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ムペンバ効果こうか

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ムペンバ効果こうか(ムペンバこうか、えい: Mpemba effect)は、特定とくてい状況じょうきょうでは高温こうおんみずほう低温ていおんみずよりも短時間たんじかんこおることがあるという物理ぶつりがくうえ主張しゅちょうである。かなら短時間たんじかんこおるわけではないとされている。

1963ねんに、タンザニア中学生ちゅうがくせいエラスト・B・ムペンバ英語えいごばん (Erasto B. Mpemba) が発見はっけんしたとされる[1]が、ふるくはアリストテレス[2]フランシス・ベーコン[3]ルネ・デカルト[4]など近世きんせい科学かがくしゃすで発見はっけんしていた可能かのうせいがある。

科学かがく雑誌ざっしニュー・サイエンティスト[5]はこの現象げんしょう確認かくにんしたい場合ばあい効果こうか最大さいだいされるよう摂氏せっし35みず摂氏せっし5みず実験じっけんおこなうことを推奨すいしょうしている[6]

2020ねん8がつ5にち刊行かんこう科学かがく雑誌ざっしネイチャー」にて発表はっぴょうされたサイモンフレーザー大学だいがく物理ぶつり学者がくしゃ、アビナッシュ・クマールとジョン・ベックホーファーの研究けんきゅうにより、ムペンバ効果こうか条件じょうけん一部いちぶ解明かいめいされた[7]

経緯けいい

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ムペンバ効果こうかは、タンザニア中学生ちゅうがくせいエラスト・B・ムペンバ(Erasto B. Mpemba)が発見はっけんしたとされる。ムペンバは、マガンバ中学校ちゅうがっこうの3ねん当時とうじ1963ねんに、調理ちょうり実習じっしゅうちゅうアイスクリームミックスあついままこおらせたところましてからこおらせたものよりもさきこお現象げんしょう発見はっけんした。その、ムペンバはイリンガのムカワ高校こうこう進学しんがくした。ムカワ高校こうこうでは校長こうちょうダルエスサラーム大学だいがく科学かがく部長ぶちょうだったデニス・オズボーン英語えいごばんまねき、物理ぶつりがくかんする講演こうえんおこなわれた。当初とうしょ、オズボーンは半信半疑はんしんはんぎだったもののムペンバの発見はっけん検証けんしょうし、ムペンバとともに1969ねん研究けんきゅう結果けっか発表はっぴょうした[8][9]。なおムペンバは2008ねん現在げんざい国際こくさい連合れんごう食糧しょくりょう農業のうぎょう機関きかん (FAO) の「アフリカ森林しんりんおよび野生やせい動物どうぶつ委員いいんかい」ではたらいていたが、2023ねん5がつ14にち逝去せいきょ[10]

前史ぜんし

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古代こだいアリストテレス[2]フランシス・ベーコン[3]ルネ・デカルト[4]など近世きんせい科学かがくしゃ気付きづいていた可能かのうせいがある。アリストテレスはかれアンチペリスタシス英語えいごばんんだ「ある性質せいしつ強度きょうどは、相反あいはんする性質せいしつかこまれた結果けっかとして増強ぞうきょうされうる」という (あやまった) 特性とくせいによるものとした。

21世紀せいき初頭しょとう現在げんざいとらえられかた

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科学かがくライターのフィリップ・ボールは、2006ねん雑誌ざっしフィジックス・ワールド英語えいごばん寄稿きこうした記事きじちゅうで「問題もんだいは、この現象げんしょう効率こうりつよく再現さいげんするのが非常ひじょうむずかしいことにある。現象げんしょうあらわれることもあるし、あらわれないこともある。そして、もしムペンバ効果こうか真実しんじつである、すなわち高温こうおんみず低温ていおんみずよりもはや凍結とうけつするとしても、現象げんしょう解釈かいしゃくがありきたりなものになるか素晴すばらしい発見はっけんとなるかはあきらかではない」とした[11]

原因げんいん

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ムペンバ効果こうかこる環境かんきょうではさまざまな要素ようそかかわっているものとかんがえられる。

  • 凍結とうけつ定義ていぎ - 「凍結とうけつ」をみず表面ひょうめんこおりそう確認かくにんできた段階だんかいとするのか(表面ひょうめん凍結とうけつ)、完全かんぜんこおりかたまりとなった段階だんかい(全体ぜんたい凍結とうけつ)とするのか。
なお実験じっけんによっては、凍結とうけつ冷却れいきゃく実験じっけん対象たいしょうから除外じょがいし、ぜん段階だんかい温度おんど変化へんか温度おんど勾配こうばいまとしぼっているケースもある。その場合ばあいは、氷点下ひょうてんか到達とうたつ凍結とうけつ開始かいし測定そくてい終了しゅうりょう目安めやすにしている。
  • 実験じっけん設定せってい
    • 実験じっけん素材そざい - アイスクリーム素材そざい水道すいどうすいじゅんみず(蒸留じょうりゅうすい、イオン交換こうかん樹脂じゅし処理しょりすいひとし)、etc. その: だつ処理しょり有無うむ
    • 冷却れいきゃく方法ほうほう - ちょくひやしき冷凍庫れいとうこ(底面ていめん冷却れいきゃく)、ファンしき冷凍庫れいとうこ(上面うわつら冷却れいきゃく)、低温ていおんしつ氷点下ひょうてんか野外やがい(→発見はっけん前史ぜんし)、etc.
  • 冷却れいきゃく効率こうりつ
    • 蒸発じょうはつ - 蒸発じょうはつは吸熱反応はんのうである(みず蒸発じょうはつねつ: 45.2 kJ/mol (0℃,1atm))。またぶたのない容器ようきでは、蒸発じょうはつによりみず分量ぶんりょう[12]
      有力ゆうりょくせつだが、これだけで現象げんしょう全体ぜんたい説明せつめいするのはむずかしい[13]
    • 対流たいりゅう - ねつ輸送ゆそう促進そくしんされた。みず摂氏せっし4以下いか密度みつど減少げんしょうし、(上面うわつら冷却れいきゃくで)下部かぶ冷却れいきゃくにな対流たいりゅう抑制よくせいされる。一方いっぽう、より密度みつどひく高温こうおんみずでは、この抑制よくせいこりにくいとかんがえられるので、初期しょき急速きゅうそく冷却れいきゃくがそのまま持続じぞくするだろう。訳注やくちゅう: (英語えいごばんもとづき初版しょはん翻訳ほんやく手直てなおし)[14] また対流たいりゅう相違そういにより、過渡かとてき温度おんど勾配こうばい温度おんど分布ぶんぷ相違そういしょうじるてん見逃みのがせない。(→ 複雑ふくざつけい問題もんだい)
    • しも - オリジナル実験じっけん当時とうじ一般いっぱんてきだったちょくひやしき冷凍庫れいとうこは、底面ていめん冷却れいきゃくしも発生はっせいしやすく、これが底面ていめん断熱だんねつざいとして機能きのうした。高温こうおんみずくらないれると、底面ていめんしもけて冷却れいきゃく効率こうりつ改善かいぜんされ、したがわおよびよこからこおりやすい。これにたい低温ていおんみず上側うわがわからこおりやすく、全体ぜんたい凍結とうけつ過程かていでは 上面うわつらからの放射ほうしゃ空気くうき対流たいりゅうさまたげられて冷却れいきゃく効率こうりつ低下ていかする。
  • 凍結とうけつプロセス - 均一きんいつかく生成せいせい
    • 凍結とうけつ開始かいし偶発ぐうはつせい - 通常つうじょう実験じっけん環境かんきょうでバルクのじゅんみずは、下限かげんやく-10℃前後ぜんこう冷却れいきゃく状態じょうたいから偶発ぐうはつてき急速きゅうそく凍結とうけつするため、凍結とうけつ開始かいし時間じかん統計とうけいてきなばらつきがしょうじる。ばらつきが0℃までの冷却れいきゃく時間じかん比較ひかくして充分じゅうぶんおおきい場合ばあいみず凍結とうけつ時間じかん逆転ぎゃくてん現象げんしょうこりうる。この偶発ぐうはつせいは、なんらかの外部がいぶ擾乱じょうらん(物理ぶつりてき刺激しげき)をきっかけに界面かいめん容器ようき表面ひょうめん発生はっせいする均一きんいつかく生成せいせい原因げんいん推測すいそくされる。
      (このせつ経験けいけんうらづけられた示唆しさ指摘してきだが、その反面はんめん 現象げんしょう本質ほんしつである凍結とうけつ現象げんしょう解明かいめいとおざける可能かのうせいもあるので注意ちゅういようする。)
    • 冷却れいきゃく - 仮説かせつとして、低温ていおんみず高温こうおんみず比較ひかくして冷却れいきゃくふかくなりやすく、高温こうおんみずよりこおりにくいとかんがえられる[15][16]
      • 仮説かせつ解釈かいしゃく - 対流たいりゅうこう説明せつめいもとづいて、この仮説かせつ解釈かいしゃくこころみる。低温ていおんみずは、安定あんていした垂直すいちょく温度おんど分布ぶんぷ形成けいせい対流たいりゅう抑制よくせいされるため、全体ぜんたいてき冷却れいきゃくしずかに進行しんこうする。高温こうおんみずは、不安定ふあんてい垂直すいちょく温度おんど分布ぶんぷ形成けいせいし、ある程度ていど対流たいりゅう持続じぞくするとかんがえられ(「対流たいりゅう参照さんしょう)、物理ぶつり運動うんどうゆらどうこおりあきら発生はっせいしやすい。かりに、極端きょくたん温度おんどムラとしてバルクの冷却れいきゃく発生はっせいすると、そのなかこおりあきら部分ぶぶん凍結とうけつへと成長せいちょうするというシナリオがかんがえられる。
      • 仮説かせつ背景はいけい
        上記じょうきのマクロな現象げんしょうとしての解釈かいしゃくほか潜在せんざいてきに、よりミクロな問題もんだい水素すいそ結合けつごうでつながった水分すいぶん構造こうぞう[17]関与かんよしている可能かのうせいもある。(→ 先端せんたん科学かがく観点かんてん)
      • 不純物ふじゅんぶつ影響えいきょう - 均一きんいつかく生成せいせい
        水中すいちゅうこおりあきらかくとなる不純物ふじゅんぶつおおいと凍結とうけつ促進そくしんされるため、冷却れいきゃくはあまり重要じゅうようでなくなる。ただし高温こうおんみず加熱かねつ不純物ふじゅんぶつ析出せきしゅつすると(水中すいちゅう不純物ふじゅんぶつ減少げんしょうにより)、上記じょうき仮説かせつ成立せいりつする[18] (→次項じこう参照さんしょう)。
  • 不純物ふじゅんぶつ影響えいきょう - 凝固ぎょうこてん降下こうか均一きんいつかく生成せいせい
    • 溶質ようしつ - 炭酸たんさんカルシウム炭酸たんさんマグネシウムそのによるもの[18]
      じゅんみずではなく硬水こうすい使つかった場合ばあい煮沸しゃふつにより煮沸しゃふつ容器ようき表面ひょうめん無機むきしお析出せきしゅつして軟水なんすいとなる。低温ていおんみず煮沸しゃふつしないと硬水こうすいのままなので、全体ぜんたい凍結とうけつ過程かてい無機むきしお濃縮のうしゅくしょうじ、凝固ぎょうこてん降下こうかによりこおりにくくなる。
    • 溶存ようぞん気体きたい - 高温こうおんみず低温ていおんみず比較ひかくして、溶存ようぞん気体きたい溶解ようかいひくいので溶存ようぞん濃度のうどひくい。ただしゆたか溶解ようかい低下ていか微小びしょう気泡きほうしょうじ、これが氷点下ひょうてんかまで維持いじされると、界面かいめんせき増加ぞうか寄与きよして凍結とうけつしやすくなる。

複雑ふくざつけい問題もんだい (マクロ視点してん)

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冷却れいきゃく過程かていにあるみず状態じょうたい温度おんどという単一たんいつのパラメーターで記述きじゅつしてよいかどうか、という問題もんだい存在そんざいする。より正確せいかく記述きじゅつのためにはみずにおける温度おんど分布ぶんぷかんがえる必要ひつようがある。モンウェア・ジェン (Monwhea Jeng) はこの問題もんだいかんして「解析かいせき大変たいへん複雑ふくざつになる。なぜなら我々われわれ温度おんどという単一たんいつのパラメーターではなく温度おんどかんがえることになり、さらに解析かいせき必要ひつよう数値すうち流体りゅうたい力学りきがく非常ひじょうっているからである」といた[13]

この効果こうかねつ伝導でんどう問題もんだいであり[19][15][20][21]連続れんぞく体力たいりょくがくもとづいた輸送ゆそう現象げんしょう観点かんてんからの研究けんきゅうてきしている。ねつ輸送ゆそうへん微分びぶん方程式ほうていしき解析かいせきする場合ばあいけい挙動きょどう記述きじゅつするためにはみず平均へいきん温度おんどなど少数しょうすうのパラメーターをあたえるだけでは一般いっぱんには不十分ふじゅうぶんである。けい幾何きかがくてき詳細しょうさい流体りゅうたい特性とくせい温度おんどじょうながじょうなどといった多様たよう条件じょうけんけい挙動きょどうきわめて複雑ふくざつ影響えいきょうあたえうるからである。単純たんじゅんされたねつ力学りきがくのみにもとづいて分析ぶんせきするかぎりムペンバ効果こうか直感ちょっかんはんするようにおもわれるが、このことは物理ぶつりがく問題もんだいへのアプローチにさいして適切てきせつ変数へんすうすべ考慮こうりょしてもっとてきした理論りろんてき道具立どうぐだてをもちいることの必要ひつようせい例証れいしょうしている[19][15][21][20]

先端せんたん科学かがく観点かんてん (ミクロ視点してん)

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  • 平衡へいこうしょう転移てんい非線形ひせんけい効果こうか [22][23]
  • みず特異とくいせい [24][25]
    物理ぶつり化学かがく解決かいけつ問題もんだい英語えいごばん[26]ひとつ「水素すいそ結合けつごうでつながった水分すいぶん構造こうぞう」の関与かんよ期待きたいする議論ぎろん[17]がある[27]
    国内こくないにおける水分すいぶん構造こうぞう関連かんれん研究けんきゅうには、
    • 低温ていおんだかあつみずてい密度みつど成分せいぶん(LDL)と高密度こうみつど成分せいぶん(HDL)にあい分離ぶんりするというだい臨界りんかいてん仮説かせつ[28][29]
    • X線えっくすせん発光はっこう分光ぶんこう使つかったみず電子でんし状態じょうたい秩序ちつじょ無秩序むちつじょ構造こうぞう観測かんそく[30]
    • シミュレーションを使つかった 水分すいぶん水素すいそ結合けつごうネットワーク構造こうぞう のフラグメント解析かいせき[31]
    ひとしあるが、いまのところムペンバ効果こうかへの直接的ちょくせつてき関与かんよ示唆しさする結果けっかとくていない模様もようである。

日本にっぽんでの反応はんのう

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NHK科学かがく情報じょうほう番組ばんぐみためしてガッテン』の2008ねん7がつ9にち放送ほうそうでムペンバ効果こうかげられ[32]よく7がつ10日とおかづけのYahoo!JAPAN 検索けんさくランキングで「ムペンバ効果こうか」が21にランクインした[33]。これにたいし、アメリカ在住ざいじゅう放送ほうそうなかった物理ぶつり学者がくしゃ大槻おおつき義彦よしひこは、読者どくしゃのメールにこたえるかたち自身じしんのブログで「ねつ力学りきがく基本きほん法則ほうそくからありえない」と批判ひはんしている[34]大槻おおつきは、その自宅じたくでごく簡単かんたん実験じっけんおこない、NHKが間違まちがっていると結論けつろんしている。ただし、蒸発じょうはつねつ効果こうか相対そうたいてきたかめる極端きょくたん容器ようき形状けいじょう選択せんたく (いたにおらす) したケースのみ、それらしい現象げんしょう再現さいげんされたとしている[35]Jcastニュースは、ムペンバ効果こうかについて何人なんにんかの専門せんもんうかがったところ、そのような現象げんしょうっているひとはいなかったという。ただし、京都大学きょうとだいがく教授きょうじゅ小貫おぬきあきらは、「お場合ばあい蒸発じょうはつするとえる潜熱せんねつがあることと、みず空気くうき対流たいりゅうによってねつはこばれたのかもしれません。即断そくだんはできませんが、なに理由りゆうがあるのでは」と「効果こうかがあらわれる可能かのうせい」を示唆しさしている[36]

2009ねん10がつ日本にっぽん雪氷せっぴょう学会がっかいにおいて、雪氷せっぴょう研究けんきゅうかい企画きかくセッションとして「ムペンバ現象げんしょう (みず凍結とうけつ逆転ぎゃくてん現象げんしょう) のサイエンス」が開催かいさいされた[37]

呼称こしょうたいする異論いろん

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2009ねん10がつ日本にっぽん雪氷せっぴょう学会がっかい雪氷せっぴょう研究けんきゅう大会たいかいにおいて、「ムペンバ現象げんしょう研究けんきゅうかい」が、「ムペンバ効果こうか」という名称めいしょう不適切ふてきせつであると主張しゅちょうしている。どうかいいわく、ムペンバ効果こうか由来ゆらいであるエラスト・B・ムペンバは、ムペンバ効果こうかしんの「発見はっけんしゃ」ではない (さい発見はっけんしゃにすぎない)。その物理ぶつり過程かていあきらかになっていないので、「ある物理ぶつり過程かてい原因げんいんとなって結果けっか (効果こうか) が出現しゅつげんする」場合ばあい使つかわれるべきである「○○効果こうか」という名称めいしょう適切てきせつではない。ゆえに、ムペンバ効果こうかは「みず凍結とうけつ逆転ぎゃくてん現象げんしょう」とばれるか、もしくは「さい発見はっけんしゃ」のムペンバに敬意けいいしょうして「ムペンバ現象げんしょう」としょうされることが適切てきせつであると主張しゅちょうしている[37]

最新さいしん研究けんきゅう成果せいか

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Wiredの報道ほうどうによると、ニューヨーク州立しゅうりつ大学だいがくビンガムトンこうのJames Brownridgeがみずよりはやこお現象げんしょう再現さいげんすることに成功せいこうしている[38]

ただし、Brownridgeの実験じっけんでは、同一どういつみずこおらせるのではなく、摂氏せっしやく100まで加熱かねつした水道すいどうすいと、摂氏せっし25以下いかまで冷却れいきゃくした蒸留じょうりゅうすい使用しようした。これらをどうせい装置そうち密封みっぷうしたうえで、冷凍庫れいとうこれると、高温こうおん水道すいどうすいが、低温ていおん蒸留じょうりゅうすいよりも毎回まいかいさきこおることが確認かくにんされた。

この実験じっけんは、みず純度じゅんどことなる場合ばあい冷水れいすいよりはやこお条件じょうけん存在そんざいすることしめした。しかし、同一どういつのサンプルを使用しようしていないため、みず初期しょき温度おんど原因げんいんとはがたく、ムペンバ効果こうか自体じたい解明かいめいできたとはえない。

2020ねん8がつ5にちネイチャー発表はっぴょうされたサイモンフレーザー大学だいがく物理ぶつり学者がくしゃ、アビナッシュ・クマールとジョン・ベックホーファーの研究けんきゅうにより、ムペンバ効果こうか再現さいげん成功せいこうした[7]

ムペンバ効果こうか再現さいげんしたクマールらの研究けんきゅうチームは、もともとムペンバ効果こうかではなく「さまざまな条件下じょうけんかにおいてみず単一たんいつ分子ぶんしちかおおきさのガラスが水中すいちゅうでどのようにうごくか」を実験じっけんしていた。実験じっけんなかみず冷却れいきゃくしていたところ、研究けんきゅうチームは「高温こうおんのガラスが低温ていおんのガラスよりもはや冷却れいきゃくされること」を発見はっけんした。

クマールらの実験じっけんではガラスの温度おんど変化へんか焦点しょうてんてることで、ムペンバ効果こうか研究けんきゅうしにくくしている「凍結とうけつ定義ていぎ」と「みず成分せいぶん」という要素ようそのぞき、「みず凍結とうけつプロセス」ではなく「みず冷却れいきゃくプロセス」に着目ちゃくもくしてムペンバ効果こうか定義ていぎしている。

水中すいちゅうでガラスが冷却れいきゃくされるまでの温度おんど変化へんか追跡ついせきしたところ、初期しょき温度おんど高温こうおんのガラスは低温ていおんのガラスよりもはや冷却れいきゃくされ、指数しすう関数かんすうてき温度おんど低下ていかすることがあきらかになった。また、やく1000かい試行しこう高温こうおんのガラスは低温ていおんのガラスよりやく10ばいはや冷却れいきゃくされることもあきらかになった。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 風早かざはやひろし(2022).“熱湯ねっとうのほうがよりはやこおりになる?” Zかいはや読英単語たんご 必修ひっしゅうへん 改訂かいていだい7はん増補ぞうほばん』:, ISBN 4865314466
  2. ^ a b Aristotle, Metereology, Book 1みずまえもって加熱かねつしておくことではや冷却れいきゃくされ、凍結とうけつ急速きゅうそくすすむ。そのためはやましたいとき日向ひなたいておくものもいる。ポンタスの住民じゅうみん氷上ひかみあなけてりをするさい、アシのまわりにけてなまりのようにこおらせ。」 E.W.ウェブスターによる英語えいごやく: "The fact that the water has previously been warmed contributes to its freezing quickly: for so it cools sooner. Hence many people, when they want to cool hot water quickly, begin by putting it in the sun. So the inhabitants of Pontus when they encamp on the ice to fish (they cut a hole in the ice and then fish) pour warm water round their reeds that it may freeze the quicker, for they use the ice like lead to fix the reeds."
  3. ^ a b Novum Organum, Lib. II, L, 「ややあたためたみず冷水れいすいよりも容易よういこおる」 英文えいぶん: "slightly tepid water freezes more easily than that which is utterly cold". ラテン語らてんご原文げんぶん "aqua parum tepida facilius conglacietur quam omnino frigida"
  4. ^ a b Descartes, Les Meteores, 「長時間ちょうじかんけておいたみず通常つうじょうみずよりもはやこおるのを経験けいけんすることがある。理由りゆうみず加熱かねつされているあいだもっとがるのをめられない粒子りゅうし気化きかするからだ」英文えいぶん: Discours Premier "One can see by experience that water that has been kept on a fire for a long time freezes faster than other, the reason being that those of its particles that are least able to stop bending evaporate while the water is being heated". フランス語ふらんすご原文げんぶん "Et on peut voir aussi par experience que l'eau qu'on a tenue longuement sur le feu se gèle plutôt que d'autre, dont la raison est que celles de ses parties, qui peuvent le moins cesser de se plier, s'évaporent pendant qu'on la chauffe." Descartes' explanation here relates to his theory of vortices.
  5. ^ 査読さどく論文ろんぶん雑誌ざっしではない
  6. ^ How to Fossilise Your Hamster: And Other Amazing Experiments For The Armchair Scientist, ISBN 1846680441
  7. ^ a b Kumar, Avinash; Bechhoefer, John (2020-08). “Exponentially faster cooling in a colloidal system” (英語えいご). Nature 584 (7819): 64–68. doi:10.1038/s41586-020-2560-x. ISSN 0028-0836. http://www.nature.com/articles/s41586-020-2560-x. 
  8. ^ Mpemba, Erasto B.; Osborne, Denis G. (1969), “Cool?”, Physics Education (Institute of Physics) 4: 172­175, doi:10.1088/0031-9120/4/3/312 
  9. ^ Mpemba, E B (1979), “Cool?”, Physics Education (Institute of Physics) 14: 410­413, doi:10.1088/0031-9120/14/7/312, http://www.iop.org/EJ/article/0031-9120/14/7/312/pev14i7p410.pdf 
  10. ^ Report of the 14th session of the Working Party on the Management of Wildlife and Protected Areas, ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/meeting/013/ai572e.pdf 
  11. ^ Ball, P. (April 2006). “Does hot water freeze first?”. Physics World 19 (4): 19?21. http://physicsweb.org/articles/world/19/4/4.  原文げんぶん:"The problem is that the effect is frustratingly hard to reproduce - sometimes it appears, and sometimes not. In fact, no-one has agreed exactly how the experiments should be conducted in the first place. And even if the Mpemba effect is real - if hot water can sometimes freeze more quickly than cold - it is not clear whether the explanation would be trivial or illuminating."
  12. ^ Kell, G. S. (1969). “The freezing of hot and cold water”. Am. J. Phys. 37: 564­565. doi:10.1119/1.1975687. 
  13. ^ a b Jeng, Monwhea (2006). “Hot water can freeze faster than cold?!?”. American Journal of Physics 74 (6): 514. doi:10.1119/1.2186331. arXiv:physics/0512262v1. http://arxiv.org/abs/physics/0512262v1 2008ねん3がつ18にち閲覧えつらん. 
  14. ^ 翻訳ほんやくもと 英語えいごばん "Mpemba effect" 16:20, 9 July 2008 (UTC)かれたみじか一文いちぶん
    左記さき条件じょうけんたす垂直すいちょく分布ぶんぷれい
    上面うわつら
    高温こうおんかい 低温ていおんかい 密度みつど [g/cm3]
    たい
    ながれ
    9℃ (冷却れいきゃくすい?) 0.999781
    8.2℃ 0.999837
    ぬる


    (7℃) (1℃) ~ 0.999900
    (6℃) (2℃) ~ 0.999941
    (5℃) (3℃) ~ 0.999965
    3.98℃ 0.999973
    底面ていめん
    密度みつど出典しゅってん: 日本にっぽん学会がっかい(へん),
        『化学かがく便覧びんらん 基礎きそへん』, 丸善まるぜん(1966)
    ためしに「対流たいりゅう抑制よくせいされない」理由りゆう検討けんとうすると、このぶん示唆しさ一文いちぶんであることわかる。蒸発じょうはつねつ効果こうかでお急速きゅうそく冷却れいきゃくされ、かり摂氏せっし4また極端きょくたん温度おんど勾配こうばい実現じつげんされるとする。この温度おんど勾配こうばいさい下部かぶ密度みつど最大さいだいの3.98℃となるが、その上部じょうぶ温度おんど勾配こうばい一意いちいまらず(低温ていおんがわ(3.98℃未満みまん)と高温こうおんがわ(3.98℃以上いじょう)のじゅうかい)、温度おんどムラのある過渡かとてき不安定ふあんてい状態じょうたいになると推測すいそくされる。さらに8.2℃以上いじょうでは(冷却れいきゃくすいのぞき)同等どうとう密度みつど低温ていおんがわみず存在そんざいしないので、上部じょうぶ局所きょくしょてき対流たいりゅう持続じぞくされると推測すいそくされる。
    以上いじょう、この一文いちぶん説明せつめいする状況じょうきょう解釈かいしゃくこころみた。このような状態じょうたい実際じっさい実現じつげんしうるかどうか、また温度おんどムラが発生はっせいする場合ばあいそれはどのように測定そくていされるのか、今後こんご解明かいめい期待きたいされる。
  15. ^ a b c Auerbach, David (1995). “Supercooling and the Mpemba effect: when hot water freezes faster than cold”. American Journal of Physics 63 (10): 882­885. doi:10.1119/1.18059. 
  16. ^ S. Esposito, R. De Risi and L. Somma (2008). “Mpemba effect and phase transitions in the adiabatic cooling of water before freezing”. Physica A 387: 757­763. doi:10.1016/j.physa.2007.10.029. http://arxiv.org/abs/0704.1381. 
  17. ^ a b Chaplin, Martin. “Explanation of the Phase Anomalies of Water”. 2009ねん2がつ14にち閲覧えつらん
  18. ^ a b Katz, Jonathan (2006ねん4がつ). “When hot water freezes before cold”. 2008ねん7がつ10日とおか閲覧えつらん
  19. ^ a b Knight, Charles A. (1996-05). “The Mpemba effect: the freezing times of hot and cold water”. American Journal of Physics 64 (5): 524. doi:10.1119/1.18275. 
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  21. ^ a b Dorsey, N. Ernest (1940). Properties of ordinary water-substance in all its phases: water vapor, water, and all the ices. New York: Reinhold Publishing Corporation 
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  34. ^ 大槻おおつき義彦よしひこ公式こうしきブログ2008ねん7がつ22にち、「ムペンバ効果こうか
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    山形大学やまがただいがく理学部りがくぶ物質ぶっしつ生命せいめい学科がっか天羽あもう優子ゆうこじゅん教授きょうじゅによる研究けんきゅうかい発表はっぴょう内容ないよう個人こじんてきメモ。ニセ科学かがく業者ぎょうしゃ批判ひはん著名ちょめい天羽あもうは、研究けんきゅうかいへの参加さんか理由りゆう現象げんしょう科学かがくてき解明かいめいではなく「たんなる情報じょうほう収集しゅうしゅう」だと表明ひょうめいしており、メモ内容ないようはあくまで天羽あもう個人こじん認識にんしきぎないてん注意ちゅういようする。
  38. ^ Wired

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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