ジュリアおたあ

ジュリア おたあ
教派きょうは	カトリック教会きょうかい
洗礼せんれい名めい	ジュリア（ユリア）
受洗じゅせん日び	1590年代ねんだい？
誕生たんじょう日び	不明ふめい
帰かえり天日てんじつ	不明ふめい

ジュリア おたあ（生なま没年ぼつねん不ふ詳しょう）は、安土あづち桃山ももやま時代じだいの朝鮮ちょうせん人じん女性じょせい。文禄・慶長ぶんろくけいちょうの役えき（朝鮮ちょうせん出兵しゅっぺい）の際さいに日本にっぽんに連行れんこうされ、のちにキリスト教きりすときょうに改宗かいしゅうして、現代げんだいに伝つたわる洗礼せんれい名めい「ジュリア」を得えて、日本にっぽん名めい「たあ」と合あわせて「ジュリアおたあ」と呼よばれる。

彼女かのじょを猶子ゆうしとした小西こにし行長ゆきながが関ヶ原せきがはらの戦たたかい（1600年ねん）に敗やぶれて刑死けいしした後のち、勝者しょうしゃである徳川とくがわ家康いえやすの侍女じじょとなったが、禁教きんきょう令れいが出でてもキリシタンとしての信仰しんこうを捨すてなかったため、伊豆諸島いずしょとうへ流刑りゅうけいとなった。

生涯しょうがい

出自しゅつじは戦乱せんらんの中なかで戦死せんしまたは自害じがいした朝鮮ちょうせん人じんの娘むすめとも、人質ひとじちとして捕虜ほりょとなった李り氏し朝鮮ちょうせんの両りょう班はんの娘むすめともいわれる。生なま没年ぼつねんや実名じつめい、家系かけいなどの仔細しさいは不明ふめいであるが、生いき別わかれた弟おとうとと思おもわれる人物じんぶつが、朝鮮ちょうせん出兵しゅっぺいに参加さんかした毛もう利家としいえの家臣かしんとして村田むらた安政あんせい（うんなき）として一家いっかを立たて、長州ちょうしゅう藩士はんしを経へて現代げんだいまで家系かけいが存続そんぞくしており、おたあが送おくった書状しょじょう3通つう、安政あんせいが家康いえやすに拝謁はいえつした際さいに下賜かしされたと思おもわれる三みつ葉ば葵あおい（徳川とくがわ家か家紋かもん）入いり小袖こそでが萩はぎ博物館はくぶつかんに寄贈きぞうされて現存げんそんしている。キリシタン史し研究けんきゅう家かの浅見あさみ雅一まさいち（慶応義塾大学けいおうぎじゅくだいがく教授きょうじゅ）は書状しょじょうの分析ぶんせきから、貴族きぞく階級かいきゅうの出身しゅっしんと推定すいていしている。

文ぶん禄ろくの役やくにおいて、朝鮮ちょうせん征伐せいばつ軍ぐんにより平壌ぴょんやん近郊きんこうで保護ほごされたのち、キリシタン大名だいみょうの小西こにし行長ゆきながに身柄みがらを引ひき渡わたされ、小西こにし夫妻ふさいのもとで育そだてられる。保護ほごされた際さい、名なを聞きかれ「オプタ（없다　無ない）」と答こたえたのが転てんじて「おたあ」と呼よばれるようになったという説せつがある。行長ゆきなが夫人ふじんのもとでキリシタンの洗礼せんれいを受うけ、ジュリアの名ながついた。行長ゆきなが夫人ふじんの教育きょういくのもと、とりわけ小西こにし家かの元来がんらいの家業かぎょうと関かかわりの深ふかい薬草やくそうの知識ちしきに造詣ぞうけいを深ふかめたといわれる。

慶長けいちょう5年ねん（1600年ねん）の関ヶ原せきがはらの戦たたかいにて敗やぶれた行長ゆきながが処刑しょけいされ小西こにし家かが没落ぼつらくすると、美うつくしく聡明そうめいなジュリアの評判ひょうばんを聞きいた徳川とくがわ家康いえやすが大奥おおおくに召めし上あげ、伏見ふしみ城じょうで御物ぎょもつ仕つかまつ（正室せいしつの食事しょくじ係がかり）となった。昼ひるに一いち日にちの仕事しごとを終おえてから夜よるに祈祷きとうしキリスト教きりすときょうの教理きょうり書しょを読よみ、他たの侍女じじょたちをキリスト教きりすときょう信仰しんこうに導みちびいたとされる。伏見ふしみ教会きょうかいのロドリゲス・ジラン神父しんぷは、1605年ねん『イエズス会かい年報ねんぽう』の中なかで、高こう麗うらら（李り氏しの前まえの王朝おうちょうで、朝鮮半島ちょうせんはんとうを指さしても使つかわれる）生うまれでキリシタンの侍女じじょ、ジュリアについて報告ほうこくし、熱心ねっしんな信者しんじゃとしての様子ようすを「茨いばらの中なかの薔薇ばら」と評ひょうした。

慶長けいちょう11年ねん（1606年ねん）春はる、家康いえやすは江戸城えどじょうにジュリアを伴ともなった。家康いえやすの許可きょかを得えて江戸城えどじょう下かにつくられたフランシスコ会かいの天主堂てんしゅどう（教会きょうかい）の神父しんぷアルフォンソ・ムニョスは、1607年ねん2月がつ、スペイン領りょうフィリピンの中心ちゅうしんであるマニラの管区かんく長ちょうへの報告ほうこく書しょの中なかで、天主堂てんしゅどうのミサに通かよう侍女じじょのジュリアについて触ふれている。

慶長けいちょう12年ねん（1607年ねん）春はる、家康いえやすは駿府すんぷ城じょうで隠居いんきょする際さいにジュリアを伴ともなった。駿府すんぷ城じょうでは「阿おもね瀧たき（おたあ）」と呼よばれた。スペインのセバスティアン・ビスカイノは、慶長けいちょう16年ねん（1611年ねん）に駿府すんぷ城じょうで家康いえやすと会見かいけんした際さい、ジュリアが同席どうせきしていたことを『金銀きんぎん島とう探検たんけん報告ほうこく』に記載きさいしている。

家康いえやすは岡本おかもと大八だいはち事件じけんを機きにキリシタンを排除はいじょするようになり、慶長けいちょう17年ねん（1612年ねん）にキリシタン禁教きんきょう令れいを出だした。ジュリアはキリシタン棄教の要求ようきゅうを拒否きょひした上うえ、家康いえやすの側室そくしつへの抜擢ばってきに難色なんしょくを示しめしたため駿府すんぷより追放ついほうされ、伊豆いず大島おおしま在ざい島しま30日にちで新島にいじまに、さらに15日にち後ごに神津島こうづしまへと流ながされた。どの地ちにおいても熱心ねっしんに信仰しんこう生活せいかつを守まもり、見捨みすてられた弱者じゃくしゃや病人びょうにんの保護ほごや、自暴自棄じぼうじきになった若わかい流人るにんへの感化かんかなど、島民とうみんの日常にちじょう生活せいかつに献身けんしん的てきに尽つくしたとされる（おたあはその教化きょうかで島民とうみんからキリシタン信仰しんこうを獲得かくとくしたとも言いわれるが定さだかではない）。また、3度ども遠島えんとう処分しょぶんにされたのは、そのつど赦免しゃめんと引換ひきかえに家康いえやすへの恭順きょうじゅんの求もとめを断ことわり続つづけたこと、新島にいじまで駿府すんぷ時代じだいの侍女じじょ仲間なかまと再会さいかいして、一種いっしゅの修道しゅうどう生活せいかつに入はいったことなどが言及げんきゅうされている。セバスチャン・ヴィエラ神父しんぷの1613年ねん『年度ねんど報告ほうこく』、1619年度ねんど『イエズス会かい年報ねんぽう』のロドリゲス・ジラン神父しんぷの報告ほうこく書しょには、ジュリアの消息しょうそくが記載きさいされている。

1622年ねん2月がつ15日にち付づけ『日本にっぽん発信はっしん』のフランシスコ・パチェコ神父しんぷの書簡しょかんに、おたあは神津島こうづしまを出でて大坂おおさかに移住いじゅうして神父しんぷの援助えんじょを受うけている旨むねの文書ぶんしょがあり、のちに長崎ながさきに移うつったと記しるされている。その後ごの消息しょうそくおよび最期さいごについては不明ふめいである。

没後ぼつご

1950年代ねんだいに神津島こうづしまの郷土きょうど史家しか山下やました彦一郎ひこいちろうが、島しまにある由来ゆらい不明ふめいの供養くよう塔とうがおたあの墓はかであると主張しゅちょうしたことから、神津島こうづしまで没ぼっしたとする説せつが出でた。以来いらい同島どうとうでは毎年まいとし5月がつに、日にち韓かんのクリスチャンを中心ちゅうしんとして、おたあの慰霊いれい祭さいが行おこなわれ、1972年ねんには韓国かんこくのカトリック殉教じゅんきょう地ちの切きり頭山つむりやまに神津島こうづしまの村長そんちょうと村議そんぎ会議かいぎ員いんらが、おたあの墓はかの土どを埋葬まいそうし、石碑せきひを建たてた。しかしその後ご、上述じょうじゅつの『日本にっぽん発信はっしん』が発見はっけんされたため石碑せきひは撤去てっきょされ、真相しんそうが完全かんぜんに明あきらかになるまで切きり頭山つむりやまの殉教じゅんきょう博物館はくぶつかん内ないで保管ほかんされることになった。

1967年ねんから1968年ねんごろ、上智大学じょうちだいがく教授きょうじゅのフーベルト・チースリクがローマのイエズス会かい記録きろく所しょやロンドンの大だい英えい博物館はくぶつかんなどからジュリアに関かんする複数ふくすうの資料しりょうを発見はっけんした。

1975年ねん、神津島こうづしま村長そんちょうがジュリアの殉教じゅんきょうを報告ほうこくし、教皇きょうこうの代理だいりが神津島こうづしまへ礼拝れいはいに訪おとずれ、ジュリアを聖人せいじんと認みとめた。

宝たから台たい院いんにあるキリシタン灯篭どうろう（2022年ねん8月がつ撮影さつえい）

駿府すんぷ時代じだいには灯篭とうろうを作つくらせ瞑想めいそうしていたとい伝いつたえられており、その「キリシタン灯篭どうろう」は、現在げんざいは宝たから台たい院いんに移うつされている。

登場とうじょう作品さくひん

音楽おんがく

• 『夢ゆめに消きえたジュリア』（2004年ねん発売はつばい・サザンオールスターズ）
  • 作詞さくし作曲さっきょくをした桑田くわた佳祐けいすけはこの曲きょくを作つくってから、ジュリアおたあ伝説でんせつを知しり、楽曲がっきょくの内容ないようも伝説でんせつに似にている。

小説しょうせつ

• 『サラン 哀かなしみを越こえて』（荒山あらやま徹てっ、文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、単行本たんこうぼん版ばん 2005年ねん5月がつ刊かん　ISBN 4163239405）
  • 同社どうしゃより文庫ぶんこ化かの際さいに『サラン・故郷こきょう忘じたく候こう』と改題かいだい。文庫ぶんこ版ばん 2008年ねん6月がつ刊かん　ISBN 4167717859

映画えいが

• 『真田さなだ幸村ゆきむらの謀略ぼうりゃく』（1979年ねん、中島なかじま貞夫さだお監督かんとく、演えんじ：秋野あきの暢子ようこ）

ミュージカル

• 『ジュリアおたあ』（2015年ねん、わらび座ざ）- 日にち韓かん国交こっこう正常せいじょう化か50周年しゅうねんを記念きねんした公演こうえんで、幼少ようしょう時代じだいから駿府すんぷ城じょうで棄教を迫せまられるまでを描えがく。

漫画まんが

• 『春霞はるがすみの乱らん』（1990年ねん、河村かわむら恵利えり、秋田あきた書店しょてん プリンセスコミックス『枕草子まくらのそうし』に同時どうじ収録しゅうろく。1990年ねん8月がつ刊かん　ISBN 4253074006）

参考さんこう文献ぶんけん

• 五野井ごのい隆史たかし『キリシタン信仰しんこう史しの研究けんきゅう』（吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2017年ねん）305－308頁ぺーじ。ISBN 9784642034791 。
• 盧の桂かつら順じゅん『朝鮮ちょうせん女性じょせい史し 歴史れきしの同伴どうはん者しゃである女性じょせいたち』東京とうきょう図書としょ出版しゅっぱん、リフレ出版しゅっぱん、2020年ねん4月がつ、210-224頁ぺーじ。ISBN 978-4-86641-298-6。 

関連かんれん文献ぶんけん

• 谷たに真しん介かい『ジュリア・おたあ あらしの時代じだいに生いきたキリシタン』女子じょしパウロ会かい、2015年ねん10月がつ。ISBN 9784789607612。 

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽんのキリスト教きりすときょう史し