2001年1月15日、利用者の合意でルールが決定することを意図して、ほとんど方針を持たずにウィキペディアは発足した[2][3]。「ルールすべてを無視しなさい」は、ウィキペディアの共同設立者であるラリー・サンガーが「rules to consider page」のページで提案し[3]、ウィキペディアにおける最初の公式ガイドラインの一つとなった[4][5][6]。サンガーは後に、「人々は、寄稿を始める前から書式を正しくしたり、方針の細部までを把握したりすることを憂慮するべきではない」ことを伝えることを意図しての発言であったとしている[5]。この規則を「一時的で、且つ、ユーモアのある禁止事項」として考えたが[3]、後のプロジェクトであるCitizendiumにおいて、「他の人々が真剣に受け止めている」ことを受けて、この規則を拒否している[5]。
元々のルールの原型は
If rules make you nervous and depressed, and not desirous of participation in the Wiki, then ignore them and go about your business.[7][8]
(意訳: もしもルールがあなたを不安にさせたり、気持ちを沈ませたりしたりして、Wikiへの参加を希望しなくなるのであれば、それらを無視して、あなたの仕事に取り組みなさい。)
というものであった。現在では、
If a rule prevents you from improving or maintaining Wikipedia, ignore it.[1]
(意訳: もしもあなたがウィキペディアの維持や向上に努めるにあたってルールが邪魔するのであれば、それらは無視しなさい)
英語版ウィキペディアの私論en:Wikipedia:What "Ignore all rules" means(「ルールすべてを無視しなさい」が意味するもの)は、「ルールすべてを無視しなさい」の範囲に関して明示している[11]。曰く、この方針は如何なる行動や、利用者が自身の編集に責任を持つことを妨げるものを正当化するものではない。しかし、その方針は人々が個人的な判断をすることを奨励し、初心者が全ての方針やガイドラインを完全に意識せずに投稿することを可能にしている[12]。
2012年にAmerican Behavioral Scientist(英語版)が、英語版ウィキペディアの削除プロセスであるen:Wikipedia:Articles for deletion(削除依頼、AfD)を分析した研究がある。英語版ウィキペディアの編集者が「ルールすべてを無視しなさい」を引用して存続票を投じた場合にはページは存続される可能性が高く、編集者が「ルールすべてを無視しなさい」を引用して削除票を投じた際には削除される可能性が高くなることがわかった。また、AfDが「ルールすべてを無視しなさい」とen:Wikipedia:Notability(独立記事作成の目安)の両方に言及する存続票をコメントに含んでいた場合には、記事が維持される可能性が高いこともわかった。これは、削除票には当てはまらず、管理者が「ルールすべてを無視しなさい」に言及して削除を支持した場合には、記事自体は存続される可能性が高かった。この研究は、方針が「個人の効力を強化して、官僚制の効力を下げる」ことによって作用するとして結論づけている[9]。
ジョゼフ・M・リーグル・ジュニアの2010年の著書『Good Faith Collaboration』では、「ルールすべてを無視しなさい」は「賢い」とされ、メリットの本質を持っているものの、私論en:Wikipedia:What "Ignore all rules" means(「ルールすべてを無視しなさい」が意味するもの)に見られるような「資格を要することに違いない」としている[12]。McGradyは、英語版ウィキペディアのen:Gaming the systemのガイドラインは「ルールすべてを無視しなさい」よりもウィキペディアの精神を伝えるのに適していると提案している。このガイドラインは、利用者がウィキペディアの方針を意図的に誤解することで、ウィキペディアの意図を損ねることを禁止しており、その行為を「ゲーミング」と呼んでいる。McGradyは、「ルールすべてを無視しなさい」は「あまりにも抽象的で、あまりにも頻繁に誤解を受けたり、誤用されたりしているため、それ自体が『ゲーミング』の対象になる」と批判している[15]。
2015年の著書『Wikipedia and the Politics of Openness』で、 Nathaniel Tkacz(英語版)は、方針であるにもかかわらず、「投稿者が自分の貢献を受け入れてもらいたいのであれば、ウィキペディアのルールを無視することは効果的な戦略ではない」としている。Tkaczは、「ウィキペディアは確固たるルールがある」とした一方で、しかし、それらは「いつも固定されているものではない」としている[16]。
^ abAyer, Phoebe; Matthews, Charles; Yates, Ben (2008). How Wikipedia Works: And How You Can Be a Part of It. No Starch Press. pp. 46–47, 448–51. ISBN978-1-59327-176-3
^ abJoyce, Elizabeth; Pike, Jacqueline C.; Butler, Brian S. (December 26, 2012). “Rules and Roles vs. Consensus: Self-Governed Deliberative Mass Collaboration Bureaucracies”. American Behavioral Scientist57 (5): 576–594. doi:10.1177/0002764212469366.
^Aaltonen, Aleksi; Lanzara, Giovan Francesco (2015). “Building Governance Capability in Online Social Production: Insights from Wikipedia”. Organization Studies36 (12): 1649–1673. doi:10.1177/0170840615584459.
^Butler, Brian; Joyce, Elisabeth; Pike, Jacqueline (2008). “Don't look now, but we've created a bureaucracy”. Proceedings of the Twenty-sixth Annual CHI Conference on Human Factors in Computing Systems – CHI 08: 1101. doi:10.1145/1357054.1357227. ISBN978-1-60558-011-1.