AN/SLQ-32

AN/SLQ-32は、レイセオン社しゃが開発かいはつした電子でんし戦せん装置そうち。電子でんし戦せん支援しえん（ESM）機能きのうのみのモデルと、電子でんし攻撃こうげき（ECM）機能きのうを有ゆうするモデルがあり、アメリカ海軍かいぐんおよびアメリカ沿岸えんがん警備けいび隊たいの艦船かんせんに広ひろく搭載とうさいされている。

来歴らいれき

アメリカ海軍かいぐんは、1960年代ねんだいよりAN/WLR-1電波でんぱ探知たんち装置そうちを運用うんようしてきた。またソビエト連邦れんぽう軍ぐんがK-10S（AS-2「キッパー」）（英語えいご版ばん）空そら対たい艦かんミサイルやP-15（SS-N-2「スティクス」）艦かん対たい艦かんミサイルなど対たい艦かんミサイルの配備はいびに着手ちゃくしゅしたことから、1960年代ねんだい末すえから1970年代ねんだい初頭しょとうにかけて、さらにAN/WLR-3レーダー警報けいほう受信じゅしん機き（RWR）やAN/ULQ-6 電波でんぱ妨害ぼうがい装置そうち（ECM）が追加ついかされた。その後ご、AN/WLR-1およびAN/ULQ-6が改良かいりょうを重かさねると共ともに、新型しんがたのESMとしてAN/WLR-8、RWRとしてAN/WLR-11、またECMとしてはAN/SLQ-17, 22, 23, 24, 26が順次じゅんじに開発かいはつ・配備はいびされ、とくにAN/WLR-8とAN/SLQ-17は、空母くうぼ向むけの統合とうごう電子でんし戦せん装置そうちとしてAN/SLQ-29を構成こうせいしていた。しかし、1967年ねんに発生はっせいしたエイラート撃沈げきちん事件じけんは、アメリカ海軍かいぐんの電子でんし戦せん体制たいせいに大おおきな衝撃しょうげきを与あたえた。エイラート事件じけん後ごに行おこなわれた研究けんきゅうにより、当時とうじのシステムでは、対たい艦かんミサイルの接近せっきんを十分じゅうぶんに早はやく探知たんちできず、有効ゆうこうな対処たいしょ手段しゅだんを講こうじえないことが明あきらかとなった^[1]。

1972年ねん、アメリカ海軍かいぐん作戦さくせん部長ぶちょうは、新あたらしい電子でんし戦せん装置そうちとして、DPEWS（Design-to-Price Electronic Warfare System）の開発かいはつを認可にんかした。ヒューズ社しゃのAN/SLQ-31とレイセオン社しゃのAN/SLQ-32が候補こうほとなったが、近距離きんきょりでの探知たんち能力のうりょくが評価ひょうかされて、1977年ねん 5月には、最初さいしょの契約けいやくがレイセオン社しゃとの間あいだに締結ていけつされた。1979会計かいけい年度ねんどにおいて初期しょき作戦さくせん能力のうりょく（IOC）の達成たっせいが宣言せんげんされ、1979年ねん 7月がつには「オリバー・ハザード・ペリー」にSLQ-32(V)2が搭載とうさいされた^[2]。

設計せっけい

SLQ-32は艦かんの戦闘せんとうシステムと緊密きんみつに統合とうごうされている（シェーマはFFG-7級きゅうの例れい）

AN/SLQ-32はモジュラー設計せっけいを採用さいようしており、艦かん種しゅ・大おおきさなどに応おうじて複数ふくすうのバリエーションが配備はいびされている。

主しゅたるアンテナは、直方体ちょくほうたいの1つの面めんの平行へいこうな2辺へんを切きり落おとした形かたち（六角形ろっかっけいの底面ていめんをもつ八はち面体めんてい）のタワー型がた構造こうぞうに集中しゅうちゅうして配置はいちされている。このタワー型がた構造こうぞうはロール方向ほうこうの動揺どうよう修正しゅうせいを施ほどこされており、通例つうれい、艦橋かんきょう構造こうぞうの両りょう舷側げんそくに設置せっちされる。なお無む指向しこう性せいアンテナは、従来じゅうらい通どおりにマスト上じょうに配置はいちされている。また情報処理じょうほうしょり用ようとして、(V)1～3ではAN/UYK-19コンピュータが用もちいられていた^[3]。

なお本ほん機きでは、対応たいおうする周波数しゅうはすうを下記かきの3つの周波数しゅうはすう帯たいに区分くぶんしている^[3]。

バンド1：B〜Dバンド（0.25〜2 GHz; レーダーのPバンドからLバンドに相当そうとう）
バンド2：E〜Iバンド（2〜10 GHz; レーダーのSバンドからXバンドに相当そうとう）
バンド3：H〜Jバンド（6〜20 GHz; レーダーのCバンドからKバンドに相当そうとう）

ESM

タワー型がた構造こうぞうの両側りょうがわ45度どの位置いちには、方向ほうこう探知たんち（DF）用ようアンテナ群ぐんが配置はいちされる。まず最さい上段じょうだんには、バンド3の方向ほうこう探知たんち用ようとして、66基きのホーンからなるリニアアレイ・アンテナが配置はいちされる。これらが受信じゅしんした信号しんごうは、ロットマン・レンズを介かいして17基きの受信じゅしん機きに入力にゅうりょくされる。有効ゆうこうビーム幅はばは5.3度どである^[3]。

その下段げだんには、バンド2の方向ほうこう探知たんち用ようとして、38基きのホーンからなるリニアアレイ・アンテナが配置はいちされる。これらが受信じゅしんした信号しんごうは、別べつのロットマン・レンズを介かいして、9基きの受信じゅしん機きに入力にゅうりょくされる。有効ゆうこうビーム幅はばは10度どである^[3]。

一方いっぽう、これらの平面へいめんアンテナの間あいだにあたるタワー型がた構造こうぞうの正面しょうめんには、準じゅん無む指向しこう性せいアンテナが半円はんえん筒とう形がたのレドームに収容しゅうようされて配置はいちされる。また1985年ねんにはバンド1の方向ほうこう探知たんち性能せいのう向上こうじょうを目的もくてきとした改修かいしゅうが発注はっちゅうされた。これによって、タワー型がた構造こうぞうから独立どくりつして、半円はんえん柱ばしら型がたのレドームに覆おおわれたレンズ・アンテナであるAS-3316が追加ついかされた^[3]。

ECM

一方いっぽう、これらのESM用ようアンテナ群ぐんの下方かほうには、ECM用ようのアンテナが装備そうびされることもある。これはバンド3を対象たいしょうとしており、35基きのホーンからなるリニアアレイ・アンテナで、32本ほんのビームを生成せいせいすることができる。送信そうしん機きとしては合計ごうけいで140本ほんの進行しんこう波は管かん（TWT）が用もちいられており、空中線くうちゅうせん電力でんりょくは1メガワットに達たっするとされている^[1]^[3]。

動作どうさモードとしては下記かきのようなものがあり、75個この目標もくひょうに対たいして、個別こべつにモードを指定していすることができる^[1]。

妨害ぼうがい
- 連続れんぞく波は（CW）
欺瞞ぎまん
- 距離きょり欺瞞ぎまん（RGPO） - 脅威きょういレーダーに対たいして距離きょり誤差ごさを与あたえるもの
- 角度かくど欺瞞ぎまん（AGPO） - 脅威きょういレーダーに対たいして角度かくど誤差ごさを与あたえるもの

また後のちには、電波でんぱ探知たんち装置そうちとして配備はいびされていたSLQ-32(V)2に対たいしてECM能力のうりょくを与あたえるためのサイドキック改修かいしゅうが行おこなわれた。これはタワー型がた構造こうぞうとは別べつに電波でんぱ妨害ぼうがい装置そうち（2面めんの平面へいめんアンテナを使用しよう）を搭載とうさいするものであり、上記じょうきのようなタワー型がた構造こうぞうに統合とうごうされたECM用ようアンテナよりも低てい出力しゅつりょくであった^[3]。

バージョン

SLQ-32には、用途ようとと世代せだいに応おうじて、下記かきのようなバージョンが存在そんざいする。

SLQ-32(V)1: もっとも単純たんじゅんなモデル。最さい上段じょうだんのESMアンテナ（バンド3用よう）のみを搭載とうさいしており、本質ほんしつ的てきにはレーダー警報けいほう受信じゅしん機き（RWR）である。少数しょうすうがフリゲートなど小型こがたの艦艇かんていや補助ほじょ艦艇かんていに搭載とうさいされていたが、ほとんどが(V)2にアップグレードされた。
SLQ-32(V)2: 最さい上段じょうだんと中段ちゅうだんのアンテナを搭載とうさいし、電波でんぱ探知たんち装置そうちとしてはフル機能きのうを備そなえるモデル。駆逐くちく艦かんやフリゲートなどに搭載とうさいされた。
SLQ-32(V)3: (V)2をもとに、ECM用ようの最さい下段げだんのアンテナを追加ついかしたモデルで、巡洋艦じゅんようかん以上いじょうの水上すいじょう戦闘せんとう艦かんなどに搭載とうさいされている。
SLQ-32(V)4: (V)3をもとに大型おおがた艦かんに対応たいおうして、構成こうせいサブシステムを2セットずつとしたモデルで、航空こうくう母艦ぼかんなどに搭載とうさいされている。
SLQ-32(V)5: (V)2をもとにサイドキック改修かいしゅうを施ほどこしたモデル。スターク被弾ひだん事件じけんを受うけて、フリゲート級きゅう艦艇かんていに電子でんし攻撃こうげき機能きのうを付与ふよするために開発かいはつされた。
SLQ-32(V)6・7: 下記かきのSEWIP計画けいかくによって開発かいはつされたモデルであり、ブロック2が(V)6、ブロック3が(V)7と称しょうされる^[4]。

AN/SLQ-32(v)1
AN/SLQ-32(v)2
AN/SLQ-32(v)3
AN/SLQ-32(v)5で追加ついかされたサイド・キック電子でんし妨害ぼうがい装置そうち

SEWIP

上記じょうきの通とおり、SLQ-32(V)シリーズは水上すいじょう艦かん用ようの電子でんし戦せん装置そうちとして長ながく運用うんようされてきたが、ロシアや中国ちゅうごくの対たい艦かんミサイル能力のうりょく向上こうじょうにともなって相対そうたい的てきな陳腐ちんぷ化かが指摘してきされるようになったことから、1996年ねんより、後継こうけい機きを開発かいはつするためのAIEWS（Advanced Integrated Electronic Warfare System）計画けいかくが開始かいしされて、1999年ねんには、これによって開発かいはつされたAN/SLY-2のプロトタイプが登場とうじょうした^[4]。しかしコスト超過ちょうかと開発かいはつの遅延ちえんのため、2002年ねんに計画けいかくはキャンセルされた^[4]。

これを受うけて、より漸進ぜんしん的てきな計画けいかくとして着手ちゃくしゅされたのがSEWIP（Surface Electronic Warfare Improvement Program）であった^[4]。本ほん計画けいかくでは、まずはSLQ-32で使用しようされている旧式きゅうしき部品ぶひんを近代きんだい化かすることとなり、2003年ねんにブロック1A、ついで1B1、1B2、2013年ねんにはブロック1B3と順次じゅんじに進すすめられていった^[4]。

2014年ねんには、SLQ-32のアンテナや受信じゅしん機きなどを改良かいりょうしてESM機能きのうを強化きょうかしたブロック2、2016年ねんにはアクティブECM機能きのうを強化きょうかして複数ふくすう目標もくひょうにも同時どうじ対処たいしょ可能かのうとなったブロック3が登場とうじょうした^[4]。また特とくにインド・太平洋たいへいよう地域ちいきでは中国ちゅうごくによる危機ききが増大ぞうだいしていることから、2013年ねん頃ごろからは、SLQ-32(V)のECM機能きのうを強化きょうかするためのモジュールとしてSLQ-59 TEWM（Transportable Electronic Warfare Module）の装備そうびが進すすめられており、これはSEWIPブロック3Tと位置いちづけられている^[4]。欧州おうしゅう・アフリカ地域ちいきの第だい6艦隊かんたいでも、能力のうりょく強化きょうかされたSLQ-62 TEWM STF（Speed To Fleet）の装備そうびが進すすめられている^[4]。2024年ねんには、「アーレイバーク級きゅう能力のうりょく向上こうじょう改修かいしゅう2.0」の一環いっかんとして太平洋艦隊たいへいようかんたいのミサイル駆逐くちく艦かん「ピンクニー」にSLQ-32(V)7が搭載とうさいされ、艦橋かんきょう脇わきに大おおきな張はり出だしが設もうけられた^[5]。

SEWIPは、対たい艦かん弾道だんどうミサイル（ASBM）を含ふくむ中国ちゅうごくの対たい艦かんミサイル能力のうりょく向上こうじょうへの対抗たいこう策さくとして重視じゅうしされており、その能力のうりょく向上こうじょうは、ヌルカ（英語えいご版ばん）アクティブ・デコイとともに海軍かいぐん作戦さくせん部長ぶちょうが定さだめる優先ゆうせん課題かだいに指定していされている^[6]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

出典しゅってん

^ ^a ^b ^c 小滝こだき 1991.
^ www.fas.org (1999年ねん6月がつ30日にち). “AN/SLQ-32 Electronic Warfare (EW) system” (英語えいご). 2010年ねん6月がつ27日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g Friedman 1997, pp. 549–552.
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h 多田ただ 2022.
^ 稲葉いなば義よし泰やすし「米べい海軍かいぐんイージス艦かんに「ダンボの耳みみ」追加ついか!? 取とってつけた巨大きょだいな張はり出だしこれぞ“超ちょう能力のうりょく”の証あかし！」『乗のりものニュース』、メディア・ヴァーグ、2024年ねん3月がつ14日にち。
^ 布施ふせ 2022.

参考さんこう文献ぶんけん

小滝こたき國雄くにお「対たい艦かんミサイル防御ぼうぎょの現状げんじょうと将来しょうらい第だい9回かい」『世界せかいの艦船かんせん』第だい438号ごう、海人あま社しゃ、90-95頁ぺーじ、1991年ねん7月がつ。
多田ただ智彦ともひこ「現代げんだいの艦載かんさい兵器へいき <第だい29回かい> 電子でんし戦せんシステム」『世界せかいの艦船かんせん』第だい971号ごう、海人あま社しゃ、141-148頁ぺーじ、2022年ねん5月がつ。
布施ふせ哲あきら「ASBM（対たい艦かん弾道だんどうミサイル）対処たいしょ能力のうりょくの発展はってんと前方ぜんぽう展開てんかい兵力へいりょくの脆弱ぜいじゃく性せいの克服こくふく ―米べい海軍かいぐんの新型しんがた電子でんし戦せんシステムを中心ちゅうしんに―」『海うみ幹みき校こう戦略せんりゃく研究けんきゅう』第だい12巻かん、第だい1号ごう、海上かいじょう自衛隊じえいたい幹部かんぶ学校がっこう、172-187頁ぺーじ、2022年ねん6月がつ。CRID 1520574721415618176。
Friedman, Norman (1997), The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems 1997-1998, Naval Institute Press, ISBN 9781557502681