アゲシラオス2世せい

アゲシラオス2世せい（古希こき: Ἀγησίλαος、紀元前きげんぜん444年ねん - 紀元前きげんぜん360年ねん、在位ざいい：紀元前きげんぜん400年ねん - 紀元前きげんぜん360年ねん）は、エウリュポン朝あさのスパルタ王おうである。

即位そくいまで

アゲシラオス2世せいはアルキダモス2世せいとその2人ふたり目めの妻つまエウポリアの子こであり、キュニスカ（古代こだいオリンピックにおいて最初さいしょに優勝ゆうしょうした女性じょせい）の兄弟きょうだいであり、先王せんおうアギス2世せいの異母弟いぼていである。

アゲシラオスの若わかい頃ころについてはリュサンドロスと親密しんみつな仲なかであった以上いじょうは分わかっていない。紀元前きげんぜん400年ねんにアギス2世せいが死しんだ時ときアゲシラオスはアギスの子こレオテュキデスと王位おういを争あらそい、レオテュキデスはアギスの妻つまティマイアとアルキビアデスとの不義ふぎの子こであるという噂うわさ（アギス本人ほんにんが一時いちじそれを認みとめる発言はつげんをしていた）を利用りようして彼かれを追おい落おとした。こうして齢よわい40にしてアゲシラオスは王位おういに上のぼった。また、自分じぶんの意いのままになる者ものを王位おういにつけようとしたリュサンドロスの働はたらきかけも彼かれの登とう位いの原因げんいんの一ひとつであった。とはいえ、即位そくい後ごのアゲシラオスはリュサンドロスを遠とおざけるようになったため、リュサンドロスの目論もくろみは外はずれた。

対たいペルシア戦せん

アゲシラオス2世せいは即位そくいから間まもなくアケメネス朝あさペルシアとの戦争せんそうを提案ていあんした。コルネリウス・ネポスによれば彼かれにそのような行動こうどうを取とらせたのは当時とうじペルシア王おうアルタクセルクセス2世せいがギリシア侵攻しんこうの準備じゅんびをしているという噂うわさであった。そして紀元前きげんぜん399年ねん、アゲシラオスは2,000のネオダモデス（自由じゆうを与あたえられたヘロット）と6,000の同盟どうめい軍ぐんを率ひきいてアジアのギリシア都市としをペルシアの支配しはいから解放かいほうすると称しょうして小しょうアジアに渡わたった。しかし、コリントス、アテナイ、テバイといった他ほかのギリシアの強国きょうこくは何なんのかんのと理由りゆうをつけて参加さんかしなかった。出征しゅっせいに際さいして彼かれはアウリスを発たつ前日ぜんじつにアガメムノンがトロイア遠征えんせいの前まえに生贄いけにえを捧ささげたのにちなんで自身じしんもやろうとしたが、テバイ人じんの乱入らんにゅうによって邪魔じゃまをされた。

アゲシラオス2世せいの電撃でんげき的てき侵攻しんこうに対たいして小しょうアジアの太守たいしゅたちは十分じゅうぶんな準備じゅんびができておらず、エペソスに到着とうちゃくしたアゲシラオス2世せいに対たいしてリュディアとカリアの太守たいしゅティッサフェルネスは3ヶ月かげつの休戦きゅうせんを求もとめ、休戦きゅうせん条約じょうやくが結むすばれた。その間あいだティッサフェルネスは戦たたかいの準備じゅんびに腐心ふしんし、休戦きゅうせんが終おわる頃ころには準備じゅんびを整ととのえた。そして彼かれは多おおくの宮殿きゅうでんが集中しゅうちゅうし、かつ豊ゆたかな土地とちであったカリアに敵てきが攻撃こうげきをかけることを予測よそくして手持てもちの全ぜん戦力せんりょくをそこに集結しゅうけつさせた。しかしアゲシラオス2世せいはフリュギアに侵攻しんこうし、フリュギア太守たいしゅファルナバゾスに勝利しょうりして膨大ぼうだいな戦利せんり品ひんを手てにした。当あてが外はずれたティッサフェルネスはフリュギアに援軍えんぐんに向むかうことができず、せっかくの大軍たいぐんを遊ゆう兵へいとしてしまった。その後ごアゲシラオス2世せいはエフェソスに兵へいを引ひいてその年としの冬ふゆを過すごした。

冬ふゆが終おわる頃ころにアゲシラオス2世せいは敵てきの裏うらをかこうとしてあえてサルディス進撃しんげきを宣言せんげんしたが、それを信しんじず、敵てきのカリア攻撃こうげきを予想よそうしてそこに軍ぐんを集中しゅうちゅうさせたティッサフェルネスはまたしても後手ごてに回まわることになった。翌よく紀元前きげんぜん395年ねんの春はるにアゲシラオス2世せいは再ふたたびリュディアに侵攻しんこうし、勝利しょうりした。ティッサフェルネスがサルディスに来きた頃ころにはアゲシラオス2世せいはいくつもの拠点きょてんを落おとし、莫大ばくだいな戦利せんり品ひんを手てに入いれており、後あとの祭まつりであった。その後ご、ヘスモス平原へいげんにおいてアゲシラオス2世せいは騎兵きへいが有利ゆうりな平野へいやを避さけて歩兵ほへいに有利ゆうりな場所ばしょにティッサフェルネスを誘さそい込こんで戦たたかい、数かずでは遥はるかに勝まさる敵てきを破やぶった。その後ご、ティッサフェルネスは敗北はいぼくの責せめを問とわれて処刑しょけいされ、ペルシア王おうの許もとから後任こうにんとして送おくられてきたティトラウステスがアゲシラオス2世せいに当あたることになったが、彼かれはアゲシラオス2世せいと休戦きゅうせん条約じょうやくを結むすんだ。その後ごアゲシラオス2世せいは再ふたたびフリュギアに進入しんにゅうし、翌年よくねんの春はるまでそこを荒あらした。

コリントス戦争せんそう

パウサニアスによれば、智謀ちぼうに長たけ、反はんスパルタであるティトラウステスはアゲシラオス2世せいをアジアから追おい出だすために一計いっけいを案あんじた。彼かれはロドス人じんのティモクラテスなる者ものをギリシアに送おくり、強大きょうだい化かするスパルタに警戒けいかい心しんを抱だいていたアテナイ、アルゴス、テバイ、コリントスといった諸国しょこくの有力ゆうりょく者しゃに賄賂わいろを渡わたし、対たいスパルタ戦争せんそうを始はじめさせた。コリントス戦争せんそう（紀元前きげんぜん395年ねん-紀元前きげんぜん387年ねん）である。紀元前きげんぜん394年ねん、ギリシア本土ほんどで起おこった戦争せんそうのためにアゲシラオス2世せいはスパルタ本国ほんごくに呼よび戻もどされた。彼かれはアビュドスからヘレスポントスを渡わたり、トラキア、マケドニアを経へてギリシア中心ちゅうしん部ぶに到いたり、8月がつ14日にちにコロネイアの戦たたかいでアゲシラオスを迎むかえ撃うたんとしたアテナイ、ボイオティア、その他た同盟どうめい軍ぐんを破やぶった。ペロポネソス半島はんとうへの途上とじょうデルポイで彼かれは引退いんたいした。しかし、その直後ちょくごにスパルタはクニドスの海戦かいせんでアテナイ・ペルシア連合れんごう艦隊かんたいに大敗たいはいを喫きっし、アゲシラオス2世せいは再ふたたび剣けんを取とった。

翌よく紀元前きげんぜん393年ねん、アゲシラオス2世せいはアルゴスを荒あらし、翌年よくねんにはコリントス領りょうに侵攻しんこうし、レカイオンとピレウスを占領せんりょうし、成功裏せいこうりに終おわらせた。しかし紀元前きげんぜん391年ねんのレカイオンの戦たたかい で1モラのスパルタ重じゅう装そう歩兵ほへい部隊ぶたいがイピクラテス率ひきいるアテナイの軽装けいそう歩兵ほへい部隊ぶたいに敗やぶれ、アゲシラオス2世せいの成功せいこうは相殺そうさいされた。紀元前きげんぜん389年ねんに彼かれは反はんスパルタ同盟どうめい側がわと同盟どうめいを結むすんでいたアカルナニアに侵攻しんこうし、それを破やぶった。そして2年ねん後ごの紀元前きげんぜん387年ねんにアンタルキダスの和わ約やく（大王だいおうの和わ約やくとも）によって戦争せんそうは終結しゅうけつした。この時ときアゲシラオス2世せいがテバイの代表だいひょうエパメイノンダスに「テバイ人じんは（その時ときテバイに服属ふくぞくしていた）ボイオティア人じんが個々ここで条約じょうやくを結むすぶのを許ゆるすのか」と問とうた時とき、エパメイノンダスはアゲシラオス2世せいに「スパルタがペリオイコイに市しごとに条約じょうやくを結むすぶのを許ゆるさないうちは許ゆるさない」とい返いかえすなど、この時ときスパルタとテバイの対立たいりつは深刻しんこくなレベルに達たっしていた。

対たいテバイ戦せんから死しまで

その後ご、スパルタとテバイとの間あいだに戦争せんそうが勃発ぼっぱつし、アゲシラオス2世せいは紀元前きげんぜん378年ねんとその翌年よくねんの二に回かいに亘わたってボイオティアに進行しんこうしたが、病気びょうきによって次つぎの5年ねんは休息きゅうそくを取とった。紀元前きげんぜん371年ねんのレウクトラの戦たたかいで名将めいしょうエパメイノンダス率ひきいるボイオティア軍ぐんにアゲシラオス2世せいの共同きょうどう統治とうち者しゃクレオンブロトス1世せい率ひきいるペロポネソス同盟どうめい軍ぐんが敗やぶれ、スパルタはギリシアの覇権はけんを失うしなった。

その後ごのエパメイノンダスの度重たびかさなるペロポネソス侵攻しんこう、隷属れいぞく民みんらの反乱はんらんや陰謀いんぼうに対たいして城壁じょうへきを持もたぬスパルタを守まもったのはアゲシラオス2世せいだった。クセノポンによれば、軍資金ぐんしきんを得えるためにアゲシラオス2世せいは紀元前きげんぜん362年ねんにキオスの支配しはい者しゃアリオバルザネスのペルシア王おうに対たいする反乱はんらんを助たすけた。

エパメイノンダスの第だい四よん次じペロポネソス侵攻しんこうにて起おこったマンティネアの戦たたかい（紀元前きげんぜん362年ねん）でついにアゲシラオス2世せい率ひきいるスパルタ・アテナイ連合れんごう軍ぐんはエパメイノンダスを戦死せんしさせるに至いたる。この戦たたかいは結果けっかだけ見みればボイオティア軍ぐんの勝利しょうりであったが、エパメイノンダスを失うしなったテバイはギリシアの覇権はけんを維持いじできなくなったことを考かんがえればアゲシラオス2世せいは「試合しあいに負まけて勝負しょうぶに勝かった」と言いえる。ちなみに、マンティネイアの戦たたかいはスパルタ、テーバイの双方そうほうが勝利しょうり宣言せんげんを行おこなっている。

レウクトラ以降いこうスパルタは再ふたたびギリシアの覇権はけんを取とり戻もどすことも国力こくりょくを回復かいふくすることもなかったが、アゲシラオス2世せいはスパルタの再建さいけんに尽力じんりょくした。紀元前きげんぜん361年ねん、アゲシラオス2世せいはスパルタの逼迫ひっぱくした財政ざいせいを立たて直なおすべくエジプトに向むかい、王おうネクタネボ2世せいが王位おういにつくのを助たすけ、220タラントを受うけ取とった。その帰路きろにてアゲシラオス2世せいはキュレナイカで客死かくしした。84歳さいであった。彼かれの遺体いたいは蝋ろうを塗ぬって保存ほぞんされ、スパルタに輸送ゆそうされ、そこで葬ほうむられた。

次つぎの王位おういには子このアルキダモス3世せいが上のぼった。

人物じんぶつ像ぞう

アゲシラオス2世せいは低てい身長しんちょうで痩やせ身み、そして片足かたあしが不自由ふじゆうで、保守ほしゅ的てきな人物じんぶつであったが、勇気ゆうき、節制せっせいなどの人格じんかく的てきな立派りっぱさ、そして優すぐれた用兵ようへいの才ざいを持もった王おうであり、彼かれの美徳びとくに触ふれたものはそれを賞賛しょうさんしてやまなかったという。また、どんなに多おおくの贈おくり物ものを貰もらっても、何一なにひとつ自宅じたくに持もち帰かえらずに、スパルタ式すぱるたしきの質素しっそな生活せいかつ形式けいしきを維持いじした。アテナイの歴史れきし家かで友人ゆうじんのクセノポンは彼かれに心酔しんすいし、『アゲシラオス』という作品さくひんを著あらわした。

参考さんこう文献ぶんけん

• コルネリウス・ネポス著しる、上村うえむら健二けんじ・山下やました太郎たろう訳やく、『英雄えいゆう伝でん』、国文こくぶん社しゃ、1995年ねん
• パウサニアス著しる、飯尾いのお都と人じん訳やく、『ギリシア記き』、龍渓りゅうけい書しょ舎しゃ、1991年ねん

先代せんだい アギス2世せい

スパルタ王おう（エウリュポン朝あさ） 紀元前きげんぜん400年ねん - 紀元前きげんぜん360年ねん

次代じだい アルキダモス3世せい