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LE-5B - Wikipedia

LE-5Bは、日本にっぽん開発かいはつされたロケットエンジンH-IIAロケットH-IIBロケットだいだんエンジンであり、H3ロケットでも使用しようされている。

H-IロケットだいだんエンジンであるLE-5ながれをくみ、H-IIロケットだいだんエンジンLE-5Aをもとにおもにコストダウンをはかった改良かいりょうがた推進すいしんざい液体えきたい酸素さんそ(LOX)と液体えきたい水素すいそ(LH2)で真空しんくうちゅう推力すいりょくは137.2kN(=14トン)。

概要がいよう

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LE-5BはH-IIAロケットだいだんようとして、1995ねんから2000ねんにかけて開発かいはつされた。しゅ目的もくてき信頼しんらいせい向上こうじょう製造せいぞうコストの削減さくげんであり、そのためエンジンの性能せいのう指標しひょうとなる推力すいりょくは447びょうと、LE-5(450びょう)、およびLE-5A(452びょう)よりもわずかにひくい。ふくすうかい着火ちゃっか機能きのう再々さいさい着火ちゃっか能力のうりょく)や、微小びしょう推力すいりょく機能きのう(アイドルモード燃焼ねんしょう機能きのう[1])、スロットリング(推力すいりょく調整ちょうせい機能きのう[2]宇宙開発事業団うちゅうかいはつじぎょうだん(NASDA)が開発かいはつし、燃焼ねんしょうおよ艤装ぎそう製造せいぞう三菱重工業みつびしじゅうこうぎょう、ターボポンプの製造せいぞうIHIきゅう石川島播磨重工業いしかわじまはりまじゅうこうぎょう)がおこなっている。

H-IIロケット8号機ごうきだんはじめて使用しようされたが、ちゅうだいいちだんにトラブルが発生はっせいし、予定よていされたターボポンプの冷却れいきゃくやタンクの加圧かあつ不十分ふじゅうぶんなうちに起動きどうされたが、正常せいじょう機能きのうし、エキスパンダーブリードサイクルの高信頼こうしんらいせい実証じっしょうした。ロケット自体じたい軌道きどうらないためだいだん燃焼ねんしょう途中とちゅう指令しれい破壊はかいおこなった。以後いご実際じっさい最後さいごまで使用しようされたのはH-IIAロケット1号機ごうき最初さいしょである。

構造こうぞう

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エンジンサイクルはLE-5Aとおなエキスパンダブリードサイクルばれる型式けいしきで、ポンプで昇圧しょうあつされた燃料ねんりょうだい部分ぶぶん直接ちょくせつ燃焼ねんしょうしつおくまれるが、一部いちぶ燃料ねんりょう燃焼ねんしょう冷却れいきゃくし、同時どうじにタービンを駆動くどうするためのエネルギをる。この水素すいそガスでLH2ターボポンプおよびLOXターボポンプのタービンを直列ちょくれつ駆動くどうする。その、ノズルの壁面へきめん冷却れいきゃくするためにノズルない噴射ふんしゃされる。ただしLE-5Aは燃焼ねんしょうしつとノズルスカートの両方りょうほうでLH2の吸熱をおこなっていたが、LE-5Bでは燃焼ねんしょうしつのみで吸熱をしている。そのため、LE-5Aは「ノズルエキスパンダブリードサイクル」、LE-5Bは「チャンバエキスパンダブリードサイクル」と分類ぶんるいばれることもある。ノズルスカートに配管はいかんかよっていないため、LE-5Bではノズルスカートをはずした状態じょうたい大気たいきあつちゅう燃焼ねんしょう試験しけんおこなえる。たいし、LE-5Aはノズルスカートをはずせず、つけた状態じょうたい大気たいきあつちゅう燃焼ねんしょうさせるとノズルながれが剥離はくりするため、専用せんよう高空こうくう燃焼ねんしょう試験しけん設備せつび必要ひつようであった。

LE-5Bでは上記じょうきのように燃焼ねんしょうしつのみでLH2の吸熱をしているため、吸熱りょうかせぐために燃焼ねんしょうしつがLE-5Aよりもながくなっている。また燃焼ねんしょうしつ構造こうぞうも、LE-5Aのじゅんニッケルチューブをろうしたかん構造こうぞうから、LH2ながみぞった酸素さんそどううちつつと、その外側そとがわどうでんそうからなる「どうでんみぞ構造こうぞう」とばれる構造こうぞう変更へんこうされた。これはH-IIロケット5号機ごうきでの事故じこ(LE-5A燃焼ねんしょうしつのチューブあいだろう破損はそん)をまえたものである。

燃焼ねんしょうしつ燃料ねんりょう酸化さんかざい噴射ふんしゃする噴射ふんしゃ製造せいぞうコスト削減さくげんのためLE-5・5Aより簡略かんりゃくされており、同軸どうじくがた噴射ふんしゃエレメントが208から127減少げんしょうしている(LE-5B-2ではふたた増加ぞうかしている)。

再々さいさい着火ちゃっか能力のうりょく

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LE-5ファミリーはさい着火ちゃっか能力のうりょくつが、とくにLE-5Bはアメリカのセントール上段じょうだんRL10同様どうよう再々さいさい着火ちゃっか能力のうりょくっている。これによりロングコースト静止せいしトランスファ軌道きどうへのげが可能かのうとなり、静止せいし軌道きどう投入とうにゅうされるさい衛星えいせいがわ軌道きどう遷移せんいよう噴射ふんしゃ少量しょうりょうみ、衛星えいせい長寿ちょうじゅいのちもしくは軽量けいりょう小型こがたできる。すなわち再々さいさい着火ちゃっか実用じつようされれば、軌道きどう遷移せんいのための衛星えいせい自身じしんによる噴射ふんしゃ少量しょうりょうみ、赤道あかみち直下ちょっかからげるロケットとも対抗たいこうできるほど静止せいし軌道きどうへのロケットげのさい商業しょうぎょう受注じゅちゅうかんする競争きょうそうりょくたかまる[3]

ただし内蔵ないぞう電源でんげんなどのだい2だん機体きたい制約せいやくじょうながらく再々さいさい着火ちゃっかおこなっての運用うんよう実用じつようされず、これを実現じつげんするために2011ねんから「基幹きかんロケット高度こうど」とばれるだい2だん機体きたい中心ちゅうしんとした改良かいりょう開発かいはつおこなわれてきた。そして2015ねん11月24にちのH-IIA29号機ごうきはじめて「基幹きかんロケット高度こうど」のいち要素ようその「静止せいし衛星えいせい対応たいおう能力のうりょく向上こうじょう」がはつ適用てきようされて、再々さいさい着火ちゃっかおこなっての運用うんようおこなわれた[3]

なお、実用じつようのための宇宙うちゅう空間くうかんでのはつ再々さいさい着火ちゃっか試験しけんについては、当初とうしょ1999ねん11月のH-IIロケット8号機ごうきおこな予定よていだった[4]が、途中とちゅう指令しれい破壊はかいおこなわれたためおこなわれず、2002ねん2がつのH-IIA試験しけん2号機ごうきつばさ分離ぶんりげ1あいだ40ふんはじめて[よう出典しゅってん]再々さいさい着火ちゃっかおこなわれた[5][6][7]。また着火ちゃっかはしていないが、H-IIA試験しけん1号機ごうき[5]、7[8]、21[9]、24[10]、26[11]号機ごうきでも実用じつようけた先行せんこうてき実験じっけんおこなわれた。

H-IIAロケット3号機ごうきにおいてだいだん燃焼ねんしょうちゅうにそれまでの飛翔ひしょう比較ひかくしておおきい振動しんどう確認かくにんされた。このとき振動しんどうレベルは衛星えいせい規程きてい以下いかであり、衛星えいせい問題もんだいはなかった。機軸きじく方向ほうこう(ロケットの長手ながて方向ほうこう)の振動しんどう原因げんいんは、だい2だん機体きたい固有こゆう振動しんどう起因きいんするLE-5Bエンジンの燃焼ねんしょうあつ変動へんどうであるとされている。H-IIAロケット10号機ごうき以降いこうは、だい2だん推進すいしんやくタンクの加圧かあつ若干じゃっかん増加ぞうかさせることで振動しんどう軽減けいげんしている。

2003ねん3がつからこの振動しんどうしゅ要因よういんひとつである燃焼ねんしょう圧力あつりょく変動へんどう低減ていげん目的もくてきとして、LE-5B-2エンジンの開発かいはつ開始かいしされた[12]設計せっけい変更へんこうはミキサーと噴射ふんしゃについておこなわれた。ミキサーにおいては噴射ふんしゃあな位相いそう変更へんこうすることで噴射ふんしゃ流入りゅうにゅうする液体えきたい水素すいそ混合こんごう促進そくしんした。噴射ふんしゃにおいてはマニホールドないりゅう整流せいりゅうする仕切しきばんもうけるとともに、噴射ふんしゃエレメントの小型こがたはかり、エレメントすう増加ぞうかさせることで、燃焼ねんしょうしつ噴射ふんしゃする液体えきたい酸素さんそ微粒びりゅう促進そくしんした。これらの改良かいりょうによってペイロードにかかる振動しんどう燃焼ねんしょう圧力あつりょく変動へんどう従来じゅうらいの50%におさえることに成功せいこうしている[13]

H-IIAロケット14号機ごうき以降いこう使用しようされ、H-IIBロケットにも使用しようされている。

H3ロケットのだいだんようエンジンとして開発かいはつされ、LE-5B-2とくらべててい燃費ねんぴ長寿ちょうじゅいのちはかられている。おも改良かいりょう部位ぶい高温こうおん水素すいそガスと低温ていおん液体えきたい酸素さんそ混合こんごうさせる配管はいかん(ミキサー)と液体えきたい水素すいそターボポンプのタービンで、ミキサーの改良かいりょうにより推力すいりょくがLE-5B-2の446.6びょうから448.0びょう向上こうじょうされ、タービンの改良かいりょうによりH-IIAのLE-5B-2の作動さどう時間じかん534びょう大幅おおはばえるH3作動さどう時間じかん740びょうにもえられるようになっている[14]

2019ねん2がつ18にち燃焼ねんしょう試験しけん完了かんりょうした[15]

2023ねん3がつ7にち、H3初号しょごう2だん実装じっそうされげられるも、とうエンジンが点火てんかせず、指令しれい破壊はかい信号しんごう送信そうしんされた[16]原因げんいんはLE-5B-3の電力でんりょくけいでの電流でんりゅう検知けんち電源でんげん供給きょうきゅう自動じどう停止ていししたことだった[17]

主要しゅようしょもと

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LE-5ファミリー主要しゅようしょもと一覧いちらん
LE-5 LE-5A LE-5B
燃焼ねんしょうサイクル ガスジェネレータサイクル エキスパンダブリードサイクル
(ノズルエキスパンダ)
エキスパンダブリードサイクル
(チャンバエキスパンダ)
真空しんくうちゅう推力すいりょく kN 102.9(10.5 tf) 121.5(12.4 tf) 137.2(14 tf)
混合こんごう 5.5 5 5
膨張ぼうちょう 140 130 110
空中くうちゅう推力すいりょく s 449 452 447
燃焼ねんしょう圧力あつりょく MPa 3.61 3.98 3.62
LH2ターボポンプ駆動くどうガス温度おんど k やく850 やく600 やく400
LH2ターボポンプ回転かいてんすう min-1 50,600 52,200 52,100
LOXターボポンプ回転かいてんすう min-1 16,500 17,400 17,700
全長ぜんちょう m 2.67 2.69 2.74
質量しつりょう kg 255 248 285
さい着火ちゃっか能力のうりょく 1かい 回数かいすう 回数かいすう
その機能きのう スロットル 60%
アイドル燃焼ねんしょう推力すいりょく 4 kNじゃく

出典しゅってん

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ アイドルモード燃焼ねんしょう機能きのうは、ターボポンプを回転かいてんさせずにタンクの圧力あつりょくだけで燃焼ねんしょうさせる。推力すいりょくは1/30程度ていど重量じゅうりょう状態じょうたいでの着火ちゃっか予備よび加速かそく使つかわれる。ターボポンプでの燃焼ねんしょうにタンクにのこっている燃料ねんりょう有効ゆうこう使つかうこともできる。
  2. ^ JAXA宇宙うちゅう輸送ゆそうミッション本部ほんぶLE-5B(概要がいよう燃焼ねんしょう試験しけん)”. JAXA. 2010ねん11月21にち閲覧えつらん
  3. ^ a b 基幹きかんロケット高度こうど”. JAXA. 2015ねん11月25にち閲覧えつらん
  4. ^ H-IIロケット8号機ごうき/MTSAT打上うちあ主要しゅようイベントスケジュール”. 2003ねん9がつ30にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2016ねん8がつ6にち閲覧えつらん
  5. ^ a b H-IIAロケット試験しけん2号機ごうき準備じゅんびじょうきょうについて』(プレスリリース)2001ねん10がつ22にちhttps://www.jaxa.jp/press/nasda/2001/h2af2junbi_011022_j.html2016ねん8がつ6にち閲覧えつらん 
  6. ^ 鳥嶋とりしま也 (2015ねん10がつ2にち). 世界せかいいつけるか 「高度こうど」H-IIAロケット、ここに誕生たんじょうす 3 これからがH-IIAと日本にっぽん商業しょうぎょうげのはじまり(前編ぜんぺん)”. マイナビニュース テクノロジー. https://news.mynavi.jp/techplus/article/h2a_29-3/ 
  7. ^ H-IIAロケット試験しけん2号機ごうき打上うちあ結果けっかについて』(プレスリリース)2002ねん2がつ27にちhttps://www.jaxa.jp/press/nasda/2002/h2a_020227_j.html2016ねん8がつ8にち閲覧えつらん 
  8. ^ H-IIAロケット7号機ごうき 再々さいさい着火ちゃっか実験じっけん結果けっかについて』(プレスリリース)2005ねん2がつ26にちhttps://www.jaxa.jp/press/2005/02/20050226_h2af7-ignition_j.html2016ねん8がつ6にち閲覧えつらん 
  9. ^ H-IIAロケット21号機ごうき打上うちあげげについて』(プレスリリース)宇宙うちゅう航空こうくう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこう、2012ねん3がつ21にちhttps://www.jaxa.jp/press/2012/03/20120321_sac_h2af21_j.html2016ねん8がつ6にち閲覧えつらん 
  10. ^ H-IIAロケット24号機ごうき打上うちあげげについて』(プレスリリース)三菱重工業みつびしじゅうこうぎょう株式会社かぶしきがいしゃ宇宙うちゅう航空こうくう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこう、2014ねん3がつ14にちhttps://www.jaxa.jp/press/2014/03/20140314_h2af24_j.html2015ねん9がつ22にち閲覧えつらん 
  11. ^ “いつもとは一味いちみちがう” H-IIAロケット26号機ごうき反映はんえいされた「基幹きかんロケット高度こうど技術ぎじゅつ”. 宇宙うちゅう航空こうくう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこう (2014ねん12月1にち). 2016ねん8がつ6にち閲覧えつらん
  12. ^ 改良かいりょうがたLE-5BエンジンおよびあらたなSRB-Aの開発かいはつ概要がいよう (JAXA)
  13. ^ 改良かいりょうがたLE-5Bエンジンの飛行ひこう結果けっか および あらたなSRB-Aとう開発かいはつ概要がいよう (JAXA)
  14. ^ LE-5B 設計せっけい改良かいりょう (2) LE-5B-2からLE-5B-3へ JAXA公式こうしきサイト
  15. ^ トピックス一覧いちらん LE-5B-3エンジン開発かいはつ試験しけん完了かんりょう JAXA公式こうしきサイト
  16. ^ https://sorae.info/ssn/20230307-h3-failure.html
  17. ^ 日経にっけいクロステック(xTECH) (2023ねん4がつ28にち). “電流でんりゅう検知けんちしてだい2だん電源でんげん遮断しゃだん H3失敗しっぱいしぼまれた3つの原因げんいん”. 日経にっけいクロステック(xTECH). 2024ねん10がつ23にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん

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  1. 機械きかい工学こうがく便覧びんらん 応用おうようシステムへんγがんま11 宇宙うちゅう機器きき・システム」(日本にっぽん機械きかい学会がっかいへん,2007ねんISBN 978-4-88898-154-5

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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