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ギリシャのユーロ圏けん離脱りだつ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』

ギリシャのユーロ圏けん離脱りだつ（ギリシャのユーロけんりだつ）とは、ギリシャの債務さいむ危機きき (Greek government-debt crisis) に対処たいしょするため仮定かていされた、同国どうこくがユーロ圏けんを離脱りだつするシナリオである。ギリシャは2018年ねん8月がつに金融きんゆう支援しえんプログラムを完了かんりょうしており、そのような離脱りだつは回避かいひされている[1]。

「グレグジット（Grexit）」は「ギリシャのユーロ圏けん離脱りだつ」を意味いみする造語ぞうごで、英語えいご: "Greek"（ギリシャの）と 英語えいご: "exit"（出でていくこと、退出たいしゅつ）を併あわせてつくられた混こん成語せいご[2]。シティグループのチーフアナリスト、ウィレム・バウター(Willem H. Buiter)とエブラヒム・ラハバリ(Ebrahim Rahbari)が2012年ねん2月がつ6日にちに発表はっぴょうしたレポートで「ギリシャがユーロ圏けんを離脱りだつし、旧きゅう通貨つうかドラクマを再ふたたび使用しようする可能かのう性せいがある」ことを指さして初はじめて使用しようされて以降いこう、マスメディアなどでも使つかわれるようになった[3][4]。

背景はいけい

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2012年ねん5月がつ中旬ちゅうじゅん、長引ながびくギリシャの財政ざいせい危機ききの中なか行おこなわれた2012年ねん5月がつギリシャ議会ぎかい総そう選挙せんきょの結果けっか、緊縮きんしゅく財政ざいせい政策せいさくに反対はんたいしてきた急進きゅうしん左派さは連合れんごう(SYRIZA)が第だい2党とうとなり与党よとう側がわが組閣そかくに失敗しっぱいしたことから、ギリシャはユーロ圏けんをすぐにでも離脱りだつするのではないかという憶測おくそくが流ながれた[5][6][7][8][9]。この「ギリシャのユーロ離脱りだつ」はグレグジット(Grexit)と呼よばれるようになり、国債こくさい市場いちばにも影響えいきょうを及およぼすようになった。エコノミストらは、この離脱りだつ観測かんそくが自己じこ達成たっせい的てき予言よげん（英語えいご版ばん）の典型てんけい例れいになることに懸念けねんを示しめした[10]。グレグジットが現実げんじつのものとなった場合ばあい、ギリシャ経済けいざいは非常ひじょうに不安定ふあんていな状態じょうたいとなることから、仮かりにグレグジットを行おこなうとしても「政府せいふの決断けつだんが下くだされてから数日すうじつ中ちゅう、というより数時間すうじかん内ない」に実行じっこうする必要ひつようがある[9][11][12]。

ユーロ自体じたいの問題もんだい

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ユーロは導入どうにゅう当初とうしょから問題もんだいがあった。その共通きょうつう通貨つうかは経済けいざいと全まったく関係かんけいが無なく、そもそも政治せいじ的てきなプロジェクトだった。ユーロが形成けいせいされて以後いごの経済けいざい成長せいちょう率りつは明あきらかに鈍化どんかした[13]。ドイツのような大国たいこくはユーロというシステムで得とくをしたが、貧まずしい国々くにぐにはさらに悪わるくなった。また政治せいじ的てきにもウクライナ問題もんだいなどにEUは何なにもできないことを示しめした。欧州おうしゅう連合れんごうは2010年ねんのギリシャへの最初さいしょの金融きんゆう支援しえんにおいて、より多おおくの負債ふさいを帳消ちょうけしにするべきであった。オリヴィエ・ブランチャードも、EUとギリシャ間あいだの交渉こうしょうが非ひ現実げんじつ的てきだと考かんがえ、ギリシャの負債ふさいを帳消ちょうけしにすることを交渉こうしょうの議論ぎろんの焦点しょうてんにするよう求もとめている[13]。

欧州おうしゅうが最適さいてき通貨つうか圏けんでは無ないことはしばしば指摘してきされてきた。域内いきないの労働ろうどう移動いどう性せいにしても、例たとえば1990年代ねんだいの居住きょじゅう地域ちいきの変更へんこう率りつ(人口じんこうに対たいする比率ひりつ)はドイツが1.1%、イタリアが0.5%であり、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの3.1%には遠とおく及およばない[14]。欧州おうしゅう域内いきないとは違ちがい、米国べいこく内ないでは同おなじ言語げんごが使つかわれているわけであるから当然とうぜんである。またユーロ圏けんの金融きんゆう政策せいさくはECBによって決きめられ、ユーロ圏けん各国かっこくは独自どくじの金融きんゆう政策せいさくをとることができない。ユーロ圏けん加盟かめい国こく間あいだでは固定こてい相場そうば制せいであるため、貿易ぼうえきのインバランスが生しょうじても、為替かわせレート変動へんどうによる調整ちょうせいメカニズムは働はたらかない。そしてユーロ圏けんの加盟かめい国こくが不ふ況きょうに陥おちいったときに、自国じこく通貨つうかを切きり下さげて輸出ゆしゅつドライブをかけて経常けいじょう収支しゅうしを改善かいぜんさせることができなくなる。米国べいこくにおいても各州かくしゅうで同おなじ通貨つうか、すなわちUSドルを使つかっているが、経済けいざいが相対そうたい的てきに弱よわい州しゅうには自動的じどうてきに米国べいこく連邦れんぽう政府せいふが経済けいざい援助えんじょをする仕組しくみとなっている。これは米国べいこくの財政ざいせい連邦れんぽう主義しゅぎと呼よばれる[14]。ユーロ圏けんではこうした財政ざいせい連邦れんぽう主義しゅぎがないので、ドイツのように経済けいざい的てきに強つよい地域ちいきがその他たの加盟かめい国こくを支援しえんする仕組しくみがないのである。

ノーベル賞しょう経済けいざい学者がくしゃジェームズ・トービンは2001年ねんの段階だんかいで既すでにユーロが内包ないほうする問題もんだい点てんを指摘してきしていた[15]。ユーロ圏けん参加さんか国こくと米国べいこくの各州かくしゅうを比較ひかくすると、両者りょうしゃともに金融きんゆう政策せいさくの主権しゅけんはない。だがユーロ圏けんのECBと米国べいこくのFRBを比くらべれば、EMUの条項じょうこうによってECBはユーロ域内いきないの物価ぶっか安定あんていに力ちからを注そそぐことを強しいられる[15]。物価ぶっかの安定あんていだけに政策せいさく焦点しょうてんがおかれるあまり、失業しつぎょうへの対策たいさくがおろそかになるのである。一方いっぽう、FRBの政策せいさくは失業しつぎょう対策たいさくと実質じっしつ経済けいざい成長せいちょうに比重ひじゅうがおかれているゆえに、欧州おうしゅうよりも米国べいこくの方ほうが失業しつぎょう率りつは低ひくい。財政ざいせい政策せいさくに関かんして、ユーロ加盟かめい国こくはマーストリヒト条約じょうやくやEMUの規則きそくに従したがわなければならず、各かく加盟かめい国こくは財政ざいせい赤字あかじをGDPの3%以内いないに抑おさえることが義務ぎむとなっている。この義務ぎむはたとえ加盟かめい国内外こくないがいで景気けいき後退こうたいが起おこったときにも果はたさなければならない。よってユーロ加盟かめい国こくが不ふ況きょうに陥おちいったときにその義務ぎむが足あしかせになるため、財政ざいせい拡張かくちょうによっての景気けいき回復かいふくを望のぞめなくなる[15]。一方いっぽう、米国べいこくの各州かくしゅうでは資本しほん形成けいせいのための公的こうてき支出ししゅつであれば支出ししゅつの上限じょうげんは無ないので、学校がっこうや高速こうそく道路どうろ建造けんぞうなどに投資とうしすることができる。

「フィリップス曲線きょくせん」も参照さんしょう

ノーベル賞しょう経済けいざい学者がくしゃクリストファー・ピサリデスは、ユーロという共通きょうつう通貨つうかシステムのために、ユーロ圏けん各国かっこくの失業しつぎょう率りつが高こう止とまりし、各国かっこくが低てい成長せいちょうに苦くるしみ失うしなわれた世代せだいが作つくり出だされていることを指摘してきした[16]。ピサリデスはユーロ圏けんを秩序ちつじょ立たてて解体かいたいさせるべきと唱となえた。

IMFの関与かんよ

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「国際こくさい通貨つうか基金ききん#IMFによる経済けいざい予測よそく」も参照さんしょう

リチャード・クーは、IMFとEUのギリシャへの交渉こうしょう姿勢しせいを厳きびしく非難ひなんした。IMFは、ギリシャが緊縮きんしゅくプログラムを実行じっこうすれば2012年ねんの段階だんかいで更さらなる債務さいむ減免げんめんは必要ひつようないと主張しゅちょうしていた[17]。EUの主張しゅちょうは、ギリシャが構造こうぞう改革かいかくを遅おくらせたためにギリシャが困難こんなんに直面ちょくめんしたのだというものだった。これらの主張しゅちょうに対たいしてリチャード・クーは、レーガノミクスで行おこなわれた構造こうぞう改革かいかくは短期たんき的てきには効果こうかが無なく、レーガン政権せいけん下かでは米国べいこくは構造こうぞう改革かいかくの恩恵おんけいをうけなかったことを指摘してきし、IMFとEUの主張しゅちょうは非ひ現実げんじつ的てきであると述のべた[17]。

2015年ねん7月がつ、IMFがギリシャの債務さいむ返済へんさいに関かんするモラトリアム(30年ねん、もしくはそれより長ながい期間きかん)の必要ひつよう性せいを唱となえた[18]。ギリシャへの金銭きんせん支援しえんをめぐり、ドイツ側がわはIMFが支援しえんに加くわわることを望のぞむ。そしてドイツ側がわはリスボン条約じょうやく125条じょうを理由りゆうにギリシャの債務さいむ減免げんめんには応おうじない。一方いっぽうIMFはギリシャの債務さいむ減免げんめんが合意ごういされない限かぎりは支援しえんを拒こばむスタンスである。債務さいむ減免げんめんだけでは不十分ふじゅうぶんであり、ギリシャへの恒常こうじょう的てきな財政ざいせい支援しえんも必要ひつようだとIMFは論ろんじた[18]。これは実質じっしつ的てきな所得しょとく移転いてんであり、EUの債権さいけん国こく(主おもにユーロ圏けん北側きたがわの国々くにぐに)の頭痛ずつうの原因げんいんである。2010年ねんのギリシャへの最初さいしょの金銭きんせん支援しえんから、欧州おうしゅう連合れんごうは所得しょとく移転いてん連合れんごうだとする論調ろんちょうがドイツでは台頭たいとうしてきている。

このIMFの対応たいおうをうけ、リチャード・クーはIMFがわずかながらギリシャの実態じったい経済けいざいを理解りかいしつつあると述のべた[17]。

ギリシャ動向どうこう

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2015年ねんギリシャ国民こくみん投票とうひょう

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ギリシャ政府せいふは2015年ねんの6月がつ30日にちまでに約やく16億おくユーロのローンをIMFに返済へんさいしなければならない。IMFや欧州おうしゅう連合れんごうは、ギリシャ政府せいふに190億おくユーロの金融きんゆう支援しえんをする交換こうかん条件じょうけんとして緊縮きんしゅく財政ざいせいプログラムをギリシャに受うけ入いれるよう要求ようきゅうしている[19]。ギリシャ政府せいふ側がわは、緊縮きんしゅく財政ざいせいプログラムを免除めんじょするよう要求ようきゅうし続つづけ、EUとギリシャとの交渉こうしょうが継続けいぞくしている。IMFらが求もとめる財政ざいせい緊縮きんしゅくプログラムは、既すでに過去かこ5年ねんにわたって苦くるしんできているギリシャ国民こくみんにとって屈辱くつじょく的てきなものであるとアレクシス・ツィプラスは述のべた[19]。

2015年ねん1月がつの総そう選挙せんきょでSyrizaが反はん緊縮きんしゅくを掲かかげて選挙せんきょに勝かち、政権せいけんについて以来いらい、Syrizaのリーダーであるチプラス率ひきいるギリシャ側がわとEU側がわの間あいだで折衷せっちゅう案あんも含ふくめ難むずかしい交渉こうしょうが続つづいていた。チプラス政権せいけんは、EU側がわが要求ようきゅうする財政ざいせい緊縮きんしゅく案あんをギリシャ側がわが受うけ入いれるかどうかについての国民こくみん投票とうひょうを2015年ねん7月がつ5日にちに開ひらくことを決定けっていした[20]。この国民こくみん投票とうひょうでYesに投票とうひょうすればEU案あんを受うけ入いれ、Noに投票とうひょうすればEU案あんを拒絶きょぜつすることになる。Yesを選択せんたくすればEUから約やく155億おくユーロの金融きんゆう支援しえんが受うけられ、そのうちの18億おくユーロは即座そくざに使用しようできる。だがYesを選択せんたくした場合ばあいはEUがギリシャに求もとめる緊縮きんしゅく財政ざいせい政策せいさくを施行しこうしなければならない。 チプラス自身じしんは、明確めいかくにNoに投票とうひょうする。チプラスは、EUがギリシャに課かそうとする財政ざいせい緊縮きんしゅくプログラムを屈辱くつじょく的てきなものと形容けいようした。今回こんかいの国民こくみん投票とうひょうでは、終おわり無なき屈辱くつじょく的てきな緊縮きんしゅく財政ざいせい政策せいさくを受うけ入いれるかどうかをギリシャの主権しゅけんと尊厳そんげんをもって決きめるのだとチプラスは述のべた[20]。アンゲラ・メルケルは、EU案あんは極きわめて寛大かんだいなオファーであると述のべた。

チプラスがEUの緊縮きんしゅく案あんを国民こくみん投票とうひょうに持もち込こむと宣言せんげんした後のち、ギリシャを除のぞくユーロ圏けん各国かっこくは怒いかり驚おどろき、交渉こうしょうを即座そくざに中断ちゅうだんした[21]。その国民こくみん投票とうひょうでNo側がわが勝利しょうりすればチプラスの影響えいきょう力りょくが強つよくなるだろうとチプラスは信しんじていた。だがユーロ圏けん首脳しゅのうらの予測よそくシナリオでは、資本しほん規制きせいでギリシャ国民こくみんの預金よきん引ひき出だし額がくに上限じょうげんが課かされればギリシャ国民こくみんとりわけ年金ねんきん受給じゅきゅう者しゃが恐怖きょうふに陥おちいり、最終さいしゅう的てきには国民こくみん投票とうひょうでYes側がわが勝かつというものだった。実際じっさいメルケルも、国民こくみん投票とうひょうの結果けっかを待まってギリシャとの交渉こうしょうを再開さいかいするという姿勢しせいであった[21]。フランス財務ざいむ大臣だいじんミシェル・サピンは、もし国民こくみん投票とうひょうでNoが勝利しょうりすればギリシャのユーロ圏けん離脱りだつへの大おおきなきっかけとなると述のべた。イタリア首相しゅしょうマッテオ・レンツィは、その国民こくみん投票とうひょうをユーロかドラクマかの選択せんたくだと述のべた。

ギリシャは以前いぜんにも類似るいじした交渉こうしょう術じゅつをとったことがある。2011年ねんのパパンドレウ政権せいけんにおいて、金融きんゆう支援しえん案あんを国民こくみん投票とうひょうにかけ、それに対たいしてニコラ・サルコジがパパンドレウを狂人きょうじんと呼よんだ。アンゲラ・メルケルは、ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウに向むかってギリシャはユーロ圏けんに残のこりたいのかそうでないのかと問とい詰つめた[21]。結局けっきょくパパンドレウはドイツに屈くっし、しばらくして首相しゅしょうを辞任じにんした。

2015年ねん7月がつ5日にちの国民こくみん投票とうひょうの結果けっか、投票とうひょう者しゃの約やく61.3%がNo側がわに、約やく38.7%がYes側がわに投票とうひょうした。これでEU側がわがギリシャに求もとめる緊縮きんしゅく財政ざいせい施行しこうを拒絶きょぜつしたことになり、No側がわに票ひょうを投とうじた有権者ゆうけんしゃらはアテネで歓喜かんきした。チプラスは、ギリシャ国民こくみんは欧州おうしゅうの民主みんしゅ主義しゅぎと協調きょうちょう性せいのために投票とうひょうしたのだと述のべ、国民こくみん投票とうひょう翌日よくじつにギリシャがEUとの交渉こうしょうを再開さいかいし、ギリシャの金融きんゆう安定あんていを再さい構築こうちくすることが最さい優先ゆうせんだと語かたった[22] 。

ギリシャ議会ぎかいの野党やとうらはその国民こくみん投票とうひょうの意義いぎが不ふ明確めいかくだと不満ふまんを述のべた。ギリシャ元もと首相しゅしょうアントニス・サマラスは、国民こくみん投票とうひょうでYes側がわに投票とうひょうするよう訴うったえていたが、国民こくみん投票とうひょうの結果けっかをうけて新しん民主みんしゅ主義しゅぎ党とうの代表だいひょうを辞任じにんした。EU高官こうかんは、その国民こくみん投票とうひょうは既すでにEU側がわとの交渉こうしょうのテーブルに乗のっていない事案じあんについて適用てきようされるものであったと指摘してきした[22]。

ギリシャへの対応たいおうをめぐり強硬きょうこう路線ろせんを崩くずさないドイツに対たいし、フランスはギリシャ国民こくみん投票とうひょうの後のちにやや柔軟じゅうなん路線ろせんに切きり替かえた[23] 。フランスの経済けいざい財政ざいせい産業さんぎょう大臣だいじんをつとめるエマニュエル・マクロンは、ヴェルサイユ条約じょうやくを再現さいげんするべきではないと述のべ、ピケティに同調どうちょうした。ギリシャ国民こくみん投票とうひょうの結果けっかをうけ、ドイツ副ふく首相しゅしょうジグマール・ガブリエルは、ツィプラスがギリシャと欧州おうしゅうとの最後さいごの架かけ橋はしを壊こわしたと述のべた[23]。

ECBによる流動りゅうどう性せい供給きょうきゅう制限せいげん

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ECBは2015年ねん6月がつ末まつにギリシャへの流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうに制限せいげんを設もうけた。かつてキプロスにも強要きょうようされた資本しほん規制きせいに強つよく反対はんたいするとヤニス・バルファキスは述のべた[24]。ギリシャ政府せいふは、資本しほん規制きせいは外国がいこく人じんや旅行りょこう者しゃには影響えいきょうをあたえないとする声明せいめいを出だした。ECBはギリシャ中央ちゅうおう銀行ぎんこうと協調きょうちょうして動うごき、ユーロ圏けんの脆弱ぜいじゃく性せいの問題もんだいに対処たいしょするとマリオ・ドラギは述のべた。ECBは、ギリシャへの流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうに関かんする決定けっていを再さい検討けんとうする用意よういがあるとする声明せいめいを出だした[24]。

ECBがギリシャ市中しちゅう銀行ぎんこうへの流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうに制限せいげんをかけたのは、ユーロ圏けん各国かっこくの財務ざいむ大臣だいじんによるユーロ・グループの会合かいごうで現状げんじょうでギリシャが金融きんゆう支援しえんプログラムを受うけ入いれないことと、IMFに対たいして債務さいむ不履行ふりこうになりそうであることを防ふせぐことができないからである。ギリシャ中央ちゅうおう銀行ぎんこうは、この難むずかしい状況じょうきょうの中なか、ユーロシステムの一部いちぶとしてギリシャ市民しみんのための金融きんゆうシステム安定あんていを図はかるためのあらゆる手段しゅだんを行使こうしすると述のべた[25]。

金銭きんせん支援しえんの条件じょうけんである緊縮きんしゅく財政ざいせい施行しこうを国民こくみん投票とうひょうによって拒絶きょぜつしたことで、ギリシャ政府せいふがEUとの交渉こうしょう再開さいかい後ごに強つよい影響えいきょう力りょくを行使こうしでき、金銭きんせん支援しえんのための合意ごういが得えられるとギリシャ政府せいふ高官こうかんらが主張しゅちょうしていた。だがECBはギリシャへの流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうの制限せいげんを解除かいじょしなかった。ECBがギリシャに間接かんせつ的てきに強しいる資本しほん規制きせいによって、ギリシャ国内こくないのキャッシュ・マシーンから一いち日にちに引ひき出だせる現金げんきんの上限じょうげんが60ユーロとなっていた。ヤニス・バルファキスは、ユーロ圏けんがギリシャに仕掛しかける戦術せんじゅつはテロリズムであると非難ひなんした[22]。

「兵糧ひょうろう攻ぜめ」も参照さんしょう

IMFへの債務さいむ不履行ふりこう確定かくてい

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ギリシャ政府せいふはIMFへ負債ふさい総額そうがく15億おくユーロを返済へんさいする必要ひつようがあり、2015年ねん6月がつ30日にち午後ごご11時じがその期限きげんであったが返済へんさいしなかった。2001年ねんにジンバブエがIMFに対たいして債務さいむ不履行ふりこうになったことがあるが[26]、IMFに対たいして債務さいむ不履行ふりこうに陥おちいった先進せんしん国こくとしてはギリシャが最初さいしょの事例じれいとなった[27][28][29]。その3日にち後ご、欧州おうしゅう金融きんゆう安定あんていファシリティが公式こうしきにギリシャのIMFへのデフォルトを認定にんていした[30]。

IOU導入どうにゅうの可能かのう性せい

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欧州おうしゅう中央ちゅうおう銀行ぎんこうによる懲罰ちょうばつ的てきな流動りゅうどう性せい制限せいげんに対抗たいこうするため、Syrizaの一部いちぶの議員ぎいんらはIOUを検討けんとうしていた。必要ひつようあらば、カリフォルニア州しゅうがリーマンショックの後のちに行いったようなカリフォルニア型がたのIOUを電子でんしマネーで発行はっこうすることもあるとバルファキスは述のべていた[31]。しかし当とうのバルファキスが財務ざいむ大臣だいじんを辞任じにんしたためにIOU計画けいかくは空中くうちゅう分解ぶんかいしてしまう。ユーロ圏けんの財務ざいむ相しょうらはバルファキス解任かいにんを望のぞんでいたのだとバルファキスは述のべた[32]。

#ThisIsACoup

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ECBがギリシャに課かした懲罰ちょうばつ的てきな流動りゅうどう性せい供給きょうきゅう制限せいげんでギリシャ国内こくない銀行ぎんこうが業務ぎょうむ停止ていしし、ギリシャ国民こくみんがATMから引ひき出だせる額がくの上限じょうげんは1日にち60ユーロまでとなっていた。ユーロ圏けんの首脳しゅのうらが、ギリシャ国民こくみん投票とうひょうにおいて、緊縮きんしゅく財政ざいせい政策せいさくに反対はんたいする側がわへの投票とうひょうは実質じっしつ的てきなユーロ圏けん離脱りだつであると脅おどしていた。そのような状況じょうきょう下かにあってもギリシャ国民こくみんは緊縮きんしゅくに反対はんたいする側がわに投票とうひょうした[33]。国民こくみん投票とうひょうで反はん緊縮きんしゅく側がわが多数たすうとなった事実じじつからも、その後ごのチプラスとEUの対立たいりつがさらに激化げきかするとみられていた。しかしチプラスは降参こうさんし、EUがギリシャに要求ようきゅうする賃金ちんぎんカットや増税ぞうぜいといった財政ざいせい引ひき締しめ政策せいさくを容認ようにんする方向ほうこうに転換てんかんした[33]。

チプラスが金銭きんせん支援しえんを求もとめEUに白旗はっきをあげたことが明あきらかになる頃ころには、シンタグマ広場ひろばにギリシャの労働ろうどう組合くみあいの旗はたをもったデモ参加さんか者しゃが集結しゅうけつしていた。デモ参加さんか者しゃはチプラスのとった180度ど回転かいてんを非難ひなんした[34]。

チプラスの降伏ごうぶくに懐疑かいぎ的てきだったヴォルフガング・ショイブレやメルケルらは、チプラスが後のちになってEU案あんを骨抜ほねぬきにするのではないかと考かんがえていた。そこでドイツ政府せいふはギリシャの忠誠ちゅうせい度どをみるためにギリシャに更さらなる要求ようきゅうを突つきつけた。チプラスとメルケルの間あいだの長ながい交渉こうしょうの焦点しょうてんとなったのは、500億おくユーロ相当そうとうのギリシャ国有こくゆう資産しさんを売却ばいきゃく民営みんえい化かして諸しょ外国がいこくに開放かいほうせよとEUとドイツが提示ていじした案あんをチプラスが承諾しょうだくするかどうかだった[35]。チプラスに突つきつけられたこの最後さいご通告つうこくに呼応こおうする形かたちで、バルセロナで数学すうがくと物理ぶつり学がくの教師きょうしをしている人物じんぶつがソーシャルメディア上うえで、ユーログループ案あんはギリシャへの水面すいめん下かでのクーデターだと述のべた。これは#ThisIsACoup(これはクーデターだ)というタグとなり、瞬またたく間まにソーシャルメディアにおいてドイツを非難ひなんする大おおきな動うごきとなった。米国べいこくでもポール・クルーグマンがこのソーシャルメディア上じょうでの動うごきに賛同さんどうし、ユーログループの提示ていじした要求ようきゅうリストは狂気きょうきであり、厳きびしいというレベルを通とおり越こして国家こっか主権しゅけんを完全かんぜんに破壊はかいするものであるとEUを非難ひなんした[35]。

実際じっさいにはショイブレの提示ていじした選択肢せんたくしにはチプラスの降伏ごうぶく以外いがいに一時いちじ的てきなグレグジットも含ふくまれていた。例たとえば5年ねん程度ていどギリシャをユーロ圏けんから離脱りだつさせて、ギリシャの回復かいふくを待まった後のちに再度さいどギリシャをユーロ圏けんへ入いれる検討けんとうをするというものである。だがこの案あんは十分じゅうぶんに検討けんとうされず、17時じ間あいだをこえる長ながい交渉こうしょうを終おえて、チプラスはユーログループに降伏ごうぶくしEU案あんを承諾しょうだくした。これにより500億おくユーロ相当そうとうのギリシャ国有こくゆう資産しさんは、EUが管理かんりするファンドに移転いてんさせられる[36]。バルファキスは、ユーログループの案あんは現代げんだいのベルサイユ条約じょうやくだと述のべた。

ギリシャはGDPの2%分ぶんの財政ざいせい緊縮きんしゅくを2016年ねんに行おこなうことを余儀よぎなくされ、すでに失業しつぎょう率りつが25%のギリシャ経済けいざいはデット・デフレーションに陥おちいり、大だい不況ふきょう6年ねん目めに突入とつにゅうすることは想像そうぞうに難かたくない[36]。景気けいきが悪わるいときには失業しつぎょう者しゃが増加ぞうかし、政府せいふが給付きゅうふする生活せいかつ保護ほご費ひや失業しつぎょう手当てあて、フードスタンプなどの額がくが増ふえる。また企業きぎょうの売上うりあげや労働ろうどう者しゃの所得しょとくが低下ていかするために法人ほうじん税収ぜいしゅう、所得しょとく税収ぜいしゅうが落おち込こむ。自動的じどうてきに財政ざいせいは多おおかれ少すくなかれ悪化あっかする。この意味いみで財政ざいせい悪化あっかは不ふ況きょうの反映はんえいである [37]。不ふ況きょうの際さいに財政ざいせい再建さいけんに舵かじをきれば不況ふきょうが悪化あっかする。そしてGDPが縮小しゅくしょうするため結果けっか的てきに債務さいむ対たいGDP比ひが上昇じょうしょうしてしまう[36]。歳出さいしゅつ削減さくげんなど財政ざいせい再建さいけん策さくを施行しこうし、そして財政ざいせいは悪化あっかするのである。

チプラスは緊縮きんしゅく財政ざいせいを施行しこうするにあたり、いくつかの関連かんれん法案ほうあんを成立せいりつさせるようEUから指示しじを受うけた。2015年ねん1月がつの選挙せんきょでは反はん緊縮きんしゅくを掲かかげて選挙せんきょに勝利しょうりしたSyrizaだけに、チプラスら親おやユーロ派はがEUとの交渉こうしょうから持もち帰かえった案あんを受うけ入いれるのは難むずかしく、Syriza内ないのいくらかの議員ぎいんはこの関連かんれん法案ほうあんに反対はんたいをすると考かんがえられている[38]。ギリシャ議会ぎかい300議席ぎせきのうち連立れんりつ与党よとうは162議席ぎせきを占しめ、Syrizaの議員ぎいんのいくらかが反対はんたい票ひょうを投とうじれば過半数かはんすうに届とどかない。だが新しん民主みんしゅ主義しゅぎ党とうや全ぜんギリシャ社会しゃかい主義しゅぎ運動うんどうなどの主要しゅよう野党やとうがEU案あんに賛成さんせいであるため、野党やとうの支持しじを得えて関連かんれん法案ほうあんが成立せいりつすると見みられている[38]。チプラスは内閣ないかく改造かいぞうを行おこなって関連かんれん法案ほうあん成立せいりつに向むかってつき進すすむと見みられている。

2015年ねん12月がつ上旬じょうじゅん、チプラス政権せいけんは政府せいふ支出ししゅつ削減さくげんや増税ぞうぜいといった緊縮きんしゅく財政ざいせい政策せいさくを中心ちゅうしんとする2016年ねんの予算よさんをギリシャ議会ぎかいで承認しょうにんさせた[39]。賛成さんせい153反対はんたい145の僅差きんさだった。反対はんたい票ひょうを投とうじた議員ぎいんらは、その予算よさん案あんが反はん成長せいちょう・社会しゃかい的てき不公平ふこうへいだとして批判ひはんしていた。その予算よさんによって57億おくユーロ相当そうとうの政府せいふ支出ししゅつが削減さくげんされる。 この緊縮きんしゅく方針ほうしんにもかかわらずギリシャ政府せいふ債務さいむは対たいGDP比ひで180.2%(2015年度ねんど)から187.8%(2016年度ねんど)に上昇じょうしょうすると予測よそくされている[39]。

欧州おうしゅう投資とうし銀行ぎんこう

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2015年ねん11月、欧州おうしゅう投資とうし銀行ぎんこうは約やく3億おくユーロをギリシャに貸かし出だすことを決きめた。この投資とうしはギリシャのエネルギー関連かんれんへの投資とうしとなる。EIBチェアマン、ヴェルナー・ホイヤーは、EIBは困難こんなんな状況じょうきょうにあるギリシャ経済けいざいを全面ぜんめん的てきにサポートすると述のべた。EIBがギリシャへの投資とうしをすることでギリシャ経済けいざい問題もんだいの解決かいけつにつながるようにしなければならないとホイヤーは述のべた[40]。

ユーログループとIMFの合意ごうい

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2016年ねん5月がつ、ユーログループとIMFは追加ついか融資ゆうしと債務さいむ軽減けいげんの工程こうてい表ひょう作成さくせいで合意ごういした[41]。この合意ごういを受うけ、欧州おうしゅう中央ちゅうおう銀行ぎんこうはギリシャ国債こくさいの受うけ入いれを再開さいかいした[42]。

神話しんわ

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ギリシャ人じんの勤労きんろう意欲いよく

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ギリシャがIMFや欧州おうしゅう連合れんごうなどに経済けいざい支援しえんを要請ようせいするようになったのはギリシャ人じんが勤労きんろうを拒否きょひしたからだとする論調ろんちょうがある。これは事実じじつと反はんする。2008年度ねんどにおけるギリシャの労働ろうどう者しゃ一いち人にんあたりの平均へいきん労働ろうどう時間じかんは一いち週間しゅうかんあたり40.1時じ間あいだであり、これは米国べいこくの39.4時じ間あいだを凌しのぐ[43]。イタリアの34.6時じ間あいだや、ニュージーランドの33.9時じ間あいだよりもはるかに長ながい[43]。

また、2012年ねんにおける労働ろうどう者しゃ一いち人にん当あたりの年間ねんかん労働ろうどう時間じかんをみれば、OECD参加さんか国こくではメキシコがトップで2226時じ間あいだ、第だい2位いが韓国かんこくの2163時じ間あいだ。ギリシャはOECD加盟かめい国こくの中なかでは第だい3位いの労働ろうどう時間じかん数すう2029時じ間あいだをほこり、これはOECDの平均へいきん値ち1769時じ間あいだよりはるかに長ながい[44]。日本にっぽんはOECD平均へいきんより若干じゃっかん下かの1745時じ間あいだ、ドイツの年間ねんかん労働ろうどう時間じかんは1393時じ間あいだとなっている。しかしギリシャには多おおくの雇用こようと利潤りじゅんをもたらす大だい企業きぎょうが少すくなく、工業こうぎょう、科学かがく、金融きんゆう業ぎょうといった産業さんぎょうも発達はったつしているとは言いえないため（ギリシャのおもな産業さんぎょうは農業のうぎょう、水運すいうん、観光かんこう業ぎょう）一人ひとり当あたりGDPはドイツの半分はんぶんほどと労働ろうどう効率こうりつは悪わるい。

500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
メキシコ
韓国かんこく
ギリシャ
チリ
米国べいこく
OECD 平均へいきん
イタリア
日本にっぽん
カナダ
アイスランド
オーストラリア
フィンランド
スペイン
イギリス
フランス
ノルウェー
ドイツ
  •   労働ろうどう者しゃ一いち人にん当あたり年どし間あいだ労働ろうどう時間じかん(2012年ねん)[44]
  •   労働ろうどう者しゃ一いち人にん当あたり年どし間あいだ労働ろうどう時間じかん、ギリシャ(2012年ねん)

ギリシャの公務員こうむいん数すう

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ギリシャの公務員こうむいん数かずが多おおすぎるためにギリシャの債務さいむ不履行ふりこうの公算こうさんを高たかめたとする主張しゅちょうがある。これも事実じじつに反はんする。公務員こうむいんを含ふくむ公的こうてきセクターで働はたらく労働ろうどう者しゃの労働ろうどう人口じんこうに占しめる割合わりあいをみれば、2008年ねんの時点じてんではOECD参加さんか国こくの中なかではノルウェーがトップで29.3%、次つぎにデンマーク等とうのように北欧ほくおう諸国しょこくがトップ4を独占どくせんしていることがわかる[45]。主要しゅよう先進せんしん国こくではフランスが最大さいだいで加盟かめい国こく中ちゅう5番目ばんめの21.9%、OECD平均へいきんは15%となっている。ギリシャは7.9%であり、日本にっぽんの6.7%よりはやや高たかいがOECDの平均へいきん値ちには全まったく及およばない[45]。

5
10
15
20
25
30
ノルウェー
デンマーク
スウェーデン
フィンランド
フランス
イギリス
カナダ
OECD平均へいきん
米国べいこく
スペイン
スイス
ギリシャ
日本にっぽん
  •   公的こうてきセクター労働ろうどう者しゃ数すうの労働ろうどう人口じんこうに占しめる割合わりあい(%) 2008年度ねんど[45]
  •   公的こうてきセクター労働ろうどう者しゃ数すうの労働ろうどう人口じんこうに占しめる割合わりあい(%)、ギリシャ 2008年度ねんど

実施じっしした場合ばあいの見通みとおし

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既すでに、ギリシャがユーロ圏けんを離脱りだつし通貨つうかが旧きゅうドラクマに戻もどることを懸念けねんして、ギリシャ国内こくないの銀行ぎんこうからユーロを引ひき出だし始はじめている人ひとも少すくなくない[46]。2012年ねん3月がつまでにかけての9ヶ月かげつ間あいだでギリシャ国内こくないの銀行ぎんこうの預金よきん残高ざんだかは13％下さがり1,600億おくユーロにまで減少げんしょうした[12]。「6月17日にちの選挙せんきょで、緊縮きんしゅく財政ざいせいに反対はんたいする勢力せいりょくが勝利しょうりした場合ばあい、それがより大だい規模きぼな「取とり付つけ騒さわぎ」発生はっせいの引ひき金がねとなる可能かのう性せいがある」と、テッサロニキ大学だいがく経済けいざい学がく教授きょうじゅのディミトリス・マルダス(Dimitris Mardas)は述のべている。マルダス教授きょうじゅは、ギリシャ当局とうきょくはパニックが治おさまるまでの間あいだ資金しきん移動いどうを規制きせいすることで対応たいおうするだろうと予測よそくしている[46]。

万まん一いちユーロに代かわって新あらたな通貨つうかが導入どうにゅうされた場合ばあい、ギリシャのすべての銀行ぎんこうは数すう日間にちかん業務ぎょうむを停止ていしし、ユーロに押印おういんして「新しんドラクマ」とするか、あるいは新あらたな紙幣しへいを印刷いんさつしなければならなくなる。かつてドラクマを印刷いんさつしていたイギリスのセキュリティ印刷いんさつ企業きぎょうデ・ラ・ルー社しゃは5月18日にち、旧きゅう金かね型がたを使つかって新しんドラクマ紙幣しへいを印刷いんさつする準備じゅんびを進すすめていると発表はっぴょうした[12]。なお発注はっちゅう後ご、新しん紙幣しへいを納品のうひんするまでにおよそ6カ月かげつかかると言いう[47]。

ギリシャ国内こくない経済けいざい

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5月29日にち、ギリシャ国立こくりつ銀行ぎんこう（英語えいご版ばん）は、「ユーロ離脱りだつは、ギリシャ国民こくみんの生活せいかつ水準すいじゅんを大おおきく下さげる」と警告けいこくした。この声明せいめいによると、ユーロ圏けんを離脱りだつした場合ばあい、ギリシャの一人ひとり当あたり国民こくみん所得しょとくは55％減少げんしょうし、新しん通貨つうかの価値かちはユーロの65％まで低下ていか、すでに5年ねん目めとなったギリシャの不ふ況きょうはさらに22％深刻しんこく化かする。また失業しつぎょう率りつは現在げんざいの22％から34％に悪化あっかし、現在げんざい2％のインフレ率りつは30％に跳はね上あがる[48]。

ギリシャのシンクタンク、経済けいざい産業さんぎょう調査ちょうさ財団ざいだん(IOBE)によると、新しんドラクマはユーロの半分はんぶんまたはそれ以下いかの価値かちにしかならない[46]。これはインフレーションを誘発ゆうはつし、ギリシャの一般いっぱん的てき国民こくみんの購買こうばい力りょくを低下ていかさせるもので、同時どうじに国くにの生産せいさん力りょくも落おち、この5年ねんで増加ぞうかした失業しつぎょう率りつはさらに増加ぞうかし、輸入ゆにゅう製品せいひんの価格かかくは天井てんじょう知しらずとなって多おおくの人ひとの手ての届とどかないものとなってしまう[46] アナリストのバゲリス・アガピトス(Vangelis Agapitos)は、新しんドラクマのインフレ率りつは通貨つうか価値かちの下落げらくに連動れんどうして導入どうにゅう後ごすぐに40％から50％となると試算しさんした[46]。アガピトスはさらに、ドラクマの価値かちの下落げらくを止とめる為ため、金利きんりは30％から40％に上昇じょうしょうするとの分析ぶんせきし[46]、人々ひとびとは住宅じゅうたくローンなどローンの支払しはらいが不可能ふかのうとなることからギリシャ国内こくないの銀行ぎんこうの破はたんを避さけるために銀行ぎんこうは国有こくゆう化かされるだろうと予測よそくしている[46]。

経済けいざい産業さんぎょう調査ちょうさ財団ざいだん(IOBE)のリサーチ部門ぶもん長ちょうアゲロス・ツァカニカス(Aggelos Tsakanikas)は、支払しはらいが滞とどこおるなどして犯罪はんざいが増加ぞうかすると予見よけんし、「街まち中ちゅうで戦車せんしゃや暴力ぼうりょくを目めにしたり、道端みちばたで飢うえる人ひとがいるようになるということではないが、犯罪はんざいは確実かくじつに増ふえる」と述のべている[46]。

対応たいおう策さく

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ギリシャのユーロ圏けん離脱りだつの後処理あとしょりに関かんしてのシンプルな解決かいけつ策さくも提示ていじされている。まずユーロ圏けんを離脱りだつしドラクマを使つかう。ギリシャ政府せいふが１ユーロが１ドラクマだと宣言せんげんしつづけ、3000億おくドル相当そうとうのドラクマを印刷いんさつする。現実げんじつには紙幣しへいを印刷いんさつする必要ひつようはなく、3000億おくドル相当そうとうの電子でんしマネーでよい[49]。そのうち2600億おくドルをIMFとECBへの負債ふさいの返済へんさいにあて、残のこりの400億おくドルでギリシャ市中しちゅう銀行ぎんこうに流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうをおこなう。これによってギリシャ国内こくないの資本しほん規制きせいが実質じっしつ的てきに解除かいじょされる[49]。紙幣しへい増刷ぞうさつによるインフレーションについては、大だい規模きぼな量的りょうてき緩和かんわを行おこなったアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの低ひくいインフレ率りつの例れいをみてもわかるように、中央ちゅうおう銀行ぎんこうが市場いちばに大量たいりょうに流動りゅうどう性せい供給きょうきゅうをしてもそれが金融きんゆう機関きかんなどにブタ積づみされてしまえば高たかいインフレはおこらないという観測かんそく事実じじつがある。つまり大量たいりょうに紙幣しへいを印刷いんさつしても、貨幣かへいの流通りゅうつう速度そくど低下ていかによってオフセットされてしまう場合ばあいには物価ぶっかに大おおきな変化へんかは見みられないのである。ギリシャのドラクマ使用しようのケースでは、ECBとIMFの金庫きんこのなかに2600億おくドルの(電子でんしマネーとしての)ドラクマを保管ほかんする必要ひつようがある。その結果けっかマネーサプライは緩ゆるやかに上昇じょうしょうし、緩ゆるやかなインフレーションとなり、ドラクマの緩ゆるやかな減価げんかがおこる[49]。

ユーロ圏けん及および国際こくさい経済けいざいへの影響えいきょう

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仏ふつ大手おおて金融きんゆう機関きかんソシエテ・ジェネラルのストラテジー部門ぶもん長ちょう(Head of equity strategy)クラウディア・パンセーリ(Claudia Panseri)は、もしギリシャが2012年ねん5月がつ下旬げじゅんに無計画むけいかくにユーロ離脱りだつをすれば、ユーロ圏けんの株価かぶかは50％急落きゅうらく[50]、緊縮きんしゅく財政ざいせいと消費しょうひの低迷ていめいでユーロ圏けんの企業きぎょう収益しゅうえきは2割わりから3割わり減少げんしょうするものとみている[50]。 ドイツ銀行ぎんこうによれば、欧州おうしゅうが2010年ねんの世界せかいの貿易ぼうえき額がくに占しめる割合わりあいは25％に達たっし[50]、特とくに中国ちゅうごく・アメリカにとって欧州おうしゅうは最大さいだいの貿易ぼうえき相手あいて国こくであることから、欧州おうしゅうが経済けいざい不ふ況きょうに陥おちいれば、世界中せかいじゅうに波及はきゅうし、経済けいざい成長せいちょう率りつは世界中せかいじゅうで鈍化どんかし得うる[50]。

恩恵おんけいとしての通貨つうか暴落ぼうらく

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ノーベル賞しょう経済けいざい学者がくしゃポール・クルーグマンは、ギリシャがドラクマを復活ふっかつさせれば、導入どうにゅうの約やく1,2年ねん後ごその通貨つうかの減価げんかによってギリシャ経済けいざいが回復かいふくに向むかうであろうと述のべる[51]。ギリシャの観光かんこう業ぎょうは、自国じこく通貨つうか安やすになることでより多おおくの観光かんこう客きゃくを呼よび寄よせることができるであろう。このような輸出ゆしゅつ主導しゅどう型がたの景気けいき回復かいふくの例れいとしてアイスランドがあげられる。2008年ねんのリーマン・ショックと世界せかい金融きんゆう危機ききの後のちにアイスランドは債務さいむ不履行ふりこうとなった。その翌年よくねんは実質じっしつ6.5%のマイナス成長せいちょうとなったが[52]、自国じこく通貨つうかアイスランド・クローナが暴落ぼうらくした。債務さいむ不履行ふりこう以前いぜんは1ドル60アイスランド・クローナであったが、これが1ドル125アイスランド・クローナまで暴落ぼうらくした。この通貨つうか暴落ぼうらくはアイスランドの輸出ゆしゅつを後押あとおしし、例たとえば観光かんこう業ぎょうにおいては2011年ねんに56万まん人にんの観光かんこう客きゃくを呼よび寄よせた[53][54]。2013年ねんには約やく3.3%の実質じっしつ経済けいざい成長せいちょうを記録きろくするなど、順調じゅんちょうに経済けいざいが回復かいふくしている[52]。

  　ギリシャの実質じっしつ経済けいざい成長せいちょう率りつ (%)[52]
  　スペインの実質じっしつ経済けいざい成長せいちょう率りつ (%)
  　アイスランドの実質じっしつ経済けいざい成長せいちょう率りつ (%)
  　アイスランド・クローナのUSドルに対たいする為替かわせレート（2004年ねん時じを100とした場合ばあい）

離脱りだつ時期じき

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米国べいこくFRBの元もと議長ぎちょうであるアラン・グリーンスパンは、ギリシャのユーロ圏けん離脱りだつは不可避ふかひであり、それが最善さいぜんの政策せいさくであると皆みなが認識にんしきするのは時間じかんの問題もんだいだと述のべる。財政ざいせい統合とうごうでもユーロ圏けんの問題もんだいは解決かいけつせず、政治せいじ的てき統合とうごうが必要ひつようだとグリーンスパンは述のべる[55] [56]。

脚注きゃくちゅう

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  3. ^ “Grexit - What does Grexit mean?”. Gogreece.about.com (April 10, 2012). May 16, 2012閲覧えつらん。
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  6. ^ Ross, Alice. “Grexit and the euro: an exercise in guesswork”. Financial Times. http://ftalphaville.ft.com/blog/2012/05/14/998631/grexit-and-the-euro-an-exercise-in-guesswork/ May 16, 2012閲覧えつらん。 
  7. ^ Boot, Alexander. “From 'Grexit' to 'Spain in the neck': It's time for puns, neologisms and break-ups”. May 16, 2012閲覧えつらん。
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