マチュ・ピチュ

マチュ・ピチュ遺跡いせき（2009年ねん）

マチュ・ピチュ

マチュ・ピチュの位置いち

マチュ・ピチュ（スペイン語ご：Machu Picchu、ケチュア語ご：Machu Pikchu）は、15世紀せいきのインカ帝国ていこくの遺跡いせきで、アンデス山脈あんですさんみゃくに属ぞくするペルーのウルバンバ谷だにに沿そった山やまの尾根おね（標高ひょうこう2,430m）にある。

当時とうじ、インカ帝国ていこくの首都しゅとは、標高ひょうこう3,400mに位置いちするクスコに所在しょざいした。標高ひょうこう2,430mのマチュ・ピチュから、さらに約やく1,000メートル高たかい場所ばしょにあった。現在げんざいのクスコはペルー有数ゆうすうの都市としで、1983年ねんより、その市街地しがいちは世界せかい遺産いさん（文化ぶんか遺産いさん）に登録とうろくされている。

なお、インカ帝国ていこくは1533年ねんにスペイン人じんによる征服せいふくにより滅亡めつぼうした。アンデス文明ぶんめいは文字もじを持もたないため、マチュ・ピチュの遺跡いせきが何なにのために作つくられたのか、首都しゅとクスコとの関係かんけい・役割やくわり分担ぶんたんなどの理由りゆうはまだ明確めいかくには分わかっていない。

概要がいよう

多おおくの言語げんごで「Machu Picchu」と呼よばれるこの遺跡いせき名めいは、「老おいた峰みね（Old Peak）」を意味いみするケチュア語ご「machu pikchu」を地名ちめい化かしたものの転写てんしゃである。山裾やますそからは遺跡いせきの存在そんざいは確認かくにんできないことから、しばしば「空中くうちゅう都市とし」「空中くうちゅうの楼閣ろうかく」「インカの失うしなわれた都市とし」などと雅称がしょうされる。一方いっぽう、遺跡いせきの背後はいごに見みえる尖とがった山やまはワイナ・ピチュ（Huayna Picchu、若わかい峰みね）で、標高ひょうこう2720ｍ。山頂さんちょうには神官しんかんの住居じゅうきょ跡あととみられる遺跡いせきがあり、山腹さんぷくにはマチュ・ピチュの太陽たいようの神殿しんでんに対たいする月つきの神殿しんでんが存在そんざいする。

この遺跡いせきには3mずつ上あがる段々畑だんだんばたけが40段だんあり、3,000段だんの階段かいだんでつながっている。遺跡いせきの面積めんせきは約やく13km²で、石いしの建物たてものの総数そうすうは約やく200戸こが数かぞえられる。

熱帯ねったい山岳さんがく樹林じゅりん帯たいの中央ちゅうおうにあり、植物しょくぶつは多様たよう性せいに富とんでいる。南緯なんい13度どで、10月から翌年よくねん4月がつまでの長ながい雨季うきと5月がつから9月がつまでの短みじかい乾季かんきに分わかれる。行政ぎょうせい上じょうクスコ県けんに属ぞくしており、クスコの北西ほくせい約やく70kmに位置いちする。2015年ねんの第だい39回かい世界せかい遺産いさん委員いいん会かい終了しゅうりょう時点じてんでペルー国内こくないに12件けんあるユネスコの世界せかい遺産いさんのうちでは、クスコとともに最初さいしょ（1983年ねん）に登録とうろくされた。

詳細しょうさいは「マチュ・ピチュの歴史れきし保護ほご区く」を参照さんしょう

周辺しゅうへん地域ちいきはアンデス文明ぶんめいが発達はったつしていたが文字もじを持もたないため、未いまだに解明かいめいされていない多おおくの謎なぞを持もつ。2007年ねん7月がつ、新しん・世界せかい七不思議ななふしぎの1つに選えらばれた。

ハイラム・ビンガム3世せいの遺跡いせき調査ちょうさ記録きろく

発見はっけんされた翌年よくねんの1912年ねんに撮影さつえいされたマチュ・ピチュ

滞在たいざい中ちゅうのハイラム・ビンガム3世せい

アメリカの探検たんけん家かハイラム・ビンガム3世せいは、1911年ねん7月がつ24日にちにこの地域ちいきの古ふるいインカ時代じだいの道路どうろを探検たんけんしていた時とき、山やまの上うえに遺跡いせきを調査ちょうさして世界せかいに発表はっぴょうした。

ビンガムは1915年ねんまでに3回かいの発掘はっくつを行おこなった。彼かれはマチュ・ピチュについて一連いちれんの書籍しょせきや論文ろんぶんを発表はっぴょうし、最もっとも有名ゆうめいな解説かいせつ「失うしなわれたインカの都市とし」がベスト・セラーになった。この本ほんは『ナショナル・ジオグラフィック』1913年ねん4月がつ号ごうですべてをマチュ・ピチュ特集とくしゅうにしたことで有名ゆうめいになった。また1930年ねんの著書ちょしょ『マチュ・ピチュ：インカの要塞ようさい』は廃墟はいきょの写真しゃしんと地図ちずが記載きさいされ説得せっとく力りょくのある決定的けっていてきな論文ろんぶんとなった。以後いご、太陽たいようを崇あがめる神官しんかんたちが統治とうちしたとか、あるいは太陽たいように処女しょじょたちが生贄いけにえにされたといった定説ていせつが形成けいせいされた。

マチュ・ピチュとはビンガムがその名前なまえで世界せかいに紹介しょうかいしただけで、間違まちがえて広ひろまってしまったという説せつがある。ビンガムが地元民じもとみんに遺跡いせきの名前なまえを尋たずねたところ、地元民じもとみんは今いま立たっている山やまの名前なまえを聞きかれたと思おもってマチュ・ピチュと答こたえたことで遺跡いせきの名前なまえがマチュ・ピチュであると間違まちがって伝つたわった、という説せつである。クスコの農場のうじょう主ぬしアグスティン・リサラガが、ビンガムより9年ねん早はやい1902年ねん7月がつ14日にちに遺跡いせきの存在そんざいを確認かくにんしており、ビンガムがまだペルーに到着とうちゃくしていなかった1904年ねんの地図ちず帳ちょうには、ワイナピチュという地名ちめいでインカの遺跡いせきがあることがすでに記載きさいされていた。1912年ねんにビンガムが地元じもとの地主じぬしの関係かんけい者しゃから遺跡いせきがワイナピチュと呼よばれていることを伝つたえられていたという話はなしもある。16世紀せいき後半こうはんの古文書こもんじょにワイナピチュと呼よんでいた遺跡いせきを地元じもとの先住民せんじゅうみんが再さい開発かいはつしようとしていたという記録きろくも残のこっている。ビンガムは、発見はっけん者しゃではなく、既すでに地元じもとでは存在そんざいが知しられていた遺跡いせきを確認かくにんして、最初さいしょに学術がくじゅつ調査ちょうさをしただけである。

ビンガムはイェール大学だいがくの教職きょうしょくを辞じしてからコネチカット州しゅうの副ふく知事ちじ、知事ちじを経へて上院じょういん議員ぎいんになったが、彼かれのインカ調査ちょうさへの影響えいきょう力りょくは死後しご40年ねん近ちかくも残のこっていた。それは1つに彼かれの情熱じょうねつ的てきな文章ぶんしょうのせいであった。

人口じんこうは最大さいだいでも750名めい

この都市としは通常つうじょうの都市としではなく、インカの王族おうぞくや貴族きぞくのための避暑ひしょ地ちとしての冬ふゆの都と（離宮りきゅう）や、田舎いなかの別荘べっそうといった種類しゅるいのものであった。

遺跡いせきには大おおきな宮殿きゅうでんや寺院じいんが王宮おうきゅうの周囲しゅういにあり、そこでの生活せいかつを支ささえる職員しょくいんの住居じゅうきょもある。マチュ・ピチュには最大さいだいでも一時いちじに約やく750名めいの住民じゅうみんしかいなかったと推定すいていされ、雨季うきや王族おうぞくが不在ふざいの時ときの住民じゅうみんは、ほんの一いち握にぎりであったと推定すいていされている。

この都市としはインカの王おうパチャクティ（Pachacuti）の時代じだいの1440年ねん頃ころに建設けんせつが着手ちゃくしゅされ、1533年ねんにスペイン人じんにより征服せいふくされるまでの約やく80年間ねんかん、人々ひとびとの生活せいかつが続つづいていた。

建造けんぞうから500年ねんを経へてなお健在けんざいな急斜面きゅうしゃめんの石積いしつみ

ペルーの考古こうこ学者がくしゃアルフレド・バレンシア・セガーラ （Dr. Alfredo Valencia Zegarra）とコロンビアの水利すいり技術ぎじゅつ者しゃケネス・ライト（Kenneth Wright）による調査ちょうさでは、この都市としの建設けんせつに要ようした努力どりょくの60%は急きゅう傾斜けいしゃの城壁じょうへきの見みえない土台どだいなどの部分ぶぶんに傾注けいちゅうされており、降雨こうう量りょうの多おおいこの地ちで、積つみ上あげられた石積いしつみが500年ねんもの間あいだ崩くずれないのは、農耕のうこうのためだけに斜面しゃめんを整地せいちしたのではなかった。渓谷けいこくから細こまかい砂すなと表土ひょうどを運はこび上あげ、現在げんざい見みえる石積いしつみの下したに、うね状じょうに盛もり上あげた表層ひょうそうを造つくったとしている。

神かみをまつる神殿しんでんとしての役割やくわり

月つきの神殿しんでん

段々畑だんだんばたけ

なぜこのような急峻きゅうしゅんな山やまの上うえに造つくったかという質問しつもんに対たいして、ラファイエット単科大学たんかだいがくのナイルズ（Dr.Niles of Lafayette College）は、「パチャクチがこの場所ばしょを選えらんだのは……圧倒あっとうする景色けしきとしか答こたえようがありません」と言いう。

イェール大学だいがくの近年きんねんの研究けんきゅう成果せいかでは、高地こうちであり、かつ両側りょうがわが切きり立たった崖がけ上じょうになっているため、太陽たいよう観測かんそくに最もっとも適てきし、かつ宗教しゅうきょう的てき理念りねんとして、太陽たいように近ちかいところである、という点てんが場所ばしょ選定せんていの理由りゆうとして挙あげられている。

急斜面きゅうしゃめんに位置いちしたマチュピチュの頂上ちょうじょうには、太陽たいようの神殿しんでんがあり、頂上ちょうじょうにはインティワタナ（Intihuatana、太陽たいようをつなぎ止とめる石いし）が設置せっちされている。夏至げしと冬至とうじが正確せいかくに分わかる窓まどがあるなど、太陽たいようを使つかった暦こよみを観測かんそく、作成さくせいしたとも言いわれている。

インカの神かみは日本にっぽんやエジプトと同おなじく太陽たいよう神しんであるため、太陽たいようにより近ちかい山やまの頂いただき(いただき)は儀礼ぎれい場じょうとして適当てきとうだった。 神殿しんでんの畑はたけなど耕作こうさく地ちで栽培さいばいされた農作物のうさくもつは神かみへの供物くもつとして栽培さいばいされていたか、神かみが人間にんげんに下賜かしされたものとして人々ひとびとに食たべられたか、いずれにしても宗教しゅうきょう儀礼ぎれい的てき意味いみが色濃いろこく反映はんえいされている。そのようないきさつから、現在げんざい、マチュピチュは宗教しゅうきょう都市としとして捉とらえられている。

なおインカの人々ひとびとにとっての神かみは、太陽たいようとともに月つきも挙あげられ、多おおくの遺跡いせきには太陽たいよう神殿しんでんと月つきの神殿しんでんが対たいで祀まつられている。マチュ・ピチュの太陽たいよう神殿しんでんに対たいしては、ワイナ・ピチュ（「若わかい峰みね」という意味いみで、マチュ・ピチュの背後はいごにある尖とがった山やま）の裏手うらてに、月つきの神殿しんでんが洞窟どうくつに作つくられている。

マチュピチュ遺跡いせき内ないにはインカのシンボルでもあるコンドルの神殿しんでんがありワイナ・ピチュ側がわからマチュピチュ遺跡いせきを見下みおろすとコンドルの形かたちに見みえる。

国際こくさい関係かんけい

日本にっぽん

2015年ねん12月26日にち、福島ふくしま県けん安達あだち郡ぐん大玉いかだま村むらがマチュピチュ村むらにとって初はつの友好ゆうこう都市とし協定きょうてい締結ていけつ。かつて村長そんちょうを務つとめ、マチュピチュの発展はってんに尽力じんりょくした野内やない与吉よきちが大玉いかだま村むら出身しゅっしんであることによる。マチュピチュ遺跡いせきが世界せかい文化ぶんか遺産いさんに登録とうろくされた当初とうしょは世界せかい各国かっこくから友好ゆうこう都市とし協定きょうていへの打診だしんを受うけていたが、野内やない与吉よきちへの大だい恩おんもあり、マチュピチュ村むら側がわから大玉いかだま村むらへ締結ていけつの打診だしんをし、お互たがいの交友こうゆうを重かさねた後のちに締結ていけつした。

2020年ねん12月1日にち、マチュピチュ村役場むらやくばが令れい和わ2年度ねんど外務がいむ大臣だいじん表彰ひょうしょうを受賞じゅしょう。

パノラマ

Up-close view of Incan ruins on Machu Picchu

参考さんこう文献ぶんけん

• "Lost City" Yielding Its Secrets　2003年ねん3月がつ18日にち付づけ New York Times記事きじ
• 高野たかの潤じゅん『カラー版ばん マチュピチュ―天空てんくうの聖きよし殿どの』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ〈中公新書ちゅうこうしんしょ〉、2009年ねん7月がつ。ISBN 4-12-102012-X。 USBN-13 978-4-12-102012-3。

関連かんれん項目こうもく

• 野内やない与吉よきち - マチュピチュ観光かんこうの拠点きょてんとなるマチュピチュ村むらの事実じじつ上じょう初代しょだい村長そんちょう。
• 別べつ子こ銅山どうざん - 東洋とうようのマチュピチュと呼よばれている
• 竹田たけだ城しろ - 日本にっぽんのマチュピチュと呼よばれている
• 新田にった金山かなやま城じょう - 関東かんとうのマチュピチュと呼よばれている
• 天空てんくうの城しろ#南なんアメリカ
• ワイナ・ピチュ - マチュ・ピチュの背後はいごにある峰みね
• シウダー・ペルディダ - コロンビアのマチュピチュと呼よばれる。マチュピチュより650年ねん前まえに築きずかれた古代こだい都市とし遺跡いせき

外部がいぶリンク

• Historic Sanctuary of Machu Picchu
• Historic Sanctuary of Machu Picch - UNESCO World Heritage Center
• マチュ・ピチュ | ペルーの考古こうこ遺跡いせき