ポリス

ポリス（希まれ: πόλις, 複数ふくすう形がた πόλεις）は、都市とし、都市とし国家こっか、市民しみん権けんまたは市民しみんによる政体せいたいを指さすギリシア語ごである。古代こだいアテナイなど古代こだいギリシアに関かんして使用しようされる場合ばあいは、通常つうじょう都市とし国家こっかと訳やくされる。

語義ごぎの歴史れきし

ポリスとアクロポリスとは

πόλις（ポリス）という語かたりは古典こてんギリシア時代じだいのアルカイック期きには、まず「砦とりで・城砦じょうさい・防御ぼうぎょに適てきした丘おか」を意味いみした。エミール・バンヴェニストはポリスは ἀκρόπολις（アクロポリス）に由来ゆらいするとしている。アクロポリスとは、「小高こだかい丘おか、高たかいところ、城市じょうし、成山なりやま、平地ひらち内ないの孤立こりつした丘おか」を意味いみし、ポリスの中心ちゅうしん部ぶとなる丘おかで、のちギリシア都市とし国家こっかのシンボル的てきな存在そんざいともなった。通常つうじょう、防壁ぼうへきで固かためられた自然しぜんの丘おかに神殿しんでんや砦とりでが築きずかれている。アクロポリスは当初とうしょは対外たいがい的てき軍事ぐんじ拠点きょてんつまり城砦じょうさいであったが、B.C.7世紀せいきにはポリス市民しみん（近代きんだい的てき市民しみん社会しゃかいを構成こうせいするような個人こじんではなく家政かせい機関きかんたる οおみくろんἶκος（オイコス）の長ちょう達たちの共同きょうどう体たい成員せいいん）の信仰しんこうの対象たいしょうともなり、都市とし国家こっかにおける共同きょうどう体たいの絆きずなのシンボルとして神殿しんでんが築きずかれ、ポリスの守護神しゅごじんを祭まつった。

ただし、ギリシア歴史れきし時代じだいにおいてもなお πόλις（ポリス）は「要塞ようさい・城砦じょうさい」を意味いみした。たとえばトゥキディデスは「アクロポリスはアテナイ人じんからいまでもポリスと呼よばれている」と記しるしている。バンヴェニストはこの用法ようほうを、ヴェーダ語ごの対応たいおう語ご pur（砦とりで）やリトアニア語ごの pilis（城しろ、城砦じょうさい）との比較ひかくから、先史せんし的てきな語義ごぎとしている。

のち πόλις（ポリス）は都市としの発展はってんにより、周辺しゅうへん村落そんらくを含ふくむ国家こっかを指さすように変化へんかする。 さらに土地とち所有しょゆう者しゃ間あいだにおける市民しみん権けん概念がいねんの出現しゅつげんにより、市民しみん全体ぜんたい、市民しみん集団しゅうだんを指さすようになった。

古代こだいギリシア時代じだいアルカイック期きには、以下いかのように語義ごぎが変遷へんせんした。

• 城砦じょうさい（アクロポリス）
• 建設けんせつされた都市とし国家こっか
• 都市としの開祖かいそ
• 国家こっか及および市民しみん権けん
• 市民しみん集団しゅうだん
  • 古代こだいギリシア人じんは、アテナイ、スパルタ、テーバイなどのポリスの単位たんいではなく、アテナイ人じん、ラケダイモーン、テーバイ人じんという単位たんいで考かんがえていたともいう。それゆえ「市民しみん集団しゅうだん」という意味いみは、ポリスという語かたりの最もっとも重要じゅうような意味いみとなった。

ポリスとラテン語らてんごとの関係かんけい

πόλις はローマ時代じだいに、市民しみん社会しゃかいを意味いみするラテン語らてんごのキーウィタース（civitas）として翻訳ほんやくされ、自由じゆう都市とし（municipium、今いまでいう地方自治体ちほうじちたい）間あいだでよく使用しようされたといわれる。

バンヴェニストの考証こうしょうによれば、civitas は cives（キーウェース、同胞どうほう市民しみん）の全体ぜんたいまたは集合しゅうごうを表あらわす。しかしながらラテン語らてんごにおけるcivesとcivitasの関係かんけいは、ギリシア語ごのポリス（都市とし）とポリテース（市民しみん）との関係かんけいと正せい反対はんたいになるとしている。

ポリスの社会しゃかい形態けいたい

ポリスの領域りょういきは、アクロポリスと呼よばれる丘おかの頂いただきに作つくられた城塞じょうさいを中心ちゅうしんに置おき、アゴラ（市場いちば・公共こうきょう広場ひろば）、1つ以上いじょうの神殿しんでん及および体育館たいいくかんを備そなえる必要ひつようがあった。

ポリスの市民しみんの多おおくは都市とし郊外こうがいか周辺しゅうへん農村のうそんに住すんでいた。

ギリシア人じんは、ポリスを領土りょうどの分類ぶんるいとは見みなさず、宗教しゅうきょう的てき政治せいじ的てき団体だんたいとも見みなさなかった。ポリスはその都市とし自体じたいを超こえて領土りょうどと植民しょくみん都市としを統御とうぎょしていたのであるから、単たんなる地理ちり的てきな領域りょういきから成立せいりつするものではない。

各かく都市としはいくつかの部族ぶぞくかデモス（区く: 胞族と最終さいしゅう的てきには氏族しぞくで順じゅんに構成こうせいされた）から構成こうせいされた。メトイコイ（在留ざいりゅう外国がいこく人じん）と奴隷どれいは、このような組織そしきには入はいっていなかった。市民しみん権けんは生うまれにより通常つうじょう決定けっていされた。各かくポリスは崇拝すうはいする守護神しゅごじん、特有とくゆうの祭儀さいぎ及および習慣しゅうかんを持もっていた。

小しょうアジア以東いとうでは、アレクサンドロス大王だいおうによるヘレニズム化かの主要しゅような装置そうちがポリスであった。彼かれはギリシア化かの影響えいきょうの中心ちゅうしんとなるよう運命うんめいづけた70を下くだらない都市としを建設けんせつしたと言いわれている。そして、これらの大だい多数たすうが都市とし生活せいかつが知しられていなかった土地とちにあった。彼かれの例れいは彼かれの後継こうけい者しゃであるディアドコイによって見習みならわれた。

ポリスはしばしば3種しゅの住民じゅうみんに分割ぶんかつされていた。最初さいしょの最高さいこうの階級かいきゅうは、参政さんせい権けんを所持しょじしている市民しみんである。次つぎに、参政さんせい権けんのない市民しみん、最後さいごに非ひ市民しみんがいた。武具ぶぐは自費じひで揃そろえるため貴族きぞくが国防こくぼうの主力しゅりょくであり、前ぜん7世紀せいきまでには貴族きぞくが政権せいけんを握にぎる仕組しくみが出来上できあがった。奴隷どれいには借財しゃくざいにより市民しみんから転落てんらくした人ひともいた。奴隷どれい制度せいどはアテナイでもっとも発達はったつし、個人こじん所有しょゆうが普通ふつうであった。

英語えいごcity-stateとの関係かんけい

英語えいごにおける city-state（都市とし国家こっか）という単語たんごは、ドイツ語ごの Stadtstaat と並ならんで、ギリシア語ごの単語たんごの完全かんぜんな翻訳ほんやくではない。なぜなら、ポリスとはティルスやシドンのように王制おうせい又または小ちいさい寡頭制せいによって統治とうちされた他ほかの原始げんし古代こだいの都市とし国家こっかとは異ことなり、むしろ市民しみん集団しゅうだんによって統治とうちされた国家こっかに似にていたからである。

ポリスを語源ごげんとした語かたりはヨーロッパの諸しょ言語げんごに広範囲こうはんいに見みられる。コズモポリス、メガロポリス、テクノポリスなど。また、police（警察けいさつ）・policy（政策せいさく）・politics（政治せいじ）などの語源ごげんでもある。

考古学こうこがくからのアプローチ

従来じゅうらい、遺跡いせきでの都市とし化かの出現しゅつげんが、ポリスの発展はってんのための十分じゅうぶんな指標しひょうとして解釈かいしゃくできるとされてきたが、フランソワ・ポリニャックらによって考古こうこ学者がくしゃの伝統でんとう的てきな見解けんかいは批判ひはんされ、現在げんざいは採用さいようされていない。例たとえばスパルタのポリスは、村むらのネットワークに設立せつりつされた。

参考さんこう文献ぶんけん

• Hansen, Mogens Herman (2006) (paperback). Polis : an introduction to the ancient Greek city-state. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-920850-6. OCLC 613358813 
• エミール・バンヴェニスト 著ちょ、前田まえだ耕作こうさく 編へん『インド＝ヨーロッパ諸しょ制度せいど語彙ごい集しゅう』 全ぜん2巻かん、言叢社げんそうしゃ、1986, 1987。http://gensousha.sakura.ne.jp/hyo-ko/ind-eur.html。 
  • Benveniste, Emile 著ちょ、蔵持くらもち不ふ三也みつや、檜ひのき枝えだ陽一郎よういちろう、鶴岡つるおか真弓まゆみ、渋谷しぶや利雄としお、田口たぐち良司りょうじ、中村なかむら忠男ただお 訳やく「都市としと共同きょうどう体たい（原著げんちょ第だい三さん巻かん第だい六ろく章しょう）」、前田まえだ耕作こうさく 編へん『インド=ヨーロッパ諸しょ制度せいど語彙ごい集しゅう I: 経済けいざい・親族しんぞく・社会しゃかい』 1巻かん、言叢社げんそうしゃ、1986年ねん5月がつ25日にち、354–364頁ぺーじ。ISBN 4-905913-24-1。OCLC 1006961647。 
  • Benveniste, Emile 著ちょ、蔵持くらもち不ふ三也みつや、枝えだ陽一郎よういちろう、鶴岡つるおか真弓まゆみ、、渋谷しぶや利雄としお、田口たぐち良司りょうじ、中村なかむら忠男ただお、松枝まつえだ 到いた、マツエダイタル 訳やく、前田まえだ耕作こうさく【監修かんしゅう】、安永やすなが寿ひさし延のべ【解説かいせつ】、ロラン・バルト【解説かいせつ】 編へん『インド=ヨーロッパ諸しょ制度せいど語彙ごい集しゅう Ⅱ: 王権おうけん・法ほう・宗教しゅうきょう』 2巻かん、言叢社げんそうしゃ、1987年ねん3月がつ15日にち。ISBN 4-905913-26-8。OCLC 1006961647。 

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関連かんれん項目こうもく

• 古代こだいギリシア