中島なかじま歌子うたこ

中島なかじま 歌子うたこ（なかじま うたこ、1845年ねん1月がつ21日にち（弘ひろし化か元年がんねん12月14日にち） - 1903年ねん（明治めいじ36年ねん）1月がつ30日にち）は、日本にっぽんの歌人かじん。和歌わかと書しょを教おしえる私塾しじゅく「萩はぎの舎しゃ」を主宰しゅさいし、明治めいじ時代じだいの上流じょうりゅう・中級ちゅうきゅう階級かいきゅうの子女しじょを多おおく集あつめ、成功せいこうした。歌人かじんとしてより、樋口ひぐち一葉かずは、三宅みやけ花圃かほの師匠ししょうとして名なを残のこしている。

略歴りゃくれき

1845年ねん1月がつ21日にち（弘ひろし化か元年がんねん12月がつ14日にち）、武蔵むさし国こく入間いるま郡ぐん森戸もりと村むら（現げん・埼玉さいたま県けん坂戸さかど市し）に生うまれる。父ちち・中島なかじま又また衛門えもんは農民のうみんながら村むら名主なぬしであり豪商ごうしょう。母はは・福島ふくしまいく（幾子いくこ）の実家じっかも江戸えど通かよいの船ふねで商売しょうばいをしていた幕府ばくふ御用達ごようたしの豪商ごうしょうで、いくは川越かわごえ藩はんの奥おくに仕つかえていたこともある。

歌子うたこが生うまれてほどなく江戸えどの牛込うしごめ揚場あげば町まちに移うつり住すむ。歌子うたこの親戚しんせき(『坂戸さかど人物じんぶつ誌し』)や藤井ふじい公明こうめい（『続ぞく樋口ひぐち一葉かずは研究けんきゅう』）によると、両親りょうしんは小石川こいしかわ安藤あんどう坂ざかの伝つて通どおり門前もんぜんにあった水戸みと藩はん御用達ごようたし宿やど「池田いけだ屋や」の加藤かとう佐たすく右みぎ衛門えもんの夫婦ふうふ養子ようしとなり（形式けいしき上じょうの養子ようしであり実質じっしつ上じょうは買収ばいしゅう）、1850年代ねんだいに家族かぞくで小石川こいしかわの屋敷やしきに居住きょじゅうするようになる。

父ちちが水戸みとの藤田ふじた東湖とうこらと交際こうさいがあったことから、10歳さいから15歳さいまで水戸みと藩はん支ささえ藩はんの府中ふちゅう松平まつだいら家かの奥おくに仕つかえた。18歳さいのとき、かねてより恋こい慕したっていた水戸みと藩士はんし・林はやし忠左衛門ちゅうざえもんと結婚けっこんし、水戸みと五軒ごけん町まちの林家はやしやに嫁よめ入いりした。江戸えどの豪商ごうしょうの嫁入よめいりは、当時とうじの水戸みとで話題わだいになった程ほどであったという 。だが、1864年ねん、天狗てんぐ党とうの乱らんに加担かたんした罪つみで夫おっとが自害じがい。歌子うたこも連座れんざして2か月げつ間あいだ投獄とうごくされる。

歌うたを水戸みとの国学こくがく者しゃ、林はやし寰雄に学まなんでいたが、林はやしが亡なくなったため、1865年ねんから加藤かとう千せん浪なみに師事しじ。明治めいじに入はいってから歌うた塾じゅく「萩はぎの舎しゃ」を小石川こいしかわの自宅じたくで開ひらく。兄弟子あにでしの伊東いとう佑たすく命いのちを通とおして、御歌所おうたどころの長ちょう・高崎たかさき正風まさかぜと知しり合あったこと、また、両親りょうしんの実家じっかが水戸みと藩はん、川越かわごえ藩はんと付つき合あいがあったことから、上流じょうりゅう・中流ちゅうりゅう家庭かていの多おおくの子女しじょを門弟もんていに抱かかえることができ、大おおいに繁栄はんえいした。

1901年ねんに日本女子大学にほんじょしだいがくが設立せつりつされると、和歌わかの教授きょうじゅに迎むかえられたが、病気びょうきのため辞退じたい、三宅みやけ花圃かほが代かわりに就任しゅうにんした。1903年ねん（明治めいじ36年ねん）1月がつ30日にち、60歳さいで死去しきょ。郷里きょうりの兄あにとは不仲ふなかで、養子ようしも居きょ付つかず、家族かぞくには恵めぐまれなかったが、葬儀そうぎには200人にんが集あつまり、その列れつは三さん町まちにも達たっしたという。両親りょうしんの眠ねむる谷中たになか墓地ぼちに葬ほうむられている。歌うた塾じゅくは閉とじたが、元もと養女ようじょすみの三男さんなん廉かどが養子ようしに入はいって家名かめいを継ついだ。

歌うた塾じゅく「萩はぎの舎しゃ」

名前なまえの由来ゆらいは、歌子うたこの自宅じたくであった池田いけだ屋やの庭にわに萩はぎがたくさん植うえてあったことから。和歌わかの創作そうさく指導しどうだけでなく、基礎きそ的てきな古典こてん文学ぶんがくのてほどきや、千蔭ちかげ流りゅう（創始そうし・加藤かとう千蔭ちかげ）の書しょを教おしえた。自宅じたくで教おしえるだけでなく、鍋島なべしま侯爵こうしゃく家いえ、前田まえだ侯爵こうしゃく家かなど上流じょうりゅう階級かいきゅうへの出稽古でげいこもしていた。生徒せいとは上流じょうりゅう階級かいきゅうの子女しじょがほとんどで、1886年ねんに樋口ひぐち一葉かずはが入門にゅうもんしたころは、弟子でしは1000人にん以上いじょうを数かぞえた。

税所さいしょ敦子あつこ

当時とうじ有名ゆうめいな女流じょりゅう歌人かじんとして、歌子うたこのほかに、税所さいしょ敦子あつこ、鶴つる久子ひさこがいたが、税所さいしょは皇后こうごうはじめ皇室こうしつ関係かんけい者しゃ、歌子うたこが上流じょうりゅう・中流ちゅうりゅう階級かいきゅうの令嬢れいじょう、鶴づるが下町したまちの子女しじょに教おしえていた。萩はぎの舎しゃは歌会うたかいも盛大せいだいで、貴婦人きふじんや姫君ひめぎみが女中じょちゅう連づれでやってきた。

客員きゃくいん教授きょうじゅには男性だんせい歌人かじんや官僚かんりょうなどもおり、鈴木すずき重嶺しげね、梅村うめむらのりを、加藤かとう安彦やすひこ、江刺えさし恒久つねひさ、木村きむら正ただし養やしなえ、水野みずの忠敬ちゅうけい、小出こいで粲つばらなどが講師こうしを務つとめた。

生徒せいとには、三宅みやけ花圃かほ、伊東いとう夏子なつこ（鳥とり問屋とんや「東国とうごく屋や」の娘むすめ。母親ははおやの延子のぶこも門下もんか）、三田みた葆光の妹いもうと、鳥尾とりお広子ひろこ（鳥尾とりお小弥太こやたの娘むすめ)、乙おつ骨こつ牧子まきこ（乙おつ骨こつ太郎たろう乙おつの娘むすめ)などがいた。依よ仁じん親王しんのう妃ひ周子かねこも歌子うたこに師事しじした。

樋口ひぐち一葉かずはとの関係かんけい

警視庁けいしちょう警視けいし属ぞくの樋口ひぐち則のり義よしの娘むすめである奈津なつ（樋口ひぐち一葉かずは）は1886年ねん（明治めいじ19年ねん）8月がつ20日はつかに萩はぎの舎しゃに入門にゅうもんしている。則のり義ぎは旧きゅう幕府ばくふ奥おく医師いし・遠田えんだ澄きよし庵あんの紹介しょうかいにより萩はぎの舎しゃを知しったという。

樋口ひぐち家かでは1889年ねん（明治めいじ22年ねん）7月がつ12日にちに則のり義ぎが死去しきょし、経済けいざい的てき苦境くきょうから1890年ねん（明治めいじ23年ねん）5月がつには萩はぎの舎しゃの内弟子うちでしとして、翌年よくねん3月がつまで中島なかじま家かに住すみこみ、助じょ教きょうを務つとめている。一葉いちようは萩はぎの舎しゃを去さった後のちに本格ほんかく的てきな小説しょうせつ執筆しっぴつを開始かいしするが、1896年ねん（明治めいじ29年ねん）11月23日にちに死去しきょする。

一葉いちようが萩はぎの学舎がくしゃを去さった背景はいけいには家庭かていの事情じじょうもあったが、下働したばたらきの者ものが辞やめても補充ほじゅうせず、一葉いちようが女中じょちゅう替がわりに使つかわれ、和歌わかの稽古けいこができなかったためもあったとされる。一葉いちようを養女ようじょにして歌うた塾じゅくを継つがせたいと思おもった歌子うたこが一いち葉ようが数かぞえ23歳さいのときに呼よび戻もどしたが、内弟子うちでしではなく月給げっきゅう2円えんで助じょ教きょうを務つとめることで合意ごういした。一葉いちようが小説しょうせつ家かとして忙いそがしくなり、通かよえなくなると、歌子うたこは一いち葉ように対たいする批判ひはんを漏もらすようになり、一葉いちようが重病じゅうびょうであることを弟子でしから報告ほうこくされても「それはしょうがないねぇ」とあっさりしたものだったという。

関連かんれん作品さくひん

小説しょうせつ

朝井あさいまかて『恋歌こいうた』（2013年ねん、講談社こうだんしゃ）直木賞なおきしょう受賞じゅしょう作さく

出典しゅってん

• 日本にっぽん歴史れきし学会がっかい『明治維新めいじいしん人名じんめい辞典じてん 日本にっぽん歴史れきし学会がっかい編へん 吉川弘文館よしかわこうぶんかん』

外部がいぶリンク

• 郷土きょうど出身しゅっしんの歌人かじん中島なかじま歌子うたこ 坂戸さかど市し社会しゃかい教育きょういく課か
• 「萩はぎの舎しゃ」門人もんじんの集合しゅうごう写真しゃしん