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スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ

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スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(スポーツちゅうさいさいばんしょ、ふつ: Tribunal arbitral du sport, TAS, えい: Court of Arbitration for Sport, CAS)は、1984ねん設立せつりつされたスポーツ関連かんれんする紛争ふんそう仲裁ちゅうさい手続てつづきとう提供ていきょうしている国際こくさいてき機関きかん[1][2]

本部ほんぶスイスローザンヌにある[2]。スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい手続てつづき法的ほうてきにはスイスほうじょう仲裁ちゅうさい手続てつづきであり、ニューヨーク条約じょうやく外国がいこく仲裁ちゅうさい判断はんだん承認しょうにんおよ執行しっこうかんする条約じょうやく)にさだめる仲裁ちゅうさい判断はんだんにあたる[2]上訴じょうそスイス連邦れんぽう裁判所さいばんしょドイツばん管轄かんかつする[1]

歴史れきし[編集へんしゅう]

スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ1984ねん6月30にち国際こくさいオリンピック委員いいんかい(IOC)決定けっていによって設立せつりつされた[2][3]設立せつりつにはIOC会長かいちょうだったフアン・アントニオ・サマランチ構想こうそうがあり、スイスほうじょう仲裁ちゅうさい手続てつづき利用りようすることになった[3]

1992ねんにドイツの馬術ばじゅつ選手せんしゅグンデルを申立もうしたてじん国際こくさい馬術ばじゅつ連盟れんめい申立もうしたてじんとする仲裁ちゅうさいもうてられた[3]。この事案じあん国際こくさい馬術ばじゅつ連盟れんめいうま騎手きしゅに3かげつ出場しゅつじょう停止ていし処分しょぶんおこなったのにたいし、CASは出場しゅつじょう停止ていし処分しょぶんを1かげつ短縮たんしゅくする仲裁ちゅうさい判断はんだんおこなった[3]。これにたい資格しかく停止ていし期間きかんながすぎるとして申立もうしたてじんがわはスイス連邦れんぽう裁判所さいばんしょ上訴じょうそし、CASの仲裁ちゅうさい判断はんだん上訴じょうそされるはじめての事案じあんになったが、スイス連邦れんぽう裁判所さいばんしょはこれを棄却ききゃくした[3]。しかし、スイス連邦れんぽう裁判所さいばんしょはこの審理しんりでCASが代替だいたい手段しゅだんのないしん仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょであるとしたものの、IOCから独立どくりつした裁判所さいばんしょであるとはかんがえられないという意見いけんした[1]。そのためIOCが当事とうじしゃとなる場合ばあいにCASの仲裁ちゅうさい判断はんだんされる可能かのうせい指摘してきされ[3]1994ねんにCASはIOCから独立どくりつし、スポーツ仲裁ちゅうさい国際こくさい理事りじかい (ICAS: The International Council of Arbittration for Sport)により運営うんえいされることになった[1]

組織そしき[編集へんしゅう]

スイスのローザンヌに本部ほんぶがあり、アメリカのニューヨークとオーストラリアのシドニー支部しぶがある[3]

ICAS[編集へんしゅう]

スポーツ仲裁ちゅうさい国際こくさい理事りじかい (ICAS)は20にん理事りじ構成こうせいされ、スポーツ、国際こくさい商事しょうじ仲裁ちゅうさい国際こくさい裁判さいばんおよび国内こくない裁判さいばん専門せんもんからなる[1]。ICASは独自どくじ法人ほうじんかくっている[3]。2016ねん現在げんざいの、スポーツ仲裁ちゅうさい国際こくさい理事りじかい会長かいちょうジョン・ダウリング・コーツ

内部ないぶ組織そしき[編集へんしゅう]

CASには、上訴じょうそ上訴じょうそ仲裁ちゅうさい)、通常つうじょう仲裁ちゅうさい調停ちょうてい常設じょうせつアンチ・ドーピングがある[1]

上訴じょうそ上訴じょうそ仲裁ちゅうさい
かく競技きょうぎ連盟れんめい決定けっていたいする上訴じょうそしんあつか[2]
通常つうじょう仲裁ちゅうさい
スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい係属けいぞくさせる合意ごういもとづいて係属けいぞくした事案じあんあつか[2]
調停ちょうてい
CAS Mediation Rulesにもとづく手続てつづきあつか[2]
常設じょうせつアンチ・ドーピング
アンチ・ドーピング規則きそく違反いはんにかかる紛争ふんそう管轄かんかつゆだねた競技きょうぎ連盟れんめいのアンチ・ドーピング事案じあんかんしてだい1しんあつか[1][2]

なお、オリンピック大会たいかいなど主要しゅよう国際こくさい競技きょうぎ大会たいかいでは特別とくべつ規則きそく特別とくべつ仲裁ちゅうさいじんをもつ臨時りんじ仲裁ちゅうさい廷であるアドホックやアドホック・アンチ・ドーピングかれる[1]

事務じむきょく[編集へんしゅう]

事務じむきょくはICASとCASの両方りょうほう事務じむおこなっている[3]。1985ねんには事務じむ総長そうちょう1人ひとり事務じむいん1にん合計ごうけい2にんだけだった[3]。2010ねん現在げんざい事務じむ総長そうちょう1にん弁護士べんごし8にん事務じむ局員きょくいん7にん技術ぎじゅつしゃ2にんの18にんとなっている[3]

手続てつづき[編集へんしゅう]

仲裁ちゅうさい手続てつづき[編集へんしゅう]

通常つうじょう仲裁ちゅうさい上訴じょうそ仲裁ちゅうさい手続てつづきはCAS規程きてい(Code of Sports-related Arbitration)にさだめられており、法的ほうてき性格せいかくはスイスほうじょうの「仲裁ちゅうさい」(スイス民事みんじ手続てつづきほう1じょうdごうまたはスイス国際こくさいわたし法典ほうてん176じょう1こう)である[2]。スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい手続てつづき原則げんそく有償ゆうしょうで、当事とうじしゃはCourt Office fee、CASの管理かんり費用ひよう仲裁ちゅうさいじん報酬ほうしゅうなどを支払しはらわなければならない(CAS規程きていR64)[2]所要しょよう時間じかん通常つうじょう仲裁ちゅうさい手続てつづき場合ばあいは6かげつ~12かげつ程度ていど上訴じょうそ仲裁ちゅうさい手続てつづき場合ばあいやく4かげつである[3]

常設じょうせつアンチ・ドーピングは、アンチ・ドーピング事案じあんかんしてだい1しんつとめる[1]。2003ねん3がつ各国かっこく政府せいふ、IOC、国際こくさい競技きょうぎ連盟れんめいにより世界せかいドーピング防止ぼうし規程きてい(WADC)が承認しょうにんされ、2007ねん2がつにWADCはスポーツにおけるドーピング防止ぼうしユネスコ国際こくさい規約きやくとして発効はっこうした[3][4]。そのためWADCの採択さいたくは、スポーツ紛争ふんそうのうちどう規程きていさだめる国際こくさい水準すいじゅんアスリートのドーピング紛争ふんそうについて、間接かんせつてき各国かっこく政府せいふがCASの管轄かんかつみとめたものと理解りかいされている[3][4]

2020ねん現在げんざい、CASには90カ国かこく以上いじょうから400にんほどの仲裁ちゅうさいじんと25カ国かこくから65にん調停ちょうていじん登録とうろくされており、仲裁ちゅうさいじん調停ちょうていじんは4ねんごとに追加ついか削除さくじょおこなわれる[1]仲裁ちゅうさい事案じあん発生はっせいすると仲裁ちゅうさいじん名簿めいぼなかから3めいまたは1めい仲裁ちゅうさいじん選定せんていしパネルを構成こうせいして仲裁ちゅうさい判断はんだん[3]。3にんでパネルを構成こうせいする場合ばあいりょう当事とうじしゃが1にんずつ仲裁ちゅうさいじん選定せんていし、のこいちにんりょう仲裁ちゅうさいじんあるいはCASが選定せんていする(最後さいご一人ひとり仲裁ちゅうさいじんちょうとなる)[3]

なお、オリンピック大会たいかいなど主要しゅよう国際こくさい競技きょうぎ大会たいかいかれるアドホックやアドホック・アンチ・ドーピングでは、現場げんばモデルが採用さいようされ、申立もうしたて費用ひようとう無償むしょうとされている[1]。アドホックとアンチ・ドーピング仲裁ちゅうさい判断はんだん原則げんそくとして24時間じかん以内いないされる[1]

執行しっこう手続てつづき[編集へんしゅう]

スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい判断はんだんについて、国際こくさいオリンピック委員いいんかい加盟かめいする国際こくさい競技きょうぎ連盟れんめいとうでは業界ぎょうかい団体だんたい規則きそくととのえられている場合ばあいがあり、紛争ふんそう実効じっこうてき解決かいけつ寄与きよしている[2]たとえば、国際こくさいサッカー連盟れんめい(FIFA)は加盟かめいするクラブや選手せんしゅにスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい判断はんだんしたが義務ぎむしており(国際こくさいサッカー連盟れんめい定款ていかん59じょう)、それにしたがわない場合ばあいには当該とうがいクラブや選手せんしゅたい制裁せいさいされることをさだめている(規律きりつ委員いいんかい規程きていだい15じょうだい1こうはしらしょ[2]国際こくさい陸上りくじょう競技きょうぎ連盟れんめいは2001ねん国際こくさいサッカー連盟れんめいは2002ねんにCASの管轄かんかつみとめている[3]

また、スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい判断はんだんはスイスほうじょうの「仲裁ちゅうさい」(スイス民事みんじ手続てつづきほう1じょうdごうまたはスイス国際こくさいわたし法典ほうてん176じょう1こう)にあたり、スイスは外国がいこく仲裁ちゅうさい判断はんだん承認しょうにんおよ執行しっこうかんする条約じょうやく(ニューヨーク条約じょうやく)の締約ていやくこくであるため、条約じょうやく締約ていやくこくではニューヨーク条約じょうやくによる執行しっこう可能かのうである[2](ニューヨーク条約じょうやく締約ていやくこくは160をえる[5])。

当事とうじしゃ脱退だったいあるいは引退いんたいして団体だんたい加盟かめい当事とうじしゃではなくなった場合ばあい国内こくない仲裁ちゅうさい機関きかん決定けってい執行しっこう困難こんなんとなる場合ばあいがあるが、スイスを仲裁ちゅうさいとするスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい判断はんだんであればニューヨーク条約じょうやくによる執行しっこう可能かのう場合ばあいがある[2]。ただし、執行しっこう法令ほうれいにより仲裁ちゅうさいによる解決かいけつ不可能ふかのうなものである場合ばあい(ニューヨーク条約じょうやくだい5じょうだい2こうaごう)や執行しっこうこく公序こうじょはんするとされた場合ばあい(ニューヨーク条約じょうやくだい5じょうだい2こうbごう)には仲裁ちゅうさい判断はんだん承認しょうにん執行しっこう拒否きょひされうる[2]

各国かっこく制度せいど申立もうしたて事例じれい[編集へんしゅう]

日本にっぽん[編集へんしゅう]

仲裁ちゅうさい判断はんだん国内こくない仲裁ちゅうさい判断はんだん外国がいこく仲裁ちゅうさい判断はんだんけられ、スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょおこなった仲裁ちゅうさい判断はんだん仲裁ちゅうさいをスイスのローザンヌとする外国がいこく仲裁ちゅうさい判断はんだんである[6]。ただし、日本にっぽんはニューヨーク条約じょうやく締約ていやくこくであり、仲裁ちゅうさいほうはUNCITRAL(国連こくれん国際こくさい商取引しょうとりひき委員いいんかい)モデル仲裁ちゅうさいほうじゅんじて制定せいていされていることから基本きほんてき制度せいどめんでのちがいはおおきくはない[6]

日本にっぽんからスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(CAS)への仲裁ちゅうさいもう事例じれいすくない。

なお、スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(CAS)の手続てつづき英語えいごおこなわれ、費用ひよう負担ふたん高額こうがくになる問題もんだいもあることから、2003ねん日本にっぽんスポーツ仲裁ちゅうさい機構きこう(JSAA)が設立せつりつされた[7]

ドイツ[編集へんしゅう]

ドイツでは2008ねん1がつにドイツ仲裁ちゅうさい機構きこうがスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ規則きそくもとづいてドイツスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(DIS)を設立せつりつしており、民事みんじ手続てつづきほうもとづく仲裁ちゅうさい手続てつづきおこなわれ、仲裁ちゅうさい判断はんだん終局しゅうきょくてき判決はんけつ同様どうよう効力こうりょくゆうするとされている(スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ規則きそく38じょう2こう[8]。ただし、ドーピング防止ぼうし案件あんけんについてはスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(CAS)への上訴じょうそ可能かのうとされている[8]

ドイツでは国内こくない裁判所さいばんしょでスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさい判断はんだん承認しょうにん拒否きょひ問題もんだいとなったことがある[2]。ドイツミュンヘン高等こうとう裁判所さいばんしょ事件じけん当時とうじのCAS規程きてい仲裁ちゅうさいじん候補者こうほしゃの3/5以上いじょう競技きょうぎ団体だんたいからえらばれるとうさだめがあったことから、ドイツ独占どくせん禁止きんしほう禁止きんしする市場いちば支配しはいてき地位ちい濫用らんよう(ドイツ独占どくせん禁止きんしほうだい19じょうだい4こうだい2ごう)に該当がいとう違法いほうであるとし、ニューヨーク条約じょうやくだい5じょうだい2こうbごうもとづく執行しっこうこくであるドイツの「公序こうじょ」にはんするとして、仲裁ちゅうさい判断はんだん承認しょうにん拒否きょひした(ミュンヘン高裁こうさい事例じれい[2]。ミュンヘン高裁こうさい事例じれいはドイツ連邦れんぽう最高さいこう裁判所さいばんしょ破棄はきされたが、スポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ仲裁ちゅうさいじん候補者こうほしゃ選任せんにん方法ほうほうかんする規定きてい改正かいせいするなど影響えいきょうあたえた[2]

スイス[編集へんしゅう]

スイスではかく競技きょうぎ団体だんたい紛争ふんそう処理しょり手続てつづきてもなお不服ふふくゆうする当事とうじしゃはスポーツ仲裁ちゅうさい裁判所さいばんしょ(CAS)への申立もうしたて国家こっか裁判所さいばんしょへの提訴ていそ可能かのうとされている[8]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l 2020ねん東京とうきょうオリ・パラ大会たいかい関連かんれんするスポーツ関連かんれん紛争ふんそうとCASの役割やくわり 公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽんスポーツ仲裁ちゅうさい機構きこう(2022ねん11月9にち閲覧えつらん
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 杉山すぎやま しょういち団体だんたい規則きそくもとづくスポーツ仲裁ちゅうさい判断はんだん執行しっこう―サッカー競技きょうぎ国際こくさい雇用こよう関係かんけい紛争ふんそうれいに―」国際こくさい商取引しょうとりひき学会がっかい年報ねんぽう 2020 vol.22 国際こくさい商取引しょうとりひき学会がっかい(2022ねん11月9にち閲覧えつらん
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q だい6かいスポーツ仲裁ちゅうさいシンポジウム「世界せかいにおけるスポーツ仲裁ちゅうさい日本にっぽん基調きちょう講演こうえん マシュー・リーブ 日本にっぽんスポーツ仲裁ちゅうさい機構きこう(2022ねん11月18にち閲覧えつらん
  4. ^ a b 8.ドーピング防止ぼうし 日本にっぽんスポーツ協会きょうかい(2022ねん11月18にち閲覧えつらん
  5. ^ 仲裁ちゅうさい 仲裁ちゅうさいをおすすめする理由りゆう 日本商事にほんしょうじ仲裁ちゅうさい協会きょうかい(2022ねん11月9にち閲覧えつらん
  6. ^ a b 清水しみず ひろし「スポーツ仲裁ちゅうさい判断はんだん執行しっこう可能かのうせいについて」東洋とうよう法学ほうがく61かん1ごう 2017 東洋大学とうようだいがく(2022ねん11月11にち閲覧えつらん
  7. ^ アスリートのためのスポーツ仲裁ちゅうさい調停ちょうていガイド!! 公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽんスポーツ仲裁ちゅうさい機構きこう(2022ねん11月9にち閲覧えつらん
  8. ^ a b c しょ外国がいこくにおけるスポーツ紛争ふんそうおよびその解決かいけつ方法ほうほう実情じつじょうたいする調査ちょうさ研究けんきゅう 公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽんスポーツ仲裁ちゅうさい機構きこう(2022ねん11月9にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]