イリュージョン (奇術きじゅつ)

イリュージョン（フランス語ふらんすご: illusion, 英語えいご: illusion イルージョン）とは、奇術きじゅつ（特とくにステージマジック）のジャンルである。人間にんげんや大おおきな動物どうぶつが出現しゅつげん、消失しょうしつ、変化へんか、浮揚ふようするなど、大掛おおがかりな仕掛しかけを用もちいた奇術きじゅつである。イリュージョンを演えんじる奇術きじゅつ師しをイリュージョニスト (illusionist) と呼よぶ。

大会たいかい

国際こくさい的てきなマジックの大会たいかい「FISM」のグランドイリュージョン部門ぶもんには、日本人にっぽんじんとしてはナポレオンズが1998年ねんに3位い入賞にゅうしょうした。

2008年ねんにイギリスで行おこなわれたジュニアマジックの世界せかい大会たいかいでは、山上さんじょう兄弟きょうだいがイリュージョン部門ぶもん優勝ゆうしょう・グランドチャンピオンに選えらばれた。

イリュージョンの代表だいひょう例れい

人体じんたい浮遊ふゆう

ハリー・ケラーのポスター（1894年ねん）

自分じぶんまたは他人たにんの体からだを空中くうちゅうに浮遊ふゆうさせる。デビッド・カッパーフィールドが演えんじた「Flying」が有名ゆうめい。彼かれはステージ上じょうで複数ふくすうの金属きんぞくの輪わを潜くぐり抜ぬけたり透明とうめいな水槽すいそうに出でたり入はいったりしながら空中くうちゅうを飛とびまわり、さらに観客かんきゃくの女性じょせいを抱いだきかかえての飛行ひこうも行おこなった。

1世紀せいき頃ころにはすでにヤンプリュスという奇術きじゅつ師しが空中くうちゅうを飛行ひこうしたという記録きろくがあるが、どのような方法ほうほうを用もちいたのかはわかっていない。

1820年ねん頃ころにはインドのマドラスでブラミンというヒンドゥー行者ぎょうじゃが空中くうちゅうであぐらをかく技わざを披露ひろうしている。これを改良かいりょうして、1847年ねん10月がつ10日とおかにロベール・ウーダンは息子むすこのウジェーヌ（当時とうじ6歳さい）を浮揚ふようさせる奇術きじゅつを初演しょえんした。

他たにはジョン・ネヴィル・マスケリンの「忘我ぼうがの行者ぎょうじゃ」（1901年ねん）やハリー・ケラーの「カルナック王女おうじょの人体じんたい浮揚ふよう術じゅつ」（1904年ねん）といった演技えんぎがある。

脱出だっしゅつ

詳細しょうさいは「脱出だっしゅつ術じゅつ」を参照さんしょう

おなじみの「中国ちゅうごくの水牢みずろう」

ロープや鎖くさりなどで拘束こうそくされたり大おおきな箱はこに閉とじ込こめられたりした上うえで、箱はこが爆破ばくはされたり、上空じょうくうから投なげ落おとされたり、水槽すいそうや地中ちちゅうに沈しずめられたりする。そのあと無事ぶじに帰還きかんする。デビッド・カッパーフィールドは爆破ばくはされるビルから脱出だっしゅつしている。

この分野ぶんやではハリー・フーディーニの「中国ちゅうごくの水牢みずろう」の演技えんぎがよく知しられている。1.5m×0.6mほどの水槽すいそうに手枷てかせと足枷あしかせで拘束こうそくされた状態じょうたいに入いれられ、そこから脱出だっしゅつした。1912年ねん9月初演しょえん。

人体じんたい切断せつだん

ゴールディンの人体じんたい切断せつだん

人ひとの体からだを上半身じょうはんしんと下半身かはんしんの2つに切断せつだんする。そのあと元もとに戻もどす場合ばあいが多おおい。クリス・エンジェルは女性じょせいの胴体どうたいを切断せつだんし、上半身じょうはんしんだけが地面じめんを這はい回まわるという演技えんぎを行おこなっている。またデビッド・カッパーフィールドの「Laser」ではレーザーによって彼かれの胴体どうたいが切断せつだんされ、上半身じょうはんしんが下半身かはんしんを抱いだきかかえた状態じょうたいでジャンプしたりする。

人間にんげんに限かぎらなければ、紀元前きげんぜん1700年ねん頃ごろの書しょ『ウエストカー・パピルス』に、デディという奇術きじゅつ師しがガチョウや牛うしの首くびを切きり、それを元もとに戻もどしたという記録きろくがある。

15世紀せいきから16世紀せいき頃ころには人間にんげんの首切くびきり術じゅつを行おこなっている絵画かいがが存在そんざいし、レジナルド・スコットが出版しゅっぱんした『Discovery of Witchcraft』（『妖術ようじゅつの開示かいじ』）で解説かいせつがなされている。

上半身じょうはんしんと下半身かはんしんを切きり分わけるものとしては、P・T・セルビットが1920年ねん12月に「美女びじょの胴体どうたい切ぎり」を見みせたのが最初さいしょ。彼かれは助手じょしゅであるジャン・グレンローズを木き箱ばこの中なかに入いれ、木き箱ばこに薄うすい板いたや剣けんを突つき刺さして8分割ぶんかつした。そのあと板ばんと剣けんを取とり除のぞき、木き箱ばこをノコギリで切断せつだんしてしまうが、そのあと助手じょしゅは無傷むきずで箱はこから出でてお辞儀じぎをする。翌年よくねんの1921年ねん1月がつ27日にちに舞台ぶたいで初演しょえんされた。しかし、この後のちゴールディンが人体じんたい切断せつだんは自分じぶんが1909年ねんに開発かいはつしていたとクレームをつけている。

ペッパーの幽霊ゆうれい

詳細しょうさいは「ペッパーズ・ゴースト」を参照さんしょう

ステージ上じょうに幽霊ゆうれいが出現しゅつげんするイリュージョン。幽霊ゆうれいは壁かべをすり抜ぬけたり別人べつじんに変化へんかしたりそのまま消失しょうしつしたりもする。考案こうあん者しゃは発明はつめい家かのヘンリー・ダークスであり、彼かれは「ダークス式しき魔術まじゅつ幻灯げんとう」と名なづけていた。はじめは注目ちゅうもくされていなかったが、ロンドン工芸こうげい大学だいがくの講師こうしであるジョン・ヘンリー・ペッパーが注目ちゅうもくして改良かいりょうを加くわえ、1862年ねんのクリスマス・イブにロンドン工芸こうげい大学だいがくでの劇げき中ちゅうで上演じょうえんされた。その後ご、「ペッパーの幽霊ゆうれい」と呼よばれるようになり、様々さまざまな劇場げきじょうで演えんじられるようになった。

ペッパーは一部いちぶの人ひとだけにこのイリュージョンの原理げんりを舞台裏ぶたいうらで教おしえていたが、その中なかにはイギリスの皇太子こうたいしや科学かがく者しゃのファラデーも含ふくまれている。

スフィンクス

机つくえの上うえに旅行りょこうカバンを置おき、それを開あけると人間にんげんの頭部とうぶが出現しゅつげんする（首くびから下したは無ない）。その人間にんげんは最初さいしょは目めをつむっているが、合図あいずとともに目めを開ひらき、詩しを朗読ろうどくしたりする。最後さいごに箱はこに戻もどすと首くびは消失しょうしつする。1865年ねん10月16日にちにロンドンのエジプシャン・ホールでストダー大佐たいさが初演しょえんした。初演しょえんの前まえから『タイムズ』誌しには広告こうこくが載のせられていた。1877年ねん頃ころには日本にっぽんに伝来でんらいして横浜よこはまで演えんじられた。

消失しょうしつ

17世紀せいきのインドで演えんじられていた『ヒンズー・バスケット』という奇術きじゅつでは、竹たけで編あんだかごに子供こどもを入いれて消失しょうしつさせている（2007年ねん9月がつ19日にちに日本にほんテレビの『史上しじょう最強さいきょうのマジックＴＶてれび奇跡きせきの宴うたげ』でもイシャム・ディーンが演えんじている）。

文献ぶんけん上じょう、日本にっぽんで類似るいじの行為こういをやってみせたのは、武田たけだ信玄しんげんの軍配ぐんばい者しゃである小笠原おがさわら源はじめ与あずか斎ときで、『甲きのえ陽よう軍ぐん鑑かん』巻まき4品ひん第だい7には、風呂ふろに入はいり、上うえから人々ひとびとに蓋ぶたを押おさえさせ、知しらぬ間あいだに外そとに出でていたと記述きじゅつされる。この他ほかにも源げん与あずか斎ときは、夜よるの会合かいごうの席せきで、向むかいの山やまに火ひを立たててみせようと言いい出だし、実際じっさい、火ひを立たててみせたことが『甲きのえ陽よう軍ぐん鑑かん』に記しるされ、奇術きじゅつを用もちいた面めんがみられる（事実じじつとすれば、16世紀せいきには行おこなわれていたことになる）。

また、本格ほんかく的てきな消失しょうしつとしてはドコルタの『消きえる貴婦人きふじん』が有名ゆうめいである。ステージ上じょうに置おかれた椅子いすの上うえに女性じょせいが座すわり、マジシャンがそれを絹きぬのショールで隠かくす。ショールをどけると女性じょせいはステージ上じょうから消失しょうしつしている。考案こうあん者しゃは四よっつ玉だまや消きえる鳥とりカゴなどの発明はつめいで知しられるドコルタである。彼かれはこれを演えんじるとき、ステージ上じょうの床ゆかに隠かくされた落おとし穴あなが無ないことを強調きょうちょうするために、床ゆかに新聞紙しんぶんしを敷しいていた。

さらに大だい規模きぼな消失しょうしつとしてはハワード・サーストンが自動車じどうしゃ、ハリー・フーディーニがゾウ、ジークフリード&ロイがディズニーランドの城しろ、デビッド・カッパーフィールドが自由じゆうの女神めがみ像ぞう、ジェット機じぇっとき、オリエント急行きゅうこうを消失しょうしつさせている。

ブラック・アート

日本にっぽんでは黒くろ技わざとも呼よばれる。舞台ぶたいから客席きゃくせきへ強つよい照明しょうめいを当あてると、背景はいけいが黒くろい場合ばあいは舞台ぶたい上じょうの黒くろいものが見みえなくなるという原理げんりを用もちいた奇術きじゅつのこと。

この原理げんりを用もちいると骸骨がいこつにダンスをさせたり樽たるの中なかから幽霊ゆうれいがでてくるといった様々さまざまな現象げんしょうを起おこすことができる。

西洋せいようでは19世紀せいき頃ころに盛さかんに演えんじられたが、日本にっぽんではそれに先駆さきがけて元禄げんろく時代じだいの塩谷しおや長次郎ちょうじろうが『呑馬術じゅつ（馬うま呑術）』として演えんじていた。また江戸えど時代じだいの歌舞伎かぶきでもこの原理げんりを用もちいて大だいがまが火ひを噴ふいたり人ひとの首くびがとぶといった演出えんしゅつが行おこなわれていた。

代表だいひょう的てきなイリュージョニスト

五十音ごじゅうおん順じゅん

• クリス・エンジェル
• ジークフリート&ロイ
• Shurei
• イリュージョニストDAIKI
• デビッド・カッパーフィールド
• ナポレオンズ
• ハワード・サーストン（奇術きじゅつにおけるサーストンの三さん原則げんそくを唱となえたとされる人物じんぶつ）
• 引田ひきた天たかし功こう (初代しょだい)
• 引田ひきた天たかし功こう (2代目だいめ)

参考さんこう文献ぶんけん

• ジム・ステインメイヤー著しる、飯泉いいずみ恵美子えみこ訳わけ 『ゾウを消けせ ―天才てんさいマジシャンたちの黄金おうごん時代じだい』 河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2006年ねん、ISBN 978-4309224473。
• 泡あわ坂ざか妻つま夫おっと 『大江戸おおえど奇術きじゅつ考こう―手妻てづま・からくり・見立みたての世界せかい』　平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ、2001年ねん、40～41頁ぺーじなど、ISBN 978-4582850833。
• 高木たかぎ重しげる朗ろう 『大だい魔術まじゅつの歴史れきし』　講談社こうだんしゃ、1988年ねん、ISBN 978-4061489103。
• 平岩ひらいわ白しろ風ふう 『舞台ぶたい奇術きじゅつハイライト』　力ちから書房しょぼう、1961年ねん。
• 前川まえかわ道みち介かい 『アブラカダブラ　奇術きじゅつの世界せかい史し』　白水しろみず社しゃ、1991年ねん、ISBN 978-4560039793。
• ハーラン・ターベル 『ターベルコース・イン・マジック第だい2巻かん』　テンヨー、1976年ねん、JLA 8212781。