クセノポン

クセノポン

クセノポン（クセノポーン、古希こき: Ξくしーεいぷしろんνにゅーοおみくろんφふぁいῶνにゅー、英えい: Xenophon、紀元前きげんぜん427年ねん？ - 紀元前きげんぜん355年ねん？）は、古代こだいギリシア・アテナイの軍人ぐんじん、哲学てつがく者しゃ、著述ちょじゅつ家か。アテナイの騎士きし階級かいきゅうの出身しゅっしんで、ソクラテスの弟子でし（友人ゆうじん）の1人にんでもあった。クセノフォンとも。

クセノポンはグリュロスなる人物じんぶつの息子むすこで、（古代こだいギリシアでは父ちちの名なを息子むすこにつける慣習かんしゅうがあるため）同名どうめいの息子むすこがいる。息子むすこのグリュロスは紀元前きげんぜん362年ねんのマンティネイアの戦たたかいでテーバイの名将めいしょうエパメイノンダスを討うち取とったといわれる（パウサニアス, VIII. 11. 6; IX. 15. 5）。

生涯しょうがい

ソクラテスとの出会であい

クセノポンがソクラテスの弟子でしになるにあたっては、次つぎのようなことがあったと、ディオゲネス・ラエルティオス著ちょの『ギリシャ哲学てつがく者しゃ列伝れつでん』（第だい2巻かん第だい6章しょう）に書かかれている。

青年せいねん時代じだい、アテナイの町まちを歩あるいていると、ソクラテスがやってきて、杖つえでクセノポンの行ゆく手てを阻はばんだ。ソクラテスは、青年せいねんクセノポンに尋たずねる。「○○を手てに入いれるには、どこに行いけばよいか知しっているか？」。クセノポンが答こたえると、ソクラテスは畳たたみ掛かけるように、さまざまな食料しょくりょう品ひんについてこの質問しつもんを繰くり返かえした。クセノポンがいちいちそれに答こたえると、最後さいごにソクラテスはこう言いった。「では、立派りっぱな人ひとになるためには、どこに行いけばよいか知しっているか？」。クセノポンが答こたえられないでいると、ソクラテスはこう言いった。「では、私わたしのところに来きて、勉強べんきょうしなさい」。クセノポンは、この時とき以降いこう、ソクラテスの弟子でしになったという。

ペルシアへ

詳細しょうさいは「アナバシス」を参照さんしょう

クセノポンは若わかいころ、ペルシア王おうアルタクセルクセス2世せいの弟おとうとキュロスが兄あに王おうを打倒うちたおすべく雇やとったギリシア傭兵ようへいに参加さんかした（紀元前きげんぜん401年ねん～紀元前きげんぜん399年ねん）。クセノポンがこのことについてソクラテスに相談そうだんすると、ソクラテスは「神様かみさまにお伺うかがいをたてろ」と言いった。しかしクセノポンは「参加さんかするにあたっては、どの神かみにお供そなえをすればいいか」とお伺うかがいをたててしまい、その答こたえを聞きいてしまった。クセノポンは参加さんかしたくてたまらなかったのであろう。ソクラテスはしかたなく「『参加さんかするにあたっては』、とお伺うかがいを立たててしまった以上いじょう、神様かみさまにうそはつけない」として、参加さんかを許ゆるしたという。しかし、このおかげでクセノポンは師しの死し（紀元前きげんぜん399年ねん）に立たち会あうことができなかった。

傭兵ようへいとして参加さんかした東征とうせいも、キュロスの戦死せんしによって失敗しっぱいに終おわる。しかし、雇用こよう主ぬしと指揮しき官かんの死去しきょによってペルシア帝国ていこくの真まん中なかに放ほうり出だされた傭兵ようへい部隊ぶたいをまとめ、激はげしい攻撃こうげきや自然しぜんの猛威もういを防ふせぎながらも敵てき中ちゅうを脱だっすることができたのは、クセノポンの名めい采配さいはいあってこそだった。

ペルシアからの帰還きかんとその後ご

『アナバシス』はギリシア傭兵ようへいたちがまとめて小しょうアジアに侵攻しんこうしたスパルタに雇やとわれることで終おわる。クセノポンは、そのままスパルタ軍ぐんの一員いちいんとして活躍かつやくしたようである。彼かれの著作ちょさく『アゲシラオス』を見みると、スパルタ王おうアゲシラオス2世せいに心酔しんすいしていたことが分わかる。始はじめは、スパルタ軍ぐんと小しょうアジアを支配しはいするペルシア帝国ていこくとの戦たたかいであったが、ギリシア本土ほんどで反はんスパルタ陣営じんえいの反乱はんらんが生しょうじ、コリントス戦争せんそうが勃発ぼっぱつするにあたり、スパルタ軍ぐんの一員いちいんであるクセノポンも反はんスパルタ陣営じんえいとの戦たたかいに突入とつにゅうすることになる。アテナイも反はんスパルタ陣営じんえいに在あったので、コロネイアの戦たたかいにて、とうとうアテナイ軍ぐんを敵てきにまわして戦たたかうはめになってしまった。

このため、クセノポンは当時とうじの敵国てきこくであったスパルタに加担かたんして、祖国そこくに弓ゆみを引ひいたということで、アテナイを追放ついほうされる。それでも、クセノポンはコリントス戦争せんそうをスパルタ側がわとして戦たたかい続つづけた。その功績こうせきを讃たたえられ、アンタルキダスの和わ約やくによってコリントス戦争せんそうが終結しゅうけつした後のちに、クセノポンはスパルタからオリュンピア近ちかくのスキルスに荘園しょうえんをもらって住すみ、悠々自適ゆうゆうじてきの生活せいかつを送おくりつつ、狩猟しゅりょうや著述ちょじゅつにいそしんだという。その後ご情勢じょうせいが変かわってテーバイがスパルタを破やぶってスキルスを占領せんりょうしたためにクセノポンはスキルスを追おわれる事ことになる。だが、皮肉ひにくにも今度こんどはテーバイの台頭たいとうを恐おそれたアテナイとスパルタが同盟どうめいを結むすんだために、クセノポンはアテナイ追放ついほうから解とかれた。しかし、アテナイに帰国きこくしたかどうかは定さだかではなく、スキルスの次つぎはコリントスに移住いじゅうし、そこでその生涯しょうがいを閉とじた。没年ぼつねんは定さだかではない。

著作ちょさく

クセノポンの著作ちょさく全体ぜんたいは、ギリシア語ごの模範もはんテキストに多おおく用もちいられたため、ほぼ散逸さんいつすること無なく現代げんだいに伝承でんしょうされている。

ソクラテス関連かんれん

師しソクラテスの言行げんこう。

• 『ソクラテスの思おもい出で』（メモラビリア）
• 『ソクラテスの弁明べんめい』
• 『饗宴きょうえん』
• 『家政かせい論ろん』（オイコノミコス）

その他た（長編ちょうへん）

• 『ギリシア史し』 - トゥキュディデスの『戦史せんし』の後のちを受うけ書がかれ、ペロポネソス戦争せんそうの後半こうはん戦せんとアテナイに対たいするスパルタの勝利しょうり、スパルタによるギリシアの覇権はけん奪取だっしゅ、そしてテバイの台頭たいとうによるスパルタの凋落ちょうらくを描えがき、紀元前きげんぜん362年ねんのマンティネイアの戦たたかいを以って終おわる。2著ちょを合あわせてペロポネソス戦争せんそうの記録きろくが完成かんせいされたことで知しられている。
• 『アナバシス』 - 小しょうキュロスのペルシア王おうへの反乱はんらん軍ぐんへの参加さんかと撤退てったいを描えがいた。
• 『キュロスの教育きょういく』 - アケメネス朝あさペルシアを建国けんこくした大だいキュロスの生涯しょうがいを描えがいた小説しょうせつ。

その他た（短編たんぺん/小品しょうひん）

• 『ヒエロン――または僭主せんしゅ的てきな人ひと』 - シュラクサイの僭主せんしゅヒエロン1世せいを登場とうじょう人物じんぶつとした対話たいわ篇へん。
• 『アゲシラオス』 - クセノポンの同どう時代じだい人じんで友人ゆうじんでもあったスパルタ王おうアゲシラオス2世せいの伝記でんき。
• 『ラケダイモン人じんの国くに制せい』
• 『歳入さいにゅう論ろん』
• 『騎兵隊きへいたい長ちょうについて』
• 『馬術ばじゅつについて』
• 『狩猟しゅりょうについて』

偽書ぎしょ

• 『アテナイ人じんの国くに制せい』

日本語にほんご訳やく

京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉

• 『ソクラテス言行げんこう録ろく 1』 内山うちやま勝利かつとし訳わけ、京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2011年ねん
  • 『ソクラテスの思おもい出で』（メモラビリア）を収録しゅうろく
• 『ソクラテス言行げんこう録ろく 2』 内山うちやま勝利しょうり訳やく、京都きょうと大学だいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2022年ねん
  • 『家政かせい管理かんり論ろん』、『酒宴しゅえん』（饗宴きょうえん）、『ソクラテスの弁明べんめい』を収録しゅうろく
• 『ギリシア史し 1・2』（ヘレニカ）、根本ねもと英世ひでよ訳わけ、京都きょうと大学だいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、1998-99年ねん
• 『キュロスの教育きょういく』 松本まつもと仁助にすけ訳わけ、京都きょうと大学だいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2004年ねん
• 『クセノポン小品しょうひん集しゅう』 松本まつもと仁助にすけ訳やく、京都きょうと大学だいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2000年ねん
  • 『ヒエロン―または僭主せんしゅ的てきな人ひと』- 以下いかを収録しゅうろく
  • 『アゲシラオス』　
  • 『ラケダイモン人じんの国くに制せい』
  • 『政府せいふの財源ざいげん』
  • 『騎兵隊きへいたい長ちょうについて』
  • 『馬術ばじゅつについて』
  • 『狩猟しゅりょうについて』
  • 『アテナイ人じんの国くに制せい』　

文庫ぶんこ判ばん

• 『ソークラテースの思おもい出で』 佐々木ささき理さとし訳わけ、岩波いわなみ文庫ぶんこ。訳文やくぶんは古ふるい（初版しょはん1953年ねん、改版かいはん1974年ねん）
• 『アナバシス』 松平まつだいら千秋ちあき訳わけ、岩波いわなみ文庫ぶんこ、1993年ねん。旧版きゅうばんは筑摩書房ちくましょぼう。読売よみうり文学ぶんがく賞しょう受賞じゅしょう（第だい37回かい）
• 『ソクラテスの思おもい出で』 相澤あいざわ康隆やすたか訳やく、光文社こうぶんしゃ古典こてん新訳しんやく文庫ぶんこ、2022年ねん

その他た

• 『ソクラテスの弁明べんめい・饗宴きょうえん』（アポロギア・シュンポシオン） 船木ふなき英えい哲あきら訳わけ、文芸ぶんげい社しゃ、2006年ねん。
  • 電子でんし出版しゅっぱん：SW出版しゅっぱん、2016年ねん
• 『オイコノミコス : 家政かせいについて』 越前谷えちぜんや悦子えつこ訳やく、リーベル出版しゅっぱん、2010年ねん。
• 『クセノポーンの馬術ばじゅつ』 田中たなか秀央ひでお・吉田よしだ一次かずつぐ訳やく（荒木あらき雄つよし豪ごう編へん、新版しんぱん：恒星こうせい社しゃ厚生こうせい閣かく）。最古さいこの馬術ばじゅつ書しょとしての訳書やくしょ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 八木やぎ雄二ゆうじ 『裸足はだしのソクラテス　哲学てつがくの祖その実像じつぞうを追おう』春秋しゅんじゅう社しゃ、2017年ねん
  • クセノポンの著作ちょさくの重要じゅうよう箇所かしょを訳わけ・註釈ちゅうしゃくし、ソクラテスの人ひととなりを再現さいげんする試こころみ。
• 真下ましも英信えいしん 『伝つてクセノポン「アテーナイ人じんの国くに制せい」の研究けんきゅう』慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱん会かい、2001年ねん

関連かんれん項目こうもく

• パイドン - プラトン
• アカデメイア
• ギリシア哲学てつがく