サンガ (元もと)

サンガ（Samgha, ? - 1291年ねん）は、モンゴル帝国ていこく（元もと）のカアンであるクビライに仕つかえた財務ざいむ官僚かんりょう。漢字かんじ表記ひょうきは桑くわ哥。ペルシア語ご資料しりょうの表記ひょうきでは سنكه sanka/sanga 。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ウイグル人じんあるいはチベット人じん仏教徒ぶっきょうと（ラマ教らまきょう）出身しゅっしん。はじめチベット仏教ぶっきょうのサキャ派はに入門にゅうもんし、元朝がんちょうの国師こくしとして中国ちゅうごく・チベットの仏教ぶっきょう界かいを統括とうかつした教主きょうしゅパクパの天蓋てんがい持もちをつとめる従者じゅうしゃであったが、複数ふくすうの言語げんごに通つうじたことから通訳つうやく官かんとして元朝がんちょうに仕つかえるいわゆる色目いろめ人じん官吏かんりとなり、さらに仏教ぶっきょう行政ぎょうせいとチベットの統治とうちを司つかさどる総そう制せい院いん使しに抜擢ばってきされた。彼かれはこの地位ちいによって出身しゅっしん母体ぼたいであるチベット仏教ぶっきょうのほか、華北かほく仏教ぶっきょう、ウイグル仏教ぶっきょうなど元朝がんちょう治下ちかの仏教ぶっきょう教団きょうだん諸派しょはとの折衝せっしょうにあたり、またムスリム（イスラム教徒きょうと）や漢人かんどの商人しょうにんとも繋つながりをもって財務ざいむに習熟しゅうじゅくした。その後ご、クビライ初期しょきの財務ざいむ長官ちょうかんアフマドが暗殺あんさつされた後のち、サンガ一味いちみは漢かん族ぞくの盧の世よ栄さかえをアフマドの後釜あとがまとして推挙すいきょした。翌年よくねんに盧の世よ栄さかえがモンゴル貴族きぞくのアントンによって不正ふせいを暴あばかれて、クビライの信頼しんらいを失うしなって失脚しっきゃくして獄死ごくしすると、サンガは連年れんねんの外征がいせい経費けいひの蓄積ちくせきによる巨額きょがくの歳入さいにゅう赤字あかじを埋うめ合あわせるため、1287年ねんに復活ふっかつ設置せっちされた財務ざいむ官庁かんちょう尚書しょうしょ省しょうの長官ちょうかん（平たいら章あきら政事せいじ）に起用きようされ、財政ざいせい再建さいけんを委ゆだねられた。

サンガによる尚書しょうしょ省しょうの復活ふっかつとともに、地方ちほう行政ぎょうせい機関きかん行くだり中書ちゅうしょ省しょうは「行くだり尚書しょうしょ省しょう」に改あらためられて中央ちゅうおうの尚書しょうしょ省しょうの影響えいきょう下かにおかれた。また同年どうねんに、インフレーションが続つづいて価値かちの下落げらくしていた紙幣しへい（交鈔）のデノミネーションが断行だんこうされ、従来じゅうらいの中なか統すべ鈔を5分ぶんの1に切きり下さげた至いたり元もと鈔が発行はっこうされた。サンガに対たいするクビライの信任しんにんは深ふかく、同年どうねん末まつには平たいら章あきら政事せいじより格かくの高たかい尚書しょうしょ右みぎ丞相じょうしょうの肩書かたがきに引ひき上あげられる。

財政ざいせい危機ききの打開だかいをはかるため、サンガには中央ちゅうおう政府せいふの早急そうきゅうな増収ぞうしゅうに繋つながる施策しさくが求もとめられたが、彼かれはこれに対たいし、肥沃ひよくな江南こうなんからの収益しゅうえき増強ぞうきょう策さくをもって応こたえた。江南こうなんにおいて、サンガは南みなみ宋そうからひきついだ戸籍こせきをもとにした税源ぜいげんの査定さていと徴税ちょうぜいの徹底てってい化かを行おこない、塩しおなどの官業かんぎょう専売せんばい制せいを強化きょうかした。これら江南こうなんからの収益しゅうえきは元朝がんちょうの国家こっか歳入さいにゅうの大おおきな部分ぶぶんを占しめ、財政ざいせいを支ささえるに至いたる。さらに、これらの富とみを王朝おうちょうの中央ちゅうおうである河北かわきた・モンゴル高原こうげんに供給きょうきゅうするため、中国ちゅうごくの南北なんぼくをつなぐ水上すいじょう交通こうつうを整備せいびさせて江南こうなんから華北かほくへ米べいを送おくるパイプとした。1289年ねんには中国ちゅうごくの南北なんぼくをつなぐ運河うんがが竣工しゅんこうするとともに、海上かいじょう輸送ゆそうが江南こうなん米べいの北きた送おくの正式せいしきなルートとして認みとめられ、運河うんがによって海うみとも繋つながれた首都しゅとの大だい都とに江南こうなんの富とみが流入りゅうにゅうするようにされた。

サンガの財政ざいせい政策せいさくによって、元もとは本格ほんかく的てきに江南こうなん地方ちほうの開発かいはつに乗のり出だすことになったが、これらの経済けいざい政策せいさくにはサンガの与党よとうの色目いろめ人じん財務ざいむ官僚かんりょうが登用とうようされ、行くだり省しょう以下いか地方ちほう行政ぎょうせいの高官こうかんに取とり立たてられる一方いっぽう、モンゴル譜代ふだいの功臣こうしんの子孫しそんが解任かいにんに追おいやられたりしたため、行政ぎょうせいの実権じっけんと影響えいきょう力りょくをめぐってアフマド以来いらい尚書しょうしょ省しょう系けいの人々ひとびとと長ながらく争あらそってきた中書ちゅうしょ省しょうのモンゴル貴族きぞく・漢人かんど官僚かんりょうとの対立たいりつが再燃さいねん激化げきかした。1291年ねん、サンガは売うれ官かん、徒党ととう、誣告ぶこくなどの罪つみを糾弾きゅうだんされてクビライの信任しんにんを失うしない失脚しっきゃくして、獄死ごくしした。