アーガス作戦さくせん

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アーガス作戦さくせんでカリタックきゅう水上すいじょう母艦ぼかんノートン・サウンドから発射はっしゃされるX-17がたミサイル

アーガス作戦さくせん(Operation Argus、アルガス作戦さくせんとも)は、1958ねんアメリカ国防こくぼう脅威きょうい削減さくげんきょくによりみなみ大西おおにしひろし実施じっしされた核兵器かくへいきミサイルかんする秘密ひみつ実験じっけんであり、”エクスプローラー4宇宙うちゅう作戦さくせん連動れんどうしておこなわれた。アーガス作戦さくせんは、ハードタック作戦さくせんIとIIのあいだ実施じっしされた。また作戦さくせんにはロッキード現在げんざいロッキード・マーティン)、およアメリカ原子力げんしりょく委員いいんかいから各々おのおのすうにんずつが参加さんかした。アーガス作戦さくせん実施じっしは、当時とうじ不安定ふあんてい政治せいじ環境かんきょう大気圏たいきけんうち大気圏たいきけんがいかく実験じっけん禁止きんしされる見込みこみがあった)を考慮こうりょして迅速じんそくおこなわれた。その結果けっか作戦さくせん計画けいかくから実施じっしまでが半年はんとし以内いないおこなわれた(通常つうじょうかく実験じっけんでは、計画けいかくから実施じっしまで1ねんから2ねん必要ひつようになる)。

作戦さくせん目標もくひょう[編集へんしゅう]

アーガス作戦さくせんは、最初さいしょは”ハードタック-アーガス作戦さくせん”とばれたが、そのには”フローラル作戦さくせん”と変更へんこうされた。しかし機密きみつじょう理由りゆうから両方りょうほう名称めいしょう破棄はきされ、最終さいしゅうてきにアーガス作戦さくせんとなった。

作戦さくせん資金しきんは”軍用ぐんよう特殊とくしゅ兵器へいき計画けいかく”(AFSWP:Armed Forces Special Weapons Project)(これは現在げんざいのアメリカ国防こくぼう脅威きょうい削減さくげんきょくにあたる)から提供ていきょうされた。計画けいかくのために提供ていきょうされた資金しきんは、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくドルで$9,023,000であった。

だい88任務にんむ部隊ぶたい[編集へんしゅう]

1958ねん4がつ28にちアメリカ海軍かいぐんだい88任務にんむ部隊ぶたい(TF-88)は編成へんせいされた。このだい88任務にんむ部隊ぶたいは、アーガス作戦さくせん単独たんどく指揮しきするために組織そしきされたが、作戦さくせん完了かんりょう部隊ぶたい解散かいさんし、記録きろくりになった。記録きろくのうちのいくつかは破棄はきされたか、すうねんのうちにうしなわれたが、うしなわれた文書ぶんしょなかのには記録きろくフィルムもあった(そこには実験じっけんちゅう正確せいかく放射線ほうしゃせんレベルが記録きろくされていた)。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく退役たいえき軍人ぐんじんしょうせられている情報じょうほうでは、だい88任務にんむ部隊ぶたい参加さんかしゃには白血病はっけつびょう発生はっせいしゃ一般いっぱん平均へいきんよりたかいことが証明しょうめいされているが、放射線ほうしゃせん記録きろくくなっていることで、この裏付うらづけをることがむずかしくなっている。

カリタックきゅう水上すいじょう母艦ぼかんノートン・サウンドは、ミサイル発射はっしゃ役割やくわりうとともに、実験じっけん参加さんかするクルーの訓練くんれん施設しせつとしての役割やくわりたした。実験じっけん使用しようするX-17かたミサイルは、このたね実験じっけんでは使用しようされたことがいものであったため、クルーは”ダミー”のミサイルを使用しようしたてと修理しゅうり訓練くんれん船内せんないおこなった。またノートン・サウンドは、27MHzおび使用しようする”COZI”レーダーを搭載とうさいしており、これを使用しようしてアメリカ空軍くうぐんのキャンブリッジ研究所けんきゅうじょからかく爆発ばくはつ観測かんそくと、影響えいきょう測定そくていおこなわれた。

カーティスきゅう水上すいじょう母艦ぼかんアルベマールは、作戦さくせん計画けいかくにはオーバーホールなかであったため、作戦さくせん部隊ぶたいのリストにははいっていなかったが、作戦さくせん実行じっこうには大西おおにし洋上ようじょう進出しんしゅつしていた(これは試運転しうんてんのためだとおもわれる)。アルベマールもまた”COZI”レーダーを装備そうびしており、さらに人工じんこうイオンの検出けんしゅつ装置そうち搭載とうさいしていた。

エセックスきゅう航空こうくう母艦ぼかんタラワには作戦さくせん指揮しきかん乗船じょうせんし、作戦さくせん全般ぜんぱん指揮しきった。タラワはミサイル追跡ついせきのため、空軍くうぐんの”MSQ-1A”レーダーと通信つうしん装置そうち搭載とうさいしていた。まただい32たい潜航せんこうそらたい搭載とうさいしており、実験じっけん科学かがくてき観測かんそく写真しゃしん撮影さつえいのほか、実験じっけん秘密裏ひみつりおこなうための哨戒しょうかい行動こうどうおこなった。

ギアリングきゅう駆逐くちくかんワーリントンは、フレッチャーきゅう駆逐くちくかんビアース、ディーレイきゅう護衛ごえい駆逐くちくかんハンマーバーグ、そしてディーレイきゅう護衛ごえい駆逐くちくかんコートニーととも艦隊かんたい周囲しゅうい気象きしょう観測かんそくおこなうため、だい88任務にんむ部隊ぶたい西にし463kmの位置いち展開てんかいして作戦さくせんちゅう部隊ぶたい警護けいごし、駆逐くちくかんとしての職務しょくむ(機密きみつ確保かくほ哨戒しょうかいおよ救助きゅうじょ)をたした。ワーリントンはまた、発射はっしゃようロケットの装備そうび運搬うんぱんおこなった。

ネオショーきゅう給油きゅうゆかんネオショーは、作戦さくせんちゅう部隊ぶたい艦船かんせんへの給油きゅうゆおこなった。またネオショーも、空軍くうぐんの”MSQ-1A”レーダーを搭載とうさいしていた。

シマロンきゅう補給ほきゅうかんサラモニーは、部隊ぶたい合流ごうりゅうするまえ米国べいこくかえしたため、すべての実験じっけん参加さんかしなかった。

実験じっけん[編集へんしゅう]

みなみアフリカケープタウン南東なんとうおよそ1,800kmの地点ちてんで、ノートン・サウンドは1.7キロトンかく出力しゅつりょくW25核弾頭かくだんとう搭載とうさいしたX-17ミサイル3大気圏たいきけん高層こうそうげ、そこでこう高度こうどかく実験じっけんおこなわれた。この極端きょくたんたか高度こうどでの実験じっけんは、実験じっけん発生はっせいする放射線ほうしゃせんだれにも検出けんしゅつされないようにするために設定せっていされたものである[1]

秘密ひみつ保持ほじのため、実験じっけん計測けいそく参加さんかした衛星えいせい、ロケット、航空機こうくうきおよ地上ちじょう基地きちは、政府せいふ機関きかん同様どうようぐんによって運用うんようされた。

実験じっけんは、ローレンス・バークレー国立こくりつ研究所けんきゅうじょのリバモア支所ししょ現在げんざいローレンス・リバモア国立こくりつ研究所けんきゅうじょ)にいた物理ぶつり学者がくしゃニコラス・クリストフィロス英語えいごばんにより、クリストフィロス理論りろんの1つとして提案ていあんされ、こう高度こうどでのかく爆発ばくはつ大気圏たいきけん上方かみがた放射能ほうしゃのうたい生成せいせいするとされた。この放射能ほうしゃのうたいバンアレンたい同様どうよう効果こうかつとされ、戦争せんそう戦術せんじゅつとして有効ゆうこうであるとられていた。アーガス作戦さくせん先立さきだって実施じっしされたハードタック作戦さくせんでは、かく爆発ばくはつによる無線むせん通信つうしん障害しょうがい発生はっせいしたが、放射能ほうしゃのうたい生成せいせいされなかった。

アーガス作戦さくせんかく爆発ばくはつでは、核分裂かくぶんれつ物質ぶっしつベータ崩壊ほうかいにより人工じんこう電子でんしおび生成せいせいされた。実験じっけんからすう週間しゅうかんあいだは、生成せいせいされた電子でんしたい無線むせん通信つうしんとレーダーに影響えいきょうあたえ、ICBM核弾頭かくだんとう起爆きばく装置そうちにダメージをあたえるか破壊はかいさせ、軌道きどうじょう宇宙船うちゅうせんうち乗務じょうむいん危険きけんにさらすものとかんがえられた。

アーガス作戦さくせんは、高層こうそう大気圏たいきけんにおける中性子ちゅうせいしによる電子でんし軌道きどう励起れいき核分裂かくぶんれつ生成せいせいぶつからのベータ崩壊ほうかいおよ核分裂かくぶんれつ物質ぶっしつイオン化いおんかをデモンストレートすることで、クリストフィロス理論りろん有効ゆうこうせい証明しょうめいした。作戦さくせんられたデータは、軍事ぐんじてき観点かんてんのものだけではなく、地球ちきゅう物理ぶつりがくでの”グレートマス”にかんするものも提供ていきょうした。

アーガス作戦さくせんでの3つの実験じっけんは、1959ねん3がつ19にちづけニューヨーク・タイムスで、「いままでおこなわれたことのない偉大いだい実験じっけん (Greatest scientific experiment ever conducted)」としてはじめて報道ほうどうされた。作戦さくせんには9せき艦船かんせんと、およそ4,500にん参加さんかしたが、作戦さくせん完了かんりょうにはブラジルリオデジャネイロ経由けいゆ米国べいこく帰国きこくした。ほん作戦さくせんはハードタック作戦さくせんIにつづいておこなわれ、ほん作戦さくせんのちにはハードタック作戦さくせんIIが実施じっしされた。

作戦さくせん実験じっけんつぎとしである1960ねん発表はっぴょうされたが、実験じっけんかんする詳細しょうさい文書ぶんしょは1982ねん4がつ30にちまで公開こうかいされなかった。

一連いちれん実験じっけん結果けっかこう高度こうどかく爆発ばくはつによってしょうじる放射能ほうしゃのうたい維持いじできる時間じかん予想よそうよりもみじかいことが判明はんめいし、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく本土ほんどをICBMから防衛ぼうえいするには1ねんに1000はつ以上いじょう核弾頭かくだんとうげる必要ひつようがあることがあきらかとなったため、放射能ほうしゃのうたいによる防御ぼうぎょ計画けいかく中止ちゅうしされた。この事実じじつ1999ねん8がつ22にち放送ほうそうされたNHKスペシャル世紀せいきえて戦争せんそう てしない恐怖きょうふだい3しゅう 核兵器かくへいき 機密きみつ映像えいぞうかたる」において関係かんけいしゃのインタビューとともにあきらかにされた。

アーガス作戦さくせん詳細しょうさい[2][編集へんしゅう]

実験じっけんめい 実施じっし (GMT) 実施じっし場所ばしょ 実施じっし高度こうど かく出力しゅつりょく
アーガスI (Argus I) 1958ねん8がつ27にち02:28 南緯なんい3830ふん 西経せいけい1130ふん / 南緯なんい38.500 西経せいけい11.500 / -38.500; -11.500 200km 1.7キロトン
アーガスII (Argus II) 1958ねん8がつ30にち03:18 南緯なんい4930ふん 西経せいけい812ふん / 南緯なんい49.500 西経せいけい8.200 / -49.500; -8.200 258km 1.7キロトン
アーガスIII (Argus III) 1958ねん9がつ6にち22:13 南緯なんい4830ふん 西経せいけい942ふん / 南緯なんい48.500 西経せいけい9.700 / -48.500; -9.700 539km
(おそらく人類じんるい史上しじょうで、最高さいこうだかでのかく実験じっけん)
1.7キロトン

作戦さくせん参加さんかした艦船かんせん[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ U.S. Defense Threat Reduction Agency. "Operation ARGUS." DTRA Fact Sheets, July 2007.
  2. ^ Johnston, William Robert. "High-Altitude Nuclear Explosions." 7 November 2006.

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

参照さんしょう項目こうもく[編集へんしゅう]