ファウスト (Faust)は、ドイツ の伝説 でんせつ における主要 しゅよう な登場 とうじょう 人物 じんぶつ である。彼 かれ は学者 がくしゃ としてかなり成功 せいこう したが、自分 じぶん の人生 じんせい に満足 まんぞく しておらず、そのために悪魔 あくま と盟約 めいやく して自身 じしん の魂 たましい と引 ひ き換 か えに果 は てしない知識 ちしき と現世 げんせい での幸福 こうふく を得 え た。
ファウスト伝説 でんせつ は、長 なが い時間 じかん を通 とお して再 さい 解釈 かいしゃく され、多 おお くの文学 ぶんがく 、美術 びじゅつ 、映画 えいが 、音楽 おんがく 作品 さくひん の題材 だいざい とされてきた。「ファウスト」や「ファウスト的 てき 」という語句 ごく は、野心 やしん 的 てき な人物 じんぶつ が力 ちから を得 え て一定 いってい 期間 きかん の成功 せいこう のために倫理 りんり 的 てき な無欠 むけつ さを手放 てばな すという状況 じょうきょう を暗示 あんじ するのにも使 つか われる。
初期 しょき の書物 しょもつ 、あるいはそこから派生 はせい したバラッド や演劇 えんげき 、映画 えいが 、人形 にんぎょう 劇 げき のファウストは、ファウストが神 かみ に関 かん する知識 ちしき よりも人間 にんげん を愛 あい したという理由 りゆう で、取 と り返 かえ しがつかないほど呪 のろ われた。「ヤツはドアの裏 うら やベンチの下 した に聖書 せいしょ を置 お き、そして、神学 しんがく 者 しゃ と呼 よ ばれるのを拒 こば み、医学 いがく 者 しゃ と称 しょう されるのを好 この むのだ」[ 1] 。この伝説 でんせつ を漠然 ばくぜん と題材 だいざい にした演劇 えんげき や滑稽 こっけい な人形 にんぎょう 劇 げき は、16世紀 せいき を通 とお してドイツで人気 にんき を誇 ほこ ったが、それらでは、ファウストやメフィストフェレス を低俗 ていぞく な楽 たの しみの象徴 しょうちょう へと貶 おとし めていた。
この伝説 でんせつ は、古典 こてん 的 てき に取 と り扱 あつか ったクリストファー・マーロウ の戯曲 ぎきょく 『フォースタス博士 はかせ 』(1604年 ねん )により、イングランド で広 ひろ まった。200年 ねん 後 ご 、ゲーテ が再編 さいへん した『ファウスト 』では、ファウストは自分 じぶん の人生 じんせい に「現世 げんせい の飲食 いんしょく 以上 いじょう のもの」を求 もと めた不満足 ふまんぞく な知識 ちしき 人 じん となった。
ファウストは学者 がくしゃ としての自身 じしん の人生 じんせい に退屈 たいくつ し、落胆 らくたん していた。自殺 じさつ を試 こころ みた後 のち 、悪魔 あくま に更 さら なる知識 ちしき とこの世 よ のあらゆる喜 よろこ びと知恵 ちえ をほしいままにできる魔法 まほう の力 ちから を求 もと めた。それに応 こた えて悪魔 あくま の代理 だいり であるメフィストフェレス が現 あらわ れた。彼 かれ はファウストと取引 とりひき を交 か わした。すなわち、メフィストフェレスはファウストに自身 じしん の魔力 まりょく を一定 いってい 年 ねん 与 あた える、しかし、期限 きげん が切 き れるとき悪魔 あくま はファウストの魂 たましい を求 もと め、結果 けっか ファウストは永遠 えいえん に地獄 じごく に落 お ちる、というものだ。初期 しょき の作品 さくひん では大抵 たいてい この契約 けいやく の期間 きかん は24年 ねん -1日 にち の一時 いちじ 間 あいだ につき1年 ねん と規定 きてい されていた。[要 よう 出典 しゅってん ]
この契約 けいやく の期間 きかん 中 ちゅう 、ファウストはメフィストフェレスを様々 さまざま なことに利用 りよう する。多 おお くのバージョンで、特 とく にゲーテの戯曲 ぎきょく で、メフィストフェレスはファウストが、大抵 たいてい グレートヒェンという名 な の美 うつく しく純粋 じゅんすい な少女 しょうじょ を誘惑 ゆうわく する手伝 てつだ いをするが、その少女 しょうじょ の人生 じんせい は究極 きゅうきょく 的 てき に滅茶苦茶 めちゃくちゃ になる。しかし、グレートヒェンの純粋 じゅんすい さは最期 さいご に彼女 かのじょ を救 すく い、天国 てんごく へ召 め される。ゲーテの版 はん では、ファウストは彼 かれ の絶 た え間 ま ない努力 どりょく と、「永遠 えいえん の女性 じょせい 」たるグレートヒェンの神 かみ への弁解 べんかい との結果 けっか 、神 かみ の恩寵 おんちょう により救 すく われる。しかし、初期 しょき の作品 さくひん において、ファウストは取 と り返 かえ しがつかないほど堕落 だらく した。彼 かれ は自身 じしん の罪 つみ が許 ゆる されえないことを悟 さと り、契約 けいやく の期限 きげん が切 き れるとき、悪魔 あくま が彼 かれ を地獄 じごく へと連 つ れ去 さ る。
パン・トワルドーフスキーと悪魔 あくま 。ミハウ・エルヴィロ・アンドゥリオッリ 画 が
シモン・マグス の生涯 しょうがい は、多 おお くの面 めん でクリストファー・マーロウやヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテのファウスト伝説 でんせつ に影響 えいきょう を与 あた えた。ハンス・ヨナス によると、「マーロウとゲーテの戯曲 ぎきょく のファンのうち、その主人公 しゅじんこう がグノーシス主義 しゅぎ 者 しゃ の子孫 しそん であること、彼 かれ の術 じゅつ により呼 よ び出 だ された美女 びじょ ヘレンがかつての堕落 だらく した神 かみ の思考 しこう で、人類 じんるい により救済 きゅうさい されるべき存在 そんざい だったこと、に薄々 うすうす 気 き づいている人 ひと はほとんどいない」[ 2] のだという。ファウストの物語 ものがたり は、13世紀 せいき に『聖母 せいぼ 奇跡 きせき 物語 ものがたり ("Les Miracles de la Sainte Vierge ")』の筆者 ひっしゃ ゴーチエ・ド・コアンシ (Gautier de Coincy ) が書 か いたテオフィラス伝説 でんせつ に多 おお く類似 るいじ 点 てん を持 も つ。つまり、徳 とく 高 たか い人物 じんぶつ が地獄 じごく の支配 しはい 者 しゃ と取引 とりひき するが、聖母 せいぼ マリア の慈悲 じひ をうけ、社会 しゃかい への責務 せきむ をはたすことで救 すく われる[ 3] 。彼 かれ が悪魔 あくま に服従 ふくじゅう する場面 ばめん の描写 びょうしゃ はノートルダム大 だい 聖堂 せいどう の北側 きたがわ のティンパヌム に再現 さいげん されている[ 4] 。
パン・トワルドーフスキーと云 い う名 な のポーランドの伝承 でんしょう における登場 とうじょう 人物 じんぶつ は、ファウストに似 に ており、これらの伝説 でんせつ はほぼ同 どう 時期 じき にできたと考 かんが えられる。この二 ふた つの話 はなし が何処 どこ で共通 きょうつう の起源 きげん を持 も つか又 また は影響 えいきょう し合 あ ったかは明確 めいかく ではない。神学 しんがく 者 しゃ のフィリップ・メランヒトン によると、歴史 れきし 上 じょう のヨハン・ファウストはクラクフ大学 だいがく で学 まな んでいた、とされる。[要 よう 出典 しゅってん ]
ファウストの名 な や性格 せいかく の起源 きげん ははっきりしていないが、ヨハン・グーテンベルク の共同 きょうどう 経営 けいえい 者 しゃ ヨハン・フースト (英語 えいご 版 ばん ) (1400-1466)と伝説 でんせつ 上 じょう のファウストを結 むす びつける資料 しりょう はいくつかある[ 5] 。また、フゥストはファウスト伝説 でんせつ のいくつかある起源 きげん の一 ひと つとも言 い われている[ 6] 。ヴュルテンブルクのクニットリンゲン出身 しゅっしん と考 かんが えられる呪術 じゅじゅつ 師 し かつ錬金術 れんきんじゅつ 師 し のヨハン・ファウスト 博士 はかせ (1480-1540)をファウストの原型 げんけい と信 しん じる人 ひと もいる。彼 かれ はハイデルベルク大学 だいがく から1509年 ねん 神学 しんがく の学位 がくい を得 え た。フランク・バロン (Frank Baron )[ 7] や、レオ・ルイックビー (Leo Ruickbie )[ 8] などの学者 がくしゃ は従来 じゅうらい の仮定 かてい に異議 いぎ を唱 とな えている。
ファウスト伝説 でんせつ の資料 しりょう として活字 かつじ 化 か されている最初 さいしょ のものは、Historia von D. Johann Fausten (1587年 ねん 出版 しゅっぱん )というタイトルのチャップ・ブック である。この本 ほん は、16世紀 せいき を通 とお して再 さい 編集 へんしゅう ・借用 しゃくよう され、その時期 じき の似 に た本 ほん は以下 いか のものがある。
Das Wagnerbuch (1593)
Das Widmann'sche Faustbuch (1599)
Dr. Fausts großer und gewaltiger Höllenzwang (フランクフルト 1609)
Dr. Johannes Faust, Magia naturalis et innaturalis (パッサウ 1612)
Das Pfitzer'sche Faustbuch (1674)
Dr. Fausts großer und gewaltiger Meergeist (アムステルダム 1692)
Das Wagnerbuch (1714)
Faustbuch des Christlich Meynenden (1725)
1725年 ねん のチャップ・ブックはひろく普及 ふきゅう し、ゲーテ少年 しょうねん にも読 よ まれた。
男 おとこ と悪魔 あくま の契約 けいやく について同種 どうしゅ の本 ほん には、戯曲 ぎきょく Mariken van Nieumeghen (オランダ、16世紀 せいき 初頭 しょとう 、著者 ちょしゃ 不明 ふめい )や、Cenodoxus (ドイツ、17世紀 せいき 初頭 しょとう 、Jacob Bidermann)、『キャスリーン伯爵 はくしゃく 夫人 ふじん 』(The Countess Cathleen , 起源 きげん の不明瞭 ふめいりょう なアイルランドの伝説 でんせつ 、フランスの戯曲 ぎきょく Les marchands d'âmes を基 もと にしているとも考 かんが えられている)などがある。
ドイツの南西 なんせい 端 はし の都市 とし 、シュタウフェン (Staufen) は1540年 ねん にファウストが死 し んだ土地 とち である、と主張 しゅちょう している。とある建物 たてもの の描写 びょうしゃ が見 み える、などの理由 りゆう からである。この伝承 でんしょう に対 たい する歴史 れきし 的 てき 資料 しりょう は、ファウストが死 し んだとされる年 とし の25年 ねん 後 ご 、1565年 ねん 前後 ぜんこう に書 か かれたChronik der Grafen von Zimmern における描写 びょうしゃ だけである。この記録 きろく は一般 いっぱん 的 てき に信頼 しんらい できると考 かんが えられており、16世紀 せいき にはシュタウフェン卿 きょう と隣接 りんせつ するドナウエッシンゲン のジマーン伯爵 はくしゃく との親 した しいつながりが残 のこ っていた。[ 9]
クリストファー・マーロウ のオリジナル版 ばん では、ファウストが学 まな んだヴィッテンベルク はウェルテンベルク(独 どく :Wertenberge )として書 か かれている。彼 かれ が話 はなし の舞台 ぶたい としているその場所 ばしょ は、ヴュルテンベルク (独 どく :Württemberg )公国 こうこく だと主張 しゅちょう している学者 がくしゃ もいれば、マーロウ自身 じしん の住 す んだケンブリッジを暗示 あんじ していると主張 しゅちょう している学者 がくしゃ もいる (Gill, 2008, p. 5)。ヴィッテンベルクの所在地 しょざいち として最 もっと も支持 しじ を集 あつ めるに足 た るであろう説 せつ はヴュルテンベルク公国 こうこく の歴史 れきし 的 てき 首都 しゅと で、現在 げんざい のシュトゥットガルト である。
初期 しょき のファウストのチャップブックは、ドイツ北部 ほくぶ で普及 ふきゅう し、イングランドへ渡 わた った。そこで、1592年 ねん にP.F.ゲントなる人物 じんぶつ によるThe Historie of the Damnable Life, and Deserved Death of Doctor Iohn Faustus という英訳 えいやく 版 ばん が出版 しゅっぱん された。クリストファー・マーロウはより野心 やしん 的 てき な戯曲 ぎきょく 『フォースタス博士 はかせ 』(1604年 ねん 出版 しゅっぱん )の基 もと としてこの作品 さくひん を用 もち いた。マーロウは同時 どうじ にジョン・フォックスの『殉教者 じゅんきょうしゃ 列伝 れつでん ("Book of Martyrs ")』からも、教皇 きょうこう ハドリアヌス6世 せい と対抗 たいこう 者 しゃ とのやり取 と りを借用 しゃくよう した。
ハリー・クラーク によるゲーテ版 ばん 『ファウスト』の挿絵 さしえ
サン・マリーナのハンチントン図書館 としょかん にあるマーロウ『ファウスタス博士 はかせ 』の手 て 稿 こう
この伝説 でんせつ についてのもう一 ひと つの重要 じゅうよう な版 はん はドイツ人 じん の著者 ちょしゃ ヨハン・ヴォルガング・フォン・ゲーテによる戯曲 ぎきょく 『ファウスト』である。より初期 しょき の伝説 でんせつ に近 ちか い第 だい 一部 いちぶ は1808年 ねん に、第 だい 二 に 部 ぶ はゲーテの死後 しご 1832年 ねん に出版 しゅっぱん された。
ゲーテの『ファウスト』はもともとの伝説 でんせつ が示 しめ す単純 たんじゅん なキリスト教 きりすときょう 的 てき 道徳 どうとく 観 かん を複雑 ふくざつ に表現 ひょうげん した。戯曲 ぎきょく と広義 こうぎ の詩文 しぶん との融合 ゆうごう 体 たい である二 に 部 ぶ 編成 へんせい のこのクローゼットドラマ は、ある種 しゅ の叙事詩 じょじし である。キリスト教 きょう や中世 ちゅうせい 、古代 こだい ローマ、東洋 とうよう を参考 さんこう にし、古代 こだい ギリシア 、哲学 てつがく 、そして文学 ぶんがく などをひとまとめにした。
ゲーテは、自身 じしん による伝説 でんせつ を構成 こうせい し改善 かいぜん するために、継続 けいぞく 的 てき にではないが60年 ねん 以上 いじょう もの時間 じかん をかけた。彼 かれ の死後 しご 出版 しゅっぱん された最終 さいしゅう 版 ばん は、ドイツ文学 ぶんがく における偉業 いぎょう と認識 にんしき されている。
この物語 ものがたり は人生 じんせい の本質 ほんしつ をもとめたファウストの運命 うんめい に焦点 しょうてん を当 あ てている。("was die Welt im Innersten zusammenhält " ).自 みずか らの知識 ちしき 、力 ちから 、人生 じんせい の喜 よろこ びに限界 げんかい があることに気付 きづ いて挫折 ざせつ していた彼 かれ は、メフィストフェレスを代理 だいり とする悪魔 あくま の誘惑 ゆうわく に惹 ひ きつけられた。ファウストが将来 しょうらい にひどく無気力 むきりょく になっていることを知 し った悪魔 あくま はファウストが自身 じしん の人生 じんせい に満足 まんぞく できるかどうか賭 か けをした。ファウストは幸福 こうふく の絶頂 ぜっちょう が訪 おとず れることは決 けっ してないと信 しん じていた。この点 てん はゲーテのものとマーロウのものとの重要 じゅうよう な違 ちが いである。つまり、ファウストは賭 か けを提案 ていあん する人物 じんぶつ でない、ということだ。
第 だい 一部 いちぶ で、メフィストフェレスがファウストを導 みちび き、純粋 じゅんすい な少女 しょうじょ グレートヒェンとの欲望 よくぼう に満 み ちた関係 かんけい の最高峰 さいこうほう を経験 けいけん させた。グレートヒェンと彼女 かのじょ の家族 かぞく は、メフィストフェレスの策謀 さくぼう とファウストの欲望 よくぼう により、滅茶苦茶 めちゃくちゃ にされてしまった。第 だい 一部 いちぶ はファウストの悲劇 ひげき で終 お わる。グレートヒェンは天 てん の救 すく いを得 え るが、恥 は じ入 い り、悲嘆 ひたん に身 み を任 まか せた。
第 だい 二 に 部 ぶ は、大地 だいち の精霊 せいれい がファウスト(および残 のこ りの人間 にんげん )を許 ゆる すところで始 はじ まり、寓意 ぐうい 的 てき な詩 し へと続 つづ く。ファウストとメフィストフェレスは、政治 せいじ 界 かい や古代 こだい の神 かみ の国 くに に干渉 かんしょう しながら通 とお り過 す ぎ、美 び の化身 けしん たるトロイのヘレン と出会 であ う。戦争 せんそう や自然 しぜん の脅威 きょうい を手懐 てなづ けることに成功 せいこう したファウストは、至福 しふく の瞬間 しゅんかん を味 あじ わった。
メフィストフェレスは、幸福 こうふく を感 かん じたファウストが死 し ぬときにその魂 たましい を奪 うば おうとするが、神 かみ の加護 かご により天使 てんし が邪魔 じゃま をしたため、失敗 しっぱい しひどく怒 おこ ることとなった。この加護 かご は、真 しん の意味 いみ で「無償 むしょう な」もので、ファウストがメフィストフェレスと犯 おか した罪 つみ が許 ゆる された訳 わけ ではなかったが、天使 てんし が云 い うには、この施 ほどこ しはファウストの絶 た え無 な き努力 どりょく と、寛大 かんだい なグレートヒェンの取 と りなしによるもの、ということになる。最後 さいご のシーンで、ファウストの魂 たましい は「聖母 せいぼ マリア、偉大 いだい なる母 はは 、女王 じょおう 、……永久 えいきゅう に親切 しんせつ な女神 めがみ 、……永遠 えいえん の女性 じょせい 」の取 と りなしにより神 かみ のおわします天国 てんごく へ召 め し上 あ げられた[ 10] 。 従 したが って女神 めがみ は、ファウストの死 し の際 さい 、彼 かれ が「永遠 えいえん の虚無 きょむ 」にとらわれたと主張 しゅちょう したメフィストフェレスに勝利 しょうり したことになる。
ゲーテ版 ばん 『ファウスト』は純粋 じゅんすい に古典 こてん 的 てき 作品 さくひん だ。しかし、その考 かんが えは歴史 れきし 的 てき なものであるため、知 し りうる時代 じだい においてそれぞれの「ファウスト」が存在 そんざい するのだ。
セーレン・キェルケゴール (Søren Kierkegaard )著 ちょ 『あれか、これか (’’Either/Or’’ )』, Immediate Stages of the Erotic
ファウストの話 はなし はミハイル・ブルガーコフ のもっとも有名 ゆうめい な小説 しょうせつ 『巨匠 きょしょう とマルガリータ ("The Master and Margarita ")』(1928-1940) の基 もと ともなった。マルガリータはグレートヒェンを、巨匠 きょしょう はファウストを基 もと にしている。ほかにヴォランド(メフィストフェレスを想起 そうき させる)や、ミハイル・アレクサンドロビッチ・ベルリオーズ(文芸 ぶんげい 家 か 協会 きょうかい マスソリトの会長 かいちょう )などの登場 とうじょう 人物 じんぶつ がいる。
トーマス・マン が1947年 ねん に著 あらわ した『ファウストゥス博士 はかせ 一 いち 友人 ゆうじん によって語 かた られるドイツの作曲 さっきょく 家 か アドリアン・レーヴァーキューンの生涯 しょうがい 』は、ファウスト伝説 でんせつ を20世紀 せいき の文脈 ぶんみゃく にあてはめ、架空 かくう の作曲 さっきょく 家 か アドリアン・レーヴァーキューンの人生 じんせい を通 とお して、20世紀 せいき のドイツ及 およ びヨーロッパの歴史 れきし を象徴 しょうちょう した。売春 ばいしゅん 宿 やど を訪 おとず れ、梅毒 ばいどく に罹 かか った天才 てんさい 的 てき な作曲 さっきょく 家 か レーヴァーキューンは、メフィストフェレス的 てき な登場 とうじょう 人物 じんぶつ と、24年間 ねんかん の作曲 さっきょく 家 か としての輝 かがや かしい成功 せいこう の日々 ひび を得 え るための契約 けいやく をする。彼 かれ は、肉体 にくたい 的 てき な病 やまい が彼 かれ の体 からだ を蝕 むしば んでも、国際 こくさい 的 てき 絶賛 ぜっさん にかなうますます美 うつく しい作品 さくひん を作 つく った。彼 かれ の最後 さいご の傑作 けっさく 『ファウストゥス博士 はかせ の嘆 なげ き』が完成 かんせい したとき、以前 いぜん むすんだ契約 けいやく のことを告白 こくはく する。今 いま や狂気 きょうき と梅毒 ばいどく が彼 かれ を圧倒 あっとう し、1940年 ねん 、最終 さいしゅう 的 てき に彼 かれ が死 し ぬまでゆっくりと侵 おか されていった。レーヴァーキューンの霊的 れいてき 、精神 せいしん 的 てき 、肉体 にくたい 的 てき な崩壊 ほうかい と堕落 だらく は、ドイツでナチス が台頭 たいとう した時分 じぶん に起 お こり、レーヴァーキューンの運命 うんめい はドイツの精神 せいしん を示 しめ している。
スティーブン・ヴィンセント・ベネット (Stephen Vincent Benét ) の短編 たんぺん 「悪魔 あくま の金 きむ ("The Devil and Daniel Webster")」(1937年 ねん 出版 しゅっぱん )はワシントン・アーヴィング 著 ちょ の短編 たんぺん 「悪魔 あくま とトム・ウォーカー」によるファウスト伝説 でんせつ を再 さい 構成 こうせい した。ベネット版 ばん の物語 ものがたり は、ニューハンプシャー の農作 のうさく 人 じん ジャベス・ストーンを中心 ちゅうしん としている。彼 かれ は終 お わりない不運 ふうん に苦 くる しんでおり、スクラッチ氏 し と名乗 なの る悪魔 あくま の接触 せっしょく を受 う ける。その悪魔 あくま は、魂 たましい と引 ひ き換 か えに彼 かれ に七 なな 年間 ねんかん の繁栄 はんえい を提案 ていあん する。最後 さいご には、実在 じつざい の有名 ゆうめい な法律 ほうりつ 家 か であり雄弁 ゆうべん 家 か であるダニエル・ウェブスター が小説 しょうせつ に登場 とうじょう し、地獄 じごく 行 い きを決 き める裁判官 さいばんかん と陪審 ばいしん 員 いん たちの前 まえ でジャベス・ストーンを守 まも ったので、彼 かれ は訴訟 そしょう に勝利 しょうり した。
『ファウスト("Faust ")』 (1866) - エスタニスラオ・デル・キャンポー (Estanislao del Campo ) 著 ちょ
『ファウストゥス博士 はかせ の死 し ("The Death of Doctor Faustus ")』(1925) - ミシェル・デ・ゲルドロード (Michel de Ghelderode ) 著 ちょ
『ファウスト博士 はかせ の明 あか るい灯 あか り("Doctor Faustus Lights the Lights ")』 (1938) - ガートルード・スタイン (Gertrude Stein ) 著 ちょ
『我 わ がファウスト』 (1940) - ポール・ヴァレリー (Paul Valéry ) 著 ちょ
"Faust, a Subjective Tragedy "(1934) - フェルナンド・ペソア (Fernando Pessoa ) 著 ちょ
『メフィスト("Mefisto ")』(1986) - ジョン・バンヴィル (John Banville ) 著 ちょ
『ファウスト("Faust ")』 (2009) - エドガー・ブラウ (Edgar Brau ) 著 ちょ
古典 こてん 的 てき 作品 さくひん 『吸血鬼 きゅうけつき ノスフェラトゥ 』の映画 えいが 監督 かんとく F・W・ムルナウ は、1926年 ねん に公開 こうかい された無声 むせい 映画 えいが 『ファウスト』を撮影 さつえい した。ムルナウの映画 えいが は、当時 とうじ まだ珍 めずら しかった特殊 とくしゅ 効果 こうか を有名 ゆうめい にし、その多 おお くのシーンは今日 きょう いまだ印象 いんしょう 的 てき である。あるシーンでは、メフィストフェレスがある町 まち の上 うえ に聳 そび え立 た ち、黒 くろ い翼 つばさ を風 ふう になびかせると、カエルが疫病 えきびょう をまき散 ち らした。またあるシーンでは、ファウストがメフィストフェレスとともに空 そら を飛 と び、それに合 あ わせてカメラが雪山 ゆきやま や崖 がけ 、滝 たき などの風景 ふうけい に急降下 きゅうこうか していくように撮 と られた。[ 11]
この物語 ものがたり では、ファウストは老 お いた学者 がくしゃ で、疫病 えきびょう に罹 かか った人々 ひとびと に対 たい して無力 むりょく な自分 じぶん に憤 いきどお っている錬金術 れんきんじゅつ 師 し だった。彼 かれ が召還 しょうかん したメフィストフェレスは、その一 いち 日 にち 何 なん の代償 だいしょう も無 む しに力 ちから を試 ため してよい、といってファウストを説得 せっとく し契約 けいやく を結 むす んだ。その日 ひ の最後 さいご に、ファウストは若 わか さを取 と り戻 もど し、メフィストフェレスの助 たす けを借 か りて、結婚 けっこん 披露宴 ひろうえん 中 ちゅう の美 うつく しい女性 じょせい を攫 さら った。それで、ファウストは十分 じゅうぶん に契約 けいやく を永遠 えいえん に延長 えんちょう することに同意 どうい する気 き になった。結局 けっきょく 、彼 かれ は享楽 きょうらく を追求 ついきゅう することに退屈 たいくつ して家 いえ へ帰 かえ り、そこで、美 うつく しく純粋 じゅんすい な女性 じょせい グレートヘンに恋 こい をした。ファウストの堕落 だらく (メフィストフェレス曰 いわ く)は彼 かれ ら二 に 人 にん の生活 せいかつ をついにはめちゃくちゃにしたが、まだ最後 さいご の救済 きゅうさい のチャンスは残 のこ されていた。[ 11]
悪魔 あくま の魂 たましい をうった男 おとこ の昔話 むかしばなし を題材 だいざい とする、メフィストフェレスと天使 てんし がファウストの魂 たましい が地獄 じごく に堕 お ちるか賭 か けをする、メフィストフェレスが疫病 えきびょう をファウストの住 す む小 ちい さな町 まち に広 ひろ める、その治療 ちりょう 法 ほう を見 み つけられないため神 かみ や天使 てんし 、科学 かがく などと縁 えん を切 き りメフィストフェレスを選 えら ぶファウストの顛末 てんまつ などの点 てん でゲーテのファウストと似 に ている。
『悪魔 あくま の美 うつく しさ("La Beauté du diable ")』[ 編集 へんしゅう ]
ルネ・クレール (仏 ふつ :René Clair )監督 かんとく 、1950年 ねん 公開 こうかい の映画 えいが である。ミシェル・シモンがメフィストフェレスと老 ろう 博士 はかせ ファウストを一人 ひとり 二 に 役 やく で演 えん じ、ジェラール・フィリップ がファウストの変身 へんしん する若者 わかもの を演 えん じた。
メキシコのコメディアンチェスピリート (Chespirito ) はこの伝説 でんせつ を題材 だいざい にした短編 たんぺん でファウストを演 えん じ、ラモン・バルデス (Ramon Valdez ) がメフィストフェレスを演 えん じた(彼 かれ は同時 どうじ に悪魔 あくま も演 えん じた)。この版 はん では、メフィストフェレスがファウストに、馬上 もうえ 鞭 むち に似 に ている "Chirrín-Chirrión"という物体 ぶったい を与 あた えた。これにより、物 もの や人 ひと を出現 しゅつげん ・消滅 しょうめつ させたり、若 わか さや老 お いまで獲得 かくとく ・喪失 そうしつ したり出来 でき 、対象 たいしょう の名 な の後 のち に"Chirrín" (出 だ すとき)または"Chirrión"(消 け すとき)という言葉 ことば を言 い うことで使用 しよう する。これを知 し ったファウストは契約 けいやく 書 しょ にサインすることで自身 じしん の魂 たましい を売 う り渡 わた した。ファウストは若 わか さを取 と り戻 もど した後 のち 、魔力 まりょく を使 つか って助手 じょしゅ でフロリンザ・メサ (Florinda Meza ) 演 えん じるマルガリータの心 しん を手 て に入 い れようとした。しかし、幾度 いくど かの失敗 しっぱい と滑稽 こっけい な試行錯誤 しこうさくご の後 のち 、ファウストは彼女 かのじょ に既 すで にボーイフレンドがいることを知 し り、自分 じぶん の魂 たましい を無駄 むだ に売 う ってしまったと気 き づく。ここで、メフィストフェレスはサインされた契約 けいやく 書 しょ を証拠 しょうこ にファウストの魂 たましい を地獄 じごく へ落 お とす為 ため に戻 もど ってきた。ファウストはChirrín-Chirriónを使 つか って契約 けいやく 書 しょ を消滅 しょうめつ させ、メフィストフェレスは泣 な き叫 さけ んだ。
ファウスト伝説 でんせつ は大 おお きく3つのオペラの基 もと となった。
ファウスト伝説 でんせつ は、音楽 おんがく の他 ほか の分野 ぶんや も刺激 しげき してきた。
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