近世きんせい

近世きんせい（きんせい、英語えいご: early modern period）とは、歴史れきし学がくにおける時代じだい区分くぶんのひとつ。中世ちゅうせいよりも後あとで、近代きんだいよりも前まえの時期じきを指さす。

概説がいせつ

近世きんせいを加くわえた4期きの時代じだい区分くぶん（古代こだい・中世ちゅうせい・近世きんせい・近代きんだい）は、ルネサンスを起源きげんとする伝統でんとう的てきな3期きの時代じだい区分くぶんの限界げんかいの上うえに案出あんしゅつされたもの。その始はじまりと終おわりには諸説しょせつある。

現在げんざいでは、西洋せいよう史しでも東洋とうよう史しでも適用てきようされている。西洋せいよう史上しじょうの「temps moderne」（フランス語ふらんすご）、「Frühe Neuzeit」（ドイツ語ご）、或あるいは「early modern period」（英語えいご）（いずれも下記かき参照さんしょう）といった用語ようごは、日本にっぽんでは「近世きんせい」と訳やくされ、日本にっぽんの「近世きんせい」が各国かっこくで紹介しょうかいされる際さいは、その逆ぎゃくである。これらの言葉ことばがそれぞれの言語げんごにおいて指さし示しめす対象たいしょうは多少たしょうのズレがあるものの、中世ちゅうせいと近代きんだいの間あいだにもう一いち時代じだいおくという認識にんしきは共通きょうつうしている。

ヨーロッパ

西洋せいよう史上しじょうでは、東ひがしロろーマ帝国まていこくの滅亡めつぼう及および、ルネサンス・宗教しゅうきょう改革かいかく・大だい航海こうかい時代じだいあたり（15世紀せいき - 16世紀せいき前半ぜんはん）から、市民しみん革命かくめい・産業さんぎょう革命かくめいの時代じだいの前ぜんあたり（18世紀せいき後半こうはん - 19世紀せいき初頭しょとう）までを指さす。主権しゅけん国家こっか体制たいせいや絶対ぜったい王政おうせいの確立かくりつなどによって定義ていぎされる。

• フランス（語かたり圏けん）では、16世紀せいきごろからフランス革命かくめいまでを「moderne」とし、それ以後いごから現在げんざいの歴史れきしまでを「contemporaine」とする。
• ドイツ（語かたり圏けん）では、アメリカ独立どくりつ革命かくめいやフランス革命かくめいのあたりまで、自国じこく史しでは神かみ聖きよしロろーマ帝国まていこくの崩壊ほうかい（1806年ねん）あたりまでを「初期しょき近代きんだい Frühe Neuzeit」と呼よぶことで、近代きんだい（Neuzeit）と分わけている。
• 英語えいご圏けんも、近世きんせいを「early modern」として、近代きんだい（modern）と分わけている。字義じぎ的てきには「初期しょきの近代きんだい」であるが、現代げんだいの歴史れきし学がくでは、「modern」と「early modern」は峻別しゅんべつされる。また、「Premodern」（前ぜん近代きんだい）という時代じだい概念がいねんが用もちいられる場合ばあい、普通ふつう「early modern」は中世ちゅうせいや古代こだいと共ともに「premodern」側がわに統括とうかつされ、ここからも単たんなる「modern」の初期しょき段階だんかいという認識にんしきではないことがうかがえよう。

アジア

中国ちゅうごく

中国ちゅうごくの歴史れきしでは、宋そう朝あさから、明あきら朝あさまたは清きよし朝あさまでとする内藤ないとう湖南こなん（前述ぜんじゅつ）・宮崎みやざき市し定じょうの京都きょうと学派がくはと、中世ちゅうせいから近世きんせいを経へずに近代きんだいへ繋つながるとする西嶋にしじま定じょう生せいら東京とうきょう学派がくはの間あいだで激はげしい論戦ろんせんが行おこなわれたが、結論けつろんの出でないままに終おわった（中国ちゅうごく史し時代じだい区分くぶん論争ろんそう）。

なお、何なにをもって「近世きんせい」とするかは、時代じだいによって変かわるため一定いっていしない。南北なんぼく朝あさ時代じだい、南朝なんちょう宋そうの裴松之のは、『三国志さんごくし』を「近世きんせいの嘉よしみ史し」と評ひょうした。裴松之のにとって、三さん国こく時代じだいはおおよそ150～250年ねん前まえの出来事できごとであった。

日本にっぽん

日本にっぽんでは「近世きんせい」という語かたりは古ふるくから用もちいられていたが、これを現在げんざいの使つかわれているような定義ていぎで、歴史れきし学がく上じょうの時代じだい区分くぶんとしたのは、後のちに京都きょうと帝国ていこく大学だいがく教授きょうじゅとなった内藤ないとう湖南こなんであり、西洋せいよう史しにおける伝統でんとう的てきな「古代こだい→中世ちゅうせい→近代きんだい」の三さん時代じだい区分くぶん論ろんでは日本にっぽんの歴史れきしをうまく捉とらえられないとして適用てきようされた。

近世きんせいの時代じだい範囲はんいは以下いかの3学説がくせつがある。

• ①元和がんわ元年がんねん（1615年ねん）の豊臣とよとみ氏しの滅亡めつぼうをもって近世きんせいの開始かいしとする。
• ②安土あづち桃山ももやま時代じだいと江戸えど時代じだいを合あわせたものを近世きんせいとする。
• ③戦国せんごく時代じだいと安土あづち桃山ももやま時代じだいと江戸えど時代じだいを合あわせたものを近世きんせいとする。

日本にっぽんの近世きんせいは、武家ぶけ政権せいけんによる統一とういつ支配しはいとして特徴付とくちょうづけられる。同おなじく武家ぶけによる支配しはいを特徴とくちょうとする中世ちゅうせいとは、強力きょうりょくな中央ちゅうおう政権せいけんの存在そんざいによって区別くべつされる。そのため、織田おだ政権せいけんと豊臣とよとみ政権せいけんを中央ちゅうおう政権せいけんと見みなすか否ひかで、中世ちゅうせいと近世きんせいの境界きょうかいが若干じゃっかん変かわることもある。

近世きんせいの始はじまりと終おわりを巡めぐっても、諸説しょせつある。代表だいひょう的てきなものを次つぎに挙あげる。

日本にっぽん史しでは主おもに江戸えど時代じだいを指さし、およそ江戸えど時代じだいの原型げんけいが成立せいりつする織田おだ信長のぶながの上洛じょうらく（1568年ねん）から徳川とくがわ慶喜よしのぶの大政奉還たいせいほうかん（1867年ねん）まで、すなわち、安土あづち桃山ももやま時代じだいと江戸えど時代じだいをあわせて近世きんせいとする説せつが一般いっぱん的てきであるが、1830年代ねんだいを近代きんだいの胎動たいどう期きとし、ペリーの来航らいこう（1853年ねん）と日米にちべい和親わしん条約じょうやくの締結ていけつ（1854年ねん）にはじまる開国かいこくを近世きんせいの終おわり＝近代きんだいの始はじまりとする説せつもある。

織田おだ政権せいけんは地方ちほうの戦国せんごく大名だいみょうによる政治せいじ機構きこうと変かわりがないとみなし、豊臣とよとみ政権せいけんからを近世きんせいとすることもある。

また、日本にっぽんの各かく地方ちほうの別べつにより、畿内きないの統一とういつ政権せいけん＝織お豊ゆたか政権せいけんの支配しはいに服ふくした年代ねんだい、あるいは関ヶ原せきがはらの戦たたかい以降いこうを当該とうがい地域ちいきの近世きんせいの始はじまりとすることがある。以下いかのその例れいを挙あげる。近世きんせいの終おわりは、幕末ばくまつ、戊辰戦争ぼしんせんそうおよび明治維新めいじいしんの時期じきについて諸説しょせつあり。

• 東北とうほく地方ちほう：奥州おうしゅう仕置しおき（天正てんしょう18年ねん、1590年ねん）、九戸くのへ政実まさみの乱らん（天正てんしょう19年ねん、1591年ねん） -
• 関東かんとう地方ちほう：小田原おだわら征伐せいばつ（天正てんしょう18年ねん、1590年ねん）または同年どうねん8月がつ1日にち、徳川とくがわ家康いえやすの入にゅう封ふう -
• 静岡しずおか県けん：上記じょうきの徳川とくがわ氏しの転てん封ふう -
• 大阪おおさか府ふ：関ヶ原せきがはらの戦たたかい -
• 山口やまぐち県けん：関ヶ原せきがはらの戦たたかい - 天保てんぽうの一揆いっき（1830年代ねんだい）
• 新潟にいがた県けん：慶長けいちょう3年ねん（1598年ねん）、堀ほり秀治しゅうじ（豊臣とよとみ系けい大名だいみょう）の入にゅう封ふう -
• 九州きゅうしゅう地方ちほう：豊臣とよとみ秀吉ひでよしの九州きゅうしゅう平定へいてい、九州きゅうしゅう国分こくぶ（天正てんしょう15年ねん、1587年ねん） -
• 沖縄おきなわ県けん：薩摩さつま藩はんによる琉球りゅうきゅう侵攻しんこう（1609年ねん） -

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