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母音ぼいん

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母音ぼいん(ぼいん、えい: vowel)は、言語げんご発音はつおんするときの音声おんせいすなわ発声はっせい器官きかん使つかってはっするおと一種いっしゅである。普通ふつう声帯せいたいふるえをともな有声音ゆうせいおんであり、ある程度ていど時間じかんこえ保持ほじする持続じぞくおんである。

英語えいごの vowel から Vりゃくしてあらわされることもある。子音しいんえい: consonantC)とは対立たいりつ概念がいねんである。なお半母音はんぼいん一般いっぱんには子音しいん分類ぶんるいされる。

概要がいよう

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母音ぼいんは、したくちびるまたは声門せいもんいきとおみち閉鎖へいさともなえなわず(完全かんぜんにも部分ぶぶんてきにも、瞬間しゅんかんてきにも)、せまくすることもない[注釈ちゅうしゃく 1]

母音ぼいん単独たんどくで、あるいはその前後ぜんごひとつまたは複数ふくすう子音しいんともなって、ひとつの音節おんせつ構成こうせいする。すなわち音節おんせつ主音しゅおんとしての機能きのうつ。

ほとんどの言語げんごは3つ以上いじょう母音ぼいんち、たとえば、古代こだいギリシアラテン語らてんご日本語にほんご[注釈ちゅうしゃく 2]いつつを区別くべつする[注釈ちゅうしゃく 3]

弁別べんべつ特徴とくちょう

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母音ぼいん
ぜんした ぜんした ちゅうした こうした こうした
せま
i • y
ɨ • ʉ
ɯ • u
ɪ • ʏ
ɪ̈ • ʊ̈
ɯ̽ • ʊ
e • ø
ɘ • ɵ
ɤ • o
 • ø̞
ə • ɵ̞
ɤ̞ • 
ɛ • œ
ɜ • ɞ
ʌ • ɔ
æ • 
ɐ • ɞ̞
a • ɶ
ɑ • ɒ
ひろめのせま
はんせま
中央ちゅうおう
はんひろ
せばめのひろ
ひろ
記号きごうふたならんでいるものは、ひだりえんくちびるみぎえんくちびる
国際こくさい音声おんせい記号きごう - 母音ぼいん

国際こくさい音声おんせい記号きごう(IPA)では、母音ぼいんおとめる以下いかの3つの主要しゅよう要素ようそにしたがって母音ぼいん分類ぶんるいしている。そのかたちから母音ぼいん三角形さんかっけい母音ぼいん四角形しかっけい母音ぼいんよんへんがたなどともばれる。

  • したげる場所ばしょ前後ぜんごよこじく
  • したがった位置いち上顎じょうがくとの間隔かんかくひろさ(たてじく
  • くちびるまるめる(右側みぎがわ)かそうでない(左側ひだりがわ)か
IPAの母音ぼいんチャートの見方みかたひだりいているひとくちおおきさとしたげる位置いちにチャートは対応たいおうしている。
IPAの母音ぼいんチャートとフォルマント関係かんけいたてじくよこじくは、それぞれF1とF2の振動しんどうすうあらわしている。

母音ぼいん音色ねいろ決定けっていするのは、したかたちくちびるかたちあご開閉かいへいである。そこで調音ちょうおん音声おんせいがくでは、母音ぼいん分類ぶんるいする基準きじゅんとして、くちびるまる加減かげんしたさい上部じょうぶ前後ぜんごしたさい上部じょうぶ高低こうてい位置いち使つかわれる。これらの状態じょうたいによりIPAによって基本きほん母音ぼいんさだめられている。ただし、これは物理ぶつりてきした位置いちをはかったものではなく、聴覚ちょうかく印象いんしょうじょうおと距離きょりによってめられたものである。

前後ぜんご

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した頂上ちょうじょう位置いち前後ぜんごによって分類ぶんるいする。

ひろ

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した頂上ちょうじょう位置いち高低こうていによって分類ぶんるいする。

えんくちびるせい

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くちびるまるみをともなったものをえんくちびる母音ぼいん、そうでないものをえんくちびる母音ぼいん(またはひらくちびる母音ぼいん)とぶ。

緊張きんちょう

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調音ちょうおん器官きかん筋肉きんにく緊張きんちょうともなうとかんがえられるかかで母音ぼいん弁別べんべつすることがある。前者ぜんしゃ緊張きんちょうおん (tense vowel)、後者こうしゃ弛緩しかんおん (lax vowel) とぶ。かならずしも筋肉きんにく緊張きんちょうがあると証明しょうめいされてはいないので、純粋じゅんすい音声おんせいがくてき研究けんきゅうではあまりあつかわれないが、個々ここ言語げんご音韻おんいんろんでは、伝統でんとう母語ぼご話者わしゃ感覚かんかくもとづきこの用語ようご使用しようされることがある。たとえば、英語えいご音韻おんいんろんでは、とく一般いっぱん米国べいこく英語えいご発音はつおん母音ぼいん分類ぶんるいで、伝統でんとうてきにこの術語じゅつご使用しようされることがおおい。この場合ばあい英語えいご音韻おんいんろんじょうたん母音ぼいん /æ, ɛ, ɪ, ʌ, ʊ/ を弛緩しかん母音ぼいん英語えいご音韻おんいんろんじょうちょう母音ぼいん重母音じゅうぼいん /i, u, ɑ, ɔ, eɪ, aɪ, oʊ, aʊ, oɪ/ を緊張きんちょう母音ぼいん分類ぶんるいする。この分類ぶんるいは、英語えいごひらき音節おんせつかなら緊張きんちょう母音ぼいんわることなど、英語えいご音節おんせつ構造こうぞう特徴とくちょう説明せつめいするさいには非常ひじょう利便りべんせいたかい。また子音しいんのうち、有声音ゆうせいおんを軟子おん (fortis consonant) として弛緩しかんおん無声音むせいおんかた子音しいん (lenis consonant) として緊張きんちょうおん分類ぶんるいする。そもそも、英語えいご発音はつおんでは、文末ぶんまつゆうごえ子音しいん無声むせいする場合ばあいや、音節おんせつ境界きょうかいじょう本来ほんらい無声むせい子音しいんの /t/ が母音ぼいんはさまれるとゆうごえする現象げんしょうなどを考慮こうりょすると、英語えいご子音しいん音素おんそ有声音ゆうせいおん無声音むせいおん対比たいひさせることは、かならずしも正確せいかくだとはえない。

長短ちょうたん

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母音ぼいんは、その持続じぞく時間じかんながさのちがいによってちょう母音ぼいんたん母音ぼいんけられる。言語げんごのなかには、ちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつにより意味いみ弁別べんべつおこなうものがある。日本語にほんごもその代表だいひょうであり、ちょう母音ぼいんふく音節おんせつ長音ちょうおんんでいる。

なお、英語えいご[i][ɪ] (bead [ˈbid], bid [ˈbɪd]) は、習慣しゅうかんてきちょう母音ぼいんたん母音ぼいんばれることがあるが、実際じっさいにはながさは弁別べんべつてきではない。英語えいごでは、 bead [ˈbiːd], beat [ˈbiˑtˑ] のように、音節おんせつまつ子音しいんゆうごえ無声むせい区別くべつながさを利用りようしている。

重母音じゅうぼいん

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ひとつの母音ぼいん発声はっせいちゅう調音ちょうおんえるものを重母音じゅうぼいんぶ。さん種類しゅるい調音ちょうおんがあるならさん重母音じゅうぼいんぶ。重母音じゅうぼいん三重みえ母音ぼいんはあくまでひとつの母音ぼいんでありいち音節おんせつであるが、たんなる母音ぼいん連続れんぞく複数ふくすう音節おんせつとなる。後者こうしゃたん母音ぼいんぶ。

特別とくべつ母音ぼいん

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はな母音ぼいん

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はなからもいき母音ぼいんはな母音ぼいんぶ。標準ひょうじゅんてき日本語にほんごではこのおと音素おんそとしては存在そんざいしないが、実際じっさいおとでは「雰囲気ふんいき」、「陰影いんえい」など撥音はつおん(「ん」のおと)のつぎ母音ぼいん半母音はんぼいん摩擦音まさつおんつづ場合ばあい撥音はつおんはな母音ぼいんして、それぞれ [ɸɯɯ̃iki] または [ɸɯĩiki], [iĩeː]発音はつおんされる。[ĩ], [ɯ̃][i], [ɯ]対応たいおうするはな母音ぼいんである。

Rおとせい母音ぼいん

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母音ぼいん調音ちょうおんするさい舌尖ぜっせんらせたり、したげたりすると、咽頭いんとうせばめができてrおとのような音色ねいろそなえる。これをrおとといい、rおとせい母音ぼいんができる。

無声むせい母音ぼいん

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母音ぼいん言語げんごによってはしばしば無声音むせいおんとして実現じつげんされることもある。この現象げんしょう母音ぼいん無声むせい(ぼいんのむせいか)という。

たとえば、日本語にほんご音韻おんいん体系たいけいにおいて、無声むせい子音しいんはさまれたせま母音ぼいん[i], [ɯ](「きた[kta]、「ぼうɯ̥sa])や、無声むせい子音しいんのち文節ぶんせつまつでピッチのひくせま母音ぼいん[i], [ɯ](「あき[ak]、「〜です」[desɯ̥])などの場合ばあいがある。ただ中部ちゅうぶ地方ちほうから中国ちゅうごく地方ちほうにかけての方言ほうげんにおいては、母音ぼいん無声むせいこらないものもすくなくない。

舌先したさき母音ぼいん

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中国ちゅうごく琉球りゅうきゅう宮古みやこ方言ほうげんなどの言語げんごには、舌先したさき母音ぼいん(したさきぼいん)または舌先したさきてき母音ぼいん(したさきてきぼいん)[1]ばれている特別とくべつ母音ぼいんがある。

舌先したさき母音ぼいんは、普通ふつう母音ぼいんしためん母音ぼいん、ぜつめんぼいん)のようにおもしためんもちいて発音はつおんされるのにたいし、した先端せんたん舌尖ぜっせんではなく舌端ぜったんふくめた部分ぶぶん)を口蓋こうがいちかづいて発音はつおんされるため、しばしば[z][s]類似るいじする摩擦まさつ噪音をともなう。なりぶしてき子音しいん解釈かいしゃくされる立場たちばもある。

表記ひょうき

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習慣しゅうかんじょう舌先したさき母音ぼいん普通ふつう母音ぼいん区別くべつするため、中国ちゅうごくしょ方言ほうげんみなみ琉球りゅうきゅうしょ方言ほうげん文献ぶんけんでは、以下いかのような国際こくさい音声おんせい記号きごう(IPA)にはない記号きごう使つかわれている。

えんくちびる えんくちびる
普通ふつう [ɿ] [ʮ]
そりした [ʅ] [ʯ]

研究けんきゅうしゃによっては、[ɿ] のような母音ぼいん[ɨ] [ï] [s̩] [z̩] [ɹ̩] などのように記述きじゅつする場合ばあいもある。

言語げんご れい 音声おんせい表記ひょうき
標準ひょうじゅん中国語ちゅうごくご [t̪͡s̪ɿ˨˩˦]
標準ひょうじゅん中国語ちゅうごくご [s̪ɿ˨˩˦]
標準ひょうじゅん中国語ちゅうごくご あか chì [ʈ͡ʂʰʅ˥˩]
標準ひょうじゅん中国語ちゅうごくご shì [ʂʰʅ˥˩]
つねじゅく方言ほうげん あるじ [ʈʂʯ˦˦]
西南せいなん官話かんわ鄂北へん鄖縣方言ほうげん しょ [sʮ]
宮古みやこ みぎ /m.gɿ/ [m̩.ɡᶻɿ][2]

母音ぼいん類似るいじした子音しいん

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したくちびるまたは声門せいもんくちからのいきとおみち完全かんぜんに、部分ぶぶんてきにあるいは瞬間しゅんかんてき閉鎖へいさせず、かつ、口腔こうくうない上下じょうげ調音ちょうおん器官きかん間隔かんかくせま摩擦まさつ有声音ゆうせいおん接近せっきんおんといい、接近せっきんおん持続じぞくおんとしてはっする場合ばあいせま母音ぼいんとして母音ぼいんふくめるが、持続じぞくせずそのかまえからすぐにつづけてべつ母音ぼいんはっする場合ばあいは、一般いっぱんにその接近せっきんおん半母音はんぼいんとして子音しいんふくめる。また、鼻音びおん[m][n][ŋ]ながれおん[l][ɹ]などが音節おんせつせいって母音ぼいんのようにもちいられる言語げんごもある。[h]無声むせい母音ぼいんとすることがある。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ いきとおみちせまくすることによるいき摩擦音まさつおん子音しいんとみなされる。
  2. ^ 平安へいあん時代じだい以降いこう発音はつおん体系たいけい
  3. ^ 長短ちょうたん区別くべつれず、重母音じゅうぼいん考慮こうりょしない場合ばあい

出典しゅってん

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  1. ^ みなみ琉球りゅうきゅう方言ほうげんにおける「舌先したさきてき母音ぼいん」の調音ちょうおんてき特徴とくちょう: 宮古みやこ多良間たらま方言ほうげん対象たいしょうとしたパラトグラフィー調査ちょうさ初期しょき報告ほうこく”. 音声おんせい研究けんきゅう 14 (2): 16–24. (2010). doi:10.24467/onseikenkyu.14.2_16. 
  2. ^ 狩俣かりまた しげるひさ (1999.3) (日本語にほんご). 琉球りゅうきゅう宮古みやふるしょ方言ほうげん音韻おんいん琉球りゅうきゅう宮古みやふる方言ほうげん音声おんせい資料しりょう収集しゅうしゅう研究けんきゅう. 西原いりばるまち. pp. 61-62. https://hdl.handle.net/20.500.12000/8908 

参考さんこう文献ぶんけん

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Ladefoged, Peter and Sandra F. Disner (2012) Vowels and Consonants, Wily-Blackwell, 『母音ぼいん子音しいん音声おんせいがく世界せかいそう』田村たむらさいわいまこと貞光さだみつ宮城みやぎやく開拓かいたくしゃ、2021ねん. ISBN 978-4-7589-2286-9

関連かんれん項目こうもく

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