交戦こうせん規定きてい

交戦こうせん規定きてい（こうせんきてい、Rules of Engagement、以下いかROEと表記ひょうき）とは、軍隊ぐんたいがいつ、どこで、いかなる相手あいてに、どのような武器ぶきを使用しようするかを定さだめた基準きじゅんのことである。

このような規定きていは時代じだいや各かく組織そしきごとに大おおきく異ことなるものの、多おおくの組織そしきが用もちいており、詳細しょうさいにわたって定さだめられているのが一般いっぱん的てきとなっている。

通常つうじょう、敵てきに手ての内うちを見みせるのを防ふせぐため、公表こうひょうされることは少すくない。

自衛隊じえいたい

自衛隊じえいたい用語ようごでは部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅん（ぶたいこうどうきじゅん）という。従来じゅうらい、自衛隊じえいたいが交戦こうせんを前提ぜんていとした交戦こうせん規定きていを作成さくせいすることには世論せろんの懸念けねんもあり、自衛隊じえいたいのROEでは曖昧あいまいな部分ぶぶんが多おおく、領空りょうくう侵犯しんぱんでの対処たいしょ基準きじゅんなどはパイロットの裁量さいりょうによるところが多おおかった。ところが、刑法けいほうとの兼かね合あいから、過剰かじょう防衛ぼうえいによる刑事けいじ罰ばつ等とうをおそれたパイロットが武器ぶき使用しよう判断はんだんを迷まよった場合ばあい、適正てきせいな対処たいしょがとれずに被弾ひだん・被ひ撃墜げきついに至いたる心配しんぱいがあった。

また、自衛隊じえいたいの海外かいがい派遣はけんの恒常こうじょう化かによる部隊ぶたいの武器ぶき使用しようの可能かのう性せいの現実げんじつ化かや冷戦れいせん後ごの新あらたな脅威きょうい（東シナ海ひがししなかいにおける中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくとの海洋かいよう権益けんえきを巡めぐる突発とっぱつ的てき軍事ぐんじ衝突しょうとつのおそれの増大ぞうだい等とう:東シナ海ひがししなかいガス田た問題もんだいを参照さんしょう）により、この現状げんじょうが問題もんだい視しされるようになった。

そこで、2000年ねん（平成へいせい12年ねん）12月4日にちに「部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんの作成さくせい等とうに関かんする訓令くんれい」（平成へいせい12年ねん防衛庁ぼうえいちょう訓令くんれい第だい91号ごう）が制定せいていされ、これに基もとづいて部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんが作成さくせいされるようになった。その第だい2条じょうにおいては「部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんは、国際こくさいの法規ほうき及および慣例かんれい並ならびに我わが国くにの法令ほうれいの範囲はんい内ないで、部隊ぶたい等とうがとり得える具体ぐたい的てきな対処たいしょ行動こうどうの限度げんどを示しめすことにより、部隊ぶたい等とうによる法令ほうれい等とうの遵守じゅんしゅを確保かくほするとともに、的確てきかくな任務にんむ遂行すいこうに資しすることを目的もくてきとする。」「部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんは、状況じょうきょうに応おうじて部隊ぶたい等とうに示しめすべき基準きじゅんをまとめたものであって、行動こうどうし得える地理ちり的てき範囲はんい、使用しようし又または携行けいこうし得える武器ぶきの種類しゅるい、選択せんたくし得える武器ぶきの使用しよう方法ほうほうその他たの特とくに政策せいさく的てき判断はんだんに基もとづく制限せいげんが必要ひつような重要じゅうよう事項じこうに関かんする基準きじゅんを定さだめたものとする。」と謳うたわれている。

2006年ねん、防衛庁ぼうえいちょう（現在げんざいの防衛ぼうえい省しょう）はROEを改定かいていし、自衛隊じえいたい法ほう第だい95条じょうに定さだめられた「武器ぶき等とうの防護ぼうごのための武器ぶきの使用しよう」を根拠こんきょとして、武器ぶきの使用しようを明確めいかくに任務にんむとすることを決定けっていした。これにより、自衛隊じえいたい員いんが使用しようすべきときにためらわずに武器ぶきを用もちいることができるようになり、かつ、現場げんばの自衛じえい官かんが余計よけいな政治せいじ的てき判断はんだんを迫せまられずに済すむようになると期待きたいされている。

イラク派遣はけん

陸上りくじょう・航空こうくう自衛隊じえいたいが派遣はけんされたイラクでの復興ふっこう支援しえん活動かつどうにおいてのROEでは自衛じえい官かんに対たいしてテロ・攻撃こうげき行為こういを行おこなおうとするものに対たいする対処たいしょは次つぎのようになっていた。

1. 口頭こうとうによる警告けいこく
2. 銃口じゅうこうを向むけての威嚇いかく
3. 警告けいこく射撃しゃげき
4. 危害きがい射撃しゃげき

2005年ねん12月4日にちには隊員たいいんがデモ隊たいに取とり囲かこまれ、投石とうせきされるという事件じけんが起おきた。ROEに基もとづく武器ぶき使用しようが行おこなわれる寸前すんぜんまで入はいった事案じあんであったが、現地げんちの警備けいび員いんらの説得せっとくによって、デモ隊たいはそれ以上いじょうの過激かげきな行動こうどうをとることなく解散かいさんし、武器ぶき使用しようという最悪さいあくの事態じたいは回避かいひされた。

なお、イラク派遣はけんにあたり、隊員たいいんが身みの危険きけんを感かんじるような切迫せっぱくした状況じょうきょう下かで誤あやまって民間みんかん人じんを殺傷さっしょうした場合ばあい、隊員たいいんが傷害しょうがい罪ざい・殺人さつじん罪ざいに問とわれることはないと定さだめられていた。

アメリカ軍ぐん

アメリカ国防総省こくぼうそうしょうはROEを公式こうしきに以下いかのように定義ていぎしている。

アメリカ軍ぐんが敵てきと遭遇そうぐうし、敵てき戦力せんりょくと戦闘せんとうを開始かいし、もしくは再開さいかいするときの状況じょうきょう・制限せいげんを定さだめる軍事ぐんじ的てき規定きてい

ROEは次つぎの4つの問題もんだいを扱あつかう。

• 武器ぶきを用もちいてもよい時とき
• （同どう）場所ばしょ
• （同どう）相手あいて
• 用もちいるべき武器ぶき

ROEは2つの形式けいしきを持もつ。

• 上官じょうかんからの明示めいじ的てき禁止きんしがない限かぎり、兵士へいしが指示しじを受うけずに取とってよい行動こうどうを定さだめるもの
• 上官じょうかんからの明示めいじ的てき指示しじがなければ取とってはならない行動こうどうを定さだめるもの

通常つうじょうの標準ひょうじゅん的てきROEに加くわえ、隊員たいいんは任務にんむや作戦さくせんの実施じっし前まえに追加ついか的てきなROEを説明せつめいされる。これには、攻撃こうげきにいかに反撃はんげきするか、捕虜ほりょの待遇たいぐうの仕方しかた、戦闘せんとう領域りょういきなどが含ふくまれる。

アメリカ軍ぐんのROEは自己じこ防衛ぼうえいのための武器ぶき使用しようを常つねに第だい一いちに掲かかげる。

ROEの課題かだい

任務にんむを遂行すいこうするため効果こうか的てきに武器ぶきを用もちいることと、必要ひつようのない武器ぶきの使用しようを抑おさえること。いかなる交戦こうせんにおいても、ROEにはこの2つのバランスをとることが求もとめられる。しかしながら、ROEが厳格げんかくすぎたり緩なるすぎたりすると問題もんだいが生しょうじる。

政治せいじや外交がいこう的てきな理由りゆうから、国くにの首脳しゅのうは武器ぶきの使用しようをなるべく抑おさえようとする一方いっぽう、軍ぐんの指揮しき官かんは作戦さくせん遂行すいこう上じょう最もっとも効果こうか的てきな方法ほうほうで武器ぶきを用もちいようとすることがある。ルワンダ内戦ないせんにおける国連こくれん平和へいわ維持いじ軍ぐんのROEの問題もんだいは、厳きびしすぎる場合ばあいの典型てんけいである。また、ベトナム戦争せんそうにおいて、アメリカ空軍くうぐんは、米べいソ直接ちょくせつ対決たいけつを恐おそれ、ソ連それん関連かんれんの施設しせつ・兵器へいきへの攻撃こうげきを極力きょくりょく回避かいひしていた。このため北きたベトナム側がわに十分じゅうぶんな攻撃こうげきを加くわえることができず、被害ひがいが増ますばかりの現場げんばからの非難ひなんが殺到さっとうしたため、このROEは改定かいていされた。

関連かんれん項目こうもく

• 交戦こうせん権けん
• 自衛隊じえいたい法ほう
• 正当せいとう防衛ぼうえい
• 歩兵ほへい第だい22連隊れんたい
• 英雄えいゆうの条件じょうけん：原題げんだいは『Rules of Engagement（交戦こうせん規定きてい）』

外部がいぶリンク

• 部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんの作成さくせい等とうに関かんする訓令くんれい（平成へいせい12年ねん防衛庁ぼうえいちょう訓令くんれい第だい91号ごう） (PDF)
• 2003年度ねんど防衛ぼうえい白書はくしょ・部隊ぶたい行動こうどう基準きじゅんの策定さくていに向むけた取組とりくみ