紺屋こんや

紺屋こんや（こうや、こんや）とは江戸えど時代じだいに染そめ物もの屋やをさした言葉ことば。もしくは、その店みせの主人しゅじんを指さす。むらさき屋やとも。

歴史れきし

もともと、「紺屋こんや」は中世ちゅうせいに「紺こん掻かき」と言いわれた藍あい染しみ専せん門もんの職人しょくにんを呼よんだものだが、非常ひじょうに繁盛はんじょうしたため、江戸えど時代じだいには藍染あいぞめに限かぎらず染物そめもの屋や全般ぜんぱんの代名詞だいめいしとなった。

日本にっぽん中ちゅうに点在てんざいしていたが、1615年ねんには大坂おおさか、1721年ねんに江戸えど、1756年ねんに京都きょうとで、それぞれ紺屋こんや仲間なかまが成立せいりつする。天保てんぽうの改革かいかくのときには株かぶ仲間なかま禁令きんれいによって一旦いったん、途絶とだえたが、1850年ねんごろの嘉よしみ永ひさしの再興さいこう令れいによって復活ふっかつした。

絵心えごころや色彩しきさい感覚かんかくが必要ひつような職業しょくぎょうからか、しばしば紺屋こんやから著名ちょめいな絵師えしを輩出はいしゅつした。代表だいひょう的てきな絵師えしとして、長谷川はせがわ等伯とうはく、曾我そが蕭しょう白しろ、亜欧堂田善あおうどうでんぜん、小しょう田海たうみ僊、鈴木すずき其一、歌川うたがわ国芳くによし、大橋おおはし翠みどり石せきなどが挙あげられる。

関西かんさいでは染物そめもの、洗あらい張はり、湯ゆのしなど一切いっさいを引ひき受うける職業しょくぎょうを悉皆屋しっかいや（しっかいや）と言いい、染物そめもの屋やは紺こん染屋そめや、茶ちゃ染屋そめや、紅べに染屋そめやと分業ぶんぎょう的てきな名称めいしょうで呼よんだ^[1]。両毛りょうけ地方ちほうでは藍染あいぞめ以外いがいの染しみ業者ぎょうしゃを合ごう雑ざつ紺屋こんやと俗称ぞくしょうした^[1]。

特殊とくしゅ技能ぎのう

江戸えど時代じだいの染色せんしょく工こうは使用しようする染料せんりょうの種類しゅるいによって四よっつのグループに分わかれた。特とくに染色せんしょくの困難こんなんな紫むらさき草くさを扱あつかう紫むらさき師し、冬季とうきに染色せんしょくを行おこなう紅花べにばなを扱あつかう紅べに師し、矢車やぐるまや橡とちなどを扱あつかい茶色ちゃいろ系けいの多彩たさいな中間色ちゅうかんしょくを染そめ上あげる茶ちゃ染しみ師し、長年ながねんの研鑽けんさんによってスクモ玉だまの発酵はっこうを調節ちょうせつしさまざまな布ぬの製品せいひんを染そめる藍あいを扱あつかう紺屋こんやである。

まず、阿波あわの栽培さいばい農家のうかが夏なつに収穫しゅうかくした蓼たで藍あいの葉はを発酵はっこうさせ乾燥かんそうさせたスクモという原料げんりょうを作つくる、これを搗つき固かためてボール状じょうの塊かたまりである「藍あい玉たま」として海路かいろで京きょう・大坂おおさかや江戸えどへ運はこぶ。紺屋こんやはこれを藍あい甕うに入いれて木灰きばいや石灰せっかい、ふすまを加くわえてその上うえで水みずを加くわえて加熱かねつすることによって酵素こうそを活発かっぱつにし染料せんりょうを作つくる。この一連いちれんの作業さぎょうを「藍あいを建たてる」という。