イチイ科か

イチイ科か
イチイ Taxus cuspidata
分類ぶんるい
界さかい : 植物しょくぶつ界かい Plantae 門もん : 球たま果はて植物しょくぶつ門もん Pinophyta 綱つな : マツ綱つな Pinopsida 目め : マツ目め Pinales 科か : イチイ科か Taxaceae
学名がくめい
Taxaceae S.F.Gray
和名わみょう
イチイ科か
属ぞく
† Paleotaxus † Taxaceoxylon † Sommerxylon Austrotaxus Taxus イチイ属ぞく Pseudotaxus Cephalotaxus イヌガヤ属ぞく Torreya カヤ属ぞく Amentotaxus

イチイ科か（学名がくめい：Taxaceae）は、裸子植物らししょくぶつの科か。

形態けいたい

常緑じょうりょく針葉樹しんようじゅで、ほとんどが雌雄しゆう異い株かぶ。葉はは枝えだにらせん状じょうに配列はいれつするが、ねじれて左右さゆう2列れつに向むくものが多おおい。雄花おばな序じょは長ながさ2–5mmで晩春ばんしゅんに花粉かふんを出だす。雌花めばな序じょは退化たいかし、種子しゅし鱗片りんぺんと胚珠はいしゅ各かく1個いっこのみからなる。種子しゅしが成熟せいじゅくすると鱗片りんぺんは肉質にくしつの仮かり種皮しゅひになり種子しゅしの全部ぜんぶまたは一部いちぶを包つつむ。種子しゅしは翼つばさを持もたない。

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  イチイ属ぞくの雄花おばな
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  イヌガヤ属ぞくの雄花おばな
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  イヌガヤ属ぞくの種子しゅしは仮かり種皮しゅひで完全かんぜんに覆おおわれる
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  カヤ属ぞくも種子しゅしが仮かり種皮しゅひで完全かんぜんに覆おおわれる
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  イチイ属ぞくの仮かり種皮しゅひは種子しゅしを完全かんぜんには覆おおわず種子しゅしが一部いちぶ露出ろしゅつする
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  イチイ属ぞくの種子しゅし

生態せいたい

マツ科かやヒノキ科かといった北半球きたはんきゅうの代表だいひょう的てきな針葉樹しんようじゅが種子しゅしを風ふうで飛とばすのに対たいし、イチイ科かは動物どうぶつによる種子しゅしの散布さんぷに期待きたいして進化しんかしたグループといわれる。

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  参考さんこう：マツ科かトウヒ属ぞくの種子しゅしは翼つばさがつく
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  参考さんこう：ヒノキ科かローソンヒノキの種子しゅし

人間にんげんとの関かかわり

木材もくざい

イチイ属ぞくの木材もくざいは辺あたり材ざいと心材しんざいが明確めいかくに分わかれ、緻密ちみつな年輪ねんりんを持もち（つまり肥大ひだい成長せいちょうは遅おそいということである）、光沢こうたくを持もつ。産出さんしゅつ量りょうが少すくないこともあって日本にっぽんでは高級こうきゅうな木材もくざいの一ひとつに入はいる。建材けんざいとしてもつかわれるが、大木たいぼくが手てに入はいりにくいことや加工かこうしやすいこともあり、彫ほり物ものの原料げんりょうとして使つかわれることが多おおい。岐阜ぎふ県けんの高山たかやま地方ちほうには一いち位い一刀彫いっとうぼりという彫ほり物ものがある。また、北海道ほっかいどう先住民せんじゅうみんのアイヌは弓ゆみに用もちいたという。ヨーロッパにおいても古ふるくから木材もくざいとして利用りようされており、イタリアの氷河ひょうがで1991年ねんに見みつかった3000年ねん前まえのミイラ化かした遺体いたいアイスマン（英えい：Ötzi the Iceman）ではイチイ属ぞくを柄えに使つかった斧おのを持もっていた。

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  イチイの木材もくざい
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  アイスマンの斧おのの柄えはイチイ属ぞくだという

食用しょくよう

カヤ属ぞく（Torreya）の種子しゅしは油あぶらを搾しぼる原料げんりょうになる。イチイ属ぞくでは種子しゅしを包つつみ込こむ赤あかい部分ぶぶん（仮かり種皮しゅひ）は食用しょくようになるが、種子しゅし自体じたいや枝葉えだはは有毒ゆうどくである。アガサ・クリスティの推理すいり小説しょうせつポケットにライ麦らいむぎを（原題げんだい:A pocket full of rye）ではイチイの毒どくを使つかった殺人さつじん事件じけんが描えがかれている。イチイの毒どくはイチイ属ぞくの属ぞく名めいタクサス（Taxus）からタキシンと呼よばれており、心臓しんぞうに作用さようするという。

薬用やくよう

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  イチイ属ぞくの実み。赤あかい部分ぶぶんのみが食用しょくようとなる。
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  タキシンBの構造こうぞう式しき
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  カヤ属ぞくの種子しゅし

分類ぶんるい

系統けいとう

形態けいたい的てきな特徴とくちょうから新しんエングラー体系たいけいなどでは独立どくりつのイチイ綱つなイチイ目めとされていたが、現在げんざいでは分子ぶんし系統けいとう解析かいせき (Chase et al., 1993; Price, 2003) および微細びさい形態けいたい (Anderson & Owens, 2003) に基もとづき、マツ綱つなマツ目め（すべての針葉樹しんようじゅを含ふくむ）にまとめられる。イチイ科かには6属ぞくが現生げんなまし、その系統けいとう関係かんけいは次つぎのとおり。一部いちぶ（具体ぐたい的てきには諸説しょせつあった）をイヌガヤ科か （学名がくめい：Cephalotaxaceae ）とする説せつがあったが、系統的けいとうてきには否定ひていされており、現在げんざいはイチイ科かに含ふくめるのが一般いっぱん的てきである。

イチイ科か	Austrotaxus         Taxus イチイ属ぞく     Pseudotaxus     ☆ ★ Cephalotaxus イヌガヤ属ぞく       Torreya カヤ属ぞく     Amentotaxus

伝統でんとう的てきには、★すなわちイヌガヤ属ぞくは、単たん型がたのイヌガヤ科か Cephalotaxaceae に属ぞくしていた。また、Cheng et al. (2000) などは、☆以下いかの3属ぞくをイヌガヤ科かとした。Hao et al. (2008) などは、さらに新しん科か Amentotaxaceae を分離ぶんりした。しかし図ずのように、いずれのイヌガヤ科かもイチイ科かに系統的けいとうてきに内包ないほうされ、科かの地位ちいは支持しじされない。

一方いっぽう、Price (2003) などはこの6属ぞく全体ぜんたいをイチイ科かとした。比較ひかくして論ろんじる場合ばあいは、これを広義こうぎのイチイ科か、イヌガヤ科か（等ひとし）を分離ぶんりする場合ばあいの残のこりを狭義きょうぎのイチイ科かと呼よぶ。

下位かい分類ぶんるい

• Amentotaxus

和名わみょう未定みていの属ぞく。アジアに分布ぶんぷする5種しゅが含ふくまれる

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  Amentotaxus属ぞくの葉は
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  Amentotaxus属ぞくの雄花おばな

• Austrotaxus

和名わみょう未定みていの属ぞく。ニューカレドニアに分布ぶんぷするAustrotaxus spicata（和名わみょう未定みてい）だけからなる単たん型がた。

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  Austrotaxus属ぞくの図ず
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  Austrotaxus属ぞくの葉は

• イヌガヤ属ぞく （学名がくめい：Cephalotaxus）

10種しゅほどが含ふくまれる。日本にっぽんにはイヌガヤ（C. harringtonia）が分布ぶんぷする。仮かり種皮しゅひは種子しゅしを完全かんぜんに包つつみ込こむ。発芽はつがは地上ちじょう生せい（英えい：epigeal）

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  イヌガヤ属ぞくの実み

• Pseudotaxus

和名わみょう未定みていの属ぞく。中国ちゅうごくに分布ぶんぷするPseudotaxus chienii（和名わみょう未定みてい）だけからなる単たん型がた。P. chienji（中国ちゅうごく名めい：白しろ豆まめ杉すぎ）は最大さいだい5m程度ていどにしかならない低木ていぼくであるという

• イチイ属ぞく（学名がくめい：Taxus）

30種しゅほどが含ふくまれる。日本にっぽんにはイチイ（T. cuspidata）が分布ぶんぷする

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  イチイ属ぞくの葉はの顕微鏡けんびきょう写真しゃしん
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  イチイ属ぞくの雄花おばな
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  イチイ属ぞくの実み。赤あかい仮かり種皮しゅひが目立めだつ
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  イチイ属ぞくの子葉しよう

• カヤ属ぞく（学名がくめい； Torreya）

6種しゅ程度ていどが含ふくまれ、日本にっぽんにはカヤ（T. nucifera）が分布ぶんぷする。分布ぶんぷの中心ちゅうしんはアジアであるが、2種しゅだけアメリカ大陸あめりかたいりくにも分布ぶんぷする。仮かり種皮しゅひは種子しゅしを完全かんぜんに包つつみ込こむ。属ぞく名めいはアメリカ人じん植物しょくぶつ学者がくしゃジョン・トーリー（John Torrey）に因ちなむ。発芽はつがは地下ちか性せい（英えい：hypogeal）

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  カヤ属ぞくの実み

参考さんこう文献ぶんけん

• Anderson, E. & Owens, J. N. (2003). Analysing the reproductive biology of Taxus: should it be included in Coniferales? Acta Hort. 615: 233-234.)
• Chase, M. W. et al. (1993). Phylogenetics of seed plants, an analysis of nucleotide sequences from the plastid gene rbcL. Ann. Missouri Bot. Gard. 80: 528-580.
• Price, R. A. (2003). Generic and familial relationships of the Taxaceae from rbcL and matK sequence comparisons. Acta Hort. 615: 235-237.