃ対象たいしょうにした制作せいさくぶつというりょうてんにおいて、漫画まんがはグラフィック・ノベルよりなが歴史れきしゆうしている。「グラフィックノベル」という用語ようご初出しょしゅつは1964ねんだが、コミックス作家さっか自作じさく適用てきようしたのは、1978ねん出版しゅっぱんされたウィル・アイズナートレード・ペーパーバックはんア・コントラクト・ウィズ・ゴッドかみとの契約けいやく)』が最初さいしょ[3]、その表紙ひょうしあらわれたことにより、一般いっぱんひろまった(ただし、このほんはハードカバーではなかった)。このたん編集へんしゅうは、現実げんじつなかきる一般いっぱん人々ひとびと生活せいかつ題材だいざいった、複雑ふくざつ大人おとなけの作品さくひんであり、「グラフィックノベル」という用語ようごは、伝統でんとうてきなアメリカン・コミックの物語ものがたり媒体ばいたい使用しようしつつも、それらとの区別くべつ意図いとしてもちいられた。これにより、あたらしい出版しゅっぱん用語ようごと、ペーパーバックとはことなるカテゴリーがとも確立かくりつされた。

アイズナーはこの作品さくひん着想ちゃくそうみなもととして、1930年代ねんだい木版もくはんのみによる文字もじのない小説しょうせつワードレスノベル)を出版しゅっぱんした、挿絵さしえ画家がかリンド・ウォード作品さくひんぐん引用いんようしている。ベルギーの芸術げいじゅつフランス・マセレールは、1926ねんにはすでに早期そうきのグラフィックノベル形式けいしきである『Mon Livre d'Heures』を出版しゅっぱんしていた(この作品さくひんは1985ねんに、『Passionate Journey: A Novel in 165 Woodcuts』としてさい出版しゅっぱんされた。ISBN 0-87286-174-0)。

『ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド』の批評ひひょうめんおよ商業しょうぎょうめんでの成功せいこうは、用語ようご「グラフィックノベル」が一般いっぱんてき用法ようほうとして確立かくりつされるのに貢献こうけんした。おおくの資料しりょうは、アイズナーをこの用語ようご最初さいしょ使用しようしゃひょうしているが、実際じっさいにはこの用語ようごはすでに1964ねん11月のコミック・アマチュア・プレス・アライアンスの会報かいほう『CAPA-ALPHA』#2と、1966ねん春季しゅんきの『Fantasy Illustrated』#5で、リチャード・カイルにより使用しようされていた。

1976ねんには、グラフィック・ノベルという用語ようごべつの3作品さくひんあらわれた。ロバート・E・ハワード原作げんさくもとづくリチャード・コーバンによる『Bloodstar』の表紙ひょうし使つかわれた。1967ねんから72ねんわた連載れんさいされたジョージ・メッツガーのアンダーグラウンド・コミック『Beyond Time and Again』は、48ページのモノクロ作品さくひんとしてカイル&ウェアリーから単行本たんこうぼん出版しゅっぱんされたさいに、内表うちおもてに「A Graphic Novel」と銘打めいうたれていた。そして、ジム・ステランコによる『Chandler: Red Tide』(1976ねん)の、ニューススタンド販売はんばいよう印刷いんさつされたダイジェストばんでは、「graphic novel」という用語ようご序文じょぶんに、「a visual novel」という用語ようご表紙ひょうし使つかわれた(ただし、『Chandler』は一般いっぱんてきにはコミック作品さくひんよりも、挿絵さしえ小説しょうせつなされている)。

この用語ようご普及ふきゅうして以降いこう、「グラフィックノベル」という用語ようご使つかわれていなかった過去かこ作品さくひんにも、この用語ようご遡及そきゅうして適用てきようされている。これらのグラフィック・ノベルの原型げんけいれいとしては、ハードカバーで出版しゅっぱんされたミルト・グロスのサイレント漫画まんが『He Done Her Wrong』(1930ねん)や、ギル・ケインとアーチー・グッドウィンにより自費じひ出版しゅっぱんされた40ページの雑誌ざっし形式けいしき長編ちょうへん漫画まんが『His Name is... Savage』(1968ねん)がふくまれる(1968ねんには、マーベル・コミックが『The Spectacular Spider-Man』の上下じょうげまきを、同様どうよう雑誌ざっし形式けいしき出版しゅっぱんしている)。

バンタムから出版しゅっぱんされたSFかつけん魔法まほうもの作品さくひんである、ケインとグッドウィンのべつ作品さくひん『Blackmark』(1971ねん)は、本来ほんらいはグラフィックノベルとはばれていなかったが、30周年しゅうねん記念きねんばん裏表紙うらびょうし宣伝せんでんぶんにおいて、「アメリカ最初さいしょのグラフィックノベル」と銘打めいうたれた。この惹句の真偽しんぎはさておくとしても、『Blackmark』は一般いっぱん書籍しょせき形態けいたい出版しゅっぱんされ、キャプションとフキダシをそなえた、アメリカン・コミック形式けいしきの244ページの物語ものがたりであり、さらにこの形式けいしきのためにかんがされた、オリジナルのヒロイック・アドベンチャーの登場とうじょう人物じんぶつともな最初さいしょ作品さくひんであった。

この用語ようご発展はってんかんするそのれいとして、ドン・マクレガーさく/ポール・グレイシー『Sabre: Slow Fade of an Endangered Species』(イクリプス・コミック、1978ねん10がつ)がげられる。『ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド』とおながつ出版しゅっぱんされたこの作品さくひんは、「グラフィック・アルバム(graphic album)」として宣伝せんでんされた。この「アルバム」という用語ようごは、『タンタンソビエトへ』(1930ねん)のようなコマ漫画まんが単行本たんこうぼんたいし、ヨーロッパけい出版しゅっぱんしゃ使用しようしていた用語ようご借用しゃくようしたものであること注記ちゅうきしておく。

芸術げいじゅつ運動うんどう

編集へんしゅう

作画さくがエディ・キャンベルは、より芸術げいじゅつてきなグラフィックノベルの生産せいさん意図いとした2004ねん宣言せんげんはっし、この用語ようごはこの芸術げいじゅつ運動うんどう記述きじゅつするのにもちいられるようになった。この運動うんどうのメンバーは、「グラフィックノベリスト」としてられている。

キャンベルはグラフィックノベル運動うんどうしゅ目的もくてきを、「足枷あしかせであるコミックという形式けいしきりながら、コミック形式けいしきをより意欲いよくてきかつ有意義ゆういぎ水準すいじゅんまでげること」と定義ていぎしている。キャンベルはこの運動うんどうを、おおくの先行せんこう作品さくひんとくにリンド・ウォードの作品さくひん代表だいひょうされる木版もくはん)からみちびかれたものとしてとらえているが、この運動うんどうをそれらの先行せんこう作品さくひんにまで適用てきようすることはのぞんでいない。さらに、キャンベルは「グラフィックノベル」という用語ようごを、かく作品さくひん市場いちばにおける目的もくてきにかかわらず、任意にんい作品さくひんたいして客観きゃっかんてき適用てきようできるという概念がいねん否定ひていしている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 「グローバル時代じだいにおける、国際こくさいてきマンガ研究けんきゅうへの挑戦ちょうせんティエリ・グルンステン、京都精華大学きょうとせいかだいがく国際こくさいマンガ研究けんきゅうセンター「国際こくさいマンガ研究けんきゅう1 世界せかいのコミックスとコミックスの世界せかい グローバルなマンガ研究けんきゅう可能かのうせいひらくために」2010ねん
  2. ^ だい5かい 全米ぜんべい人気にんきナンバーワンの子供こどもけグラフィックノベル―デイブ・ピルキー『ドッグマン』、マンバ、2019ねん8がつ1にち
  3. ^ 「コミックスの文化ぶんかてき認知にんち学術がくじゅつ研究けんきゅう関係かんけいについて」森田もりた直子なおこ、『世界せかいのコミックスとコミックスの世界せかい――グローバルなマンガ研究けんきゅう可能かのうせいひらくために』ジャクリーヌ・ベルントへん 京都精華大学きょうとせいかだいがく国際こくさいマンガ研究けんきゅうセンター、2010ねん

関連かんれん項目こうもく

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