紀元前2世紀頃に西域から中国に伝わった赤色の染料の色に由来するとされる[1]。
えんじ色の名は中国の紅花の一大産地である「燕支山(中国語版)」にちなむとされるが、さらにその語源(エンジに類する語)や紅花の生育環境から中央アジアに起源がある可能性が指摘されている[1]。臙脂(エンジ)は後述するコチニールカイガラムシの別名の臙脂虫(エンジムシ)の由来にもなっている[2]。
『本草綱目』の「燕脂」の集解に、紅藍花(ベニバナ)、山燕脂花(未詳)、山榴花(ザクロ)、紫鉱(ラック)の4種の臙脂が記されたように、「臙脂」の意味も語源の地域と時代が離れるごとに多様化し混乱もみられるようになった[1]。上のうち紫鉱(ラック)はラックカイガラムシの体表から分泌される筒状の暗紫色の物質である[1][2]。正倉院には薬用として採集された「紫鉱」が保存されている[1]。このラック色素を円形の薄い綿に染みこませたものが綿臙脂で、近代まで化粧品、医薬品、美術工芸の色料に利用されていたが、日常生活で使用されなくなったこともあり綿臙脂の製法の詳細は不明になっている[1]。
なお、カメムシ目カイガラムシ上科の一部の昆虫、アジア産のラックカイガラムシ、南ヨーロッパのケルメスカイガラムシ、アメリカ大陸原産のコチニールカイガラムシなどの体内色素を浸出させて得る色素はコチニール色素と呼ばれる[2]。地中海沿岸にはケルメスを染料に用いる文化があったが、アメリカ大陸からより染色しやすいコチニールが入手可能になると、ヨーロッパではケルメスはほとんど使われなくなった[2]。東アジアでも、16世紀以降にコチニール、19世紀半以降に合成染料が進出し、特に合成染料の普及によりラックの臙脂を用いる文化は廃れてしまった[1]。