ハンス・ヨナス

ハンス・ヨナス

1983年ねん2月がつ17日にち
人物じんぶつ情報じょうほう
生誕せいたん	(1903-05-10) 1903年ねん5月がつ10日とおか ドイツ メンヒェングラートバッハ
死没しぼつ	1993年ねん2月がつ5日にち(1993-02-05)（89歳さい没ぼつ） アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく ニューヨーク
出身しゅっしん校こう	マールブルク大学だいがく
学問がくもん
研究けんきゅう分野ぶんや	哲学てつがく
研究けんきゅう機関きかん	カールトン大学だいがく、ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ
学位がくい	哲学てつがく博士はかせ

ハンス・ヨナス（Hans Jonas、1903年ねん5月がつ10日とおか－1993年ねん2月がつ5日にち）は、ドイツ生うまれの実存じつぞん主義しゅぎ哲学てつがく者しゃであり、ハイデッガーとブルトマンに学まなび、ホワイトヘッドのプロセス哲学てつがくの影響えいきょうを受うけた。彼かれを著名ちょめいにしたのは、近代きんだい技術ぎじゅつが人間にんげんに及およぼす影響えいきょうとそれに対たいする倫理りんり的てき努力どりょくに関かんする著作ちょさくだった。また彼かれは実存じつぞん主義しゅぎの立場たちばよりグノーシス主義しゅぎを研究けんきゅうし、浩瀚こうかんな書物しょもつを著あらわした。

生涯しょうがい

1903年ねん5月がつ10日とおか、ドイツのメンヒェングラートバッハに誕生たんじょうした。彼かれは、フライブルク、ベルリン、ハイデルベルクで哲学てつがくと神学しんがくを学まなんだ。マールブルクにおいて、マルティン・ハイデッガーとルドルフ・ブルトマンの元もとで研究けんきゅうし、哲学てつがく博士はかせの学位がくいを得えた。マールブルクで彼かれは、同おなじく哲学てつがく博士はかせの学位がくいを得えるため研究けんきゅうしていたハンナ・アーレントの知遇ちぐうを得え、二人ふたりはこの後のち、生涯しょうがい永続えいぞくする友人ゆうじんとなった。

ナチズムの台頭たいとうと第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅう

1933年ねんにハイデッガーはドイツのナチス党とうに加くわわった。このことは、ユダヤ系けいの血ちを引ひき、彼かれ自身じしん積極せっきょく的てきなシオニストであったヨナスに衝撃しょうげきを与あたえた。偉大いだいな哲学てつがく者しゃであってさえこのような政治せいじ的てきな愚行ぐこうを行おこない得えるという事実じじつの認識にんしきは、ヨナスをして、哲学てつがくの価値かちに対たいする疑問ぎもんを惹起じゃっきした。

同どう1933年ねん、ドイツを去さってイングランドに移うつり、1934年ねん、イングランドより更さらに英えい領りょうパレスティナへと移うつった。その地ちでヨナスはローレ・ヴァイナー（Lore Weiner）と出会であい、彼女かのじょと婚約こんやくを結むすんだ。1940年ねんに彼かれはヨーロッパに帰還きかんし、英国えいこく陸軍りくぐんに入隊にゅうたいした。英国えいこく陸軍りくぐんはアドルフ・ヒトラーと戦たたかうことを望のぞむドイツ系けいユダヤ人じんのため、特殊とくしゅ旅団りょだんを編制へんせいしていた。ヨナスはイタリアに送おくられ、戦争せんそうの最終さいしゅう段階だんかいではドイツへと移動いどうしていた。この当時とうじ、ヨナスは幾いく通つうかの書翰しょかんをローレに送おくっており、勝利しょうりする軍団ぐんだんのなかの一いち兵士へいしとして帰還きかんするだろうという約束やくそくを守まもった。ヨナスはローレに送おくった書簡しょかんの中なかで、愛あいと共ともに哲学てつがくについて記しるしている。戦争せんそう勝利しょうり後ごの1943年ねん、ヨナスはローレと結婚けっこんした。

戦後せんご

終戦しゅうせん後ご、ただちに彼かれはメンヒェングラートバッハに還かえって母親ははおやを捜さがしたが、見出みいだしたのは母親ははおやがアウシュヴィッツ収容しゅうよう所しょのガス室しつに送おくられたということだけであった。このことを知しって、ヨナスはもはやドイツに居住きょじゅうすることを拒否きょひし、パレスティナに戻もどった。1948年ねん、イスラエルの独立どくりつ戦争せんそうに加くわわった。しかし彼かれは、自分じぶんの使命しめいはシオニストとして生いきることではなく、哲学てつがくを教おしえることであると感かんじていた。

ヨナスは北きたアメリカに移うつる前まえ、短期間たんきかんエルサレムのヘブライ大学だいがくで教おしえた。1950年ねんに彼かれはカナダへと移うつり、カールトン大学だいがくで教鞭きょうべんを執とった。1955年ねんにカナダよりニューヨークへと移住いじゅうし、その地ちで残のこりの生涯しょうがいを送おくった。彼かれはニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ（人文じんぶん社会しゃかい研究けんきゅう大学院だいがくいん）において、1955年ねんから1976年ねんまで教鞭きょうべんを執とった。1993年ねん、ニューヨーク市しで死去しきょした。

受賞じゅしょう・栄典えいてん

• 1987年ねん：ドイツ書籍しょせき協会きょうかい平和へいわ賞しょう。

研究けんきゅう内容ないよう・業績ぎょうせき

• ヨナスは社会しゃかいに多大ただいな影響えいきょうを与あたえた著作ちょさく『 Imperative of Responsibility（規範きはんとしての責任せきにん性せい）』（1979年ねんドイツ語ごで刊行かんこう、1984年ねん英語えいごで刊行かんこう）でよく知しられている。ヨナスの著作ちょさくは、技術ぎじゅつ社会しゃかいにおいて生うみ出だされた社会しゃかい的てき・倫理りんり的てき問題もんだいを主題しゅだいとしている。彼かれは、人類じんるいの存続そんぞくは、我々われわれの世界せかいである地球ちきゅうとその未来みらいへの配慮はいりょに対たいする努力どりょくに依存いぞんしていると主張しゅちょうした。ヨナスは道徳どうとく性せいに関かんする、新あたらしく明瞭めいりょうな至上しじょう原理げんりを定式ていしき化かした。「汝なんじの行おこないの結果けっかが、人間にんげんの純粋じゅんすい生命せいめいの永続えいぞくと調和ちょうわするように行為こういせよ」。
• ヨナスはまた、グノーシス主義しゅぎに関かんする浩瀚こうかんな書物しょもつを著あらわした。グノーシス主義しゅぎとは何なにかということを、彼かれはみずからの思想しそう同然どうぜんによく理解りかいしていた。この宗教しゅうきょうを実存じつぞん主義しゅぎ哲学てつがく者しゃとしての視点してんより解釈かいしゃくした。
• ヨナスの哲学てつがくは、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドのプロセス哲学てつがくとプロセス神学しんがくに影響えいきょうされたものだった。

著作ちょさく

著書ちょしょ

• 『グノーシスと古代こだい末期まっきの精神せいしん （Gnosis und spatantiker Geist）』 第だい一部いちぶ・第だい二に部ぶ（1934年ねん-1954年ねん）
• 『生命せいめいの哲学てつがく：哲学てつがく的てき生物せいぶつ学がくを目指めざし （The Phenomenon of Life: Toward a Philosophical Biology）』 （1966年ねん）
• 『規範きはんとしての責任せきにん性せい：技術ぎじゅつ時代じだいにおける倫理りんりの探求たんきゅうにおいて （The Imperative of Responsibility: In Search of Ethics for the Technological Age）』 （1979年ねん） ISBN 0-226-40597-4
• 『生命せいめいの哲学てつがく：哲学てつがく的てき生物せいぶつ学がくを目指めざし－現象げんしょう学がく及および実存じつぞん主義しゅぎ哲学てつがく的てき研究けんきゅう （The Phenomenon of Life: Toward a Philosophical Biology (Studies in Phenomenology and Existential Philosophy）』 （1979年ねん） ISBN 0-8101-1749-5
• 『グノーシスの宗教しゅうきょう：異邦いほうの神かみのメッセージとキリスト教きりすときょうの起源きげん （The Gnostic Religion: The Message of the Alien God & the Beginnings of Christianity）』 （1979年ねん） ISBN 0-8070-5801-7
• 『技術ぎじゅつ、医療いりょう、倫理りんりについて （On Technology, Medicine and Ethics）』 （1985年ねん）

日本語にほんご訳やくされた著作ちょさく

• 『責任せきにんという原理げんり:科学かがく技術ぎじゅつ文明ぶんめいのための倫理りんり学がくの試こころみ』加藤かとう尚武なおたけ監訳かんやく、東あずま信しん堂どう、2000年ねん、新版しんぱん2010年ねん。ISBN 4887139993

（Das Prinzip Verantwortung. Versuch einer Ehik fur die technologische Zivilisation.1979年ねん）

• 『グノーシスの宗教しゅうきょう:異邦いほうの神かみの福音ふくいんとキリスト教きょうの端緒たんしょ』秋山あきやまさと子こ・入江いりえ良平りょうへい訳わけ、人文書院じんぶんしょいん、1986年ねん、増補ぞうほ版ばん2020年ねん。ISBN 4409031112
• 『哲学てつがく・世紀せいき末まつにおける回顧かいこと展望てんぼう』尾形おがた敬たかし次じ訳わけ、東あずま信しん堂どう、1996年ねん。ISBN 488713245X
• 『主観性しゅかんせいの復権ふっけん:心身しんしん問題もんだいから「責任せきにんという原理げんり」へ』宇佐美うさみ公生きみお・滝口たきぐち清栄きよえ訳わけ、東あずま信しん堂どう、2000年ねん。ISBN 4887133634
• 『アウシュヴィッツ以後いごの神かみ』品川しながわ哲彦てつひこ訳わけ、叢書そうしょ・ウニベルシタス：法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく、2009年ねん。ISBN 978-4-588-00924-2

（Gedanken über Gott : drei Versuche. 1994年ねん）

• 『ハンス・ヨナス「回想かいそう記き」』盛もり永ひさし審しん一郎いちろう・木下きのした喬たかし・馬渕まぶち浩二こうじ・山本やまもと達いたる訳わけ、東あずま信しん堂どう、2010年ねん。ISBN 978-4-88713-998-5
• 『グノーシスと古代こだい末期まっきの精神せいしん 第だい1部ぶ　神話しんわ論ろん的てきグノーシス』大貫おおぬき隆たかし訳わけ、ぷねうま舎しゃ、2015年ねん。ISBN 978-4-906791-49-1
• 『グノーシスと古代こだい末期まっきの精神せいしん 第だい2部ぶ　神話しんわ論ろんから神秘しんぴ主義しゅぎ哲学てつがくへ』、同上どうじょう、ISBN 978-4-906791-50-7

ヨナスに関かんする研究けんきゅう

• 戸谷とたに洋志ひろし『ハンス・ヨナスを読よむ』堀之内ほりのうち出版しゅっぱん、2018年ねん
  • 増補ぞうほ版ばん『ハンス・ヨナスの哲学てつがく』角川かどかわソフィア文庫ぶんこ、2022年ねん
• 戸谷とたに洋志ひろし『ハンス・ヨナス未来みらいへの責任せきにん　やがて来きたる子こどもたちのための倫理りんり学がく』慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱん会かい、2021年ねん
• 戸谷とたに洋志ひろし・百木ももき漠ばく『漂泊ひょうはくのアーレント 戦場せんじょうのヨナス　ふたりの二に〇世紀せいきふたつの旅路たびじ』慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱん会かい、2020年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 環境かんきょう倫理りんり学がく
• 生命せいめい倫理りんり学がく
• 環境かんきょう運動うんどう

外部がいぶリンク

• Hans-Jonas-Center Berlin ［ドイツ語ご］
• 図書館としょかんにあるハンス・ヨナスに関係かんけいする蔵書ぞうしょ一覧いちらん - WorldCatカタログ