ケイローン

ケイローン（古希こき: Χείρων KY-rən（発音はつおん記号きごう：[ˈkaɪrən]）は、ギリシア神話しんわに登場とうじょうするケンタウロス族ぞくの賢者けんじゃ。野蛮やばんで粗暴そぼうとされたケンタウロスとしては例外れいがい的てきな存在そんざいであり、英雄えいゆうたちの養育よういく者しゃあるいは教師きょうしとして知しられる。ラテン語らてんごではキロン（ラテン語らてんご: Chiron）。日本語にほんごでは長ちょう母音ぼいんを省略しょうりゃくしてケイロンとも表記ひょうきされる。

ケイローン 古希こき: Χείρων, Cheirōn
「アキレウスを教おしえ導みちびくケイローン」イタリア国立こくりつ考古学こうこがく博物館はくぶつかん収蔵しゅうぞう（ヘルクラネウムのフレスコ画が、1世紀せいき）
住処すみか	テッサリア
配偶はいぐう神しん	カリクロー
親おや	父ちちクロノス、母ははピリュラー
兄弟きょうだい	ヘスティアー、デーメーテール、ヘーラー、ハーデース、ポセイドーン、ゼウス
子供こども	娘むすめヒッペー、娘むすめエンデーイス、娘むすめオクロエ（オシロエ）、 息子むすこカリストゥス

系譜けいふ

L'éducation d'Achille （ウジェーヌ・ドラクロワ画が） ケイローンの背せに乗のったアキレウスが描えがかれている。

ケイローンは一般いっぱん的てきなケンタウロスとは出自しゅつじが異ことなり、ティーターンの王おうクロノスとニュンペーのピリュラーの子こで、クロノスは妻つまレアーの目めを逃のがれるために馬うまに姿すがたを変かえてピリュラーと交まじわったことから、半はん人にん半はん馬ばとなったという。またドロプスという兄弟きょうだいがいたともいわれる。ニュムペーのカリクローとの間あいだにヒッペーをもうけた。一説いっせつによるとアイアコスの妻つまでペーレウスとテラモーンの母ははエンデーイスはケイローンの娘むすめであり、さらに別べつの説せつによるとペーレウスと結婚けっこんした女神めがみテティスもまたケイローンの娘むすめとされる。

神話しんわ

ケイローンはアポローンから音楽おんがく、医学いがく、予言よげんの技わざを、アルテミスから狩猟しゅりょうを学まなんだという。ケイローンはペーリオン山さんの洞穴どうけつに住すみ、薬草やくそうを栽培さいばいしながら病人びょうにんを助たすけて暮くらした。またヘーラクレースやカストールら英雄えいゆうたちに請こわれて武術ぶじゅつや馬術ばじゅつを教おしえ、イアーソーンやアクタイオーンを養育よういくし、アスクレーピオスには医術いじゅつを授さづけた。アキレウスの師しでもあった。弓ゆみを持もつケンタウロスのモチーフは知恵ちえの象徴しょうちょうであるケイローンに由来ゆらいしている。

ヘーラクレースとケンタウロスたちとの争あらそいに巻まき込こまれ、ヘーラクレースの放はなった毒矢どくやが誤あやまってケイローンの膝ひざに命中めいちゅうし、不死身ふじみのケイローンは苦痛くつうから逃のがれるために、ゼウスに頼たのんで不死身ふじみの能力のうりょくをプロメーテウスに譲ゆずり、死しを選えらんだ。その死しを惜おしんだゼウスはケイローンの姿すがたを星ほしにかたどり、射手しゃしゅ座ざにしたという。

ダンテの『神かみ曲きょく』「地獄じごく篇へん」第だい十じゅう二に曲きょくにおいてダンテ及およびウェルギリウスと言葉ことばを交かわし、ネッソスに地獄じごくの道案内みちあんないをするよう命めいじた。

関係かんけい者しゃ

家族かぞく

• クロノス -　父ちち。馬うまに化ばけていたティーターンの王おう。（ゼウスたちとケイローンは異腹いふく兄弟きょうだい）
• ピリュラー- 母はは。ニュンペー。恥はじと嫌悪けんお感かんからケイローンを捨すてる。
• アポローン - 養父ようふ。竪琴たてごと、弓術きゅうじゅつ、医学いがく、占星術せんせいじゅつなどを教おしえる。（アポローンがゼウスの子こであるため、叔父おじ・甥おいの関係かんけいでもある。）
• アルテミス - 養母ようぼ。弓術きゅうじゅつと狩猟しゅりょうを教おしえる。（アポローンの妹いもうと）
• カリクロー - 妻つま
  • ヒッペー(Hippe) - 娘むすめ。こうま座ざの神話しんわの一ひとつに登場とうじょうする。
  • エンデーイス(Endeïs) - 娘むすめ
  • オクロエ（オシロエ）(Ocyrhoe) - 娘むすめ
  • カリストゥス(Carystus) - 息子むすこ

師弟してい関係かんけい

著述ちょじゅつ家かクセノポーンによると、ケイローンはアポローンとアルテミスから狩猟しゅりょうと猟犬りょうけんについて学まなび、それを生徒せいとである英雄えいゆうたちに教おしえたとされる。クセノポーンは、ケイローンに学まなんだ英雄えいゆうを次つぎのように列挙れっきょしている。ビザンツ帝国ていこくでは、ディオニューソスも弟子でしとしている。

• ケパロス
• アスクレーピオス
• メイラニオーン
• ネストール
• アムピアラーオス
• ペーレウス
• テラモーン
• メレアグロス
• テーセウス
• ヒッポリュトス
• パラメーデース
• オデュッセウス
• メネステウス
• ディオメーデース
• ディオスクーロイ
• マカーオーン
• ポダレイリオス
• アンティロコス
• アイネイアース
• アキレウス

ギャラリー

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  「ケイーロンとアキレウス」（石棺せっかんの装飾そうしょく。トラッチャ、カシリーナ邸てい、3世紀せいき）
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  「ケイローンに対面たいめんするティーターン王おうとアキレウス」（バロワ美術館びじゅつかん）
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  「ケイローンとアキレウス」（17世紀せいき、ルーベンスの絵えによるタペストリー）
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  ピエール・ピュジェ「アキレウスを導みちびくケイローン」（1690年ねん頃ごろ）
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  ヨハン・バルタザール・プロバスト「幼おさないケンタウロスを託たくされるケイローン」 （17／18世紀せいき）
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  ポンペオ・バトーニ「ケンタウロスのケイローンの元もとへアキレウスを引ひき取とりに来きたティーターン王おう 」（1770年ねん）
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  ジョヴァンニ・バッティスタ・チプリアーニ「投なげ槍やりを習ならうアキレウス」 （1776年ねん頃ごろ）
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  ドナート・クレティ「ケイーロンに託たくされるアキレウス」
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  ポンペオ・バトーニ「ケイーロンとアキレウス」
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  ベニーニュ・ガグネロー「アキレウスの教育きょういく」（1785年ねん）
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  ジェームズ・バリー「アキレウスの教育きょういく」
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  「若わかいアキレウスに地理ちりを教おしえるケンタウロスのケイローン」 （ロサンゼルス郡ぐん立りつ美術館びじゅつかん）
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  「アキレウスの教育きょういく」（リトグラフ、1798年ねん）原作げんさくは1782年ねんのジャン＝バプティスト・ルニョー作品さくひん
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  リナルド・リナルディ「アキレウスにキタラの演奏えんそうを教おしえるケイローン」 （1817年ねん）
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  オーギュスト=クレマン・クレティエン「アキレウスの教育きょういく」（1861年ねん）
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  ウジェーヌ・ドラクロワ「アキレウスの教育きょういく」（1862年ねん頃ごろ）
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  マックスフィールド・パリッシュ「イアーソーンと師し 」（1909年ねん）
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  「息子むすこアキレウスをケイローンに託たくすペーレウス」（1921年ねん）
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  ジョルジオ・ゾンマー、 エドモンド・ベーレス 「ケイーロンとアキレウス」（20世紀せいき初頭しょとう）

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

• アポロドーロス 著しる、高津たかつ春繁はるしげ 訳わけ「第だい一いち巻かん」『ギリシヤ神話しんわ』岩波書店いわなみしょてん、1953年ねん、1-50頁ぺーじ。doi:10.11501/2982641。 巻末かんまつに固有名詞こゆうめいし索引さくいんあり。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション 、閲覧えつらんは国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん内ない限定げんてい、遠隔えんかく複写ふくしゃサービス可か、NDLJP:2982641。
• ホメロス、アポロニオス 著ちょ、松平まつだいら千秋ちあき、岡おか道男みちお 訳わけ『オデュッセイア／アルゴナウティカ』講談社こうだんしゃ〈世界せかい文学ぶんがく全集ぜんしゅう〉、1982年ねん6月がつ。doi:10.11501/12445130。 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション、閲覧えつらんは国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん内ない限定げんてい、遠隔えんかく複写ふくしゃサービス可か、NDLJP:12445130。
  • ホメロス『オデュッセイア』松平まつだいら千秋ちあき 訳やく
  • アポロニオス『アルゴナウティカ：アルゴ船せん物語ものがたり』 岡おか道男みちお 訳やく
• 高津たかつ春繁はるしげ『ギリシア・ローマ神話しんわ辞典じてん』岩波書店いわなみしょてん、1960年ねん。doi:10.11501/2982681。 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション、閲覧えつらんは国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん内ない限定げんてい、遠隔えんかく複写ふくしゃサービス可か、NDLJP:2982681。
• ディクテュス、ダーレス 著ちょ、岡おか三郎さぶろう 訳わけ『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争せんそう物語ものがたり』 第だい1、国文こくぶん社しゃ〈トロイア叢書そうしょ〉、2001年ねん12月。 全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:20253572。
  • ディクテュス 『トロイア戦争せんそう日誌にっし』原題げんだい：Dictys Cretensis ephemeridos belli Troiani（Werner Eisenhut ed.）。底本ていほんは、トイブナー版ばん（1958年ねん初版しょはん、73年ねん第だい2版はんも参照さんしょう）、ウェルナー・アイゼンフート校訂こうてい『クレタ島とうのディクテュスのトロイア戦争せんそう日誌にっし』。
  • ダーレス『トロイア滅亡めつぼうの歴史れきし物語ものがたり』原題げんだい：Daretis Phrygii de excidio Troioe historia（Ferdinandus Meister ed.）。底本ていほんは、トイブナー版ばん（1873年ねん初版しょはん）、フェルディナンドス・マイスター校訂こうてい『フリュギア人じんダーレスのトロイア滅亡めつぼうの歴史れきし物語ものがたり』。
• ヒュギーヌス 著しる、松田まつだ治おさむ、青山あおやま照男てるお 訳やく『ギリシャ神話しんわ集しゅう』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ〉、2005年ねん2月がつ。 全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:20749706。原題げんだい：Fabulae。目次もくじあり。
• ピンダロス 著しる、内田うちだ次じ信しん 訳わけ『祝勝しゅくしょう歌集かしゅう／断片だんぺん選せん』京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2001年ねん9月がつ。 。固有名詞こゆうめいし解説かいせつ・索引さくいん: 巻末かんまつp1-38。
  • 底本ていほんは、B・スネル 著ちょPindari carmina cum fragmentis （ライプツィヒ：H・メーラー出版しゅっぱん、パートI第だい6版はん：1980年ねん、パートII第だい4版はん：1975年ねん）。
• トマス・ブルフィンチ 著しる、大久保おおくぼ博ひろし 訳わけ『ギリシア・ローマ神話しんわ : 伝説でんせつの時代じだい 完訳かんやく』角川書店かどかわしょてん〈角川かどかわ文庫ぶんこ〉、1970年ねん、235頁ぺーじ。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:75061018。 

関連かんれん項目こうもく

• ケンタウルス座ざ - いて座ざではなく、ケンタウロス座ざでないと整合せいごう性せいが取とれない神話しんわがあるなど、古代こだいギリシアの学者がくしゃたちは訂正ていせいを行おこなっている。
• 小惑星しょうわくせいキロン - ケイローンにちなんで名付なづけられた小惑星しょうわくせい、カイロンとも呼よぶ。ケンタウロス族ぞくに数かぞえられる。1977年ねん発見はっけん（2060 Chiron、95P/Chiron）。
• ピリオ山さん - ギリシアにある神聖しんせいな山やま。様々さまざまな神話しんわに登場とうじょうするケンタウロスの集落しゅうらくとされ、ケイローンの住処すみかという洞窟どうくつがある。
• ヨハネの黙示録もくしろくの四よん騎士きし - 第だい一いちの騎手きしゅの異名いみょう。

外部がいぶリンク

• 『ケイロン』 - コトバンク