ゲベール銃じゅう

ゲベール銃じゅう。写真しゃしんの銃じゅうは「日本にっぽんでゲベール銃じゅうとして展示てんじされているもの」として引用いんようされるが、正確せいかくには本稿ほんこうで記述きじゅつされるオランダ製せいではなく、会津あいづ藩はんが1840年代ねんだいに導入どうにゅうしたバイエルンM1842マスケットである。バイエルンM1842は本来ほんらいは滑すべり腔銃身じゅうしんのゲベール銃じゅうであるが、バイエルン公国こうこく本国ほんごくではミニエー銃じゅう登場とうじょう後ごにライフリングを銃身じゅうしんに刻きざまれ、ライフルド・マスケットに改修かいしゅうされた。

ゲベール銃じゅう（ゲベールじゅう）とは、前ぜん装そう式しき、滑すべり腔銃身じゅうしん（ライフリングがない）、フリントロック式しき（燧石ひうちいし式しき）、またはパーカッションロック式しき（雷管らいかん式しき）の洋式ようしき小銃しょうじゅうである。すなわち、マスケットと呼よばれるものと同一どういつであるが、幕末ばくまつの日本にっぽんでは特とくにこう呼よぶものである。

「ゲベール」（Geweer、標準ひょうじゅんドイツ語ごの「ゲヴェーア (Gewehr) に該当がいとう」）とはオランダ語ごで「小銃しょうじゅう」を意味いみするが、本来ほんらいのオランダ語ごでの発音はつおんは「ヘヴェール」に近ちかい。

概要がいよう

• 全長ぜんちょう：約やく1.5メートル
• 重量じゅうりょう：約やく4キログラム
• 口径こうけい：約やく18ミリメートル
• 射程しゃてい：100から300メートル

歴史れきし

1670年代ねんだいにフランスで開発かいはつされ、それから約やく100年ねん後ごの1777年ねんにオランダが制式せいしき採用さいようした。著名ちょめいなものではフランスにおけるシャルルヴィル・マスケットやその1777年ねん型がたであるマスケットM1777、同どう時期じきのイギリスにおけるブラウン・ベス、アメリカのスプリングフィールドM1842以前いぜんの各かく型かたがゲベール銃じゅうの範疇はんちゅうに含ふくまれる。元々もともと「敵てきの密集みっしゅう兵団へいだんの中なかに撃うち込こんで、混乱こんらんさせる」という使用しよう目的もくてきの銃じゅうであり、大量たいりょう生産せいさんと構造こうぞうの簡略かんりゃく化かを優先ゆうせんとしているため、命中めいちゅう精度せいどは悪わるい。初期しょきは燧石ひうちいし式しきだったが、のちに管かん打だ式しき（雷管らいかん式しき）に改あらためられた。射程しゃていは同おなじ前ぜん装そう式しき滑すべり腔銃である火縄銃ひなわじゅうと同どう程度ていどだが、特とくに燧石ひうちいし式しきタイプは着火ちゃっか時じの衝撃しょうげきが火縄銃ひなわじゅうと比くらべて大おおきいため、命中めいちゅう精度せいどでは劣おとる。しかし、裸はだか火ひを扱あつかう火縄銃ひなわじゅうでは、密集みっしゅう隊形たいけいを伴ともなう当時とうじの西洋せいよう式しきの部隊ぶたい行動こうどう（戦列せんれつ歩兵ほへい）を行おこなうには暴発ぼうはつの危険きけんが大おおきく困難こんなんであるうえ、火縄銃ひなわじゅうとは異ことなって銃剣じゅうけんを装備そうびできるというメリットもあった。

日本にっぽんでは、幕末ばくまつ期きに西洋せいよう軍制ぐんせいを導入どうにゅうした江戸えど幕府ばくふや藩はんが相次あいついでゲベールを購入こうにゅうした。1831年ねんに砲術ほうじゅつ家かの高島たかしま秋帆しゅうはんがオランダから輸入ゆにゅうしたのが始はじまりとされる。幕末ばくまつの早はやい段階だんかいから輸入ゆにゅうが開始かいしされ、すでに施ほどこせ条じょう銃じゅうの時代じだいとなっていた西欧せいおうから旧式きゅうしきのゲベールが大量たいりょうに日本にっぽんに輸出ゆしゅつされた。また、輸入ゆにゅうだけではなく、火縄銃ひなわじゅうとは発火はっか装置そうちが異ことなる程度ていどだったことから各地かくちにて国産こくさんのゲベールが製造せいぞうされたほか、火縄銃ひなわじゅうの発火はっか装置そうちを（燧石ひうちいし式しきを飛とばして直接ちょくせつ）管かん打だ式しきに改造かいぞうした和製わせいゲベールも見みられる。そのために値崩ねくずれを起おこし、価格かかくは1挺てい5両りょうほどにまで下さがった。

一方いっぽう、欧米おうべいでも随時ずいじライフリングが刻きざまれてミニエー銃じゅうに改修かいしゅうされたり、滑すべり腔銃身じゅうしんのままミニエー弾だんやプリチェット弾だんが配布はいふされたりしたほか、後こう装そう式しきに改造かいぞうされるまで使つかい切きられるゲベール銃じゅうも存在そんざいしたが、日本にっぽんではほとんどそのような改修かいしゅうや運用うんようは行おこなわれなかった。

輸入ゆにゅうが始はじまった頃ころは薩摩さつま藩はん・長州ちょうしゅう藩はんや幕府ばくふ軍ぐんで採用さいようされていたが、薩摩さつま・長州ちょうしゅうでは早はやい段階だんかいから、ゲベール銃じゅうよりも新式しんしきで命中めいちゅう率りつ・射程しゃていに優すぐれた施ほどこせ条じょう銃じゅうであるミニエー銃じゅうやスナイドル銃じゅうへの更新こうしんを進すすめた。幕府ばくふ軍ぐんも第だい二に次じ長州ちょうしゅう征討せいとう以降いこうは積極せっきょく的てきに施ほどこせ条じょう銃じゅうを導入どうにゅうし、幕府ばくふ陸軍りくぐんの歩兵ほへい隊たいなどに支給しきゅうした。戊辰戦争ぼしんせんそう時点じてんではゲベール銃じゅうは時代遅じだいおくれの銃じゅうとなっていたが相対そうたい的てきに安価あんかであり、東北とうほく諸しょ藩はんのほとんどは幕末ばくまつ期きに購入こうにゅうしたゲベール銃じゅうやヤーゲル銃じゅうが主力しゅりょくのまま戊辰戦争ぼしんせんそうに突入とつにゅうしていた。