エーディト・フランク

エーディト・フランク（Edith Frank、1900年ねん1月がつ16日にち‐1945年ねん1月がつ6日にち）は、「アンネの日記にっき」の著者ちょしゃアンネ・フランクとその姉あねマルゴット・フランクの母親ははおやであるユダヤ系けいドイツ人じんの女性じょせい。オットー・フランクの妻つま。旧姓きゅうせいはホーレンダー（Holländer）。

経歴けいれき

ユダヤ系けいドイツ人じん豪商ごうしょうアブラハム・ホーレンダーと同おなじくユダヤ系けいドイツ人じんのローザ・ホーレンダー（旧姓きゅうせいシュテルン）夫妻ふさいの次女じじょとしてドイツ帝国ていこくの都市としアーヘンに生うまれる。アブラハムは父ちちから受うけ継ついだクズ鉄てつの取引とりひき事業じぎょうを発展はってんさせて、金属きんぞく製品せいひん卸業者おろしぎょうしゃとして成功せいこうを収おさめた人物じんぶつでアーヘンのユダヤ人じん社会しゃかいでも高たかい地位ちいを占しめていた。兄あににユリウス、ヴァルター、姉あねにベッティーナ（1914年ねんに虫垂炎ちゅうすいえんで死去しきょ）がいる。

1906年ねんからプロテスタント系けいの私立しりつ女学校じょがっこう「アーヘン・ヴィクトリア学校がっこう」へ通とおった。英語えいご、フランス語ふらんすご、ヘブライ語ごなどを学まなんだ。1916年ねんに卒業そつぎょうした。

1925年ねん5月がつ12日にちに同おなじく裕福ゆうふくなユダヤ系けいドイツ人じん家庭かていに育そだった銀行ぎんこう家かオットー・フランクとシナゴーグで結婚けっこんする。ハネムーンはイタリア旅行りょこうであった。フランクフルト・アム・マインで暮くらし、1926年ねんに長女ちょうじょマルゴット、1929年ねんには次女じじょアンネを儲もうけた。

1933年ねん1月がつ30日にちに反はんユダヤ主義しゅぎ政党せいとう国家こっか社会しゃかい主義しゅぎドイツ労働ろうどう者しゃ党とう(ナチ党とう)の党首とうしゅアドルフ・ヒトラーがパウル・フォン・ヒンデンブルク大統領だいとうりょうよりドイツ首相しゅしょうに任命にんめいされた。危機きき感かんを抱だいたフランク一家いっかはドイツを去さり、オランダ・アムステルダム市しに移住いじゅうした。エーディトにとってアムステルダムは外国がいこくの地ちながら実家じっかのあるアーヘンとそれほど距離きょりが遠とおくない利点りてんがあった。オットー、アンネ、マルゴーはオランダ語ごをすぐに習得しゅうとくしたが、エーディトはやや時間じかんがかかったという。また彼女かのじょはいずれはドイツへ戻もどることを希望きぼうしていたこともあり、ドイツの親しんせきとの連絡れんらくを絶たやさなかった。

1938年ねん11月の「水晶すいしょうの夜よる」事件じけん後ごにユダヤ人じんが大量たいりょう逮捕たいほされた際さい、アーヘンの実家じっかの家業かぎょうを亡父ぼうふから受うけ継ついでいた兄あにユリウスとヴァルターもゲシュタポに逮捕たいほされた。兄あにユリウスは一いち次じ大戦たいせんで従軍じゅうぐん経験けいけんがあったため、すぐに釈放しゃくほうされたが、弟おとうとヴァルターは従軍じゅうぐん経験けいけんがなくザクセンハウゼン強制きょうせい収容しゅうよう所しょへ収容しゅうようされた。しかしヴァルターも12月には釈放しゃくほうされた。ホーレンダー家かの会社かいしゃは1938年ねん11月12日にちに制定せいていされた「ドイツ経済けいざいからユダヤ人じんを排除はいじょするための第だい一いち命令めいれい」によって11月末まつまでに営業えいぎょう停止ていしさせられた。兄あにユリウス、ヴァルター、母ははローザはオランダへ逃のがれた。ユリウスとヴァルターは更さらにアメリカへと移住いじゅうした。母ははローザは高齢こうれいであったため、アメリカまでの長ながい船旅ふなたびは無理むりと判断はんだんし、娘むすめエーディトのフランク一家いっかに身みを寄よせ、その後ご1942年ねん1月がつ29日にちに死去しきょした。

1940年ねん5月がつ10日とおかにドイツ国防こくぼう軍ぐんがオランダへ侵攻しんこうし、14日にちにはオランダ軍ぐんは降伏ごうぶくした。ドイツ国家こっか弁務べんむ官かんアルトゥル・ザイス＝インクヴァルトの統治とうちの下したにオランダでもユダヤ人じん迫害はくがいが強つよまり、1942年ねん7月がつ6日にちにはフランク一家いっかはオットーの会社かいしゃのあったアムステルダム市しプリンセン通どおり263番ばんの隠かくれ家がに入はいることとなった。後日ごじつ、ファン・ペルス一家いっか（ヘルマン・ファン・ペルス、アウグステ・ファン・ペルス、ペーター・ファン・ペルス）や歯科しか医いのフリッツ・プフェファーもこの隠かくれ家がに合流ごうりゅうした。

自己じこ主張しゅちょうの強つよいアンネとエーディトは隠かくれ家がでしばしば衝突しょうとつした。他方たほう、控ひかえめなマルゴーとエーディトは滅多めったに衝突しょうとつしなかった。アンネは『アンネの日記にっき』の中なかで、エーディトをかなり激はげしく批判ひはんしている。後のちにアンネは客観きゃっかん性せいを持もった記述きじゅつを多おおくするようになり、娘むすめに拒絶きょぜつされて苦くるしんでいる母ははの心情しんじょうを理解りかいするような記述きじゅつをするようにはなった。しかし隠かくれ家がではアンネとエーディトが完全かんぜんに理解りかいしあえるようになるまでには至いたらなかったようである。

1944年ねん8月がつ4日にち、通報つうほうを受うけて出動しゅつどうしたSD隊員たいいんカール・ヨーゼフ・ジルバーバウアー親衛隊しんえいたい曹長そうちょうと彼かれが率ひきいるオランダ警察官けいさつかん数すう名めいが隠かくれ家がにいるユダヤ人じん8人にんを拘束こうそくした（8人にんのなかで最初さいしょに拘束こうそくされたのがエーディトだった）。フランク一家いっかは、ヴェステルボルク通過つうか収容しゅうよう所しょを経へて、アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制きょうせい収容しゅうよう所しょへ移送いそうされた。エーディトは、オットーと切きり離はなされ、アンネ、マルゴーとともに女子じょしブロックに収容しゅうようされた。かつての母はは娘むすめとの不仲ふなかなどほとんど感かんじさせないほど三さん人にんは一緒いっしょに固かたまって暮くらした。わずかな食糧しょくりょうでの過酷かこくな強制きょうせい労働ろうどう、シラミによる病気びょうきに悩なやまされる環境かんきょうの中なか、エーディトは娘むすめたちを守まもろうと必死ひっしになった。自分じぶんに支給しきゅうされたパンを娘むすめたちに分わけ与あたえた。

エーディトは娘むすめたちがベルゲン・ベルゼン強制きょうせい収容しゅうよう所しょに移うつされた後のちもアウシュヴィッツに残のこされた。娘むすめたちと切きり離はなされた後のち、衰弱すいじゃくが激はげしくなり、1945年ねん1月がつ6日にちに餓死がしした。

娘むすめのアンネとマルゴットも二に月がつほど後ご、ベルゲン・ベルゼンにおいて死亡しぼうしている。それ以外いがいの隠かくれ家がメンバーもナチ強制きょうせい収容しゅうよう所しょで死亡しぼうしており、オットー・フランクただ一人ひとりが生いき残のこり、戦後せんごを迎むかえることができた。ナチズムに家族かぞくをすべて奪うばわれたオットー・フランクは娘むすめの日記にっきを出版しゅっぱんすることに生涯しょうがいをささげた。

アメリカに亡命ぼうめいしていたエーディトの2人ふたりの兄あにたちは、スイスに住すんでいたオットーの母親ははおやを介かいして妹いもうと一家いっかと連絡れんらくをとっていた。兄あにたちは、政府せいふ機関きかんへのロビー活動かつどうで妹いもうと一家いっかのヨーロッパからの脱出だっしゅつを助すけようとしていた。オットーはナチス占領せんりょう下かでのオランダでの窮状きゅうじょうを訴うったえ、1942年ねんの春はるに地下ちか生活せいかつをする準備じゅんびをしていることをほのめかした。戦後せんご、妹いもうとの死しを知しった兄あにたちはオットーに姪めいたちと共ともに援助えんじょすることを申もうし出でたが、その後ごに姪めいたちの死しを知しった。そのショックから終生しゅうせい立たち直なおれず、長兄ちょうけいユリウスはうつ病びょうに苦くるしんだという。ユリウスは1967年ねん10月がつ4日にちに、次兄じけいヴァルターは1968年ねん9月がつ19日にちにニューヨークで死去しきょした。ともに生涯しょうがい独身どくしんであった。兄あにたちはイスラエルの国家こっかへの遺産いさん寄付きふを遺言ゆいごんしており、遺産いさんはイスラエルのユダヤ人じん難民なんみん組織そしきとアンネ・フランク基金ききんの資金しきんとなった。

参考さんこう文献ぶんけん

• メリッサ・ミュラー 著ちょ、畔上うねがみ司つかさ 訳やく『アンネの伝記でんき』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、1999年ねん。ISBN 978-4163549705。 
• キャロル・アン・リー 著ちょ、深町ふかまち眞理子まりこ 訳わけ『アンネ・フランクの生涯しょうがい』DHC、2002年ねん。ISBN 978-4887241923。