メタノピュルス・カンドレリ

メタノピュルス・カンドレリ（メタノパイラス- メタノピルス- Methanopyrus kandleri）は、深海しんかいの熱ねつ水すい噴出ふんしゅつ孔あななどに生息せいそくするグラム陽性ようせい桿菌かんきん偏へん性せい嫌気いやけ性せいの超ちょう好こう熱ねつメタン菌きん（メタン生成せいせい古こ細菌さいきん）である。複数ふくすうの培養ばいよう株かぶが知しられるが、いずれも100℃を大おおきく上回うわまわる温度おんどでの増殖ぞうしょくが可能かのう。このうちの一ひとつである116株かぶ（Strain 116）は、122°Cもの高温こうおんで増殖ぞうしょくが可能かのうな生物せいぶつであると報告ほうこくされている。

メタノピュルス・カンドレリ
分類ぶんるい
ドメイン : 古こ細菌さいきん Archaea 界さかい : ユリアーキオータ界かい Euryarchaeota 門もん : ユリアーキオータ門もん Euryarchaeota 綱つな : メタノピュルス綱つな Methanopyri 目め : メタノピュルス目め Methanopyrales 科か : メタノピュルス科か Methanopyraceae 属ぞく : メタノピュルス属ぞく Methanopyrus 種たね : M. カンドレリ Methanopyrus kandleri
学名がくめい
Methanopyrus kandleri Kurr et al. 1992

学名がくめいの由来ゆらいは、属ぞく名めいが「methan-um」（羅ら: メタン）+「οおみくろん」（希まれ: 接続せつぞく母音ぼいん）+「πぱいῦρろー」（希のぞみ: 炎ほのお）+「us」（羅ら: 男性だんせい名詞めいし屈折くっせつ語尾ごび）。種たね小名しょうみょうは微生物びせいぶつ学者がくしゃ「Otto Kandler」への献けんじ名めいで、そのラテン語らてんご名めい Kandlerus を属ぞく格かくとした kandleri カンドレリーが採用さいようされている。ラテン語らてんごとして語かたり形成けいせいを行おこなうと、Methanopyrus kandleri（古典こてんラテン語らてんごの音おと写うつしはメタノピュルス・カンドレリー）となり、全体ぜんたいとして「カントラー氏しの、炎ほのおを好このむメタン菌きん」といった意味いみを帯おびる。

Methanopyrus 属ぞくには、Methanopyrus kandleri 種たねが属ぞくする。

生育せいいく条件じょうけん

ブラックスモーカー

中央ちゅうおう海嶺かいれい近傍きんぼうなどに存在そんざいする深海しんかいの熱ねつ水すい噴出ふんしゅつ孔あなで生息せいそくが報告ほうこくされている。具体ぐたい的てきには、1991年ねんにカリフォルニア湾わんの海底かいてい2000 mにあるブラックスモーカーより発見はっけんされた(AV19株かぶ)や、インド洋いんどよう中央ちゅうおう海嶺かいれいの水深すいしん2450 mなどから発見はっけんされた116株かぶなどが挙あげられる。

基準きじゅん株かぶAV19株かぶによる記載きさいでは、生育せいいく温度おんど84-110 °C、至いたり適てき生育せいいく温度おんど98 °Cに達たっし、メタン菌きんとしては好こう熱性ねっせい、耐たい熱性ねっせい共どもに最もっとも高たかい。また、2008年ねんに独立どくりつ行政ぎょうせい法人ほうじん海洋かいよう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこうの高井たかい研けんらによって新あらたに報告ほうこくされた別べつの116株かぶ（DNA-DNAハイブリ79.5%、鞭むち毛げや窒素ちっそ固定こてい能のうがないなどやや性質せいしつに違ちがいがある）は、常つね圧あつ下かでは116 °Cまで増殖ぞうしょくが可能かのうだが、生息せいそく条件じょうけんに近ちかい200-400 気圧きあつに加圧かあつすることにより122 °Cで増殖ぞうしょくが可能かのうなことが確認かくにんされた。これは同おなじ古こ細菌さいきんである Pyrolobus fumarii の持もつ113 °C、Strain 121の121 °C（参考さんこう記録きろく）を上回うわまわっており、確認かくにんされたものとしては最もっとも高温こうおんでの増殖ぞうしょく記録きろくである。130 °C 3時じ間あいだのオートクレーブにも耐たえる。

増殖ぞうしょく条件じょうけん（AV19株かぶ）

• 生育せいいく温度おんど: 84-110 °C（至いたり適てき98 °C）
• 生育せいいく最適さいてき: pH 5.5-7（至いたり適てき6.5）
• 生育せいいくNaCl濃度のうど: 0.2-4%（至いたり適てき塩しお濃度のうど2%）

特徴とくちょう

外観がいかんは普通ふつうの桿菌かんきんで、太ふとさ0.5 μみゅーm、長ながさ2-15 μみゅーmほどの大おおきさである。一方いっぽうの極きょくに鞭むち毛げを持もつ場合ばあいが多おおい。細胞さいぼう壁かべはシュードムレインより構成こうせいされ、その表面ひょうめんをS層そうが覆おおう。このシュードムレインと呼よばれる構造こうぞうは比較的ひかくてき珍めずらしく、古こ細菌さいきんの中なかでもメタノピュルスとメタノバクテリウム綱つなのみに見みられる特徴とくちょうである。特とくに、シュードムレイン+S層そうの構造こうぞうを持もつのは、メタノピュルスを除のぞけば、増殖ぞうしょく温度おんどが2番目ばんめに高たかいメタノテルムス属ぞくの仲間なかまだけである。グラム染色せんしょくではグラム陽性ようせいに染色せんしょくされる。細胞さいぼう膜まくはジエーテル型がたである。

栄養えいよう的てきには嫌気いやけ条件じょうけんで水素すいそと二酸化炭素にさんかたんそからメタンを合成ごうせいする典型てんけい的てきなメタン菌きんといえる。窒素ちっそ固定こていなども全すべて自前じまえで行おこなう。他たのメタン菌きんのようにギ酸ぎさんや酢酸さくさん、アルコール類るいを代謝たいしゃすることはできず、水素すいそのみを利用りようしている。

ゲノムと系統けいとう学がく的てき位置付いちづけ

系統的けいとうてきには16S rRNA系統けいとう解析かいせきなどの結果けっかからユリアーキオータ門もんの中なかでも最もっとも深ふかい分岐ぶんきをしていると考かんがえられていたが、より詳細しょうさいな解析かいせきにより、近年きんねんは同おなじシュードムレインより成なる細胞さいぼう壁かべを持もつメタノバクテリウム綱つなと近きん縁えんとされることも多おおい。

ゲノム配列はいれつは2002年ねんに決定けっていされ、ゲノムサイズは169万まん4969 bp、ORFは1,692箇所かしょ（Methanopyrus kandleri AV19）である。