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ターボディーゼル

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
カミンズ製せいターボディーゼルエンジンの断面だんめんモデル
マツダ・SKYACTIV-D 2.2（SH-VPTS）

ターボディーゼル（英えい: turbo-diesel, turbodiesel, turbo diesel）とは、ターボチャージャーを備そなえたディーゼルエンジンのことである。他たのタイプのエンジンと同様どうように、ディーゼルエンジンをターボ過か給きゅうすると、効率こうりつ的てきに出力しゅつりょくが大幅おおはばに向上こうじょうできる。特とくにインタークーラーと組くみ合あわせて使用しようすると、さらに効果こうか的てきである[1]。

ディーゼルエンジンにターボチャージャーを搭載とうさいするのは、1920年代ねんだいに大型おおがた舶用はくようエンジンおよび定置ていち発電はつでん用ようエンジンで始はじまった。 1950年代ねんだい半なかばにはトラックにターボディーゼルエンジンが搭載とうさいされ、続つづいて1970年代ねんだい後半こうはんには乗用車じょうようしゃにも搭載とうさいされるようになった。1990年代ねんだい以降いこう、ターボディーゼルエンジンの圧縮あっしゅく比ひは低下ていかする傾向けいこうにある。

原理げんり[編集へんしゅう]

ディーゼルエンジンは通常つうじょう、次つぎの2つの要因よういんによりターボ過か給きゅうに適てきしている。

  • 空そら燃もえ比ひについては、ターボチャージャーが過剰かじょうな空気くうきをエンジンに供給きょうきゅうするときに生しょうじる経済けいざい空そら燃もえ比ひは、トルク制御せいぎょが燃焼ねんしょう室しつに噴射ふんしゃされる燃料ねんりょうの質量しつりょう（つまり混合こんごう気きの量りょうではなく、出力しゅつりょく空そら燃もえ比ひ）に依存いぞんするため、ディーゼルエンジンでは問題もんだいにならない[2]。
  • ターボ過か給きゅうによるシリンダー内ないの空気くうき量りょうが増ふえると、圧縮あっしゅく比ひが効果こうか的てきに増加ぞうかする。ガソリンエンジンではこれにより、プレイグニッションや排気はいきガス温度おんどの上昇じょうしょうを引ひき起おこす可能かのう性せいがある。しかしディーゼルエンジンでは、燃料ねんりょうはピストンが上うえ死し点てんに達たっする直前ちょくぜんに燃焼ねんしょう室しつに加くわえられるだけなので、圧縮あっしゅく行程こうてい中なかに燃焼ねんしょう室しつ内ないに存在そんざいすることはない。そのため、プレイグニッションは発生はっせいしない[3]。

ターボチャージャー付つきガソリンエンジンと同様どうように、インタークーラーを使用しようして吸気きゅうきを冷却れいきゃくし、吸気きゅうきの密度みつどを高たかめることができる[4]。

歴史れきし[編集へんしゅう]

ターボチャージャーは、スイスの技術ぎじゅつ者しゃであり、スルザーのディーゼルエンジン研究けんきゅう責任せきにん者しゃであるアルフレート・ビュッヒによって20世紀せいき初頭しょとうに発明はつめいされた。 1905年ねんのビュッヒの特許とっきょでは、ターボチャージャーがディーゼルエンジンにもたらす効率こうりつの向上こうじょうについて言及げんきゅうしていたため、ターボチャージャーは元々もともとディーゼルエンジンで使用しようされることを目的もくてきとしていた[5][6][7]。それから時間じかんが経たって、ターボチャージャー付つきエンジンが初はじめて量産りょうさんされたのは1925年ねん、ドイツの客船きゃくせんプロイセン号ごうとハンゼシュタット・ダンツィヒ号ごうで使用しようされた10気筒きとうターボディーゼル船舶せんぱくエンジンだった[8][9]。ターボチャージャーにより、出力しゅつりょくが1,750 PS (1,287 kW) から2,500 PS (1,839 kW) に増加ぞうかした[10]。1925年ねんにビュッヒはシーケンシャルターボを発明はつめいした。ハルムト・プッチャーの2012年ねんの論文ろんぶんによれば、これが現代げんだいのターボチャージャー技術ぎじゅつの始はじまりとなったとされている[11]。

1920年代ねんだい後半こうはんまでに、スルザー、MAN、ダイムラー・ベンツ、パックスマンなどのいくつかのメーカーが船舶せんぱく用ようおよび定置ていち発電はつでん用ようの大型おおがたターボディーゼルを生産せいさんしていた[12][13]。その後ごの技術ぎじゅつ向上こうじょうにより、より高速こうそくで走行そうこうする小型こがたエンジンにもターボチャージャーを使用しようできるようになり、1940年代ねんだい後半こうはんには機関きかん車しゃ用ようターボディーゼルエンジンが登場とうじょうし始はじめた[14]。1951年ねん、MANはK6V 30/45 m.H.A.、1 MWのプロトタイプエンジンを製造せいぞうした。このエンジンは、わずか 135.8 g/PSh (184.6 g/kWh) で45.7％の効率こうりつに相当そうとうするという、当時とうじとしては非常ひじょうに低ひくい燃料ねんりょう消費しょうひ量りょうを実現じつげんした[15]。これを可能かのうにしたのは、5段だん軸じく流りゅう式しき圧縮あっしゅく機きと9段だん遠心えんしん式しき圧縮あっしゅく機きおよびインタークーラーを組くみ合あわせた先進せんしん的てきなターボチャージャー設計せっけいだった[16]。

道路どうろ走行そうこう車両しゃりょうにおけるターボディーゼルエンジンの実用じつようは、1950年代ねんだい初頭しょとうにトラックから始はじまった。プロトタイプのMAN・MK26トラックは 1951年ねんに発表はっぴょうされ[17]、続つづいて1954年ねんに量産りょうさんモデルのMAN・750TL1ターボディーゼルが発表はっぴょうされた[18]。ボルボ・タイタンターボトラックも1954年ねんに導入どうにゅうされた[19]。1960年代ねんだい後半こうはんまでに、さらに強力きょうりょくなトラックエンジンに対たいする需要じゅようが高たかまり、カミンズ、デトロイトディーゼル、スカニア、キャタピラーによってターボディーゼルが生産せいさんされるようになった。

1952年ねんのインディアナポリス500では、初はじめてのターボ車しゃとしてカミンズ・ディーゼルスペシャルが出場しゅつじょうし、予選よせんポールポジションを獲得かくとくした[20]。この車くるまは、380 hp (283 kW) を発生はっせいする6.6 L 直列ちょくれつ6気筒きとうエンジンを搭載とうさいしていた[21][22]。

乗用車じょうようしゃ用ようの小型こがたターボディーゼルエンジンの研究けんきゅうは、1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけて数すう社しゃによって行おこなわれた。ローバーは1963年ねんにプロトタイプの2.5 L 4気筒きとうターボディーゼルを製造せいぞうし[要よう出典しゅってん]、メルセデス・ベンツは 1976 年ねんのメルセデス・ベンツ・C111-IIDの実験じっけん車両しゃりょうで直列ちょくれつ5気筒きとうインタークーラーターボディーゼル エンジンを使用しようした[23]。

最初さいしょのターボディーゼル量産りょうさん車しゃはメルセデス・ベンツ・W116で、1978年ねん半なかばからアメリカで販売はんばいされたモデルには先さきのC111-IIDにも搭載とうさいされたOM617 直列ちょくれつ5気筒きとうエンジンを搭載とうさいした[24]。ヨーロッパではこの1年ねん後ご、プジョー・604 Dターボが最初さいしょのターボディーゼル車しゃとして発売はつばいされた。ターボディーゼル車しゃは、1980年代ねんだい後半こうはんから1990年代ねんだい前半ぜんはんにかけてヨーロッパで広ひろく製造せいぞうおよび販売はんばいされ始はじめ、この傾向けいこうは現在げんざいまで続つづいている[25][26]。

1990年代ねんだい以降いこう、ターボディーゼルエンジンの圧縮あっしゅく比ひは低下ていか傾向けいこうにある。これは、圧縮あっしゅく比ひの低ひくいターボエンジンの比ひ出力しゅつりょくが向上こうじょうし、排気はいきエミッションの挙動きょどうが改善かいぜんされたためである。かつて間接かんせつ噴射ふんしゃエンジンの圧縮あっしゅく比ひは18.5以上いじょうだった。それが1990年代ねんだい後半こうはんにコモンレール式しきエンジンが導入どうにゅうされた後のち、圧縮あっしゅく比ひは16.5～18.5の範囲はんいに低下ていかした。それから2016年ねん以降いこうに製造せいぞうされた一部いちぶのディーゼルエンジンは、ユーロ6の排はいガス規制きせいに適合てきごうするため、圧縮あっしゅく比ひが14.0となっている[27](p182-183)。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

ターボチャージャーはディーゼルエンジンの出力しゅつりょくを大幅おおはばに向上こうじょうさせ、パワーウェイトレシオのピークを同等どうとうのガソリンエンジンに近ちかづけることができる[28]。

ターボディーゼルは、過去かこ10年間ねんかんに小しょう排気はいき量りょうと大だい排気はいき量りょうの両方りょうほうで出力しゅつりょく、燃費ねんぴ、騒音そうおん、振動しんどう、ハーシュネスが改善かいぜんされ、特とくに欧州おうしゅうでは新車しんしゃ登録とうろく台数だいすうの50％以上いじょうを占しめている（2014年ねん現在げんざい）など、特定とくていの市場いちばでの普及ふきゅうに拍車はくしゃをかけている[29][30]。ターボディーゼルは一般いっぱんに、自然しぜん吸気きゅうきディーゼルエンジンよりも自動車じどうしゃ用途ようとに柔軟じゅうなん性せいがあると考かんがえられている。ターボディーゼルは、回転かいてん数すう範囲はんいにわたって許容きょようできるトルクの広ひろがりを持もつように設計せっけいすることもできるし、商業しょうぎょう用ように製造せいぞうされる場合ばあいは、用途ようとに応おうじて所定しょていの回転かいてん数すうでのトルク出力しゅつりょくを向上こうじょうさせるように設計せっけいすることもできる。自然しぜん吸気きゅうきディーゼルエンジンは、ほぼ例外れいがいなく、同どう容量ようりょうのガソリンエンジンよりも出力しゅつりょくが低ひくい一方いっぽうで、ディーゼルエンジンの高こう圧縮あっしゅく比ひによる大おおきな応力おうりょくに耐たえるために、ピストンやクランクシャフトなどの内部ないぶ部品ぶひんをより強つよくする必要ひつようがあるが、同時どうじに部品ぶひんが重おもくなる。これらの要因よういんにより、自然しぜん吸気きゅうきディーゼルエンジンのパワーウェイトレシオは劣おとってしまう。ターボチャージャーユニットの重量じゅうりょうは非常ひじょうに軽かるい割わりに、出力しゅつりょく、トルク、効率こうりつを大幅おおはばに向上こうじょうさせることができる。ターボチャージャーを装着そうちゃくすることで、ディーゼルエンジンのパワーウェイトレシオを同等どうとうのガソリンユニットと同おなじレベルまで引ひき上あげることができるため、ターボディーゼルは、パワーユニットの種類しゅるいに関係かんけいなく、自動車じどうしゃメーカーが製品せいひんラインアップ全体ぜんたいで同等どうとうの出力しゅつりょくとハンドリング品質ひんしつを目指めざす自動車じどうしゃ用途ようとに適てきしている。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Zinner, Karl; Pucher, Helmut (2012) (ドイツ語ご), Aufladung von Verbrennungsmotoren (4 ed.), Berlin/Heidelberg: Springer, pp. 7–8; 106, ISBN 978-3-642-28989-7 
  2. ^ Pischinger, Stefan; Seiffert, Ulrich (2016) (ドイツ語ご). Vieweg Handbuch Kraftfahrzeugtechnik (8 ed.). pp. 348. ISBN 978-3-658-09528-4. https://books.google.com/books?id=4nsSDQAAQBAJ 
  3. ^ Reif, Konrad (2017) (ドイツ語ご). Grundlagen Fahrzeug- und Motorentechnik. pp. 16. ISBN 978-3-658-12635-3. https://books.google.com/books?id=TdgEMQAACAAJ 
  4. ^ Tschöke, Helmut; Mollenhauer, Klaus; Maier, Rudolf (2018) (ドイツ語ご). Handbuch Dieselmotoren (8 ed.). pp. 702. ISBN 978-3-658-07696-2. https://books.google.com/books?id=F3IvjgEACAAJ 
  5. ^ Vann, Peter (11 Jul 2004). Porsche Turbo: The Full History. MotorBooks International 
  6. ^ Gresh, M; Newnes, Theodore (29 March 2001). Compressor Performance: Aerodynamics for the User 
  7. ^ “Diesel and gas turbine progress”. Diesel Engines, Inc. 26. (1960). 
  8. ^ “The turbocharger turns 100 years old this week” (英語えいご). www.newatlas.com (2005年ねん11月18日にち). 2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  9. ^ Doug Woodyard (ed.): Pounder's Marine Diesel Engines and Gas Turbines, 9th edition, Butterworth-Heinemann, 2009, ISBN 9780080943619, p. 192
  10. ^ Zinner, Karl; Pucher, Helmut (2012) (ドイツ語ご), Aufladung von Verbrennungsmotoren (4 ed.), Berlin/Heidelberg: Springer, pp. 20, ISBN 978-3-642-28989-7 
  11. ^ Zinner, Karl; Pucher, Helmut (2012) (ドイツ語ご), Aufladung von Verbrennungsmotoren (4 ed.), Berlin/Heidelberg: Springer, pp. 21, ISBN 978-3-642-28989-7 
  12. ^ Shipbuilding & Marine Engineering International (Whitehall Press) 56. (1933). 
  13. ^ Clarke, Donald; Dartford, Mark; Stuttman, H.S. (1994). “How It Works”. The New Illustrated Science and Invention Encyclopedia 6. 
  14. ^ Wilson, Jeff (1 Dec 2009). The Model Railroader's Guide to Diesel Locomotives. Kalmbach Publishing 
  15. ^ Zinner, Karl; Pucher, Helmut (2012) (ドイツ語ご), Aufladung von Verbrennungsmotoren (4 ed.), Berlin/Heidelberg: Springer, pp. 22, ISBN 978-3-642-28989-7 
  16. ^ Zinner, Karl; Pucher, Helmut (2012) (ドイツ語ご), Aufladung von Verbrennungsmotoren (4 ed.), Berlin/Heidelberg: Springer, pp. 22, ISBN 978-3-642-28989-7 
  17. ^ “150 Years Rudolf Diesel - MAN History”. www.mantruckandbus.com. 2012年ねん7月がつ2日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2024年ねん4月がつ23日にち閲覧えつらん。
  18. ^ Tipler, John (1 Aug 1999). Trucks 
  19. ^ “1950s - Volvo Trucks” (英語えいご). www.volvotrucks.com. 2017年ねん1月がつ27日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  20. ^ “High Tech is Getting the Cummins Diesel Special Back to Indianapolis” (英語えいご). www.cummins.com. 2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  21. ^ “Kevin Triplett's Racing History” (英語えいご). www.triplettracehistory.blogspot.com (2008年ねん8月がつ1日にち). 2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  22. ^ “Cummins at the Indy 500 - Diesel Alley”. www.trucktrend.com (2008年ねん8月がつ). 2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  23. ^ “Mercedes-Benz C 111” (英語えいご). www.mercedes-benz.com. 2019年ねん9月がつ29日にち閲覧えつらん。
  24. ^ Popular Science (January 1979). 
  25. ^ “Mercedes-Benz unveils a new kind of performance automobile: the turbodiesel 300 SD Sedan”. The Rotarian August 1978. 
  26. ^ Pettitt, Joe (13 May 2005). Sport Compact Turbos & Blowers. CarTech Inc 
  27. ^ Merker, Günter P.; Teichmann, Rüdiger (2014). Grundlagen Verbrennungsmotoren Funktionsweise, Simulation, Messtechnik (7 ed.). Springer. ISBN 978-3-658-03195-4. https://books.google.com/books?id=e_goBAAAQBAJ 
  28. ^ McCosh, Dan. “Power for the Future”. Popular Science (October 1993). 
  29. ^ “Second coming - Diesel in America”. www.economist.com (2006年ねん10月がつ26日にち). 2019年ねん9月がつ27日にち閲覧えつらん。
  30. ^ “Exxon's contrarian bet on diesel”. International New York Times (40,847): pp. 15. (2014年ねん7月がつ11日にち) 
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