ツインターボ

ツインターボ仕様しようのエンジン
（日産にっさん・RB26DETT '02 JGTC用よう FR仕様しよう）

ツインターボ（Twin Turbo Charging）は、自動車じどうしゃのエンジンにおいて、ターボチャージャーを2基き用もちいる過か給きゅう機き構成こうせいの呼称こしょうである。低速ていそく域いきのトルク改善かいぜん、ターボラグ改善かいぜんならびに出力しゅつりょく向上こうじょうを両立りょうりつさせる手段しゅだんのひとつとして用もちいられる。ドイツ語ごやイタリア語ご、フランス語ふらんすごなどではBi-turbo（ビターボ、ビトゥルボ）と称しょうする。

日本にっぽんの自動車じどうしゃ技術ぎじゅつ会かい「自動車じどうしゃ技術ぎじゅつハンドブック」において、シーケンシャルターボはツインターボに含ふくまれていないが、「シーケンシャルツインターボ」とも呼よばれるため、本ほん項こうで扱あつかう。

概要がいよう

低速ていそくトルクおよびターボラグ改善かいぜんには小型こがたのタービンが有効ゆうこうであるが、高こう回転かいてん域いきで排はい圧あつの上昇じょうしょうとバイパスする排気はいきガス量りょうの増大ぞうだいによって、ポンピングロスの増加ぞうかとタービン効率こうりつの低下ていかが起おこり、エンジン出力しゅつりょくが低下ていかしてしまう。これを改善かいぜんするため、小型こがたのターボチャージャーを二ふたつ設置せっちするアイデアが生うまれた。

レイアウトとしては、エンジンからの排気はいき管かんを排気はいき干渉かんしょうが少すくなくなるよう二に系統けいとうにまとめ、それぞれに小型こがたのターボチャージャーを取とり付つける。これにより、排気はいきガス流量りゅうりょうが少すくない低てい回転かいてん域いきでは排気はいき干渉かんしょうの減少げんしょうからシリンダー内ないのガス掃気効率こうりつが向上こうじょうする。また、動どう圧あつ過か給きゅうを積極せっきょく的てきに利用りようしタービン入力にゅうりょくエネルギーを増大ぞうだいさせられるのでタービン回転かいてんの立たち上あがりが早はやくなる。さらに、同どう一いち性能せいのうを発揮はっきする1基きのターボチャージャーに対たいし、小型こがたのターボチャージャーを使用しようすることで回転かいてん体たいの慣性かんせいモーメントを低減ていげんできるので、ターボラグが低減ていげんできる。

3気筒きとうずつの排気はいきを合流ごうりゅうさせると排気はいき干渉かんしょうが低減ていげんできる直列ちょくれつ6気筒きとうエンジンや、V型がた、水平すいへい対向たいこうの6気筒きとうエンジンのように片かたバンクの排気はいきタイミングが等間隔とうかんかくで排気はいき干渉かんしょうが少すくなくなるレイアウトの場合ばあいに採用さいよう例れいが多おおい。W型がた16気筒きとうのブガッティ・ヴェイロンは4基きのターボを搭載とうさいしている（クアッドターボ）が、片かたバンク8気筒きとう分ぶんの排気はいきを4気筒きとうずつに分離ぶんりしてターボチャージャーへ導入どうにゅうしており、これも排気はいき干渉かんしょう低減ていげんを狙ねらったものである。

なお、クロスプレーンタイプのクランクシャフトを使用しようするV8エンジンの場合ばあい、片かたバンクの排気はいきをそのまままとめると排気はいきが不ふ等間隔とうかんかくでターボチャージャーに流入りゅうにゅうすることになる。これを解消かいしょうするには左右さゆうのバンクを跨またいで排気はいき系けいを取とり回まわす必要ひつようがあるが、排気はいき管かんが複雑ふくざつになるなどデメリットが大おおきくなってしまうため、やむなく片かたバンクずつ排気はいきをまとめているものが多おおい。ところが、BMWはS63B44で排気はいきポートをバンク内側うちがわにするレイアウトとし、さらに特殊とくしゅな排気はいき系けいを用もちいることでそれぞれのターボチャージャーに等間隔とうかんかくで排気はいきガスが流入りゅうにゅうするようにしている。S63B44のベースで、バンクごとに排気はいきをまとめているN63B44に対たいして、ツインスクロールターボの採用さいようなども相あいまってトルクは約やく13 %（600 N・mから680 N・mに）向上こうじょうしている。

採用さいよう例れい

日本にっぽん

日本にっぽん車しゃのガソリンエンジンにおいては、トヨタの直列ちょくれつ6気筒きとうエンジンの1G-GTEU、第だい1世代せだいの1JZ-GTE、2JZ-GTEや日産にっさんのRB26DETTなどの直列ちょくれつ6気筒きとうエンジンや、日産にっさんのVG30DETTや三菱みつびしの6G72、6A12、6A13などのV6エンジンに採用さいようされていたが、2002年ねんの排出はいしゅつガス規制きせい強化きょうかでガソリンターボエンジンが激減げきげんした際さいにツインターボ搭載とうさい車しゃは消滅しょうめつした。その後ご、2007年ねんに発売はつばいされた日産にっさん・GT-R用ようのV6エンジンVR38DETTにてツインターボエンジンが復活ふっかつしている。

ディーゼルエンジンでは、三菱みつびしふそう、旧きゅう日産にっさんディーゼル、日野ひのにおいては重量じゅうりょう物ぶつ運搬うんぱん用ようトレーラーヘッドや観光かんこうバス、ダンプカーや除雪じょせつトラック等ひとしの特とくに高こう負荷ふかな領域りょういきを集中しゅうちゅう的てきに使用しようする車くるま型がたにおいて設定せっていが行おこなわれていた。また、トヨタでは、ランドクルーザー70および200の輸出ゆしゅつ仕様しよう車しゃでツインターボの1VD-FTVを採用さいようしている。

日本にっぽん国外こくがい

日本にっぽん国外こくがいの自動車じどうしゃメーカーにおいても6気筒きとう以上いじょうのエンジンにツインターボが組くみ合あわされる例れいが多おおい。

BMWでは直列ちょくれつ6気筒きとうのN54B30や、V型がた8気筒きとうのN63B44、V型がた12気筒きとうのN74B60に採用さいようしている。特とくにX5MとX6Mに搭載とうさいされるS63B44は前述ぜんじゅつの通とおり2基きのツインスクロールターボをVバンクの間あいだに搭載とうさいする独特どくとくなレイアウトになっている。

メルセデス・ベンツではV型がた8気筒きとうのM278やV型がた12気筒きとうのM275、M285に採用さいよう例れいがある。

ポルシェでは水平すいへい対向たいこう6気筒きとうのMA170S、M96/70Sにおいて、可変かへん容量ようりょうターボの一種いっしゅであるVGターボを左右さゆうバンクに1基きずつ搭載とうさいしている。

ジャガーではV型がた6気筒きとうディーゼルターボのAJD-V6(Gen.III)にVGツインターボが採用さいようされている。

フォードはV型がた8気筒きとうからのダウンサイジングであるEcoBoostの3.5 L V型がた6気筒きとうエンジンにツインターボを採用さいようしている。

フォルクスワーゲングループでは前述ぜんじゅつのW型がた16気筒きとうエンジンWR16にて、ツインターボを2基き組くみ合あわせたクアッドターボが採用さいようされている。また、ディーゼルエンジンではV型がた6気筒きとう、V型がた8気筒きとう、V型がた12気筒きとうの各かくTDIエンジンにて片かたバンクに1基きずつVGターボを配置はいちしツインターボとしている。

シーケンシャルターボ

トヨタ・マークIIのツインターボ（並列へいれつタイプのシーケンシャルターボ）

シーケンシャルターボは、エンジンの作動さどう状態じょうたいによって2基きのターボチャージャーを使つかい分わけるものである。前述ぜんじゅつのツインターボと同様どうように2基きのターボチャージャーを使用しようするため、シーケンシャルツインターボとも呼よばれる。シーケンシャルターボは直列ちょくれつタイプと並列へいれつタイプの2種類しゅるいに分わけられる。

直列ちょくれつタイプでは小型こがたのターボチャージャーと大型おおがたのターボチャージャーを直列ちょくれつにつなげて使用しようする。排気はいき側がわはエンジン、小型こがたターボ、大型おおがたターボの順じゅんに直列ちょくれつにつながっており、小型こがたターボをバイパスする経路けいろが設置せっちされる。吸気きゅうき側がわのレイアウトは大型おおがたターボ、小型こがたターボ、エンジンの順じゅんに直列ちょくれつにつながり、排気はいき側がわと同様どうように小型こがたターボをバイパスする経路けいろがある。エンジン回転かいてん数すうが低ひくく排気はいきガス流量りゅうりょうが少すくない領域りょういきでは、全ぜん排気はいきガスを小型こがたターボへ集中しゅうちゅうさせてターボラグを少すくなくし、低速ていそくトルクを確保かくほする。エンジン回転かいてん数すうが上昇じょうしょうし、排気はいきガス量りょうが増加ぞうかしてきたところで徐々じょじょにバイパスバルブを開ひらき、小型こがたターボをバイパスさせて大型おおがたターボへ排気はいきガスを導入どうにゅうする。バイパスバルブが開ひらくに従したがい、小型こがたターボのタービン前後ぜんこう圧力あつりょく差さは小ちいさくなるため、以降いこうの過か給きゅうは大型おおがたターボのみが受うけ持もつ。なお、このとき小型こがたターボのコンプレッサーが抵抗ていこうになるため、吸気きゅうき側がわのバイパスバルブを開ひらき小型こがたターボは吸気きゅうき側がわでもバイパスされる。

並列へいれつタイプは1つ目めのターボチャージャー（プライマリーターボ）と2つ目めのターボチャージャー（セカンダリーターボ）が並列へいれつに設置せっちされる。排気はいき側がわではどちらか片方かたがたのターボにウェイストゲートが設置せっちされ、セカンダリーターボ上流じょうりゅうには排気はいきガス導入どうにゅうを制御せいぎょする切換きりかえバルブが設置せっちされる。吸気きゅうき側がわではセカンダリーターボに、コンプレッサーを通過つうかした吸気きゅうきを再さい循環じゅんかんさせるリリーフバルブがあり、プライマリーターボ側がわの吸気きゅうき管かんとの接合せつごう前まえに切換きりかえバルブが設置せっちされる。エンジンの低てい回転かいてん領域りょういきでは直列ちょくれつタイプと同様どうように全ぜん排気はいきガスをプライマリーターボに導みちびき過か給きゅう圧あつを得えるが、中ちゅう高速こうそく域いきでは吸排気はいきの切換きりかえバルブを開ひらきプライマリー、セカンダリーの二ふたつのターボで過か給きゅうを行おこなう。

いずれのタイプもエンジンの作動さどう状態じょうたいに合あわせて2基きのターボチャージャーの作動さどう状態じょうたいを切きり替かえる必要ひつようがあるため、電子でんし制御せいぎょが必須ひっすとなる。また、切換きりかえ時じにトルクの段差だんさが生しょうじやすいため、この制御せいぎょが課題かだいになっている。

シーケンシャルターボの採用さいよう例れい

乗用車じょうようしゃ用ようガソリンエンジンへのシーケンシャルターボ適用てきようは1987年ねんのポルシェ・959が初はつの事例じれいであるとされる。日本にっぽん車しゃでは1990年ねんのユーノス・コスモ用もちい20B-REW、13B-REWが初はつである。後のちにトヨタ・スープラなどの2JZ-GTEや、2代目だいめスバル・レガシィのEJ20でも採用さいようされた。なお、トヨタは「2ウェイツインターボ」、富士重工業ふじじゅうこうぎょう（現げん：SUBARU）は「2ステージターボ」と呼称こしょうしていた。

後のちにポルシェはシーケンシャルターボの採用さいようを取とりやめ、997型がた911から可変かへん容量ようりょうターボの一種いっしゅであるVGターボを片かたバンクに1基きずつ使用しようしたツインターボで、低速ていそくトルクおよびターボラグの改善かいぜんと出力しゅつりょく向上こうじょうを得えている。日本にっぽん車しゃにおいては2002年ねんの排出はいしゅつガス規制きせい強化きょうかにより、マツダはロータリーエンジンへのターボチャージャー搭載とうさいを取とりやめ、富士重工業ふじじゅうこうぎょうは4代目だいめレガシィから低速ていそくトルク向上こうじょうのためツインスクロールターボ（ツインエントリーターボ）に変更へんこうし、ターボチャージャーは1基きのみになっている。

ガソリンエンジンにおけるシーケンシャルターボの採用さいようは少すくなくなっているが、ディーゼルエンジンではBMWがバリアブル・ツインターボと呼よばれる直列ちょくれつタイプをN47D20T0に採用さいようし、メルセデスのOM651も直列ちょくれつタイプであるボルグワーナーのR2S（Regulated 2-Stage Turbocharging）を採用さいよう、フィアットも1.9 マルチジェットツインターボに直列ちょくれつタイプのTST（Two Stage Turbo）を、ヒョンデも直列ちょくれつ4気筒きとうのU2 1.7およびR 2.2に直列ちょくれつタイプの2ステージターボを採用さいようしている。

日本にっぽん国内こくないメーカーではいすゞがギガにおいて6NX1エンジンに、エルフにおいて4JJ1エンジンに、フォワードやエルガにおいて4HK1-TC*において2ステージターボを採用さいようしている。三菱みつびしふそうも、スーパーグレートやエアロエースに搭載とうさいされる排気はいき量りょう7.7 Lの6S10エンジンで2ステージターボを採用さいようしている。また、マツダはSKYACTIV-D2.2と称しょうして圧縮あっしゅく比ひを14程度ていどまで低減ていげんした排気はいき量りょう2.2 Lのディーゼルエンジンに2ステージターボを採用さいようし、初はつ採用さいよう車しゃとなったCX-5以降いこうの設定せっていのある車両しゃりょうに搭載とうさいしている。

シーケンシャルターボの動作どうさ

ここでは1990年ねんに発売はつばいされたユーノス・コスモの20B-REW、13B-REWに搭載とうさいされた並列へいれつタイプのシーケンシャルターボの動作どうさを例れいとして挙あげる。

このシステムの特徴とくちょうは、セカンダリーターボの過か給きゅう圧あつ立たち上あがりをスムーズにする「予よ回転かいてん方式ほうしき」が採用さいようされたことにある。また、プライマリーターボには低速ていそくレスポンス重視じゅうしのインパクトタービンブレードを、セカンダリーターボには高こう流量りゅうりょう時じに通気つうき抵抗ていこうの小ちいさいハイフロー型がたをそれぞれ採用さいようしている。

レイアウトはほぼ前述ぜんじゅつの並列へいれつタイプの通とおりで、セカンダリーターボへの排気はいき導入どうにゅう部ぶに設置せっちされる切換きりかえバルブが大小だいしょう二ふたつになっており、それぞれマツダは「ターボメインコントロールバルブ」、「ターボプリコントロールバルブ」と名付なづけている。また同様どうように、セカンダリーターボ吸気きゅうき側がわのリリーフバルブは「過か給きゅうリリーフバルブ」、プライマリー、セカンダリーの吸気きゅうき合流ごうりゅう部ぶの切換きりかえバルブは「過か給きゅうコントロールバルブ」と呼よんでいる。

まず、エンジン回転かいてん数すうが低ひくい領域りょういきでは全すべてのバルブが閉とじられており、排気はいきガスはプライマリーターボに集中しゅうちゅうして流ながれ、エンジンの低速ていそくトルクを増強ぞうきょうする。プライマリーターボが設定せってい過か給きゅう圧あつに到達とうたつした後のち、ターボプリコントロールバルブを開ひらき、セカンダリーターボを約やく8万まんrpmに保たもつ。このとき、過か給きゅうコントロールバルブは閉とじているためセカンダリーターボの過か給きゅう圧あつはエンジンには加くわわらない。このままだとサージングによりコンプレッサーが破損はそんしてしまうため、過か給きゅうリリーフバルブを開ひらくことでコンプレッサ内ないを一定いっていの圧力あつりょくに保たもちサージングが起おきないようにしている。この状態じょうたいではプライマリーターボのみの作動さどうから二ふたつのターボでの並列へいれつ過か給きゅうに切換きりかえるにはセカンダリーターボの回転かいてん数すうが足たりないため、並列へいれつ過か給きゅうへの移行いこう直前ちょくぜんに過か給きゅうリリーフバルブを閉とじて（短時間たんじかんのあいだサージング状態じょうたいに陥おちいること許容きょようした上うえで）セカンダリーターボの回転かいてんを12万まんrpm程度ていどまで加速かそくさせる。その後ご、ターボメインコントロールバルブと過か給きゅうコントロールバルブを開ひらき、プライマリーターボにセカンダリーターボの過か給きゅうを加くわえた中なか高速こうそく域いきの過か給きゅうモードへスムーズに移行いこうする。

なお直列ちょくれつタイプの場合ばあい、制御せいぎょバルブは小型こがたターボの吸排気はいきバイパスバルブの二ふたつだけなので、制御せいぎょは並列へいれつタイプよりも単純たんじゅんになる。

参考さんこう資料しりょう 

• 自動車じどうしゃ技術ぎじゅつハンドブック編集へんしゅう委員いいん会かい 編へん『自動車じどうしゃ技術ぎじゅつハンドブック』（改訂かいてい版ばん第だい4分冊ぶんさつ）自動車じどうしゃ技術ぎじゅつ会かい、2005年ねん7月がつ、103頁ぺーじ。ISBN 4-915219-43-7。 
• GP企画きかくセンター 編へん『マツダ・ロータリーエンジンの歴史れきし』グランプリ出版しゅっぱん、2003年ねん、127頁ぺーじ。ISBN 4-87687-242-2。 
• 「World Engine Databook 2011-2012」『Motor Fan illustrated 特別とくべつ編集へんしゅう ワールド・エンジン・データブック 2011-2012』、三栄書房さんえいしょぼう、2011年ねん、ISBN 978-4-7796-1336-4。