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ローレンツ変換 - Wikipedia

ローレンツ変換へんかん

2つの慣性かんせいけいあいだ座標ざひょうむすびつける線形せんけい変換へんかん

ローレンツ変換へんかん(ローレンツへんかん、えい: Lorentz transformation)は、2 つの慣性かんせいけいあいだ座標ざひょう時間じかん座標ざひょう空間くうかん座標ざひょう)をむすびつける線形せんけい変換へんかんで、電磁気でんじきがく古典こてん力学りきがくあいだ矛盾むじゅん回避かいひするために、アイルランドジョセフ・ラーモア(1897ねん)とオランダヘンドリック・ローレンツ(1899ねん、1904ねん)により提案ていあんされた。

アルベルト・アインシュタイン特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろん(1905ねん)を構築こうちくしたときには、慣性かんせいけいあいだゆるされる変換へんかん公式こうしきとして、理論りろん基礎きそ形成けいせいした。特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろんではすべての慣性かんせいけい同等どうとうなので、物理ぶつり法則ほうそくはローレンツ変換へんかんたいして不変ふへんかたち、すなわちおな変換へんかんせいをもつりょうあいだテンソル方程式ほうていしきとしてあたえられなければならない。このことをローレンツ不変ふへんせいきょう変性へんせいをもつという。

幾何きかがくまとには、ミンコフスキー空間くうかんにおける 2 てんあいだ世界せかい間隔かんかく不変ふへんたもつような、原点げんてん中心ちゅうしんにした回転かいてん変換へんかんあらわす(ミンコフスキー空間くうかんでみたローレンツ変換へんかんふし参照さんしょう)。

概要がいよう

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ローレンツ変換へんかんは、マイケルソン・モーリーの実験じっけん結果けっか矛盾むじゅんなく説明せつめいする手段しゅだんとして提案ていあんされた。ローレンツは、時間じかんながれやひかり速度そくどはすべての基準きじゅん座標ざひょうけいにおいて同一どういつかんがえたため、「おおきな速度そくどうご座標ざひょうけいでは、2てんあいだ距離きょり物体ぶったいながさ)はちぢむ」というローレンツ収縮しゅうしゅくしめした(ローレンツ・フィッツジェラルド収縮しゅうしゅく仮説かせつ)。しかし、ローレンツ収縮しゅうしゅく実験じっけん結果けっか矛盾むじゅんした。のちに、アインシュタインは、光速こうそく不変ふへんせい物理ぶつり法則ほうそく相対そうたいせい(「物理ぶつり法則ほうそくはあらゆる慣性かんせいけいあいだ同一どういつである」)の 2 つを原理げんりとして、特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろんきずいた。そこでは、ローレンツ変換へんかんからの帰結きけつとして、時間じかんすすかた観測かんそくしゃによってことなることがしめされた。

ガリレイ変換へんかんは、ひとしそく運動うんどうをする慣性かんせいけいあいだ座標ざひょう変換へんかんであり、ニュートンの運動うんどう方程式ほうていしき不変ふへんかたち変化へんかするが、マクスウェルの方程式ほうていしきでは満足まんぞくされない古典こてんてき座標ざひょう変換へんかんである。ローレンツ変換へんかんは、マクスウェル方程式ほうていしき不変ふへんかたち変換へんかんする。また慣性かんせいけいうご速度そくど v が、ひかり速度そくど cくらべて十分じゅうぶんちいさい場合ばあいv/c → 0なせる場合ばあい)をかんがえると、ローレンツ変換へんかんはガリレイ変換へんかん再現さいげんする。したがって、相対そうたいろんてき極限きょくげんでガリレイ不変ふへんせい成立せいりつしているという事実じじつもローレンツ変換へんかん説明せつめいできる。

ローレンツ変換へんかんのうち、空間くうかん時間じかん関与かんよする方向ほうこうへの変換へんかんローレンツブースト (えい: Lorentz boost) とぶ。特殊とくしゅ相対そうたいろんみちびく、我々われわれ直感ちょっかんはんする事柄ことがらのほとんどは、このローレンツブーストからの帰結きけつである。一方いっぽうで、空間くうかん同士どうし関与かんよする変換へんかんはただの空間くうかん回転かいてんである。

物理ぶつりてき導入どうにゅう

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ローレンツ変換へんかんは、ある慣性かんせいけい S における空間くうかんおよび時間じかん座標ざひょう(あるいは任意にんい4げんベクトル)を、x-じく沿った S にたいする相対そうたい速度そくど v移動いどうするべつ慣性かんせいけい S′変換へんかんするさい使用しようされるぐん作用さようである。原点げんてん (0, 0, 0, 0)共有きょうゆうする、S における時空じくう座標ざひょう (t, x, y, z)S′ における時空じくう座標ざひょう (t′, x′, y′, z′)記述きじゅつされる事象じしょう座標ざひょうけいは、以下いかのローレンツ変換へんかんによって関連かんれんづけられる。

 
 
 
 

うえしき

 

ローレンツ因子いんしばれ、c真空しんくうちゅうひかり速度そくどあらわす。

行列ぎょうれつでの表現ひょうげん

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うえの 4 つの方程式ほうていしきは、行列ぎょうれつもちいて表現ひょうげんできる。

 

あるいは、以下いかのようにも記述きじゅつできる。

 

最初さいしょしきは、v/c → 0 となる極限きょくげんにおいて、ガリレイ変換へんかん帰着きちゃくすることを容易ようい理解りかいできるてんで、だい 2 のしきは、相対そうたいろんにおける基本きほんてき変量へんりょうである時空じくう間隔かんかく ds2 = (cdt)2 − dx2 − dy2 − dz2保存ほぞんされることを容易ようい理解りかいできるてんで、それぞれすぐれている。

ミンコフスキー空間くうかんでみたローレンツ変換へんかん

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また、パラメータ θしーたもちいて、

 

とすると

 

むなし時間じかん w = i ctもちいれば、

 

行列ぎょうれつもちいれば、それぞれ

 

 

あらわすことができる。この表現ひょうげんもちいると、ローレンツ変換へんかんミンコフスキー空間くうかんうえでの虚数きょすうかく iθしーた回転かいてん相当そうとうすることが容易ようい理解りかいできる。

このひょうしきでは速度そくど合成ごうせい容易よういになる。慣性かんせいけい S において、速度そくど ux-じく方向ほうこうひとしそく運動うんどうしている物体ぶったいは、慣性かんせいけい S′ における速度そくど u′ は、

 

とすると、

 

あらわされる。

相対そうたい速度そくど v方向ほうこう慣性かんせいけい Sx-じく方向ほうこう一致いっちする場合ばあいにのみ、うえ方程式ほうていしき適用てきようされる。v方向ほうこうSx-じく一致いっちしない場合ばあいには、ローレンツ変換へんかん一般いっぱんかいもとめるよりも、v方向ほうこうSx-じく一致いっちするように慣性かんせいけい回転かいてんおこなうほうが、一般いっぱん容易よういである。

空間くうかんベクトルの分解ぶんかい

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任意にんい方向ほうこうへのローレンツブーストにさいしては、空間くうかんベクトル x速度そくど v平行へいこう垂直すいちょく成分せいぶん 分解ぶんかいすると都合つごうい。v 方向ほうこう成分せいぶん   のみが、ローレンツ因子いんし γがんま による変形へんけいける。

 
 

うえ方程式ほうていしきは、行列ぎょうれつもちいて以下いかのように表現ひょうげんできる。

 

ここで、vTv転置てんち行列ぎょうれつI は 3 単位たんい行列ぎょうれつである。

うえ注記ちゅうきしたように、この変換へんかんは 2 つのけい原点げんてん共有きょうゆうされることを要求ようきゅうする。この制約せいやく緩和かんわするかたちで、ローレンツ変換へんかん時空じくう平行へいこう移動いどうくわえた変換へんかんポアンカレ変換へんかんばれる。

より一般いっぱんてき定義ていぎ

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なお、ローレンツ変換へんかんは「ひかり速度そくど一定いってい」の帰結きけつである「世界せかい間隔かんかく不変ふへんせい」をたす変換へんかんとして、より一般いっぱんてき定義ていぎされる。ここで、時空じくう記述きじゅつする 4げんベクトル x=(ct , x, y, z )たいし、

 

たす任意にんいの 4×4 行列ぎょうれつ Λらむだ によってあたえられる変換へんかん

 

がローレンツ変換へんかんとなる。ただし、T転置てんち行列ぎょうれつあらわし、g

 

あたえられる時空じくう計量けいりょうテンソルあらわすものとする。

このように定義ていぎされた行列ぎょうれつ Λらむだ全体ぜんたいは、ローレンツぐんとしてられるぐん SO(3,1)構成こうせいする。

厳密げんみつうと、このように定義ていぎしたローレンツ変換へんかんはミンコフスキー空間くうかんでの回転かいてんだけでなく、空間くうかん反転はんてん相当そうとうするパリティ変換へんかん P時間じかん反転はんてん Tふくむ。これらの変換へんかん連続れんぞくてきなローレンツ変換へんかんとは別個べっこあつかわれる場合ばあいおおい。たとえば実際じっさい物理ぶつり連続れんぞくてきなローレンツ変換へんかんたいしては不変ふへんだが、パリティ対称たいしょうせいやぶCP対称たいしょうせいやぶCPT定理ていりより Tやぶれと同義どうぎ)は実験じっけん観測かんそくされている。このてん明確めいかくにしたい場合ばあい連続れんぞくてき回転かいてんのみの部分ぶぶん本義ほんぎローレンツ変換へんかんぶことがある。

一般いっぱんてきローレンツ変換へんかん

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より一般いっぱんてきに、ローレンツ変換へんかん世界せかい間隔かんかく不変ふへんたも線形せんけい変換へんかんとして定義ていぎされる。こうして定義ていぎされるローレンツ変換へんかんは、ミンコフスキー時空じくうにおける内積ないせきたいする対称たいしょうせいとしてとらえることができる。 まず、ミンコフスキー時空じくうにおけるローレンツ変換へんかん Λらむだ

 

すなわち

 

たす線形せんけい変換へんかんとして定義ていぎされる。ただし、g =(gμみゅーνにゅー) は、g =diag(1, −1, −1, −1)あたえられる計量けいりょうテンソルであり、重複じゅうふくするたいしてはアインシュタインのちぢみやくしたがってをとるものとする。また、げは計量けいりょうテンソルによって、

 

で、あたえられるものとする。

性質せいしつ

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こうして定義ていぎされるローレンツ変換へんかんは、時空じくうてん x =(x0, x1, x2, x3)y =(y0, y1, y2, x3)ローレンツ内積ないせき

 

不変ふへんたもつ。

 

この性質せいしつから、とく時空じくう計量けいりょう

 

はローレンツ変換へんかんした不変ふへんとなる。

 

すなわち、世界せかい間隔かんかく不変ふへんたもたれる。

ローレンツ変換へんかん分類ぶんるい

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ローレンツ変換へんかん全体ぜんたいのなす集合しゅうごう L は、行列ぎょうれつしきと00成分せいぶん Λらむだ00 によって分類ぶんるいされる。ローレンツ変換へんかん Λらむだ において、その行列ぎょうれつしき det(Λらむだ)±1をとる。一方いっぽう、 00成分せいぶんΛらむだ00 ≥1 または Λらむだ00 ≤−1たす。ローレンツ変換へんかん全体ぜんたい Lなかで、行列ぎょうれつしきと00成分せいぶん符号ふごうひとしい2つのローレンツ変換へんかんは、連続れんぞくてきうつわることができる連結れんけつ成分せいぶんとなる。一方いっぽう、これらがことなる2つのローレンツ変換へんかん連続れんぞくてきうつわることができない連結れんけつ成分せいぶんとなる。したがって、L行列ぎょうれつしきならびに00成分せいぶん符号ふごうによって、つぎの4つの連結れんけつ部分ぶぶん集合しゅうごう分類ぶんるいされる。

 

この分類ぶんるいにおいて、Λらむだ00 ≥1たすものをじゅん時間じかんてきorthochrous)、Λらむだ00 ≤−1たすものをはんじゅん時間じかんてきanti-orthochrous)、det(Λらむだ )=1たすものを固有こゆうproper)、det(Λらむだ )=−1たすものを固有こゆうimproper)とぶ。

ローレンツ変換へんかんなかで、特別とくべつなものとして、

 

定義ていぎされる恒等こうとう変換へんかん I空間くうかん反転はんてん(パリティ変換へんかん P時間じかん反転はんてん T空間くうかん時間じかん反転はんてん PT存在そんざいする。

L+, L, L, L+ はそれぞれ、恒等こうとう変換へんかん I空間くうかん反転はんてん P時間じかん反転はんてん T空間くうかん時間じかん反転はんてん PTふくむ。

 

これらの変換へんかんにより、L+, L, L+, Lつぎのようにむすけられる。

 

慣性かんせいけい S慣性かんせいけい S′座標ざひょう格子こうしかさねて図示ずしすると、ローレンツ変換へんかんガリレイ変換へんかんちがいがイメージできる。ガリレイ変換へんかんでは時刻じこくひとしいてんからなる直線ちょくせんどう時刻じこくせん)はりょう慣性かんせいけい一致いっちするが、ローレンツ変換へんかんではことなる慣性かんせいけいどう時刻じこくせんたがいにかたむいている。これはローレンツ変換へんかんでは、慣性かんせいけい S では同時どうじきた事象じしょう慣性かんせいけい S′ ではことなる時刻じこくきていることを意味いみする。これを同時どうじせいくずという。

ローレンツはこの変換へんかんマクスウェル方程式ほうていしき不変ふへんかたち変換へんかんすることを、1900ねん発見はっけんした。ローレンツはしるべこうせいエーテル仮説かせつしんじており、この変換へんかん適切てきせつ基礎きそ提供ていきょうする相対性理論そうたいせいりろん発見はっけんしたのは、アルベルト・アインシュタインであった。

ローレンツ変換へんかん1904ねんはじめて発表はっぴょうされたが、当時とうじこれらの方程式ほうていしき不完全ふかんぜんであった。フランスの数学すうがくしゃアンリ・ポアンカレが、ローレンツの方程式ほうていしきを、今日きょうられている整合せいごうせいれた 4 つの方程式ほうていしき修正しゅうせいした。

ローレンツ=フィッツジェラルド収縮しゅうしゅく

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ローレンツの解釈かいしゃく

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ながさの収縮しゅうしゅく参照さんしょう

相対そうたいろんてき解釈かいしゃく

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ローレンツ収縮しゅうしゅく

アインシュタインの解釈かいしゃくによれば、観測かんそくしゃたいして運動うんどうする物体ぶったいちぢんで観測かんそくされる。

れいとして、x-じく方向ほうこうながさを物体ぶったいが、観測かんそくしゃ Axyzw-座標ざひょうけい)にたいして x-じくせい方向ほうこう速度そくど vひとしそく直線ちょくせん運動うんどうする場合ばあいかんがえる (w = ct)。この物体ぶったいとも運動うんどうする観測かんそくしゃ Bx′y′z′w′-座標ざひょうけい)にはこの物体ぶったいながさが l観測かんそくされるとする(w′ = ct′)。これはすなわち、観測かんそくしゃ B にとってどう時刻じこく観測かんそくしたときに、物体ぶったいはしはしx′-座標ざひょうl であることをしめす。

t′ = 0 のとき、物体ぶったい片端かたはしx′ = 0、もう一方いっぽうはしx′ = l にあるとする。このとき、物体ぶったい軌跡きせき{(x′, w′) | 0 ≤ x′l} となり、みぎうす青部あおべである。ここで、 とおくと、x′ = γがんま(xβべーたw) であるため、  となる。すなわち、t = 0 のとき、片端かたはしx = 0 に、もう片端かたはし  にあるので、観測かんそくしゃ A にとってこの物体ぶったいながさは   となることがかる(なお、観測かんそくしゃ A にとって (x, w) = (0, l) となるてんは、みぎ点線てんせんである双曲線そうきょくせん x2w2 = lx-じく交点こうてんであることからもローレンツ収縮しゅうしゅく影響えいきょうがわかる)。

関連かんれん項目こうもく

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