赤狩り

赤狩あかがり（あかがり、英えい: Red Scare）は、政府せいふが国内こくないの共産きょうさん党員とういんおよびそのシンパ（sympathizer：同調どうちょう者しゃ、支持しじ者しゃ）を、公職こうしょくを代表だいひょうとする職しょくなどから追放ついほうすること。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの冷戦れいせんを背景はいけいに、主おもにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとその友好国ゆうこうこくである西側にしがわ諸国しょこくで行おこなわれた。

概要がいよう

ローゼンバーグ事件じけんに代表だいひょうされる共産きょうさん主義しゅぎ者しゃによる深刻しんこくな諜報ちょうほう活動かつどうに加くわえ、1946年ねんからの東欧とうおうにおける、また1949年ねんの中国ちゅうごく大陸たいりくにおける国共こっきょう内戦ないせんの末すえの共産きょうさん主義しゅぎ政権せいけんの成立せいりつ、1948年ねんから1949年ねんにかけてのベルリン封鎖ふうさ、および1950年ねんから1953年ねんの朝鮮ちょうせん戦争せんそうにおけるソビエト連邦れんぽうや中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくからの圧迫あっぱくにより高たかまった緊張きんちょうに対たいして増大ぞうだいする懸念けねんに合あわせたものである。この場合ばあいの「赤あか」は共産党きょうさんとうおよびその支持しじ者しゃを指さす。日本語にほんごの名称めいしょうである赤狩あかがりに対応たいおうする英語えいごの名称めいしょうRed Scareは"共産きょうさん主義しゅぎの恐怖きょうふ"の意味いみであり、増大ぞうだいしていた共産きょうさん主義しゅぎ者しゃの活動かつどうに対たいする強つよい懸念けねんを示しめしている。

連合れんごう国こくの占領せんりょう下かの日本にっぽんにおいてマッカーサーの指令しれいで行おこなわれたそれは、レッドパージの項こうを参照さんしょう。

日本にっぽんでは、赤狩あかがりの他ほかに、日本語にほんごでレッド・パージ （英語えいごでの Red Purge に由来ゆらい）と言いう場合ばあいもある。

マッカーシズム

詳細しょうさいは「マッカーシズム」を参照さんしょう

マッカーシーと非ひ米べい活動かつどう委員いいん会かい

ジョセフ・マッカーシー

マッカーシズムは、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの冷戦れいせん初期しょき、1948年ねん頃ごろより1950年代ねんだい前半ぜんはんにかけて行おこなわれたアメリカにおける共産きょうさん党員とういん、および共産党きょうさんとうシンパと見みられる人々ひとびとの排除はいじょの動うごきを指さす。

1953年ねんより上院じょういん政府せいふ活動かつどう委員いいん会かい常設じょうせつ調査ちょうさ小しょう委員いいん会かいの委員いいん長ちょうを務つとめ、下院かいんの下院かいん非ひ米べい活動かつどう委員いいん会かいとともに率先そっせんして「赤狩あかがり」を進すすめた共和党きょうわとう右派うはのジョセフ・マッカーシー上院じょういん議員ぎいんの名なを取とって名なづけられた。マッカーシーに協力きょうりょくした代表だいひょう的てきな政治せいじ家かは、リチャード・ニクソンとロナルド・レーガンである。

影響えいきょう

マッカーシーらに「共産きょうさん主義しゅぎ者しゃ」や「ソ連それんのスパイ」、もしくは「その同調どうちょう者しゃ」だと糾弾きゅうだんされたのは、アメリカ政府せいふ関係かんけい者しゃやアメリカ陸軍りくぐん関係かんけい者しゃだけでなく、ハリウッドの芸能げいのう関係かんけい者しゃや映画えいが監督かんとく、作家さっか。さらにはアメリカの影響えいきょうが強つよい同盟どうめい国こくであるカナダ人ひとやイギリス人ひと、日本人にっぽんじんなどの外国がいこく人じんにまで及および、「赤狩あかがり」の影響えいきょうは西側にしがわ諸国しょこく全体ぜんたいに行いき渡わたることになる。

なかでも影響えいきょうが大おおきかったのが国務省こくむしょうにおいて東ひがしアジア外交がいこうを担当たんとうしていたチャイナ・ハンズと呼よばれる外交がいこう官かんだった。当時とうじ中国ちゅうごくについて豊富ほうふな知見ちけんを有ゆうしたものの、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんの対たい日にち戦せんにおいて中国共産党ちゅうごくきょうさんとう軍ぐんを支援しえんするなど共産きょうさん主義しゅぎ者しゃとの接触せっしょくがあったこれらの大半たいはんが、その過去かこの経歴けいれきと、その後ご中国ちゅうごく国民党こくみんとうが中国共産党ちゅうごくきょうさんとうに敗北はいぼくした責任せきにんを問とわれて免職めんしょくされた。その結果けっか、国務省こくむしょうの東ひがしアジア局きょくから対たい中国ちゅうごく専門せんもん家かが一掃いっそうされた。

その後ごの対たい中国ちゅうごくの外交がいこう政策せいさくの穴あなを埋うめたのは欧州おうしゅう専せん門もんの外交がいこう官かん達たちで、彼かれらの多おおくは日本にっぽんや東南とうなんアジア諸国しょこくなどの同盟どうめい国こくはおろか、中華民国ちゅうかみんこく政府せいふ統治とうち下かの中国ちゅうごく大陸たいりくにも一いち度ども足あしを運はこんだことが無なかった。この「アジア専門せんもん家かの空白くうはく」が、後のちにアメリカをしてアジア外交がいこうを誤あやまらせ、泥沼どろぬまのベトナム戦争せんそうにアメリカを引ひきずり込こんだ遠因えんいんとなったとバーバラ・W・タックマンやデービッド・ハルバースタムはその著書ちょしょに書かいているが、これには異論いろんも多おおい。

「共産きょうさん主義しゅぎ者しゃ」の追放ついほうという大義名分たいぎめいぶんを笠かさに着きたマッカーシー議員ぎいんや、その右腕うわんとなった若手わかて検察官けんさつかんのロイ・コーンなどによる、偽にせの「共産きょうさん主義しゅぎ者しゃリスト」の提出ていしゅつに代表だいひょうされる様ような様々さまざまな偽証ぎしょうや事実じじつの歪曲わいきょくや、容疑ようぎ者しゃに対たいする自白じはくや協力きょうりょく者しゃの告発こくはつ、密告みっこくの強要きょうようまでを取とり入いれた強引ごういんな手法しゅほうが、マスコミや野党やとうである民主党みんしゅとうから大おおきな反感はんかんを買かうことになる。

また、チャールズ・チャップリンやダルトン・トランボを始はじめとした優すぐれたハリウッド関係かんけい者しゃも追放ついほうされたり、偽名ぎめいなどでの活動かつどうを余儀よぎなくされた。この事ことからハリウッドを始はじめとするエンターテインメント業界ぎょうかいが共和党きょうわとうのライバルである民主党みんしゅとうを支持しじしている者ものが多おおい一因いちいんにもなっている。

終焉しゅうえん

エドワード・R・マロー

当初とうしょはマッカーシーの強硬きょうこうな姿勢しせいが国民こくみんから大おおきな支持しじを受うけたものの、マスコミをはじめ政府せいふ、軍部ぐんぶ内ないにマッカーシーに対たいする批判ひはんが広ひろがる中なか、1954年ねん3月9日にちには、ジャーナリストのエドワード・R・マローにより、自みずからがホストを務つとめるCBSのドキュメンタリー番組ばんぐみ「See it Now」の特別とくべつ番組ばんぐみ内ないで、違法いほうな手法しゅほうで「赤狩あかがり」を進すすめるマッカーシーに対たいする批判ひはんキャンペーンを行おこなったことを皮切かわきりに、国民こくみんの間あいだにも広ひろくマッカーシーに対たいする批判ひはんが広ひろがる。

その様ような中なかで政府せいふ、軍部ぐんぶ内ないにもマッカーシーに対たいする批判ひはんが広ひろがり、同年どうねんの12月2日にちに、上院じょういんは65対たい22でマッカーシーに対たいして「上院じょういんに不名誉ふめいよと不評判ふひょうばんをもたらすよう行動こうどうした」として事実じじつ上じょうの不信任ふしんにんを突つきつけ、ここに「マッカーシズム=アメリカにおける赤狩あかがり」は終焉しゅうえんを迎むかえることになる。

その後ごの経過けいか

マッカーシズムが吹ふき荒あれた中なかで、自みずからが標的ひょうてきとなることに対たいする恐怖きょうふによって、アメリカ国内こくないにおけるマスコミの報道ほうどうや表現ひょうげんの自由じゆうに自主じしゅ規制きせいがかかったことや、同おなじ理由りゆうから告発こくはつや密告みっこくが相次あいついだことなどから、多おおくの人々ひとびとに対たいして大おおきなダメージを与あたえた。また、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん前後ぜんこうを通つうじてアメリカが掲かかげた「自由じゆう主義しゅぎで民主みんしゅ主義しゅぎの国くに」という言葉ことばに対たいし、国内外こくないがいから多おおくの疑問ぎもんが呈ていされたが、この事件じけんは最終さいしゅう的てきに自浄じじょう作用さようによって終焉しゅうえんを迎むかえた。

告発こくはつ・密告みっこく者しゃ

ロイ・コーン

• ロイ・コーン
• ロナルド・レーガン
• リチャード・ニクソン
• エリア・カザン
• ゲイリー・クーパー
• ウォルト・ディズニー

容疑ようぎ者しゃ

• ロバート・オッペンハイマー
• オーエン・ラティモア（Owen Lattimore）
• ヴィクター・バーガー
• アーヴィング・ペレス（Irving Peress）
• ハリウッド・テン
• チャーリー・チャップリン
• ジュリアス・ローゼンバーグ（Julius Rosenberg） - ローゼンバーグ事件じけん参照さんしょう
• エセル・ローゼンバーグ（Ethel Greenglass Rosenberg） - ローゼンバーグ事件じけん参照さんしょう
• ウィリアム・レミントン（William Remington）
• エドガートン・ハーバート・ノーマン
• ジョン・ガーフィールド
• ダシール・ハメット
• ジョン・ヒューストン
• ウィリアム・ワイラー

レッドパージ

詳細しょうさいは「レッドパージ」を参照さんしょう

レッドパージ（Red purge）は、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの1950年ねん当時とうじ、アメリカ軍ぐんを中心ちゅうしんとした連合れんごう国軍こくぐん占領せんりょう下かの日本にっぽんにおいてマッカーサーGHQ総そう司令しれい官かんの指令しれいにより、共産きょうさん党員とういんとシンパ（同調どうちょう者しゃ）が公職こうしょくや企業きぎょうから次々つぎつぎに追放ついほうされた動うごき。1万まんを超こえる人々ひとびとが職しょくを失うしなったと言いわれる。なお、アメリカ本国ほんごくでの共産きょうさん主義しゅぎ者しゃ追放ついほうを指さす場合ばあいには「レッド・パージ」とは言いわない。

考かんがえられる原因げんいん

• GHQの急激きゅうげきな民主みんしゅ化か政策せいさく
  • ソ連それんなどの共産きょうさん主義しゅぎ国こくからの支援しえんを受うけた日本にっぽん共産党きょうさんとうや日本にっぽん社会党しゃかいとうなど左派さは政党せいとうの勢力せいりょく増大ぞうだい
  • 労働ろうどう運動うんどうが過か激化げきか
• 中国ちゅうごくの国共こっきょう内戦ないせんで中国共産党ちゅうごくきょうさんとうが勝利しょうりし、中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくの設立せつりつ
• 朝鮮半島ちょうせんはんとうで戦争せんそうの危険きけん性せいが高たかまったことと、その後ごの朝鮮ちょうせん戦争せんそうの勃発ぼっぱつ
• 下山げざん事件じけん、三鷹みたか事件じけん、松川まつかわ事件じけん（国鉄こくてつ三さん大だいミステリー事件じけん）に日本にっぽん共産党きょうさんとうや労働ろうどう組合くみあい関係かんけい者しゃの関与かんよが疑うたがわれ、共産党きょうさんとうによるテロ・破壊はかい活動かつどうであると宣伝せんでんされる

赤狩あかがりを扱あつかった作品さくひん

• 戯曲ぎきょく『るつぼ』（1692年ねんのセイラム魔女まじょ裁判さいばんという事件じけんを題材だいざいに、赤狩あかがりが横行おうこうしていた執筆しっぴつ当時とうじ1953年ねんの世相せそうをなぞらえた戯曲ぎきょく。作さく・アーサー・ミラー。1957年ねんに『サレムの魔女まじょ』、1996年ねんに『クルーシブル』として映画えいが化か）
• 映画えいが『追憶ついおく』（1973年ねん）
• 映画えいが『ウディ・アレンのザ・フロント』（1976年ねん）
• 映画えいが『真実しんじつの瞬間しゅんかん』（1991年ねん）
• テレビ映画えいが『虚偽きょぎ シチズン・コーン（Citizen Cohn）』（別べつ邦題ほうだい：赤狩あかがり/マッカーシーの右腕うわんと呼よばれた男おとこ）（1992年ねん）
• 映画えいが『マジェスティック』（2001年ねん）
• 映画えいが『グッドナイト&グッドラック』（2005年ねん）
• 映画えいが『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国おうこく』（2008年ねん）
• 映画えいが『トランボ ハリウッドに最もっとも嫌きらわれた男おとこ』（2015年ねん）
• 映画えいが『オッペンハイマー』（2023年ねん）
• 漫画まんが『赤狩あかがり THE RED RAT IN HOLLYWOOD』（山本やまもとおさむ）

関連かんれん項目こうもく

人物じんぶつ

• ジョージ・ケナン
• ドワイト・D・アイゼンハワー
• ジョン・エドガー・フーヴァー

その他た

• パーマー・レイド
• レッドパージ
• FBI (連邦れんぽう捜査そうさ局きょく)
• フォーリン・アフェアーズ