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正当せいとう防衛ぼうえい

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正当せいとう防衛ぼうえい(せいとうぼうえい、ふつ: légitime défense)とは、急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいたいし、自分じぶんまたは他人たにん生命せいめい権利けんり防衛ぼうえいするため、やむをずにした行為こういをいう。正当せいとう防衛ぼうえいには、刑事けいじじょう正当せいとう防衛ぼうえい民事みんじじょう正当せいとう防衛ぼうえいがある。

刑事けいじじょう正当せいとう防衛ぼうえい

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概説がいせつ

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正当せいとう防衛ぼうえい各種かくしゅ違法いほうせい阻却事由じゆうのなかでも、ごく一般いっぱんてきられているものである[1]

正当せいとう防衛ぼうえい自然しぜん発生はっせいてき権利けんりかんがえられ、「正当せいとう防衛ぼうえいかれたほうではなくまれたほうである」(キケロ)や「正当せいとう防衛ぼうえい歴史れきしゆうしない」あるいは「正当せいとう防衛ぼうえいにはなんらの歴史れきしもないしまたありえない」(カール・グスタフ・ガイプドイツばん[注釈ちゅうしゃく 1])といわれるようにきわめてふる時代じだいから不可ふかばつせい承認しょうにんされてきた[1][2]

正当せいとう防衛ぼうえい本質ほんしつ私人しじんによる直接的ちょくせつてき反撃はんげき行為こういである[3]法治ほうち国家こっかとしての制度せいど整備せいびされた社会しゃかい体制たいせいのもとでの不正ふせい侵害しんがい排除はいじょ本来ほんらい国家こっか機関きかん任務にんむとされ、被害ひがいしゃその私人しじんによる実力じつりょく行動こうどう社会しゃかい秩序ちつじょみだすことから原則げんそくとしてゆるされていない[3][4]直接ちょくせつ行動こうどう国家こっか社会しゃかい整備せいびともな社会しゃかい秩序ちつじょ統制とうせいりょく拡大かくだいとともにその範囲はんい縮小しゅくしょうされ、正当せいとう防衛ぼうえい現代げんだい国家こっかにおいて唯一ゆいいつ是認ぜにんされる直接ちょくせつ行動こうどうともいわれている[3]一方いっぽう正当せいとう防衛ぼうえい範囲はんい当初とうしょ生命せいめいたいする侵害しんがいについてのみみとめられていたが、あらゆる利益りえき保護ほご正当せいとう防衛ぼうえいみとめるべきとのかんがえがあらわれ、身体しんたい財産ざいさん保護ほごのためにも正当せいとう防衛ぼうえいみとめられるようになった[3]

歴史れきし

ローマほうでは生命せいめい身体しんたいたいする暴力ぼうりょく行為こういたいする実力じつりょくによる防御ぼうぎょみとめられていたが一般いっぱんてき正当せいとう防衛ぼうえいという概念がいねん構成こうせいされていたわけではなかった[2]。また、古代こだいゲルマンほうでは正当せいとう防衛ぼうえい個人こじんてき復讐ふくしゅうとの混同こんどうがみられるとされている[2]正当せいとう防衛ぼうえい一般いっぱんてきかたちかれるようになるのは13世紀せいき以降いこうになってからである[2]カロリーナ刑事けいじ法典ほうてん英語えいごばんでは正当せいとう防衛ぼうえい概念がいねん立証りっしょう方法ほうほうくわしく規定きていしていたが、それは生命せいめい身体しんたいたいするものに限定げんていされていた[2]。その正当せいとう防衛ぼうえい対象たいしょうとなる法益ほうえき漸次ぜんじ拡大かくだいし、1801ねんフォイエルバッハ刑法けいほうろんによって正当せいとう防衛ぼうえい総論そうろんてき地位ちいにまでげられたとされる[2]

日本にっぽん刑法けいほうじょう正当せいとう防衛ぼうえい

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急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいたいして、自己じこまた他人たにん権利けんり防衛ぼうえいするため、やむをずにした行為こういは、ばっしない。 — 刑法けいほう36じょう1こう

急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがい

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正当せいとう防衛ぼうえい急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいたいするものでなければならない。

  • 急迫きゅうはく
    • 急迫きゅうはくとは法益ほうえき侵害しんがい切迫せっぱくしていることをいい、過去かこ法益ほうえき侵害しんがい将来しょうらい法益ほうえき侵害しんがいたいしては正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつしない[3][2]
    • 急迫きゅうはくせい防衛ぼうえい効果こうか発生はっせいするとき標準ひょうじゅん決定けっていされる[2]しのがえしのような防衛ぼうえい設備せつびをあらかじめもうけておき、その防衛ぼうえい効果こうか急迫きゅうはく侵害しんがいたいして発生はっせいするような場合ばあいには正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつ[2]
    • 急迫きゅうはくせい被害ひがい現在げんざいせいとは無関係むかんけいである(昭和しょうわ24ねん8がつ18にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう3かん9ごう1467ぺーじ)。
    • 急迫きゅうはくせい侵害しんがい予期よきされていたとしてもうしなわれない(昭和しょうわ46ねん11月16にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう25かん8ごう996ぺーじ)。一方いっぽう侵害しんがい契機けいきとして相手方あいてがた積極せっきょくてき加害かがい行為こういおこな意思いし積極せっきょくてき加害かがい意思いし)をゆうするときは侵害しんがい急迫きゅうはくせい要件ようけん否定ひていされる(昭和しょうわ52ねん7がつ21にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう31かん4ごう747ぺーじ)。
  • 不正ふせい
    • 不正ふせいとは違法いほうであることをいう[5][2]客観きゃっかんせい違法いほうせいろんによると、責任せきにん無能力むのうりょくしゃ行為こういたいする正当せいとう防衛ぼうえい故意こいのない行為こういたいする正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつする[5][2]
    • 動物どうぶつ挙動きょどう自然しぜん現象げんしょうが「不正ふせい侵害しんがい」にたるかどうかという問題もんだい対物たいぶつ防衛ぼうえい)がある[6]。あるものいぬくいにつないでいたところだい地震じしん発生はっせいしてくいたおれ、あばしたいぬ通行人つうこうにんみついてきた場合ばあいに、通行人つうこうにんのそのいぬたいする反撃はんげき正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつするかという問題もんだいである[6]ほう人間にんげん共同きょうどうたい規範きはんであり違法いほう判断はんだん対象たいしょう人間にんげん行為こういかぎられるとし緊急きんきゅう避難ひなん問題もんだいとしてあつかうべきとする対物たいぶつ防衛ぼうえい否定ひていせつ人間にんげん共同きょうどうたい関係かんけいのある動物どうぶつについては違法いほう評価ひょうか対象たいしょうとしてかんがえるべきとする対物たいぶつ防衛ぼうえい肯定こうていせつがある[6]
  • 侵害しんがい
    • 侵害しんがいとは権利けんりたいする実害じつがい危険きけんがあることをいう[5]侵害しんがいにあたる行為こうい作為さくい不作為ふさくいかをわない[6][2]

自己じこまた他人たにん権利けんり防衛ぼうえいするため

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  • 自己じこまた他人たにん権利けんり
    • 権利けんり」はなりほうじょう権利けんりいているものにかぎらず、ひろ法律ほうりつじょう保護ほごされている利益りえき法益ほうえき)をいう[7][2]
    • 他人たにん」には国家こっか正当せいとう防衛ぼうえい濫用らんよう憂慮ゆうりょして国家こっかふくまないとする学説がくせつもあるが、通説つうせつ自然人しぜんじん私益しえき個人こじんてき法益ほうえき)にかぎらず公益こうえき国家こっかてき法益ほうえき社会しゃかいてき法益ほうえき)を防衛ぼうえいするためにも正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつするとしている[7][8]。なお、他人たにん法益ほうえき防衛ぼうえいするための正当せいとう防衛ぼうえい緊急きんきゅう救助きゅうじょともいう[9]
  • 防衛ぼうえい意思いし
    • 正当せいとう防衛ぼうえいについて規定きていした刑法けいほう36じょう1こうると「自己じこまたは他人たにん権利けんり防衛ぼうえいするため」となっているが、正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつするためには権利けんり利益りえき)を防衛ぼうえいするために行為こういするのだという主観しゅかんてき認識にんしき防衛ぼうえい意思いし)が必要ひつようであるとする主観しゅかんせつ不要ふようとする客観きゃっかんせつ二分にぶんされている。
    • 客観きゃっかんせつ防衛ぼうえい意思いし不要ふようせつ)から主観しゅかんせつ防衛ぼうえい意思いし必要ひつようせつ)にたいしては正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつ範囲はんいいちじるしくせまくなり不当ふとうであるという批判ひはんがあり、主観しゅかんせつから客観きゃっかんせつたいしてはあきらかに犯罪はんざいてき意図いとをもっておこなわれた行為こういまでが正当せいとう防衛ぼうえいとなってしまいいちじるしく不当ふとうであるという批判ひはんがある[10]
    • 通説つうせつ判例はんれい主観しゅかんてき正当せいとう要素ようそとして防衛ぼうえい意思いし必要ひつようとしている[10]主観しゅかんせつ)。当初とうしょ判例はんれいは、防衛ぼうえい意思いしとは純粋じゅんすい防衛ぼうえい動機どうき目的もくてき限定げんていしてかんがえる目的もくてきせつをとっていた。この見解けんかいによればいかりや逆上ぎゃくじょうといった防衛ぼうえいとはことなる動機どうきがあればもはや「防衛ぼうえい意思いし」は存在そんざいせず、正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつしないとかんがえた。しかしきゅう他者たしゃから攻撃こうげきけた場合ばあい冷静れいせいさをたもって防衛ぼうえい目的もくてきのみから反撃はんげきすることは困難こんなんであり、正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつする場合ばあい極端きょくたん制限せいげんしてしまうという批判ひはんがあった。その判例はんれい防衛ぼうえい意思いし内容ないようについて「急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがい認識にんしきしつつ、これをけようとする単純たんじゅん心理しんり状態じょうたい」であるというように解釈かいしゃく変更へんこうすることで、憤激ふんげき逆上ぎゃくじょうから反撃はんげき行為こういくわえてもただちに防衛ぼうえい意思いしがないとされることはない、すなわち憤激ふんげき逆上ぎゃくじょうしていても正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつしうる場合ばあいがあるとしているという立場たちばわっている。その一方いっぽう防衛ぼうえい意思いしまったい、防衛ぼうえいりて積極せっきょくてき加害かがいする行為こうい積極せっきょくてき加害かがい行為こうい)については防衛ぼうえい意思いし否定ひていされることをみとめている。

やむをずにした行為こうい

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  • 「やむをず」の意味いみ
    • 正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつするには必要ひつようやむをずになされた行為こういでなければならない[10]。ただし、緊急きんきゅう避難ひなんのようにかならずしもにとるべき方法ほうほうがないこと(厳格げんかく法益ほうえき均衡きんこう)まではようしない[10][9]
    • 正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつには厳格げんかく法益ほうえき均衡きんこうせい必要ひつようとしないが、反撃はんげき行為こうい侵害しんがい行為こういつよさにおうじた相当そうとうなものでなければならない(昭和しょうわ44ねん12月4にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう23かん12ごう1573ぺーじ)。正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつには具体ぐたいてき事情じじょうした社会しゃかいてき一般いっぱんてき見地けんちからみて必要ひつようかつ相当そうとう行為こういであること(相当そうとうせい社会しゃかいてき適合てきごうせい)が必要ひつようである[10][9]
  • 防衛ぼうえい行為こうい
    • 防衛ぼうえい行為こうい侵害しんがいしゃ(の法益ほうえき)にたいして反撃はんげきしたものでなければならない[11]不正ふせい侵害しんがいしゃたいする反撃はんげき行為こういとして発砲はっぽうされた弾丸だんがん第三者だいさんしゃたったような場合ばあいには第三者だいさんしゃたいする関係かんけいでは緊急きんきゅう避難ひなん問題もんだいとなる[11]
    • 防衛ぼうえい行為こういとして適切てきせつなものであれば結果けっかてきひと死亡しぼうしても違法いほうとなるものではなく、さらにしん必要ひつようである場合ばあい銃器じゅうきをもって多数たすうじん人質ひとじちにしている場合ばあいなどで、生命せいめいたいする危害きがい防止ぼうしするために必要ひつようやむをないとき)には射殺しゃさつする意図いと武器ぶき使用しようして相手方あいてがた殺害さつがいすることもできる[12]

過剰かじょう防衛ぼうえいあやまそう防衛ぼうえいあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえい

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防衛ぼうえい行為こういはあったが正当せいとう防衛ぼうえい要件ようけんいているため違法いほうせいが阻却されない場合ばあいとして過剰かじょう防衛ぼうえいあやまそう防衛ぼうえいあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえいがある。

  • 過剰かじょう防衛ぼうえい
急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいはあるが、その反撃はんげき行為こうい防衛ぼうえい程度ていど刑法けいほう36じょう1こうの「やむをずにした行為こうい」とはえない場合ばあいには正当せいとう防衛ぼうえいとはならず、このような場合ばあい過剰かじょう防衛ぼうえいという[13]過剰かじょう防衛ぼうえいでは防衛ぼうえい行為こうい相当そうとうせいいているため違法いほうせいは阻却されず、情状じょうじょうにより責任せきにんかるいとほぐされるときは、けい軽減けいげんしたり免除めんじょしたりすることが出来できる(刑法けいほう36じょう2こう[13][14]
急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいがないにもかかわらず、こうした侵害しんがいがあるとあやまそうして防衛ぼうえい行為こういおこなうことをあやまそう防衛ぼうえいという[14]あやまそう防衛ぼうえい場合ばあいにも違法いほうせいは阻却されない[14]
急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいがないにもかかわらず、こうした侵害しんがいがあるとあやまそうして防衛ぼうえい行為こういおこない、かつ、それが行為こういしゃあやまそうした侵害しんがいたいする防御ぼうぎょとしては過剰かじょう行為こういであることをあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえいという[14]

過剰かじょう防衛ぼうえい場合ばあいけい減免げんめんされる根拠こんきょについてはあらそいがある。ひとつは不正ふせい侵害しんがいおこなった加害かがいしゃ法益ほうえき保護ほごする必要ひつよう減少げんしょうすることを重視じゅうしする違法いほう減少げんしょうせつである。もうひとつは、正当せいとう防衛ぼうえい必要ひつようとされるような緊急きんきゅう事態じたいにおいては適法てきほう行為こういをするということについては期待きたい可能かのうせい減少げんしょうすることを重視じゅうしする責任せきにん減少げんしょうせつである。りょうせつちがいはあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえいのときにりとなる。すなわち、違法いほう減少げんしょうせつによればあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえいについて36じょう2こう適用てきようしてけい減免げんめんすることが否定ひていされ、他方たほう責任せきにん減少げんしょうせつによればあやまそう過剰かじょう防衛ぼうえいにもどうじょう適用てきようしてけい減免げんめんみとめることも可能かのうとなる。

挑発ちょうはつ防衛ぼうえい侵害しんがい)・相互そうご挑発ちょうはつ喧嘩けんか

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  • 挑発ちょうはつ防衛ぼうえい侵害しんがい
侵害しんがいとは、急迫きゅうはく不正ふせい侵害しんがいみずかまねいたもの当該とうがい侵害しんがいたいして構成こうせい要件ようけん該当がいとうする防衛ぼうえい行為こういおこなった場合ばあい正当せいとう防衛ぼうえいとして違法いほうせいが阻却されるのか、という問題もんだいである。日本にっぽん判例はんれいさいけつ平成へいせい20ねん5がつ20日はつか)によれば、被告人ひこくにん不正ふせい行為こういによりみずかまねいた侵害しんがいたいしては、侵害しんがいしゃ攻撃こうげき被告人ひこくにん自身じしん暴行ぼうこう程度ていどおおきくえるものでないなどの事情じじょうもとで、被告人ひこくにん反撃はんげき行為こうい正当せいとうとされる状況じょうきょうにおける行為こういとはいえないから正当せいとう防衛ぼうえいみとめられないとする。通説つうせつは、理論りろん構成こうせいはともかく、一定いってい場合ばあいには正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつ否定ひていする。これにたいし、一部いちぶゆう力説りきせつは、正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつみとめたうえで、行為こういについて構成こうせい要件ようけん該当がいとうせいひいては犯罪はんざい成立せいりつみとめる。「原因げんいんにおいて自由じゆう行為こうい」における判例はんれい通説つうせつ理論りろん構成こうせい類似るいじするこの理論りろん構成こうせいは、「原因げんいんにおいて違法いほう行為こうい (actio illicita in causa)」とばれている。
  • 相互そうご挑発ちょうはつ喧嘩けんか
相互そうご挑発ちょうはつとしての喧嘩けんかについて判例はんれい正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつしないとしてきたが(昭和しょうわ7ねん1がつ25にち大審院だいしんいん判決はんけつけいしゅう11かん1ぺーじ昭和しょうわ23ねん6がつ22にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう2かん7ごう694ぺーじ)、具体ぐたいてき状況じょうきょう考慮こうりょして正当せいとう防衛ぼうえい成立せいりつする場合ばあいがあることを示唆しさする判例はんれい昭和しょうわ24ねん2がつ22にち最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつけいしゅう3かん2ごう216ぺーじ)もある[15]2017ねん平成へいせい29ねん1がつ11にちには、前年ぜんねん6がつ埼玉さいたまけん川口かわぐちうち路上ろじょうで60だい男性だんせいBとトラブルになり、BにみちふさがれたためBの自転車じてんしゃったところ、Bになんなぐられたため1はつなぐがえして転倒てんとうさせ、Bのあたま全治ぜんち6ヶ月かげつ重傷じゅうしょうわせたとして、傷害しょうがいざい起訴きそ求刑きゅうけい懲役ちょうえき3ねん)された40だい男性だんせいAにたいし、さいたま地方裁判所ちほうさいばんしょが「Bの行為こうい質的しつてきにも量的りょうてきにも上回うわまわっており、Aの反撃はんげき正当せいとうでないとはえない」として正当せいとう防衛ぼうえいみとめ、無罪むざいをいいわたした[16]

民事みんじじょう正当せいとう防衛ぼうえい

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民事みんじじょう正当せいとう防衛ぼうえいとは、他人たにん不法ふほう行為こういたいして自己じこ他人たにん権利けんり防衛ぼうえいするため、やむをずにした行為こういによって他者たしゃ損害そんがいあたえたとしても損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん発生はっせいしないとする制度せいどをいう。

えいべいほうじょう民事みんじじょう正当せいとう防衛ぼうえい

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えいべいほうでも、他人たにん原告げんこく)に損害そんがいあたえたもの被告ひこく)が、もともと原告げんこく不法ふほう行為こういたいしてみずからの人格じんかくてきまたは財産ざいさんてき利益りえきまもるため合理ごうりてきにみて必要ひつよう措置そちをとったために損害そんがい発生はっせいさせたものであるとみとめられるときには、被告ひこくはその損害そんがいについての責任せきにんまぬかれるものとされている[17]

日本にっぽん民法みんぽうじょう正当せいとう防衛ぼうえい

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日本にっぽん民法みんぽうでは、他人たにん不法ふほう行為こういたいし、自己じこまた第三者だいさんしゃ権利けんりまたは法律ほうりつじょう保護ほごされる利益りえき防衛ぼうえいするため、やむを加害かがい行為こういをしたものは、損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにんわないと規定きていしている(民法みんぽう720じょう1こう本文ほんぶん)。刑法けいほうじょう緊急きんきゅう避難ひなんとのちがいは、正当せいとう防衛ぼうえい他人たにん行為こういからの防衛ぼうえいであり、緊急きんきゅう避難ひなん他人たにん所有しょゆうするものから発生はっせいした危険きけんたいする防衛ぼうえい問題もんだいとなるてんである。また、刑法けいほうじょう正当せいとう防衛ぼうえい民法みんぽうじょう正当せいとう防衛ぼうえいは、前者ぜんしゃ犯罪はんざい正否せいひかかわる問題もんだいである一方いっぽう後者こうしゃ損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん有無うむという問題もんだいである。そして両者りょうしゃ成立せいりつする場面ばめん一致いっちしない。

たとえば、暴漢ぼうかんからのがれるため他人たにんいえもんこわして敷地しきちないんだ場合ばあいかんがえる。他人たにんいえ門扉もんぴ破壊はかいする行為こういについて、民法みんぽうじょうでは他人たにん不法ふほう行為こういから自己じこ生命せいめい身体しんたい防衛ぼうえいするためにした行為こういであるから正当せいとう防衛ぼうえい問題もんだいとなる。そして、ここでいう正当せいとう防衛ぼうえい問題もんだいとは、こわした門扉もんぴ弁償べんしょうしなければいけないかかという問題もんだいのことである。一方いっぽう刑法けいほうじょう不正ふせい侵害しんがいしゃとは無関係むかんけいである第三者だいさんしゃ財産ざいさん侵害しんがいしているのだから、緊急きんきゅう避難ひなん問題もんだいとなる。なお、被害ひがいしゃ門扉もんぴ権利けんりしゃ)から不法ふほう行為こういしゃ暴漢ぼうかん)への損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅうさまたげない(だい720じょうだい1こう但書ただしがき)。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ドイツの法学ほうがくしゃ。1808-1864

出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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  • 大塚おおつかひとし刑法けいほう概説がいせつ総論そうろん改訂かいてい増補ぞうほばん有斐閣ゆうひかく、1992ねんISBN 4-641-04117-2 
  • こうくぼさだじん石川いしかわざいあらわ奈良なら俊夫としお佐藤さとう芳男よしお刑法けいほう総論そうろんあおりん書院しょいん、1983ねん 
  • 福田ふくだたいらぜんてい刑法けいほう総論そうろん だいはん有斐閣ゆうひかく、2011ねん 
  • 望月もちづきあや二郎じろうえいべいほうあおりん書院しょいん、1997ねん 
  • 田村たむら正博まさひろ警察けいさつ行政ぎょうせいほう解説かいせつ ぜんていだいはん東京法令出版とうきょうほうれいしゅっぱん、2015ねんISBN 978-4-8090-1336-2 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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