クラフトビール

クラフトビール (英語えいご: craft beer) とは、英語えいごで「職人しょくにん技わざのビール」「手作てづくりのビール」などを意味いみする表現ひょうげんで、大手おおてのビール会社かいしゃが量産りょうさんするビールと対比たいひして用もちいられる概念がいねん。日本語にほんごではクラフトビアと表現ひょうげんされることもある。地じビールとも呼称こしょうされる。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおける「craft beer」

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおける小規模しょうきぼなビール醸造じょうぞう所しょ（マイクロブルワリー）の業界ぎょうかい団体だんたいであるブルワーズ・アソシエーション (BA) は、クラフト・ブルワリー (craft brewery) を 「小規模しょうきぼ、独立どくりつ、伝統でんとう的てき (small, independent and traditional)」と定義ていぎしている。具体ぐたい的てきには、年間ねんかん生産せいさん量りょうが600万まんバレル（米国べいこくビール用ようバレル）（約やく70万まんキロリットル）以下いか、自身じしんがクラフト・ブルワーではない他ほかの酒類しゅるい製造せいぞう業者ぎょうしゃの支配しはいする資本しほん（株式かぶしき）が25%未満みまん、伝統でんとう的てき手法しゅほうに革新かくしんを盛もり込こんだ原料げんりょうと発酵はっこう技法ぎほうを用もちいることがクラフト・ブルワリーの条件じょうけんとされている。

ブルワーズ・アソシエーションの定義ていぎは、2011年ねん1月がつまでは、年間ねんかん生産せいさん量りょうの上限じょうげんを200万まんバレルとしていた。クラフト・ブルワリーとして最大さいだい規模きぼであったサミュエル・アダムズを製造せいぞうするボストン・ビール社しゃがこの基準きじゅんを超こえる見込みこみとなったことを受うけて、基準きじゅんが引ひき上あげられた。この上限じょうげん引ひき上あげによって、それまでは規模きぼの上うえでクラフト・ブルワリーとされていなかったイングリングが、最大さいだいのクラフト・ブルワリーということになった。

クラフト・ブルワリーの製造せいぞうするビールがクラフトビールということになるが、その製造せいぞうにあたっては伝統でんとう的てきな原料げんりょう、手法しゅほうが尊重そんちょうされながらも、併合へいごうされる添加てんか物ぶつによって様々さまざまな風味ふうみなどが工夫くふうされ、多様たような製品せいひんが生うまれることもクラフトビールの特徴とくちょうとされる。

一応いちおうの定義ていぎを提示ていじしているブルワーズ・アソシエーションだが、他方たほうでは「ブルワーズ・アソシエーションがクラフト・ビールの定義ていぎを定さだめていないのは、何なにがクラフト・ビールかは飲のみ手て次第しだいだと考かんがえるからであるが、ビール醸造じょうぞうを主おもな事業じぎょうとしている限かぎり、どのようなタイプのビールをクラフト・ブルワーが醸造じょうぞうするかで区別くべつをするようなこともない。(Since the Brewers Association doesn’t define craft beer — that idea remains up to the beer drinker — the definition doesn’t differentiate on what type of beer craft brewers brew, as long as the majority of what they make is beer.)」とも述のべている。

クラフティ・ビール

ブルワーズ・アソシエーションの定義ていぎから外はずれるビールであっても、クラフトビールと呼よばれることもある。「クラフト風ふうビール」という意味いみで、「クラフティ・ビール (crafty beer)」という表現ひょうげんがなされることもある。

大手おおてビール会社かいしゃが、クラフトビールに準じゅんじる手法しゅほうで生産せいさんしているブランドの例れいとしては、ミラークアーズ (MillerCoors) が生産せいさんするブルームーンやアンハイザー・ブッシュのジーゲンボック、ショック・トップ (Chock Top) などがある。元々もともとは独立どくりつしていたブルワリーが大手おおてビール会社かいしゃの傘下さんかに入はいった例れいとしては、ミラークアーズ傘下さんかのキリアンズやアンハイザー・ブッシュ傘下さんかのグースアイランド・ブルワリーなどの例れいがある。カナダのケベック州しゅうで生産せいさんされているユニブルーも、元々もともとは独立どくりつしたブルワリーであったが、その後ご、サッポロビールの傘下さんかに入はいって合衆国がっしゅうこくでの流通りゅうつうが増ふえ、同様どうようの位置付いちづけになっている。

流通りゅうつう

アメリカ国内こくないでは、ビールを含ふくむアルコール類るいを州しゅう外がいに出荷しゅっかするためには当局とうきょくの承認しょうにんが必要ひつようになること。また、ビールの製造せいぞう会社かいしゃはアメリカ財務省ざいむしょう（酒類しゅるいタバコ税ぜい貿易ぼうえき管理かんり局きょく）からラベルに関かんする認証にんしょうを得える必要ひつようがあるなどの製造せいぞう・流通りゅうつうに関かんする制限せいげんがあり、小規模しょうきぼなクラフトビールの製造せいぞう会社かいしゃの負担ふたんは大おおきくなる。2018年ねん末すえから2019年ねん初頭しょとうにかけて長期間ちょうきかんの政府せいふ閉鎖へいさが行おこなわれた際さいには、一部いちぶクラフトビール製造せいぞう会社かいしゃが政府せいふの認証にんしょうを取とれなくなり、出荷しゅっかができない状態じょうたいに陥おちいった。

日本にっぽんにおけるクラフトビール・地じビール

→詳細しょうさいは「日本にっぽんの地じビール」を参照さんしょう

2018年ねん時点じてんで、日本にっぽんにはクラフトビール・メーカーが141社しゃある（帝国ていこくデータバンクの調査ちょうさ）。

日本にっぽんでは、1994年ねんの酒税しゅぜい法ほう改正かいせいによりビールの最低さいてい製造せいぞう数量すうりょう基準きじゅんが2,000キロリットルから60キロリットルに引ひき下さげられ、全国ぜんこく各地かくちにマイクロブルワリーに相当そうとうする小規模しょうきぼなビール醸造じょうぞう会社かいしゃが登場とうじょうして、「地じビール」と総称そうしょうされるようになり、一時いちじは300社しゃ以上いじょうの地じビール会社かいしゃがあった。当初とうしょのブームは2003年ねん頃ころには終息しゅうそくし、地じビール会社かいしゃの数かずは200社しゃほどに落おち着ついたが、以降いこうは「地じビール」に代かえて、「小規模しょうきぼなビール醸造じょうぞう所しょでビール職人しょくにんが精魂せいこん込こめて造つくっているビール」、「品質ひんしつを重視じゅうしして、ビール職人しょくにんが手塩てしおにかけて造つくるビール」といった含意がんいで「クラフトビール」をキーワードとし、小規模しょうきぼビール生産せいさん者しゃのビールを市場いちばに送おくり出だす取とり組くみが拡大かくだいし、ヤッホーブルーイングが2004年ねんから取とり組くんだ電子でんし商取引しょうとりひきを中心ちゅうしんに規模きぼ拡大かくだいに成功せいこうしたことなどを契機けいきに、新あらたにクラフトビール市場いちばが成長せいちょうし始はじめた。特とくに2010年代ねんだいに入はいるとクラフトビールの人気にんきが一層いっそう高たかまったとされており、統計とうけいによっては10%を超こえる成長せいちょうを見みせた年としもあった。

日本にっぽんの文脈ぶんみゃくでは、「地じビール」という呼称こしょうが優勢ゆうせいであった初期しょきから、これを「craft beer」と同おなじものと見みなす用語ようご法ほうがあり、社名しゃめいやブランド名めいに「クラフトビール」を盛もり込こんだ地じビール会社かいしゃも、仙南せんなんクラフトビール、月夜野つきよのクラフトビールなど、1990年代ねんだいから存在そんざいしていた。日本にっぽん地じビール協会きょうかいもその英文えいぶんの正式せいしき名称めいしょうを「The Japan Craft Beer Association (JCBA)」としていた（後のちに「The Craft Beer Association」と改称かいしょう）。『新しん明解めいかい国語こくご辞典じてん』は1997年ねんの第だい5版はんから「地じビール」を語彙ごいとして収録しゅうろくしているが、その語釈ごしゃくは「ドイツ、イギリス、アメリカなどで、その土地とちの需要じゅようを満みたす目的もくてきで作つくられる（比較的ひかくてき）生産せいさん量りょうの少すくないビール。」（カッコ内ないは第だい6版はんで削除さくじょ）などというもので、諸しょ外国がいこくの事例じれいに言及げんきゅうすることによって「地じビール」を「craft beer」と同おなじものと見みなす用語ようご法ほうを支持しじしている。また、全国ぜんこく地じビール醸造じょうぞう者しゃ協議きょうぎ会かい (Japan Brewers Association, JBA) は、「個性こせいあふれるビールを少量しょうりょう生産せいさんするメーカーのビールを「地じビール」といいますが、特とくに酒税しゅぜい法ほう等とうの法律ほうりつで定さだめられた用語ようごではありません。クラフトビールと呼よばれることもありますが、双方そうほう、明確めいかくな定義ていぎはありません。」とし、この二ふたつの用語ようごが同義どうぎで置おき換かえられることもあるが、双方そうほうとも「明確めいかくな定義ていぎ」はないとし、語義ごぎに曖昧あいまいなズレが生しょうじ得えることも示唆しさしている。

しかし、地じビール・ブーム衰退すいたいの反省はんせいから品質ひんしつ重視じゅうしを前面ぜんめんに出だしたクラフトビールへと転換てんかんしたことを踏ふまえ、両者りょうしゃの違ちがいを強調きょうちょうし、地じビール・ブームと2004年ねん以降いこうのクラフトビール・ブームの担にない手ての違ちがいが強調きょうちょうされることも、さらに後述こうじゅつのように2015年ねんころから大手おおてビール会社かいしゃが本格ほんかく的てきにクラフトビール市場いちばに参入さんにゅうしたことを踏ふまえて担にない手ての違ちがいが強調きょうちょうされることもある。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおけるブルワーズ・アソシエーションの定義ていぎは、そのままでは日本にっぽんのブルワリーには当あてはまらないと考かんがえられている。日本にっぽんでは、クラフト・ブルワリーとはみなされないオリオンビールも、ブルワーズ・アソシエーションの定義ていぎにおける規模きぼの条件じょうけんは満みたすことになる。また、地じビールの中なかには、黄桜酒造きざくらしゅぞうの「京都きょうと麦酒びーる」、木内きうち酒造しゅぞうの「常陸ひたち野のネストビール」など大小だいしょうの日本酒にほんしゅメーカーが生産せいさんしている例れいや、日本酒にほんしゅメーカーや大手おおてビール会社かいしゃが出資しゅっししている例れいも、少すくなからずあり、事業じぎょうの資本しほん的てき独立どくりつが重視じゅうしされているわけではない。

なお、日本にっぽんの酒税しゅぜい法ほうは、原材料げんざいりょうによって税率ぜいりつの異ことなる酒類しゅるいを複数ふくすう設もうけており、クラフトビールの中なかでもフルーツビールなどは税法ぜいほう上じょうのビールにはならず、発泡はっぽう酒しゅとされる。

地じビールへの課税かぜいについては、2003年ねんから時限じげん措置そちとして本来ほんらいの税額ぜいがくの20%を免除めんじょする措置そちが取とられていたが、2010年ねんにはこの優遇ゆうぐう措置そちが原則げんそく15%に圧縮あっしゅくされた。この措置そちは税法ぜいほう上じょうのビールだけが対象たいしょうであり、税法ぜいほう上じょうの発泡はっぽう酒しゅなどには適用てきようされない。

大手おおてビール会社かいしゃの参入さんにゅう

他方たほうでは、大手おおてビール会社かいしゃがクラフトビールに関心かんしんを寄よせて、日本にっぽん国内こくないやアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのクラフト・ブルワリーとの提携ていけいや買収ばいしゅう、自社じしゃ生産せいさんに乗のり出だす取とり組くみも少すくなからず見みられる。

アサヒビールは、1994年ねんに子会社こがいしゃとして隅田川すみだがわブルーイングを設立せつりつしてマイクロブルワリーの支援しえん業務ぎょうむなどに乗のり出だすとともに、1995年ねんからブルーパブを墨田すみだ区く吾妻橋あづまばしで開業かいぎょうしており、これを「東京とうきょうで初はじめて販売はんばいしたクラフトビール」と称しょうしている。

麒麟麦酒きりんびーる（キリンビール）は、2014年ねん7月がつに「クラフトビール戦略せんりゃく」を発表はっぴょうして、同年どうねん中ちゅうには国内こくない最大さいだいのクラフト・ブルワリーであるヤッホーブルーイングと資本しほん業務ぎょうむ提携ていけいし、2015年ねんには傘下さんかの子会社こがいしゃによってブルーパブ「スプリングバレーブルワリー」を代官山だいかんやまに開店かいてんさせ、2016年ねんにはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのブルックリン・ブルワリーと業務ぎょうむ提携ていけいして、ブルワーズ・アソシエーションの定義ていぎに抵触ていしょくしない範囲はんいの24.5%の株式かぶしきを取得しゅとくするに至いたっている。

サントリーは、2015年ねんに「クラフトビール（に）興味きょうみはあるが詳くわしくないユーザー向むけ」として缶かんビールの「クラフトセレクト」ブランドを立たち上あげ、2016年ねんからペールエール、ゴールデンエール、ヴァイツェンを通年つうねん商品しょうひんとして供給きょうきゅうしている。

サッポロビールも、子会社こがいしゃであるジャパンプレミアムブリューによって、2015年ねんからクラフトビール市場いちばに参入さんにゅうしており、また上記じょうきのように、カナダのユニブルーを資本しほん傘下さんかに収おさめている。サッポログループを統括とうかつするサッポロホールディングスが2017年ねん8月がつ、米国べいこくのプレミアムビール会社かいしゃであるアンカー・ブリューイングの買収ばいしゅうを発表はっぴょうした際さいに、『日本経済新聞にほんけいざいしんぶん』は「サッポロ、米べいクラフトビール買収ばいしゅう」と報ほうじた。

さらに、オリオンビールも2015年ねんから「オリオンのクラフトビール」として、季き節ぶし商品しょうひん「オリオンクラフトシリーズ」の供給きょうきゅうを始はじめた。その第だい2弾だん「琉球りゅうきゅうホワイト」は、原材料げんざいりょうの関係かんけいでビールではなく発泡はっぽう酒しゅとして発売はつばいされた。

大手おおての参入さんにゅうが盛さかんになって以降いこうは、品質ひんしつ重視じゅうしで製造せいぞうされたビールを、生産せいさん者しゃの規模きぼの大小だいしょうを問とわずクラフトビールとし、マイクロブルワリーに相当そうとうする大手おおて以外いがいの小規模しょうきぼ事業じぎょう者しゃやそのビールを地じビールとする使つかい分わけも見受みうけられる。

日本にっぽん国内こくないで手てに入はいりやすいクラフトビールの例れい

以下いかのようなクラフトビールは流通りゅうつうしやすい缶かんパッケージでも販売はんばいされており、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでも比較的ひかくてき手てに入いれやすいビールであるといえるだろう。

• よなよなエール（株式会社かぶしきがいしゃヤッホーブルーイング）
• インドの青あお鬼おに（株式会社かぶしきがいしゃヤッホーブルーイング）
• 水曜日すいようびのネコ（株式会社かぶしきがいしゃヤッホーブルーイング）
• ホワイトエール（木内きうち酒造しゅぞう合資ごうし会社かいしゃ）
• 小麦こむぎのビール（株式会社かぶしきがいしゃ銀河ぎんが高原こうげんビール）

参考さんこう文献ぶんけん

『クラフトビール革命かくめい 地域ちいきを変かえたアメリカの小ちいさな地じビール起業きぎょう』発売はつばい日び：2015年ねん7月がつ3日にち 出版しゅっぱん社しゃ：DU BOOKS 著者ちょしゃ：スティーブ・ヒンディ（ブルックリン・ブルーワリー創業そうぎょう者しゃ） 翻訳ほんやく：和田わだ侑子ゆうこ ISBN 978-4-907583-54-5

外部がいぶリンク

• 間違まちがいだらけの定義ていぎに喝かつ！意外いがいと知しらないクラフトビールの真実しんじつ（2017.03.09） - 小学館しょうがくかん
• 一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん日本にっぽんビアジャーナリスト協会きょうかい